ダグラナタンの懺悔
後から封じられたユーチャリスも落ち着きを取り戻した。
【グレイ……大丈夫でしょうか……?】
落ちて来はしないかと見上げつつ、ユーチャリスが心配も露に呟いた。
【大丈夫よ。マディアも居るのですもの♪】
【マディアも……禍々しさの塊みたいなナターダグラルにエーデラークとして従っていたのです。
私を呼び出したのもマディアなのですよ?】
【そんな……つまり私を盾に脅されているのね?】
【そこまでは……でもきっと……】
【それでもマディアなら考えている筈よ。
今は従っている振りなのかも。
隙を窺っているのよ。マディアですもの。
私も長くナターダグラルに仕えていたから同じように懐に入っているのよ。
グレイも脅されているでしょうけど、独りじゃない。マディアも、ですもの。
大丈夫。きっと助け出してくれるわ。
どちらも強いのだから】
【はい】無理矢理に笑顔を作った。
―・―*―・―
「青生……ありがとう……」
「うん……今日はもう休んでね?」
「しかし行かねば……葬儀の準備をせねば……」
「え? もしかしてガス爆発に誰か巻き込まれたの?」
「小夜子が……利幸も……」
「そう……なら、一緒に行こう」
青生は、辛いのなら自分だけで行こうかという言葉は瑠璃の性格を考えて飲み込み、支えて歩き始めた。
―・―*―・―
【でも待っているだけなんて出来ないわ。
此処から出る方法を見つけないとね】
【そうですよねっ】
【ユーチャは吸い込まれただけなの?
力は奪われていない?】
【力って……姉様もしかして神力を!?】
【どちらかと言うと気力とか体力かしら?
消耗感が半端ないわ】苦笑。
【私は大丈夫です】
【やっぱりダグラナタンが言った通り、私の力を利用してザブダクルは出て行ったのね……悔しいったら!】
ユーチャリスが回復光を当て始めた。
【ありがとう。
姿が固定されているだけでなく、いろいろと縛られている感じがするけど、生きていくには問題なさそうね】
【そうですね】
【ねぇダグラナタン――って、どうして泣いているの?】
【えっと~、ナターダグラルだった方ですよね?】
【そうなの。
でもすっかり毒気が抜けて獣神を受け入れてくれて、今では私とマディアの子なのよ♪】
【ではグレイも救われますね!♪】
【ちゃんと謝る、全てを話すって約束してくれたわ♪】
【そうなのですか♪
ありがとうござ――あ……あの、お話しなさって気持ちが軽くなるのでしたら、お聞きしますけど?】
【ユーチャは優しく言っているけど、母としては気になるから話しなさいね。
ほら、顔を上げなさいな】
突っ伏して泣いているダグラナタンがほんの少しだけ頭を上げた。
【全ては私が悪いのです……愚かな私が……】
【それはもういいわよ。
グレイだって許してくれるわ】
ユーチャリスも大きく頷く。
【そのティングレイス様と初めてお会いしたのは最果てではないのです】
【あら、知り合いだったの?】
【グレイからは聞いてませんけど……】
【初等に入学してすぐの頃……】
【もしかしてグレイと同い歳なの?
若いのかもとは思っていたけれど、そんなにも下だったのね】
【偽りだらけで申し訳ございません】
【それでもマディアよりは随分と上よね。
でも……上級貴族の貴方が孤児のグレイと学校で出会うなんて、おかしくない?】
【はい。学校は別です。
最下層の学校との交流会で……誰も喜ばない交流会で、ティングレイス様だけは溌剌と楽しそうにしていて……それが私には……】
【あ~、癇癪に障ったのね? イラッと】
【……はい。申し訳ございません】
【ウチに来た頃のグレイを考えれば理解できなくもないわ】苦笑。
【は?】
【グレイの修行の面倒を見たのは私達なの。
ドラグーナの初代8子。
私達は王都の護りをさせられていたわ。
その家に、最果てから送り返されたグレイが住むことになって、500年も一緒に暮らしたのよ♪】
【最果てから……?】
【中等を卒業して、すぐに最果てに行ったそうなの。
四獣神に弟子入りしたいって。
人神の友達が居ないから獣神の仲間に入れてほしいって。
でも基礎くらいは積んでからでないと生きてすらいける場所ではないから、父が送り返したのよ。
それで――って、また泣いているの?】
【その……原因を作ってしまったのが私なのです……】
【もしかしてグレイを虐めたのって――あ、でも学校が違っていたわよね?】
【最下層の子供達が貴族に逆らうなど出来よう筈もございません。
先生が教材を運ぶ手伝いをと求めると、大喜びで付いて行ってしまいましたので、残った子供達に虐め抜けと命じたのです。
持ち物を滅し、勉強の邪魔をし、孤立させて笑顔を奪えと……】
【マディアが言っていた通り、過去の貴方は、とても幼稚で自分勝手なのね。
でも……それでも、そのことがなければ私達はグレイと出会っていないわ。
だからグレイには悪いけれど、正直なところ私は少し感謝しているわ】
【そうですね……最果てに もう一度いらしてくださっていなければ、私もグレイとはお会いできていません。
ですからもう、そんなにも悔やまないでくださいね】
【ありがとうございます、エーデリリィ様。
ありがとうございます、ユーチャリス様。
最果て……ああっ!
私は最果てでも酷い事を!】
【弟妹達を地に投げつけて】
【鱗や毛を毟ったことかしら?】
【私が玉牢に封じられるに至った罪状は殺神罪でした。
それだけ鱗を剥げば十分相当すると。
私は……全く知らなかったのです。
龍鱗は普通に売られておりますし、まさか死に至るなどと……あのっ、私が剥いでしまった御子様は!?
お墓は……あるのでしょうか?】
【ないわよ】
【最果てだったから……ですか……?】
【だって、その子は――って、貴方は毎日会っていたのに気づいていなかったの?】
【は? 生きて……いるのですか?】
【生きているわよ。
父様とグレイが治療したんですもの】
【そうですか……】ほっ……。
【今も近くに居る気配があるわよ。ねぇ?】
【ええ♪】うふふっ♪
【近く……に? まさか!】
【そうよ。マディアよ♪】
【皆を率いていたのは私です♪】
【えええっ!?】
【他の子達も元気ですよ♪】
【そうでしたか……あんな酷い事をした私にマディア様は優しく語りかけてくださり……父とお成りくださったのですね……】
【マディアと私は、グレイの姿をした貴方と二度も対峙したのだけれど……それも気づいていないようね?】
【……申し訳ございません】
【それは、もういいわ。
あ、此処から出られたら、封じている獣神を出してね?
堕神にされた獣神を助ける手助けもお願いね?】
【私はグレイの子達をきちんと育てたいのです。会わせてくださいね】
【はいっ!
どれも全力でっ、させて頂きます!】
【グレイの子と言えば……貴方、どうやって3000もの神魂を調達したの?
かなり粗雑だとは聞いたのだけれど】
【神魂は作り出すのに時と力を要します。
ですので、その素材を……人魂にも満たない程度にしか精製できていないものを大きな塊で得て分けました】
【それでもグレイの子です。
きっと立派な神になれるでしょう。
浄めつつ育てますよ】
【そうね。グレイは強い子ですもの。
きっと神世を立て直す力になってくれるわ。
3000も集まれば大きな力よ♪】
【ええ♪】
【そちらは肩が軽くなった心地なのですが、私の無知が死なせてしまった弟様も……】
【もしかして瑠璃色の子?】
【はい】
【ラピスラズリが命懸けで助けた人神って貴方だったのね。
貴方とドラグーナの子って因縁深いのね。
そちらも大丈夫よ。
再誕した妹ラピスリは、今は人世で獣神を統率しているわ】
【再誕なさったとはドラグーナ様から伺いましたが……。
そうですか……ああっ!!】
【今度は何?】くすくす♪
【私の記憶が……月で伺った大切なお話が所々欠けているような……マディア様の事もドラグーナ様から伺っていたような……】
【ザブダクルに力として吸い取られたとか?
神力も殆ど無さそうよ?】
【そうなのでしょうか……ああ……】
【そんなに落ち込まなくても、時間なら、たっぷりありそうだから真四獣神様や父から伺った話なら、いくらでも話してあげるわよ】
【ありがとうございます】ぐすっ。
【話を戻すわ。瑠璃色の子の話にね。
今は父の1/7と結婚して幸せそうよ♪
だから そんなに落ち込まないで。ね?】
【はい……ありがとうございます】
【まぁ、懺悔の方も いくらでも聞いてあげるわ。
でも少しずつよ?
出る方法を考えるのを優先させてね?
まだまだ沢山ありそうだから。
ユーチャ、回復ありがとう。
随分と楽になったわ♪
元気になったから、グレイとマディアに向けて、私達は無事だと結界に込めておきましょ♪
きっと、あの ふたりなら近づけば拾ってくれるわよ♪】
【はい♪】
白龍達は楽し気に絡みつつ、外殻に向かって飛んで行った。
ほぼダグラナタンの懺悔でした。
おさらいです。
懺悔は次話以降にも続きますが、新たな情報はこれからポツポツと、と考えています。
人世の方では、やっと瑠璃が動き始めました。
が、立ち直ったわけではありません。
彩桜はまだ利幸がユーレイになったとは知りません。
彩桜が泣くのを描くのは……。
ですので神世メインで進めます。
m(_ _)m