カイダーム
「私ね、身体 壊してたでしょ。
でも治ったの。だから前に進みたいの。
その為に全てをチャラにしたいのよ」
「そっか。そんじゃあ会長さんに話してスケジュール調整できたら連絡するよ」
「ありがと♪ カー君♪」
小夜子と荒巻はテーブル席には行かずに荒巻が立ったまま話していたが、利幸が洗い物をしている近くのカウンターに移って話を続けようとした。
「ね、トシ君は何か料理できないの?」
「んあ? まだなんだよなぁ」
「おいトシ。
その魚、焼き上がり見極めてみろ」
「おう♪」
奥の炭火コンロでは、皮に黄金色の照りと焦げ目少々な鯵がフツフツと旨そうな香ばしさを漂わせていた。
「いい感じに、も~チョイだな」真剣。
大将は、そんな利幸に背を向けて静かに別の料理を仕上げている。
俯く その顔は微笑んでいるようだった。
小夜子と荒巻は話すのも忘れて利幸の様子をじっと見ていた。
「皿も、ソイツに合うヤツを選べよ」
「あっ、はい! 皿がねぇとなっ」
そして――
「聞こえた!」手早く鯵を皿へ。
「コッチ持って来い」「はい♪」
――満足気に笑みを浮かべている大将から盛り付けを習い、小夜子達の前に並べた。
「勝利、先に毒見なっ♪」
「おい、ソレ自分で言うかぁ?」
「もし生焼けでも勝利なら平気だからなっ♪」
「平気じゃねぇよ!」言いながら食べる。
「へぇ~、ちゃんと火が通ってやがる。
パサついてもねぇな」
「よ~し♪ んじゃあ小夜子さんもな♪
あ、オヤッサンからのサービスだ♪」
「いただきます♪
ん♪ 絶妙よ♪
あ、さっきの『聞こえた』って?」
「魚から『焼けたよ~』って聞こえるんだ♪」
「ウソだぁ~♪」あはははっ♪
「マジだってぇ」わはははっ♪
―・―*―・―
昼間でも薄暗い社に宵闇が濃くなったので、ラピスリは光球を浮かべた。
それに気付いたクウダームが目を開け、何かを確かめるように頷いた。
【ラピスリ様、いくつか思い出せました。
やはり随分と早くなりました。
ありがとうございます】
【そうですか。お聞かせ願えますか?】
【私は何度か再誕しているようなのです】
【何方が再誕をさせてくださったのです?】
【今回は300年程前で御座いましょうか。
龍神様……黄金の龍神様と、銀を帯びた青い龍神様が、目覚めさせてくださったので御座います。
そして、この身体は限界だと仰られまして、再誕させて頂いたのです】
【龍神様のお名前は? 思い出せましたか?】
【それが……私の記憶をご覧頂けますか?】
【では失礼致します】
クウダームの手を取り、気を高め――
――すぐに微笑んだ。
【私の父と祖父です。
黄金龍が父のドラグーナ。
蒼青龍が祖父のフィアラグーナです。
父が手にしているのは封珠ではないかと。
クウダーム様は封じられていたのではありませんか?】
【はい。その前の最後、私は人神と戦っておりました。
禍に包まれましたところで記憶が途絶えているようで御座います。
その……封じられておりました間の時の長さは分かりかねますが……。
しかし……その時の私も再誕後だと……。
それ以前にも何度も再誕していると、内なる声が語りかけて参るので御座います】
【内なる声……確かに再誕なさっておられますね。
私も前生の声に教え、導いて頂く事が多う御座います】
【然様で御座いますか】表情が和らいだ。
【他にも?】
【はい。とてもとても古い記憶を少々。
私には双子の兄が居るようです。
私共は同じ御方に仕えておりました。
その御方を私は捜し……その為に再誕を繰り返しているようなので御座います】
【その方とは? お兄様は?】
【まだ……霧がかかっているような薄ぼんやりとした像しか浮かばず……】
【ご無理はなさらず、他には何か?】
しかしクウダームは、他ではなく古い記憶を引き寄せようとし続けているらしく、苦し気な表情のままだった。
【兄とは別行動を……何があろうがピュアリラ様が引き合わせてくださる筈と。
兄もまた……王を捜し――そうです!
私共の王は……追放されてしまったのです。
何故……? 何があったのか……。
……もっと思い出したいのに……】
悔し気に両の手を固く握り締めた。
ラピスリはクウダームの肩に手を添えた。
【お兄様の所に参りましょう】
【え……?】
【偽装しなければ昇れませんので、失礼致します】
死司神の姿となって微笑んだ。
―・―*―・―
「どうして高校の時は見えてなかったのかしらねぇ。こんなに面白いのに~♪」
「ったく~、澪さんと仲良かったろ?
飛翔は覚えてるんだろ?
でナンで俺が目に入らないんだよぉ?」
「こんなデカイのになっ♪」「っせー!」
「ナゾよねぇ」あはっ♪
「ちゃんと居たんだからな。
卒アルで確かめろよな」
「実家に置いたままだから~、
澪か瑠璃に見せてもらうわ♪」
「そーいや瑠璃とは仲良かったのか?」
「ううん。澪の親友ってだけ。
だから一緒に出かけたり勉強したりはあったけど、瑠璃って話さなかったのよね。
澪は『いつもこうだから気にしないでね』とか『これで喜んでるのよ』とかって言ってたわ。
あ、勉強は教えてくれたわよ♪」
「頭イイんだよな~、瑠璃さん」
「そうなのよねぇ。
動物のじゃなくて人のお医者さんになってもらいたかったわよぉ。
でも……赤い糸で青生さんと引き寄せ合ってたんでしょうね~♪」
「「だよなぁ……」」盛大に溜め息。
「ん? あらら?♪
二人とも……そうなのね~♪
私の女神様はモテモテねっ♪」
「俺達にとっても女神様だよ」「なぁ」
―・―*―・―
その女神様は現世の門までは死司神らしく飛んで昇り、くぐって以降は姿を消して大術移を繰り返し、これまでにない速さで月に着いた。
【【【ラピスリ~♪】】】
兎達が嬉々として跳びついてきた。
【ミルキィ チェリー、楽しそうだな】
【【もっちろ~ん♪】】【僕は?】
【イーリスタ様、クウダーム様をお連れしました】
偽装を解いた。
【ん♪ じゃあラピスリ半々女神ねっ♪】
【半々……】【行こっ♪】術移♪
――ラピスリの溜め息と共に神殿前。
【新たな神殿? 結界で囲んで……?】
【古神様の居場所♪
人神だからアイツが悪さしちゃうでしょ。
だから結界♪ 入ろ♪】
嫁達を頭に乗せて宙をぴょんぴょん進むイーリスタに続いて神殿に入ると、中央の台座に置かれている水晶玉が光を帯び、その上に紋章が浮かんだ。
【やっぱり反応したね~♪】
クウダームが飛んで寄り、鏡に光を取り込んで、浮かんだ紋章を重ねた。
《クウダーム……》「カイダーム!!」
水晶を抱き締めた。
「目覚めてカイダーム!!」
【寝言だねぇ。
ラピスリ♪ 目覚めのお手伝い♪
半々女神で引っ張ってあげてね~♪
外で待ってるから~♪】
ミルキィとチェリーを連れて出て行った。
【では、神力を注ぎ、カイダーム様がお目覚めになられますよう引き上げさせて頂きます】
―・―*―・―
予約の診察を終えた青生は事務処理を始めたが集中できていないと感じて仮眠室に行った。
「あれれ? 青生兄、早過ぎない?」
「彩桜……いつの間に?」
「さっき~♪ 閉店したから~♪」
「彩桜のドラグーナ様は?」
「寝てる~」
「やっぱり……」
「青生兄、元気ない?」
「少し疲れているのかな?
でも気にしないでね」
「回復~♪ どぉ?」
「ありがとう、彩桜……」
コンコンコン。「は~い、ど~ぞ♪」
ドアから顔を覗かせたのは――「藤慈兄~♪」
「あの……ドラグーナ様が……」
《ありがとう藤慈。《《俺から話すよ》》》
「あ、はい」ほっ。
紅火が金錦を連れて現れた。
「紅火兄も瞬移できるんだ~♪」「うむ」
《目覚めている分は揃ったね》
《それじゃあ聞いてね》
《獣神も経験した記憶は頭に入るんだ。
でもね、覚えた事は尾に在る大器に入るんだよ》
《修行や勉強の成果や術なんかだね》
《金錦と青生は頭、彩桜は胸。
紅火は手、藤慈が尾なんだよ》
《白久は腰と足で、黒瑯は腹だからね、考える部分でも覚える部分でもないから目覚めが遅いんだ》
《胸には魂の核が在るんだよ》
《手は感覚器として、とても敏感だよね。
感じ、考える事にも直結している。
それに神の手は様々な役割を担っている。
特に記憶や術に関してね》
《俺は堕神とされる際に記憶を抜かれると思ったから、大器に写しを置いたんだ。
それを共有したいんだよ》
《間が眠っているし、俺の神力不足もあって、これまでは共有できなかったんだ。
でも皆が修行してくれたからね、もう共有できると思うんだ》
《腹部や足腰にも刺激になるだろうからね》
《目覚めるのが早くなるだろうからね》
《手を繋いで輪になってもらえるかな?
あとは目を閉じて、気持ちを落ち着けてね。
ありがとう。それじゃあ始めるね》
龍狐の女神ピュアリラを信奉する古の人神カイダームとクウダーム。
双子兄弟が再誕を繰り返しながら捜している王とは?
神が神を信奉する。
これは人が神を信奉するより遥かに大きな事なんです。
ピュアリラは何を成して神から崇められるようになったのか?
その辺りは、ゆっくりと。
暫くは謎が増える方向で進みます。
小夜子の方は、こうして利幸とも友達になりました。
あ……そういえば!
荒巻のハッピーエンドは考えてなかった……(汗)
すっかり忘れてた~!
勝「おい」
凜「考えるって!」
勝「忘れっぽいからなぁ」じと~。
凜「それは認める」苦笑。