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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第一部 第8章 ザブダクルとマディア
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前を向くしかない



 エーデラーク(マディア)は扉の前で無表情を作り、ナターダグラル(ザブダクル)が居る方を見ないように入室した。


〈王は?〉


〈宰相殿がお連れくださいます〉


〈ふむ。何故お前は後ろに行く?

 最近は、そうではないのであろう?

 いつも通り隣に座れ〉


〈はい〉

嫌々ながらザブダクルの隣の椅子に掛け、エーデラークらしく姿勢を正したとたんマディアは動けなくなった。


〈余計な事はされたくないからな。

 表情も変えられず、声すらも出せまい。

 ま、おとなしく見ておれ〉


 えっ!? 心話も出来ない!?

 返事しなくてもいいの!?


〈焦らずとも儂がした事だ。解っておる〉



 ノック音に続いて開いた扉から宰相がチラリと見え、ティングレイスがふわふわとした足取りで入って来た。


【え? マディア、この方……誰?】


マディアに その声は届いたが返せない。

もどかしさや悔しさ、苛立ちや怒りやらが ごちゃ混ぜになって泣きたい思いだったが、それすらも出来なかった。


「ふむ。やはり支配は解けておるのだな。

 上手く誤魔化しておるが儂には通用せぬ。

 王よ、これを見よ」


ザブダクルが突き出した左掌に乗っている筈の封珠はマディアには見えなかったが、ティングレイスには見えていた。


「ユーチャ!? エーデ姉様!?」


ティングレイスは封珠を奪おうと飛んだが、届くより早くザブダクルが動き、封珠を隠した。


「儂に逆らえば滅す。其方に座れ」


「……はい」

悔しさも露に着地し、席に戻った。



「さて……王には今後も愚王として何が起ころうとも見過ごしてもらおう。

 逆らえば即座に封珠を滅する。よいな?」


「わかりました」


「お前も獣神話法とやらが出来るのだな?

 ならば――」


ザブダクルがニヤリと笑みを浮かべるとティングレイスの首にもマディアと同じ輪が現れた。


「声を出そうが、心話であろうが同じだ。

 全て儂に筒抜けだ。

 逆らえば即座に伝わるという事だ。

 マディア同様、お前にも支配は使わぬ。

 しかし儂に従い、闇に染まってゆけ。

 後世に悪神として名を残せばよい。

 さて王よ、お前の父と祖父の名は?」


「えっ? 僕は幼い頃に孤児となったので父すらも知らないのですが……」


「では、誰の指示で王となったのだ?

 前王が父親ではないのか?」


「僕を王にしたのはダグラナタンです。

 気づいたら玉座に居たんです」


「嘘を並べるな」


「嘘なんて言ったらユーチャを滅するんですよね!?

 嘘なんて言えませんよ!」


「彼奴に聞いておくべきだったか……。

 では、何が目的で王をしておるのだ?」


「いずれは神世を立て直したいけど……。

 今は、ただ操られているフリをして修行していただけです」


「この城の地下について何か知っておるか?」


「いえ、何も知りません」


「ならば調べるな。

 地下の事も、出生に関しても。

 何も調べるな」


「はい」


「修行は許してやろう」


「え? いいんですか?」


「高めた力で儂に尽くせ」


「っ……はい……」


「せいぜい高めよ。

 それと、返事は即座にな」


「はい」


「玉座に戻れ。修行にのみ専念しておれ」


「はい」

重い腰を上げ、足を引きずるように扉に向かう。


「儂に従っておる限り女達には何もせぬ。

 従っておる限りな」


「はい」

泣いているのか、振り向かずに出て行った。



「さて、マディア――そうか。話す前に解かねばならぬな」


そう言いつつも面白がっているのか、解きもせずに微笑む彫像のようなエーデラークの頬を撫でた。


離した人差し指を横に薙ぐ。


すると、身体中に巻きついている光を帯びた縄が浮かび上がった。


「ダグラナタンの得意技に、儂の力を少々加えただけだ」


神力封じの縄が消える。


「さて、王の言葉は本当か?」


「本当です。

 地下のことなんて今の神で知っている者なんか居ません。


 グレイさんの幼少期については孤児院の先生から聞きました。

 父神様はグレイさんを連れての旅の途上で禍に触れ、亡くなったそうです。

 偶然 通りがかった獣神が生まれて間もない赤子を託され、孤児院に預けたそうです」


「そうか。ならば偶然か……」


「はい?」


「詮索するな」


「はい」


「お前も、何も調べるな。

 では帰るぞエーデラーク」


「はい」



―・―*―・―



【ユーチャ! しっかりして!】

気を失っている白龍(ユーチャリス)白龍(エーデリリィ)が揺さぶる。


【もう暫くかかるかと……】


【私も随分と気づかなかったのね?】


【はい】


【この見えない変な壁は?】コンコン。


【私を閉じ込めているだけだと思います。

 ザブダクルを追えないように】


【そう……この壁も壊さないといけないのね】


【あの……瓜二つな、その方は……?】


【妹よ。ユーチャリス王妃】


【えっ……】


【ユーチャはグレイが好きだから危険な神王殿に、王のお茶係として潜入していたそうなの。

 グレイと結婚したのは何かを企んでではないの。

 私とマディアに負けないくらいグレイとユーチャも相思相愛よ♪】


盛大な溜め息が聞こえた。


【なぁに? 私がダメならユーチャをとでも考えていたの?】


【いえあのその……はい……】


【そこまで龍を気に入ってもらえたのは嬉しいけど……】

ユーチャリスの髪を撫でながら苦笑を向けた。


【す……すみません……】


【本当に……】


【は? あのぅ……?】


【毒気が抜けた貴方って可愛いのね♪】


【か……】じんわり赤くなっていく。


【気に障ったかしら? ごめんなさいね】


【そうではなくっ、初めてで……その……。

 幼い頃から可愛げなんて微塵も無かったので……】


【もしかして、あのままだったの?】


【はい。

 我が儘で、己が最強だと信じて疑わず、何も知らないのに全てを知っていると思い込んでいて……。

 どうしようもない愚か者でした。

 愚かな私は――あ……】


ユーチャリスが身動ぎし――


「んっ……」【ユーチャ?】


――目を開けた。


「ぁ――」【――エーデ姉様……此処は?】


【封珠の中よ。閉じ込められてしまったの】



―・―*―・―



 死司域に帰ろうと部屋を出た時、ザブダクルが調べたい事があると言い出したので、マディアは書庫に案内した。

そして少し離れた席で、何かを読むことすら許されず、ただ座っていた。


 この首輪……心さえ閉じておけば

 伝わらないんだね。


 嘘とか隠し事も分からないみたいだし、

 ザブダクルって けっこう素直だよね。


 きっと元々は優しくて穏やかな王様

 だったんじゃないかな?


 古の人神の国で何があったんだろう?

 それが分かれば神世を滅ぼすとか、

 きっと しなくなるよね?


 エーデが封じられて、

 ユーチャ姉様も封じられて、

 何も考えられないくらい真っ白で

 焦ってばかりだったけど、なんだか

 耐えられそうな気になってきたよ。


 落ち着いて考えれば打開できる筈。

 ラピスリ姉様も解ってくれてるんだから

 僕は大丈夫!


 グレイさんに伝える方法、考えなきゃ。


 獣神が封じられてる水晶のことも

 知られないようにしなきゃ。

 あと貴神殿(きしんでん)のことも――


「エーデラーク、何をしておる?

 不自然な程に何も伝わって来ぬのだが?」

視線は書物に向けたまま。


「目は開けておりますが瞑想修行をしておりました」


「器用な奴だな。続けておれ」


「はい」


 ほら、やっぱり信じてくれた。

 きっと良い王様だったんだよ。

 何があったのか知りたいな。


 こんなことになってしまったのは

 きっと誤解からだよね。


 ラピスリ姉様に相談したいなぁ……。







エーデリリィは強い意志で前を向いています。

目覚めたばかりのユーチャリスもすぐに芯の強い眼差しを前に向けるでしょう。


落ち着きを取り戻したマディアも次を考え始めました。


思うようには動けませんが、それでも世を護らなければと前を見据える姉弟達です。



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