ザブダクルの睡夢②
少し時を遡り、ユーレイな利幸が何をしていたのかと言うと――
「オヤッサン、どこ行くんだぁ?」
公園の外まで追い掛けて腕を掴んだ。
「あんだけ路頭に迷ってるんだ。
炊き出しするに決まってるだろ。
トシも手伝え」
「おう♪」
ユーレイ二人の目には、店や周辺は爆発前のままだった。
「道具とかは?」
「祭事用に持ってるんだよ。
倉庫にリヤカーと一緒に置いてある。
鍋釜用意してる間に出しとけ」
「おうよ♪」
「食材もありったけ積んどけよ」
「任せとけ♪」
そして、オニキス達が公園から離れている間に炊き出しが行われた。
道具も食材も全て霊体。
食べているのは全てユーレイ。
意識のある者も、ない者も並んで受け取り、美味しそうに食べていた。
「オヤッサン、皆に行き渡ったぞ♪
なんつーか清々しいなっ♪」
「トシは元気だな」ははっ♪
「ソレしか取り柄がないんだよなっ♪」
「よ~く解ってやがる♪
にしても、流石に疲れたなぁ」
ぐるりと見回す。
「食ったヤツら……木の枝で寝てるのか?」
「オイラ達も、そうすっか」「だなっ♪」
利幸が木の上で眠りに就いた直後、オニキス達が公園に戻ったのだった。
―・―*―・―
ザブダクル、また寝ちゃったね。
理由は わかんないけど、
父王オーロザウラは、長男ザブダクルより
次男シャルダクルが可愛くて、
王位を継ごうとしてたんだね。
でもシャルダクルが居なくなったから
ザブダクルに継いだ。
その後でシャルダクルの欠片が
見つかったから再誕させて、
ザブダクルを滅しようとしたんだね。
酷い父親だね。
ルサンティーナ様は隣国の、王女様かな?
ずっと王妃ね……可哀想に。
きっと隣国と争わない為に嫁いで
巻き込まれちゃったんだね。
ザブダクルが封じられた後、
ルサンティーナ様は どうなったんだろ?
それとカイダーム様とクウダーム様は?
軍に追われてた時はボッチだったよね?
あっ、また流れてきた!
―・―*―・―
―◦―
―
山の中での夜。焚き火を囲んでいる。
「アンタら、母親については聞いているのかい?」
「いえ……」「僕達に母が居るのですか?」
「やっぱりねぇ。
オーロザウラらしいよねぇ。
あの男は、人神の大陸中から強い力を持った人神の女神を集めたんだよ。
無理矢理にね。
で、生みかけの子を見せ、祝福として欠片を寄越せと言ったそうだよ。
これまた無理矢理にね。
そもそも嫌われている男だ。
言いなりに祝福を込めてくれる女神なんぞ居やしないよ。
だが、子に罪は無い。
呪いたいところだが、諸刃の剣の如き力を込めるだけに留めたのさ。
その力も放っぽっているようだねぇ。
在るだけで強くなれるとでも思っているのかねぇ、あの男は。
アンタらは幸い、あの男の悪どさを継いじゃいない。
ま、女神達が浄滅しといてくれたんだろうけどね。今後の為にね。
諸刃の剣だろうが刃物は全て使いようだ。
心次第ってことだよ。
だから開いておいてやろう。
伸ばし極めるのはアンタらに任せるよ」
―・―・―*―・―*―・―・―
暗闇――
〈ザブダクル様!〉〈此方に!〉
〈寄るなっ!!〉
〈隠れ家を御用意致しております!〉
〈お早く此方に!〉
〈王の執事が何を言う!
私は騙されぬ!
現王はオーロザウラなのだからな!〉
〈私共にとりましては!〉
〈今も王は貴方様で御座います!〉
『見つけたぞザブダクル!
皆の者! 捕らえるのだ!』
〈私を足止めし、呼び込んだのかっ!〉
〈違います!〉〈ザブダクル様!〉
『もう逃げられませんわ、ザブダクル』
「その声……ルサンティーナ……」
『皆、此方です! 捕らえなさい!』
〈陛下! 此方に!〉
〈ルサンティーナ様は支配を込められ、操られているのです!〉
〈ええい!
私は何も信じぬ! 誰も信じぬ!〉
―・―・―*―・―*―・―・―
「そこまでだなザブダクル。
最後の情けだ。儂が直々に滅してやろう」
「寄るな!! 寄るなと言うに!!」
躊躇いつつ禍を出し、投げた。
オーロザウラは避けると高笑いした。
「見たか皆の者。
呪われし者だという証を自ら曝しおった!
奴は悪神だ! 儂の破邪を受けよ!!」
しかしオーロザウラが発した『破邪光』は、その背後からの浄化光で消滅した。
「何奴!?」
「よくも私を意のままにしたわね!
この屈辱! ザブダクル様にした仕打ち!
もう許せません!」
黒い塊にしか見えない者が現れ、老婆と表現するよりも嗄れた、辛うじて女神だと分かる声が響いた。
その姿が明瞭になると、老婆に支えられ、真っ黒なローブで全身を覆い、顔すらも目しか見えない黒ずくめのルサンティーナが、真っ赤に燃える憎しみの瞳でオーロザウラを射貫き、動きを封じた。
「ルサン――」「覚悟なさい!!」
その怒りを雷に変えて放ち、串刺しにした。
続けてルサンティーナの胸元で煌めくカリュー、サミル両王家の紋章から炎が飛び、オーロザウラの胸元の紋章を焼き尽くした。
そしてスッと寄ると、その雷が槍ででもあるかのようにオーロザウラごと引き抜き掲げた。
「皆、よくお聞きなさい!
諸悪の根元はオーロザウラです!
王妃として宣言致します!
カリュー国王はザブダクル様です!」
そして悲し気な瞳をザブダクルに向けた。
「ザブダクル様。
私のしたことを償う道は唯一つ。
この男と共に過ごした全てを滅すること。
あなたが玉座に戻れますよう、共に過ごした幸せでした頃と同じ城に戻しておきます。
ですが神世中に散っている軍、全てに私の声が届くには今暫くかかるでしょう。
父――サミル国王には全てを話しておりますので、どうかサミルにお逃げください」
「待ってルサンティーナ! 共に――」
近づこうとしたが見えない壁に阻まれた。
「どうして!?」
「私はもう……あなたと共に歩める者ではありません」
「行かないでルサンティーナ!
操られていたと知っている!
だから私と共に――」
「もう以前の私ではないのです!」
顔を背け、瞬移した。老婆が追う。
ルサンティーナの涙が煌めきとなって地に落ちた。
「ルサンティーナ……ルサンティーナーーーー!!!!」
―・―・―*―・―*―・―・―
草地で真四獣神に囲まれている。
しかし全てが ぼやけており、音も反響していて聞き取り辛い。
「チョイ落ち着けよなぁ。
いろんな国の軍が血眼になってお前サンを追ってる。
お前サン、何したんだぁ?」
「何もしておらぬ!
ケモノ如きが気安く話し掛けるな!」
「事と次第に依っては我々が護ってもよい」
「そうじゃよ。話してみぬか?」
「煩い!!」禍を連射!!
「危ないなぁ。
やり合ってる場合じゃなさそうだよ~」
くるくると飛びながら禍を滅している青龍は青くて細長いとしか見えていない。
「わわっ! 待て待て!
お前、四方八方 敵だらけじゃねーか!」
白い塊が宙で跳び跳ねている。
ぼやけた視点は遠景へ。
ぐるりと空が黒く霞んでいる。
「少しは儂らの声も聞いてくれぬかのぅ?」
「無闇矢鱈と放つな! 周りをよく見よ!」
「おおーい! 聞けって!」
「何も届いてなさそうだよ~」
「おいっ! ヤメロって!」
「こりゃあ無理じゃぞ。
一先ず封じて逃げぬか?」
「ふむ」「しかねぇだろーよ!」
「でもイキナリ封じたら~――」
「ノンキに言ってる場合かよっ!」
暗転した。
―・―・―*―・―*―・―・―
〈あなた♪ 休憩なさいませんか?
人世で覚えた菓子を焼いてみたのです♪
お茶になさいませんか?〉
執務机から顔を上げると、部屋に現れたルサンティーナが楽し気に茶を用意し始めた。
「菓子とは?」
「言葉で説明するより、召し上がればわかりますわ♪」
「そうか」ふふっ♪
「作る練習をしていた間のものは皆さんにお分けしましたの。
そうしましたら、幸せの味ですって♪
私の方が幸せな心持ちになりましたわ♪」
「確かに……これは幸せの味だね」
「嬉しい♪
あなたからのお言葉が私には一番の幸せですわ♪」
楽し気に笑うルサンティーナの声が少しずつ不明瞭になり、遠ざかる――
―
―◦―
―・―*―・―
「ルサンティーナ……」
半身を起こしたザブダクルは封珠を取り出し、見詰めた。
「妻、か……」
再度、封珠を消すと目を閉じた。
まだまだピース不足なパズル的なザブダクルの睡夢ですが、大まかな流れが組み立てられる程度には出揃ったのではないでしょうか?
オーロザウラは破邪を受けよと言いましたが、破邪が浄化で消滅するなんて有り得ません。
破邪に偽装した何か、おそらくは禍だったのでしょう。
春菜の大将と利幸の行動についてはツッコミどころ満載でしょうが、なりたてユーレイなんて、こんなものです。
お話とは無関係ですが、7月26日は幽霊の日だそうで~す。