狙いはウンディ
【マディア! 何があった!?
答えろマディア!!】
マディアは本気で攻撃していると感じ取っているラピスリだったが、躱すばかりで反撃はせず、言葉を投げ続けながら間を詰めていった。
そうしてやっとマディアの懐に入り、その両手をガシッと掴んだ。
【マディア!! 返事をしろ!!】
マディアは心を閉ざしたままだったが、その瞳は声に出来ない悲痛な叫びを上げており、涙が頬を伝った。
【ふむ……】
ラピスリは両手を離さず浄化で涙を消した。
―◦―
降下したナターダグラルを追ったオニキスは、他に誰が来られるのかと考えつつ、手当たり次第 呼び掛けてみた。
しかしフェネギは大陸に出掛けており、職神達からは返事が無かった。
仕方なしに街を巡視している堕神達にも救援を求めたが、まだ神力不十分な彼らではどうにもならないのは分かりきっていた。
【オニキス!】【ウィス兄様♪】
【奴の狙いはウンディなのですか!?】
【知らねぇ、です! けどウンディは!?】
【真下です!】
ウィスタリアとナスタチウムが昇って来ているのが見えた。
【ソイツ、禍が武器だからなっ!】
【知っています!【破邪炎連撃!!】】
無数の火球が下から悪神を包む!
【風神翔竜牙!!】
当たらず抜けて昇った火球を下へと鋭く吹き飛ばした!
「小賢しいわ!!」
炎の内から噴出した闇が火球を全て消した。
「そんな破邪如きでは儂は滅せぬぞ」
笑みを浮かべて姿を消した。
【下だ! 瞬移しやがった!】
―◦―
ラピスリはマディアの魂を取り込み、外に対して心を閉ざした。
【これならば話せるだろう?
あの首輪で筒抜けになるから話せなかったのだな?】
【うん……】
【何があった? 月は?】
【アイツ……クウダーム様を脱出口にして封珠から出たんだ。
代わりにエーデを閉じ込めて……僕が従わなかったら封珠を滅するって……】
【操られてはいないのだな?】
【うん。アイツきっと僕が苦しんでるのを見て喜んでるんだ。
だから支配したら面白くなくて、たとえ獣神にも使えても僕には使わないと思う】
【必ず皆で助けに行く。
マディアは独りではない。
今暫くは耐えていてくれ】
【うん……頑張るよ。
月は……皆で大きくて強い禍と戦ってた。
ソレには勝つと思うけど……】
【けど?】
【道……滅されちゃった……】
【奴の目的は?】
【復讐。相手は誰でもいいんだ。
神世をボロボロにして、復興したら何度でも叩きのめすって……】
【そうか。
父様を待たねばならぬが、必ず助ける。
何度でも私と戦えばよい。本気でな。
私はマディアには負けぬからな】
【うん……ごめんね】
【謝る必要なんぞ無い。
戦う度に こうして話そう】
【姉様ありがと。でも……もう行かないと】
【そうだな。遅過ぎると言われてしまうな】
【うん……ありがと!】離れた。
―◦―
少し下、街の結界のすぐ上では破邪と禍が飛び交っていた。
それよりもずっと激しく交錯している青い煌めきが徐々に降りて近付いている。
【マディア! ラピスリ!
こんな時に姉弟喧嘩なんかしてる場合か!】
【何やら訳ありな気がしますよ? あっ!
それよりも! オニキスは此方にっ!
集中、して、くださいっ!】避けつつ!
【だなっ! 当たったら命が無ぇよなっ!】
どうにか食い止めている龍達にもマディアとラピスリの表情が見える近さになった。
【アイツら……マジでヤッてやがる……】
【其方は無視して!
私達だけで悪神を止めなければなりません!】
【クッ……だよなっ!】
「マディア、手を抜くな。本気で滅せ!
この中では其奴が最強らしいからな。
死ぬ気で止めよ。儂に近付けさせるな!」
「はい!」【マディア!?】
【オニキス!!】【ゲッ!!】
また余所見をしたオニキスがギリギリで禍を避けた隙に悪神は下へと抜け、街の結界の中に入ってしまった。
素早く反転したウィスタリアが破邪を放ちながら追う。ナスタチウムが続く。
一瞬 遅れてオニキスも追った。
【またっ!】【ウンディが!】
悪神は前回と同じく、禍を纏わせた死印を大量に放った。
急ぎ降下しようとした龍達に嫌な笑みを向け、悪神は消えた。
【ムカッ腹立つ! バカの一つ覚えかよ!】
【助けなければ!】【そうね!】急降下!
「マディア、上出来だ。戻れ」
瞬移した悪神はマディアの背に現れた。
其処から放たれた禍をラピスリが滅した刹那――
【【【ああっ!!】】】
――居酒屋・春菜が爆発した。
―◦―
距離を取ってから瞬移しようと、反転して全力で飛び始めたマディアは上空に黒い塊を見た。
「え……?」
「来る途上で死司神と再生神を全て集め、堕神を早急に浄化域送りにせよと指示してやったのだ。
再生神には浄化しても尚、神としての力を保っている魂を再生させるな、見つけたならば即 浄滅せよ、とな」
何かに取り憑かれているかのような殺気立った死司神達が急降下して迫る。
支配……やっぱり使えるんだ……。
すれ違った黒装束の集団を一瞬だけ目で追うと、下方からラピスリが迫って来ているのが見えた。
「あっ!」大瞬移!
―・―*―・―
ようやく全ての大禍を滅し終えた月では――
《封珠が無ぇぞ!?》
《人神が倒れておる!》
【マディア! エーデちゃん! どこっ!?】
「先程の禍はザブダクルのもの……」
【オフォクス!
ぶつぶつ言ってないで捜してよ!】
「秘話法なんぞ今は無用です」
「どーゆーコトッ!?」
「ザブダクルは月には居りません」
「じゃあドコ!? 神世なのっ!?」
「神世が……人世も全く見えぬ……」
「もおっ! 僕が行くからっ!」術移!
【えええっ!? 道が無いよっ!?】
《してやられてしもうたのぅ》
「僕達、月に閉じ込められちゃったぁ!」
戻ってぴょんぴょん!
「イーリスタ様、落ち着いてください。
これだけ居れば打つ手もある筈です。
禍が現れる直前、エーデリリィが神殿に入って来た。
つまり、封珠から出たザブダクルはエーデリリィを拐ったのではないかと。
一瞬にして禍に包まれましたので何も見てはおりませんが……」
「じゃあマディアは追っかけて?」
《ふむ。そうじゃろうな。
して、出た方法は?》
「ザブダクルは以前、ルロザムールを引き寄せておりました。
利用しようとしておったのでしょう。
つまり彼奴は人神を脱出路とする術を知っていたのではないでしょうか?」
《これが、オフォクスが言うておった災厄の再来なのじゃな?》
「おそらく……としか。
現状、探りを使う余裕は御座いませんので」
「それならっ!
とにかく人世への道、急がなきゃ!」
「《人世への道?》」一斉。
「マディアに頼まれてたんだ。
まだほんのちょっとなんだけど――あ♪
真四獣神様♪ 手伝って~♪」
《しかし……》「へ? 朱雀様、何?」
《一気に作れば彼奴に見つかり、滅されるだけであろうな》
「ああああっ!! もおおおおっ!!
隠しながらチョコットずつ作るもんっ!」
ミルキィとチェリーを連れて裏側へ。
オフォクスは龍と狐を集めた。
「禍が増えるのは必至。心して掛かれ」
「はい!」一斉!
《クウダーム君は無事だよ~》
青龍が飛んで来た。
《まだ気絶しているけどね~》
「彼の記憶を呼び覚ます事は叶いませんか?」
《再誕を繰返したのが原因だからねぇ。
難しいよねぇ?》玄武に。
《確かにのぅ……蓋が開くか、全て消えてしまうかの二択じゃからのぅ。
しかも後者の方が圧倒的に率が高い》
《人神には尾なんて無いからねぇ》
《うむ。仮置きが出来ぬからのぅ》
もう得意技と言ってもいいくらいな、魂を取り込む技を使ったラピスリと話せたマディアは少し落ち着きを取り戻したようです。
ですが姉弟が全力の手合わせをしている間に地上では――
月の方も、ようやく現状が把握できたようで、次に向けて動き始めました。
こちらは真四獣神とイーリスタ、オフォクスが居るので大丈夫でしょう。
操禍と支配の力を持つザブダクル。
それだけあれば単独で何でもできそうですが、わざわざマディアを拐った理由は何なのでしょう?