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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第一部 第1章 ショウと力丸
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玉座簒奪



〈バステートちゃん♪〉


〈アナタも懲りないわね〉


〈だって瀕死仲間だったし修行仲間だろ♪〉


〈勝手に仲間にしないでよね――あ!

 病院で、動けなかった私の手!

 握ったわねっ! ケージ越えて!〉


〈うん♪ 一緒に生きような、ってね♪〉


〈一緒に、ってねぇ……〉じと~。


〈どうしたんだ?♪〉


〈アナタ……王子ね?

 ドラグーナ様を陥れる為に来たのね!?〉


〈ちょっ! 待って! 誤解だからっ!〉


〈ドラグーナ様に近づいたんでしょっ!

 清らかな光で隠そうとしてもティングレイスの闇は隠せないんだから!〉


〈たっ、確かに俺の親はソイツだ!

 けどな、俺はもう王子だなんて言われたくないんだ。心底イヤなんだよ。

 できることなら誰か他の神様に生み直していただきたいくらいなんだよ〉


〈……泣いてるの?〉


〈俺……弟を捜してて、白い狐見つけて、追っかけてたら捕まったんだ。

 で、ただの狐にされて……飛んで逃げようとして谷底に落ちたんだ。

 で、あの病院で女神様に助けていただいて。

 そのままドラグーナ様のお家に保護していただいたんだ。


 でも俺はただの狐だし、ドラグーナ様も今は人だし、だから陥れるも何も……。

 俺は『幸せ』っての教えてもらって楽しく暮らしてただけなんだ。

 俺……彩桜も兄貴達も姉ちゃん達もみんな大好きなだけなんだよ。

 だからドラグーナ様の仲間に ちゃんとなりたいんだよ〉


〈そう……だったら私が神に戻る邪魔をしないでちょうだい。

 神に戻れたら……アナタの力も引き出してあげるわよ〉


〈堕神、なんだよね? 戻れるの?〉


〈相応の神力が戻ればね。

 だから封印を解かなければならないの。

 アナタの言葉があったからこそ私の記憶は解放されたわ。

 その借りは返すから、もう話し掛けないで。

 私は急いで戻らなければならないんだから〉


〈待って! もう少し教えて! ――っと、ください!

 バステート様は、どうして堕神にされてしまったのですか?

 やっぱりティングレイスに嵌められたのですか?〉


〈仕方ないわね。

 私は前王(サティアタクス)様にお仕えしていたのよ。

 そしてティングレイスが玉座を奪った その時を見ていた唯一の生き残りなの〉


〈やっぱり……奪ったんだ……あ!

 前王様は!?〉


〈王子ってホント何も知らないのね。

 私を捕らえた王子もそうだったわ。

 傀儡かと思ったわよ〉


〈その通り、だよね……〉


〈ま、アナタを責めても仕方ないわよね。

 アナタも犠牲者なんですもの。


 前王様も、歴代の隠居王様と御同様に副都の貴神殿(キシンデン)で穏やかにお暮らしよ。

 表向きだけは、ね。

 側近もご家族も全て奪われた前王様は、ティングレイスの配下達に見張られて幽閉されてるの。


 ティングレイスの配下達は、その殆どが操られているのよ。だから忠実。

 あとは何も知らず動かされているだけ。

 無知こそ罪よね。


 だから私は密やかに真実を伝えていたの。

 私達、獣神(けものかみ)はティングレイスには操られない。だから――〉


〈待って! ケモノカミって? あの――〉


〈王子ってホンット――まぁいいわ。

 神は人に見せる為の姿を固神(こじん)毎に持っているわよね?

 その固有姿(コユウシ)が獣である神よ。

 性格や、得意とする術の傾向とかの内面も人神とは異なるのだけれどね。

 だから固有姿が人な神とは操り方が違うのでしょうね。

 私も獣神なの。ドラグーナ様もね。


 ティングレイスの周りには、アイツには操れない獣神は侍らせていないわよね。

 それを利用して私は都から追い出された獣神達に真実を伝えていたの。

 でも巡回中の王子に縄を掛けられて、この有り様よ。


 今もきっと仲間達が水面下で広めている筈よ。

 獣神にとっては、ずっと前から王はドラグーナ様だったのだから。

 手を出しなさい。

 アナタにも真実を教えてあげる〉


力丸が恐る恐る手を差し出すと、バステートが手を重ねた。


〈神が手を繋ぐのには、いろいろと意味があるのよ。

 それも知らなそうだけど。


 あの時、私は休憩中だったけど、監視も兼ねて謁見の間の窓近くの樹上に居たの〉



―・―・―*―・―*―・―・―



 男神がそっと神王殿(シンオウデン)の窓に寄り、隙間から水晶玉を持った手をそっと差し込んだ。

窓の向こうは謁見の間で、サティアタクス王に呼ばれた臣下達が集まりつつあるようだった。


 暫く中の様子を窺っていた男神が低い声で短く唱えると、水晶玉から煙のような闇黒の塊が噴き出し、広間の中央で不明瞭な人型を成して低く唸った。


『目を見てはならぬ! 怨霊である!』


そんな叫びが聞こえたが、時既に遅く、その場に居合わせた獣神達は、狂気に囚われているらしい半ば虚ろな(まなこ)で武器を手にする者、術を発動する者と様々に、周囲の人神を誰彼なく攻撃し、滅し始めた。


怨霊の方も無数の手を出し、応戦虚しく捕らえられた神を、その霊体に容赦なく投げ込んでいた。


 まさしく阿鼻叫喚――王の前で盾となっていた側近が怨霊に掴み上げられ、とうとう操られていない神が王のみとなった時、窓の男神は王の前に躍り出、水晶玉を突き出して詠唱し、怨霊を吸い込ませた。


「逆臣達を捕らえよ!!」


 丁度その時、謁見の間に踏み込んだ武神達に向かって その男神が命じ、怨霊が消えたことで操りの糸が切れたらしく呆然と立ち尽くしていた獣神達は易々と連行されてしまった。


「ティングレイスよ、ありがとう」


安堵の笑みを湛えて礼を述べた王に、その男神――ティングレイスは微笑み返した。


「王よ、御自身の無力さを痛感なされたか?」


「確かにのぅ」苦笑に変わる。


「では、私に玉座をお譲り頂きたい」


「なんと――」「然様で御座いますか!!」


 他所に居た臣下達が謁見の間に踏み込むのを見計らっていたらしく、王の声を遮って男神ティングレイスが声を張り上げた。


玉座に向かって飛んで寄る臣下達が達する前に、ティングレイスは何やら詠唱し、王の目を見詰めた。


王の動きが止まる。


 ティングレイスはニヤリと嫌な笑みを浮かべると、ぎこちない動きの王の手を引いて広間の中央へと連れて行き、王の臣下達に向かって、

「たった今、王から御譲位賜り、私が新たなる王となったと宣言する!』

再び声を張り上げた。


『真で御座いますか!?』『王!?』


王は言葉を発せず、首をカクカクと縦に振り続けているだけだった。



 誰もが腑に落ちないという表情で首を傾げていたが――


「先程の怨霊に触れ、このように……。

 ですので王は、怨霊を封じた私を次王にと仰ったので御座います。

 それが最後の御言葉にならねばよいのですが……王よ、その御意志を戴冠にてお示しください」


――その言葉と、カクカクとぎこちない動きながらも己が頭上の冠をティングレイスに移した事で、臣下達は納得してしまったのだった。


「前王の御意志は、このティングレイスが(しか)と受け継ぎ、新たな王として統べる道を全う致します事、ここに誓います!」



―・―・―*―・―*―・―・―



〈これが顛末よ。

 前王様は半獣神(はんじゅうしん)

 だからティングレイスの力では完全には操られなかったの。

 抗った結果が、あの動きなのよ〉


〈あの、怨霊って……?〉


〈ティングレイスはその後も暫く連れていて『モグラ』と呼んでいたわ〉


〈神世に怨霊を連れてくなんて……〉


〈それだけでも十分に大罪よ〉

〈しかしモグラは堕神であったのです〉


〈ぁわっ!?〉〈あ、狐儀様〉礼。


いつの間にか後ろに立っていた狐儀は悲し気に微笑んだ。

〈神であったからこそ連れて入れたのです〉


〈詳しくお教え頂けますか?〉

〈お師匠様、お願いします!〉


〈そうですね。

 バステート様には知る権利が御座いますね。

 ダイナストラにも今後の為、話しましょう。


 かつて……神世に数千年の安寧を齎したオフォクス様、トリノクス様ご兄弟と、ドラグーナ様、そしてマリュース様は、此の世を支える四獣神(シジュウシン)様として神ならば誰もが知る最高位神様で御座いました。


 その末端にティングレイスが割り込んだのです。

 四獣神様の足元にも及ばぬどころか、並よりも遥かに劣る、獣姿を持たぬ神でありながら、親しげに付き纏い、五柱神(ゴチュウシン)の一柱であると勝手に名乗り、神王殿にも出入りするようになったのです。


 ですが、お優しい方々で御座いますので、苦笑なさりつつもティングレイスを傍に置き、友となさったのです。


 事が起こったのは三百年程も前。

 人世の三ヶ所同時に天変地異が起こると感じ取られました四獣神様は、トリノクス様に神世をお任せし、人世に向かわれたので御座います。


 十数年、天変地異の破壊力を分散させ、小さな天災に変えて収め、神世に戻りますと、トリノクス様はいらっしゃらなかったのです。

 何方も何も仰ってくださらず、困り果てたオフォクス様は、暫く動けなくなると御覚悟の上で探りの御力を発動なさり、弟トリノクス様をお捜しになられたので御座います。


 トリノクス様は、禁忌に触れたと処され、堕神とされた後、人世の戦乱の渦中、人として幼いままに亡くなり、その御魂は既に浄化されていたのです。


 ティングレイスを疑ったオフォクス様は探りの御力を極めようと、修行の為に、とある神殿に隠られました。

 ドラグーナ様は、事が明らかとなり怒り心頭な獣神達を宥めねばならず、マリュース様がティングレイスを見張る事にしたのです。


 そうしましたら、次にマリュース様が狙われ、重罪を着せられて堕神とされてしまったのです。


 全ては後にオフォクス様の探りにて知り得たのですが……ティングレイスはマリュース様を救済するからと償罪域に無理矢理入り、追い出される迄の間に、封じる為に一時的に抜いていたマリュース様の御力を盗んだのです。

 しかしティングレイスでは御力全てを取り込む事は出来なかったのです。

 それでも大きな力を得たティングレイスは地位を高め、マリュース様の位置に着こうとしたのです〉


〈トリノクス様の位置には?〉


〈狐儀様に決まっているでしょ〉


〈ええっ!?

 お師匠様って凄い神様だったんですか!?〉


〈あのねぇ〉 〈まぁまぁ〉ふふふ♪







ダイナストラだって『獣神』を捕らえる役目を担っていたのですから、当然ながら知っていたのですが、人神は獣神を『ジュウシン』または『ケモノ』と呼んでいたので確認したかったんです。


ですがイライラしているバステートの勘違いから、父ティングレイスの悪行を知ってしまいました。



既に王子である事が嫌になっているダイナストラ。

父を倒す為に神世に戻るのか?


――の前に、狐から脱しないといけませんが、修行は?

いつになったら真面目にするのやらです。



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