龍で狐なラピスリ
〈今、施す術は正確には再誕ではありません。
魂への力の付加です〉
〈赤子には戻りませんのでご安心を〉
エーデラーク達は封珠を包み込むように持ってダグラナタンにそう声を掛けると、魔法円の中央に立った。
《ダグラナタン、マディアは若いがお前の親と成る。よいな?》
《はい。有り難き幸せでございます》
朱雀の念押しにダグラナタンは心底嬉しそうに答えた。
《ふむ。では始める》
神殿内が光で満ちる――
―◦―
神殿のすぐ外には、漏れる光を感慨深い眼差しで見ている母子が居た。
【ハーリィも立派になっていたのね】
【いえ……私は未々で御座います。
真四獣神様の器と成れるディルムこそ立派と申せましょう】
【そう言えるところが立派なのよ。
早くマリュースにも見せてあげたいわ】
【父様の居場所は聞き出せるのでしょうか……】
【今日は聞き出せなくても、いずれ必ずダグラナタンの方から話してくれるわ。
ドラグーナ様の御子の欠片が入るのだから】
【然うですね】
神殿入口から真っ赤な炎の塊が飛び出、母子の頭上を越えて瞑想している者達の方へと真っ直ぐ飛び去った。
【お嫁ちゃん達~♪ おっ待たせ~♪】
【【イーリスタ様♡】】ぴょこん♪×2。
【ミルぴょん♪ チェリぴょん♪
これから僕が引き上げてあげるねっ♪】
【【はいっ♪】】
【普通は夫婦で共有した力って単純にだと倍増なんだけど~、僕達は3倍増だからねっ♪
い~っぱい頑張ろ~ねっ♪ 一緒にねっ♪】
【【一緒~♪】】きゃあ♪×2。
と、イーリスタ達が騒いでいる間にディルムも出て来ていて、母バステートから結婚すれば更に強くなれると、兄弟にとってはとても耳の痛い話を身を縮めて聞いていた。
遅れて出て来たエーデリリィとマディアは修行を続けている兄弟の方へと手を繋いで飛んで行った。
【【あらら?】】【また光ったね~♪】
兎達は神殿の方を向いた。
【【誰か出て来る~♪】】【うんうん♪】
【オフォクス様と……】【狐の女王様?】
【強い光纏ってるもん】【大神様よね?】
【よ~く見て、気を探ってごらん♪】
【【ん~~~~! ええっ!?
どーしてラピスリ!?】】
【バッチリ揃っちゃうね~♪
行ってみよ~♪】
嫁な双子を抱き上げて跳ねて行った。
碧光を纏う白狐オフォクスが、瑠璃光を纏う白銀狐ラピスリに並ぶよう促した。
ラピスリが恥ずかし気に躊躇いつつも並んだ時、その周りにオフォクスの弟達が揃って現れた。
続いてマディアが連れて来た龍の兄弟も狐達を囲んだ。
【ドラグーナと儂の娘、ラピスリだ。
狐を封じておったのだが……今後の戦いの為、全てを解放した】
【狐としての修行はこれからですので、赤子と同じで御座います。
どうか御指導の程、宜しくお願い致します】
狐達が微笑んで頷いた。
【兄様、姉様、マディア。
龍である私は変わっておりません。
これからも変わらず、お願い致します】
兄姉達も微笑んで頷いた。
【なんて言うか……女王様って貫禄だよね♪
ラピスリ姉様♪】
兎達も到着した。ディルム達も。
【ホントにラピスリなのね~♪】
【ラピスリと~ってもキレイ♪】
【その姿♪ キツネの社にピッタリだね♪】
【ふむ、確かにイーリスタ様の仰る通りだな。
ラピスリ。今後、社では狐として修行せよ】
【……はい、オフォクス父様】
〖ありがとう、オフォクス〗【何故、礼を?】
〖一番は嬉しいから、になるかな?〗【ふむ】
〖伝説の女神様みたいだよね♪〗【確かにな】
〖オフォクス? 照れているの?〗【言うな】
少し離れた場所で瞑想していた青生と彩桜も中断して、その光景を見ていた。
「ラピスリ様って瑠璃姉の龍神様だよね?」
「うん、そうだね。
龍神様ってだけじゃなくて、お稲荷様でもあったんだね。
とても綺麗だよね」
「うんうん♪ キレイだよね~♪
神様が出てる時って瑠璃姉どぉなってるの?
どこに居るの?」
「さぁ……瑠璃くらいになると俺達みたいに気絶して残されるんじゃなくて、神様の中に居られるのかもね」
「そっか~♪ 一緒に居るから見えなくなっちゃうんだねっ♪ すっごいね♪」
「早く瑠璃に追い付きたいんだけど……遥か彼方だよね」
「そぉだよねぇ……じゃ頑張らなきゃ♪」
「そうだね。瞑想しよう」「ん♪」
兄弟が目を閉じ、その様子を微笑ましく見ていたモグラも目を閉じた。
―◦―
ラピスリは龍の兄弟と狐の叔父達、各々と話した後、狐達の指導で術移を会得した。
【さっすがラピスリ♪
すぐ覚えちゃったね♪】
【イーリスタ様も術移なさっておられましたよね?】
【オフォクス達から欠片もらっちゃった~♪】
【奪われたのだ】フンッ。
弟達も苦笑しているので奪われたらしい。
【それじゃ人世に行こっ♪
そろそろ設置も終わったと思うよ♪】
狐達を無視してぴょんぴょん♪
【設置、ですか?】
バステートが首を傾げた。
【神力射ズラリ♪
さっきの行きは設置し始めたトコトコで軍神だらけだったんだ♪
でねっ、帰りには神道 囲んで三角に並んでて~、軍神達は半分になってたんだ♪
だから終わったんだろ~ねっ♪
で、そろそろホトボリ冷めたんじゃないかって思うんだよねっ♪】
【そんじゃあ準備を――】
【ディルムは修行しないとね~♪】【え?】
【僕は さっきトリノクスに込めたの確かめなきゃなんないから~♪
あ♪ オフォクス♪
トリノクスに くっついてた呪は、みんなの破邪と浄化で殆ど消えてたけど~、解呪 重ねといたからねっ♪】
【有難う御座います】
【トリノクスも気づいてたみたいでね~、すっごく強~い結界してるんだ。
だからオフォクスとラピスリとフェネギが撃ち込んでる楔を合わせて~、僕も重ねてるからねっ♪
でもね~、まだまだ眠ったままになると思うんだ。
本体になってるコが先に目覚めるよ~にだけはしたんだけどね~。
も~ちょい頑張って半年以内にしちゃうからねっ♪
だから出発しよ~♪】「わわっ!?」
瞑想していた彩桜を抱えてぴょんぴょん♪
「帰ろう、青生」「うん」微笑み合う。
「モグラは行きと同じねっ♪」「はい」
マディアが取り込んだ。
「バステート様、ご一緒に」「よろしくね」
エーデリリィはバステートを隠した。
【ラピスリ~♪ まとめて運んで~♪】
【イーリスタ様も出来ますよね?】
【練習しなきゃね~♪】
渋々ラピスリは狐になった。
〖青生、背に乗ってくれるか?〗【あ、はい】
ラピスリは心の中でラピスラズリに礼を言って、エーデリリィと手を繋いでいるマディアと、ハーリィに触れて術移した。
【ナンで僕だけ置いてくのっ!?】
【両手では足りませぬ故】
【もうっ! ラピスリってばっ!
お嫁ちゃん達~♪ また待っててね~♪】
【【は~い♪ いってらっしゃ~い♪】】
イーリスタも術移した。
―◦―
現世の門に着くと、待っていたミュムが微笑んだ。
【見張りの兵士は3神です。
神力射の三角の各頂点に隠れております。
先程、再生最高司様より、死司と再生は通常通り動いてよいと伝わりました。
個々でなら降りても昇ってもよろしいという意味と存じます】
【ありがとうミュム。
ナターダグラルが休みだから両方に伝えてもらえたんだろうね。
それじゃあ僕とエーデは普通の死司神として降りるよ】
にこにこマディアはエーデリリィとお揃いの黒衣に。
【私は再生神だからな】その頃の白衣に。
【僕ど~しよ~かな~】う~ん。
【私とミュムは少し離れて追います。
何事も起こらなければ接触せずに再生域に戻ります。
母様も、それではまた】
ハーリィはミュムと共に一礼して姿を消した。
【マディアとエーデちゃんは送ったら、すぐに戻るよね?】
大神バステートをエーデリリィに込めようと、ラピスリに手伝ってもらって工夫を重ねているマディアに尋ねた。
【はい。
保魂域に行かないといけませんので】
【ソレあったね~。
ソッチも僕 行ける?】
【解呪する事になりますよね?
だったら姉様も一緒がいいかな?
ルロザムールとディルムでお願いします。
呪を感知したと揃って行きましょう】
【堂々と乗り込むんだね~♪】【ふむ】
頷き合った姉弟が降りようと――
【ちょっ! 僕の服!】
【【どちらでも】いいですよ?♪】
【ええ~~~じゃあ白】【はい】ぽすっ。
【ラピスリの匂い~♪】【イーリスタ様っ!】
【ただの素直な感想なのにぃ】
ラピスリはチラッと睨んで降りて行った。
【待ってよぉ~】【離れてください!】
【ラピスリが怒るぅ】【くっつくな!】
【マディアとエーデちゃんは一緒なのにぃ】
【知らぬ!】突き飛ばして急降下!
【待って~♪】
勢いよく神力射エリアを抜け、三角に並ぶ神力射も そのままの勢いで抜――
「「「待て貴様ら!!」」」
「相棒と鍛練してるだけで~す♪」敬礼♪
ラピスリが戻り、イーリスタの腕を掴んで
「これが私共の通常で御座いますのでっ」
降りて行った。
その後ろをマディアとエーデリリィが仲良く手を繋いで「「失礼致します」」と笑顔で通り抜けた。
地星の神は修行を積んで神力を高めると、その力を示す光を纏うようになります。
漏れているのではなく示しているんです。
そういう神を他神は『大神様』と呼びます。
もちろん気を消すのと同様に見えなくするのも簡単にしてしまえるのが大神様なんです。
その光が見えるというのも、神力を高めた証拠だったりします。
つまり再誕したばかりのミルチェリも、もうそこまで高め得ているんです。
職神の装束は着てから神力でアレンジできるようです。
杖なんかも神力で自由自在でしたよね。
三日月鎌だったりマジックハンドだったり。
ラピスリが龍狐なのをドラグーナが喜んでいた理由その1は親友との娘だからでしたが、その2は伝説の女神様みたいだからでした。
何をした女神様なのか? は、これから少しずつです。
ザブダクルも真四獣神も数十億年単位で過去の神です。
龍狐の女神様は今の神々にとっては伝説の存在。
すっかり忘れ去られているのでは? と思えるくらいの存在です。
つまり、真四獣神達よりもっとずっと過去の神なのでは?
その辺りも含めてユーレイ外伝 第一部の残り、第二部、第三部へと少しずつ明らかにしていきます。