古の人神と龍狐女神
瑠璃が小夜子の部屋で夕食を作り、待っているとドアの向こうで足音が止まった。
「鍵は開いている」
勢いよくドアが開き、輝きそうな程の笑顔が飛び込んで来た。
「ただいま♪
瑠璃に見せたい物があったの♪」
いそいそとバッグから紙を取り出して開いた。
「健康診断? 行ったのか?」
「会社のよ♪ 癌検診も全部受けたの♪
ほら見て♪ ぜ~んぶ異常ナシなのよ♪」
「そうか」ふふっ♪
「瑠璃のおかげ♪
本当に私の女神様だわ~♪
あっ、誰にも言わないからねっ。
秘密はシッカリ守るから♪」
炊飯器の炊き上がり音が聞こえた。
「食べよう」笑顔で立ち上がる。
運ぶつもりの小夜子もついて来て、箸や湯飲みを棚から出し始めた。
「いつもありがとう。
でも もう治ったんだから、今度は私に作らせてよ。
瑠璃の病院ってキッチンあるんでしょ?
普通に暮らせるって言ってたわよね?
でも瑠璃は変な遠慮するし、毎日お邪魔するのも悪いから1日おきとかでどう?
それなら気兼ねないでしょ?」
茶を淹れたり、ご飯をよそったりしたのを居間に運びながら小夜子は話している。
おかずの仕上げを終えた瑠璃が居間に持って来た。
「なんだか豪勢? どうして?」
「良い事が起こると青生が言ったのでな。
快気祝いだ」
「青生さんも神様?」
「そもそも私は神ではない。
神ならば飛翔の病に気付いた筈だ」
「あ……飛翔さんも、、よねぇ……」
「すまぬ。快気祝いなのに余計な事を言った。
飛翔の事ならば、いずれ――いや、何でも。
冷めてしまうぞ?」
掌を合わせて、箸を取った。
小夜子も箸を取ってから首を傾げる。
「いずれ? 澪にお見合いとか?
飛翔さんをもう1人見つけないとムリよ?」
「そうだな」ふふっ。
「あ、笑った~。何 企んでるのよぉ」
「いずれ澪にも心からの笑顔が戻る」
「え? 女神様の予言?
瑠璃が言うと信じてしまうわぁ。
それに美味し~い♪
生きてるって実感するわ~♪」
「再発もさせぬ。だから普通に生きられる」
「普通に……うん。
家族に会えるようにコマを進めるわ。
借金……なくさないとね」
「小夜子こそ何を企んでいる?」
「企むって程の事じゃないわよぉ。
あ♪ ね、勝敗 見てよ。
占ってよ、の方がいいのかな?」
「予言者でも占い師でもないのだが?」
「でも女神様だから♪
借金を纏めてくれた会長さんが、ずっと前に言ってくれた勝負なんだけど、勝てたら借金チャラなのよ♪」
「どんな勝負だ?」
「麻雀♪ 私けっこう強いのよ♪
会長さんも麻雀好きなのよ~♪
ね、勝てると思う?」
「ふむ……」目を閉じた。
「真面目に見てくれる瑠璃が好き♪」
目を開けて小さく笑った。
「茶化すな。負けは無い」
「『勝つ』って言われると嘘っぽいけど、そう言われると信じてしまうわ~」
「勝てなくてもよいのか?」
「勝つまで勝負させてもらうわ♪」あはっ♪
「そうか」はははっ♪
「元ダンナは再婚してるでしょうけど……子供達には会っていいわよね?」
「その権利は有る筈だが、詳しい事を聞いておいてやろうか?」
「誰に?」
「弁護士資格を持つ知り合いだ」
「へぇ~、そんな知り合いまでいるのね。
借金がチャラになったらお願いするわ。
それまでは……静かにコマを進めたいの。
相談したら一気に進みそうでしょ?」
「確かにな。
デザートも作ってある。入るか?」
「別腹だからシッカリ入るわ♪」
―・―*―・―
月の神殿前では――
《もっと欠片を集めるか、神力を蓄えられる水晶にすべきじゃな》
真四獣神が四方を囲み、古神を目覚めさせようとしていたが、現状では無理と中央に集まった。
《この欠片から得られるものは少なかろうが、探ってみるか?》
《探るつもりで集まったんじゃねぇのか?》
《まぁ、やってみようよ~》
闇と赤白青の光が水晶玉を包んだ。
暫くして、神殿でダグラナタンと話していたマディアとエーデリリィが出て寄って来た。
【いかがですか?】
《うん。僕達と同じくらいの古さだって事だけは確かかなぁ?》
《玄武よりは下、白虎よりは上。
私達と同時代を生きた人神だ》
【じゃあザブダクルを知ってるのかな?】
《知っておろうな》
【話 聞きたいなぁ】
《もっと欠片を集めよ》
【はい♪ ――あ……何かの模様?】
水晶の上に盾のような囲みのある紋様が浮かび上がり、次第に明瞭になっていった。
《紋章じゃろうのぅ。
今も貴族とやらは持っとるのじゃろ?》
【確かに。貴族さん達が大事にしてます。
でも……この模様、狐と龍なのかな?
狐の顔に龍の角な半獣姿?
掌を前に向けて差し出してる右手は龍で、杖を持って胸に当ててる左手の甲は狐?
服で隠れてるけど足もなのかな?
で、狐の尾? あ、じゃなくて、上になってる半分が狐で下半分が龍の尾?
身体が半々って……】
《複合神なのか、象徴として合わせておるのかじゃな。しかも女神じゃ》
玄武はチラリと青龍を見た。
しかしマディアは紋章を見ていた。
【複合神?】
《儂のような神じゃよ》
【あ~、蛇と亀ねっ♪
じゃあラピスリ姉様?】
【私がどうかしたのか?】
一斉に向いた。【ラピスリ姉様♪】
《この紋章の姿になれるかのぅ?》
【は?】マディアに引っ張られらた。【おい】
【コレ♪ 姉様でしょ♪】
【何の冗談だ? マディアの姿に偽装したイーリスタ様なのか?】
【【ナンかヒドい~】】
【イーリスタ様はソコ♪】【ここだよ~♪】
イーリスタは南方位で翼を振っている。
静かに見ていたエーデリリィが笑いだした。
【違うのよラピスリ。
お目覚め頂くキッカケになるかと思ってなのよ。
真っ先に見えたのが その紋章だから】
【ふむ……練習しておきます。
それはそうと此方では異変は何も?】
神殿に目を向けた。
【人世で何かあったの?】
【禍が現れた。
しかもオフォクス様の結界の内に、だ】
真四獣神も含め、皆が息を呑んだ。
【ラピスリ、詳しく話せ】
オフォクスが寄る。
【山の者達が騒ぐまで気付けなかったのですが、稲荷山と奥ノ山の間に禍が現れ、神に戻りきれておらぬ皆に呪を憑けたのです。
その禍にザブダクルを感じたのです。
強い禍でしたが浄化、解呪共に効きました。
故に何かを試したのではないかと考えたのです】
【転送か……】
【そうとしか考えられません。
ですので封珠内で生じたと同時に滝からの転送口へと飛ばすよう結界を成そうかと――】術移!
――神殿内。【破邪炎無双!!】
微かな違和感へと動いたラピスリは、出て即、破邪を放ち、封珠に掌を翳した。
封珠へと引き寄せられていたルロザムールがパタリと床に伏せる。
【姉様!!】飛び込んで来た。
マディアに続いて兄姉達も飛んで来た。
【ルロザムールを使っての何かを企んでいるらしい】
【神世に連れてった方がいい?】
【いや。何処に居させようが同じだろう。
目を離さぬ事しか手は無さそうだ。
オフォクス様は?】
【古神様の欠片を護ってもらってる。
やっぱり知り合いなのかな?】封珠を見た。
【人世に禍が現れた時……そうか。
丁度マディアが月に着いた頃か……】
【知り合いが気づく前に主導権を握りたかった、かな?】
【可能性は有るだろう】
【だよね】
【では交替で見張ればよいのか?】
シアンスタがマディアに並んだ。
【結界の維持はお願いしたいのですが、見張りは人神の力が必要なのです。
人神でなければ見えぬ事をしますので。
ですのでオフォクス様かルロザムールに入った真四獣神様でなければならないのです】
【そうか。
では結界の維持くらいはさせてくれ】
【お願い致します】
【姉様も見えるんでしょ?】
【見えるだろうが……】
【ダメよマディア。
ラピスリは父様を護らなければならないのだから】
【そっか。
人神は操られるかもだからルロザムールと同じになっちゃうよね?】
【そうだな。
獣神の欠片を持つティングレイスをと考えているのだろうが、危険過ぎる。
それに王には神世に居てもらいたい。
故に賛成出来ぬ】
【そうだよね~】う~ん。
【考えてくれるのは助かる。
これからも頼む】
【ん♪】
【兄様 姉様。結界を成しましたので後を宜しくお願い致します】
ずっと翳していた手を水晶から離すと、掌に隠していた魔法円が下りて水晶を包んだ。
【スッゴ~い♪ 僕にも教えて♪】
【シアンスタ兄様、それもお願い致します。
マディアは『護り』をしておりませんので】
【そうか。ラピスラズリと同じなのだな。
解った。任せてくれ】
【では――】【もう人世に戻るの?】
【次は狐として話しに行くだけだ】
笑って神殿から出て行った。
古の悪神ザブダクルは不穏そのもの。
不気味に何やら企んでいます。
こんな世で幸せを維持するのは神様でも大変なんです。
人世は神世の影響を受けてしまうのが必然。
神様が作った世界ですので。
ダグラナタンが改心しても続いている支配の力と、止まらない神力射。
その力は残滓なのか、それとも……?
古の人神って? ザブダクルとの関係は?
紋章の龍狐女神は伝説の?
まだまだ続きま~す。m(_ _)m
凜「あれ? 玄武様?
そういえば紋章の話の途中で、
青龍様をチラ見しましたよね?」
玄《龍と狐の女神様じゃからのぅ、つい青龍を
見てしもぅただけじゃよ。龍じゃからのぅ》
凜「それならマディアだって龍だし、
なんなら龍だらけで狐だらけですよね?」
玄《じゃから『つい』じゃよ、ついつい。
いやはや手厳しいのぅ》
凜「何か隠してますよね。
今すぐとは言いませんけど~、
ぜ~んぶ話してくださいねっ!」
玄《そのうち、のぅ》そそくさ逃げた。
凜「亀爺様 速っ!」
この形、久々~♪