目覚め始める
ねぇねぇ一緒に修行しよ~♪
聞こえないの? ねぇってば!
黒狐なバステートは、後を追う力丸を無視して身軽に木に登り、高い枝で姿勢正しく前足を揃えて座ると瞑想を始めた。
バステートちゃ~ん!
「力丸、彼女は未だ力丸の思いを拾える程には神力が戻っていないのです。
それに力丸よりずっと歳上なのですよ?
さ、力丸も修行なさい」
お師匠様やキツネ様とは
どうして会話が成立しているのですか?
「力丸の思いを此方が拾っているのです。
力丸は思っているだけ。
話せていないのですよ」
って、封じたの、お師匠様ですよね?
「神力を高め、その封印を自ら解きなさい。
それが最初の試練なのですよ」
あれ?
「また……」溜め息――「何ですか?」
ドラグーナ様達も拾ってくれてましたよ?
「偉大なる龍神様ですので、御記憶も無く、御力を封じられようとも、その程度は自然と、難無くなされるのです」
彩桜も?
「当然です。
彩桜様こそがドラグーナ様なのです。
ですので彩桜様だけが主様の元に易々といらっしゃるのです」
じゃあ兄貴達は?
「勿論ドラグーナ様ですよ。
合わせてドラグーナ様なのですから。
早くドラグーナ様の元に戻りたいのではありませんでしたか?」
はいっ! 修行しますっ!!
―・―*―・―
『長物、通りま~す!』
「あれれ? トシ兄?」
聞き覚えのある声に彩桜が見上げると、ビル建築中の高い足場で、ヘルメット下に満面笑顔の利幸が生き生きと資材を運んでいるのだった。
「ヨォ彩桜♪ 学校の帰りかぁ?」
「うん。工場は? クビなったの?」
「おいおい、俺が辞めたんだよ。
コッチのが収入いいんだよ♪」『トシ!』
「おっとぉ。んじゃ、またなっ♪」
『走るなっ!!』『はいは~い♪』
「楽しそ~だからいっか♪
じゃ、ショウのお散歩は俺だね♪」
ぴょんぴょんと弾むように駆けていたが、家近くの公園を抜けていた時、不意に足を止めて踞った。
何コレ? まさか貧血っての!?
ウソでしょ……えっと……
このまま寝ちゃったら変だよね?
あ、あの象の下に入っちゃお――
中が空洞な象の遊具の下に潜り込んで丸まった。
―・―*―・―
あ……あれれ?
俺……なんか……うわわっ!?
瞑想していた力丸が浮遊感を感じて思わず目を開けると、目の前には穏やかな光を纏った桜色の美しい龍が浮かんでおり、その龍から伸びた淡く柔らかな光が力丸を包んでいた。
彩桜……? あ……笑った……? えっ!?
桜龍が力丸を指すように突き出した指から発した閃光が迫り、力丸の額を貫いた!
――かのように思えた。
〈少しだけお手伝いだよ〉
彩桜……じゃないの? ドラグーナ様?
〈同じだよ。早く帰ってきてね〉
〈はいっ! えっ!? あっ、待って!!〉
桜龍は笑って消えた。
さっきの……何だ? どういうことだ?
彩桜……ちゃんと会って話したい!
また来ないかな? あの虚だよな?
通路なんだよな? あ! それよか!
さっき俺、心で話せてたよな!?
お手伝いってソレかっ!?
もう解けたのかっ!?♪
ピョコンと立ってキョロキョロ。
〈お師匠様! お師匠様っ♪〉
力丸が瞑想していた場所と、樹上のバステートとの間の岩の上で瞑想していた狐儀が驚いて目を見開き、駆けて来る力丸を見詰めた。
力丸が纏う気は彩桜様……そうですか。
本当にお気に召して頂けたのですね。
良かったですね、力丸。
〈俺っ、話せてますよねっ♪〉
〈確かに話せておりますよ〉
〈やったぁ♪
あ……でも、俺が解いたんじゃないよな……〉
〈それもまた力丸の力ですよ。
お助け頂ける程の絆を得た力丸が、私の封印に勝ったのです〉
〈じゃあもう封じたりしないんですね?♪〉
〈はい。次は狐から脱しなさいな〉
〈はいっ!♪〉駆け出す♪
〈力丸、何処に!?〉
〈修行もしますけどっ♪ その前に♪
バステートちゃ~ん♪〉
〈力丸!!〉
〈あれれ? 登れないぞ?〉カリカリカリ。
〈馴れ馴れしいわねっ〉プイッ。タッ――
バステートはもっと高い枝に移り、ガン無視で瞑想を再開した。
〈バステートちゃ~ん……〉
〈見合う者になりなさい〉
〈お師匠様ぁ〉ぐすっ――
〈力丸は、まだまだこれからなのですよ〉
〈はぁい……〉シュン。とぼとぼとぼ――
―・―*―・―
目覚めた彩桜は遊具の外に出て、大きく伸びをした。
「な~んだったんだろ?
藤慈兄にお薬もらわなきゃ」
独り言ちつつ家路を急ぐ。
「うん♪ もぉ平気♪
また黒瑯兄に力丸のおやつ作ってもらお♪
修行の邪魔しないよぉに夜中に配達ねっ♪」
―◦―
「あれ? 瑠璃姉どしたの?」
家にランドセルを置いて戌井家に向かって走っていると、ショウを連れた瑠璃に会った。
「昼寝から起きた飛鳥がむずがってな。
澪の代わりだ」
「ショウ♪ 俺も行くからねっ♪
病院、今日はお休み? 青生兄は?」
「今日は駅前公園が予防接種会場になっていてな、青生と交替したところだ。
病院は昼から夕方を休憩とし、夜を長めに変更した。要望が多くてな」
「24時間は? ナシなったの?」
「青生が博士課程に進むそうだ。
内緒で受験していたらしい。
だから卒業後になるな」
「また東京行くの!?」
「居候し、週末には戻る」
「金錦兄トコ? お邪魔虫するの?」
「そうなるな」ふふっ♪
「瑠璃姉は? 一緒に行かないの?」
「青生との城を守らねばならぬ」
「そっかぁ」
「彩桜は将来、何になりたいのだ?」
「ん~とねぇ、獣医なりたいけどぉ……」
「ん? どうした?」
「紅火兄みたく道具屋さんもいいな~って。
でも、どっちもお邪魔虫でしょ?」
「変な気遣いをするな。
みかんさんとリリスさんが専門学校に通い始めたのは私達の院で働きたいが為だそうだ」
「じゃあ藤慈兄だけじゃないんだ……あっ」
「やはりな。皆で『きりゅう動物病院』だ。
彩桜が交替要員に加わってくれるのなら有り難い限りだ」
「じゃあ俺ガンバル♪
あ……あとね、祓い屋さんもなりたいんだ。
素質あったらだけど」
「彩桜ならば十分だ。
それに祓い屋は裏稼業だ。
表は獣医、裏は祓い屋というのも可能だ」
「そっか~♪
御札お姉ちゃんみたくユーレイさん達と一緒に戦いたいんだ♪」
「戦う? 何故?」ドラグーナ様らしくもない。
「うん……なんかね、みんなの為には、時には戦わないとダメなんだって思っちゃったんだ。
なんとなく、なんだけどね……」
「そうか……」
〈タカシ、ど~して泣いてるの?〉
〈僕にも分からないんだけどね〉
〈サクラってカッコイイねっ♪〉
〈そう、だね……〉
胸部の彩桜は、ドラグーナ様の中心。
御心そのものとも言えよう。
友の為と笑って堕神と成られた
ドラグーナ様も、とうとうそのように
お考えになられてしまわれたか……。
堕神を増やし続け、
災害も病の蔓延をも無視し続ける王に
とうとう牙を剥こうと仰るか。
私共は如何なる道をお選びになろうとも
お支えし、従うまで。
蜂起なさる その時まで、何があろうとも
お護り致すまでで御座います。
アーマル兄様。
飛翔となっている今、流しているその涙は
兄様の御心からのものと信じております。
共に、善き未来へ。
ドラグーナ様と共に――
心で話せるようになった力丸ですが、自力ではないので、ここからが長い道程になりそうです。
アーマル(飛翔)、ラピスリ(瑠璃)、ウンディ(利幸)はドラグーナ(輝竜兄弟)の子です。
この物語世界の神様は親子・兄弟姉妹の縁は勿論 大切にしていますが、個と個だという認識も強く持っています。
ですので子であっても、尊敬する大神様として見ている時は『ドラグーナ様』と呼んだりもするんです。