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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第一部 第6章 ラピスラズリ
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ラピスラズリが助けた人神



《人神と獣神は逆だからこそ協力し合えると俺は思うんだ。

 と言っても獣神は種族によって考え方に違いがあるんだけどね。

 だから考えが多様な人神各々に、気の合う獣が きっと居ると思うんだ》


《本当に……私は何も知らないのですね……》


《これから協力していくうちに獣神の事も知ってくれればいいよ》


《協力……? これから……?》


《うん。してくれるよね?

 神世を良くしていく協力》


《こっ、こんな私なんぞに!?》


《解り合えたと思っているんだけど?

 獣神(けもの)は……やっぱり嫌いかな?》


《いいえ! いいえっ!!

 ですが私は……この悪神を封じる器となる事だけが償いの道と――》


《俺はザブダクルにも解ってもらおうと思っているよ。

 どちらも強い。

 だから神世を救えると思うんだ》


《ドラグーナ様……》


《友達だと思っていいよね? ダグラナタン。

 あ……これでやっと任務完了かな?》


《あ……試練の滝の……》


《思い浮かべるのは息子の方にしてね》


《あっ、はい!》



―・―*―・―

―◦―



「つまらん。何も無いではないか。

 何が危険だ? ただの原野ではないか」


 見渡す限り栄養に乏しい事が明らかなぽつりぽつりと低木が見えるだけの、草すらも点在しか出来ない乾いた地が広がっていた。


 話し相手になる者が居る筈もないが、呟くくらいしか退屈をしのぐ(すべ)が見出だせず、ダグラナタンは独り言ちつつ歩いていた。


「人ならば飢えと渇きで死ぬだろうが神には問題にすらならぬ。

 何が危険だと――」『止まれ!』「ん?」


不意の声に立ち止まって見回したが誰も見えなかった。


風の音でも聞き間違えたかと肩を竦めて苦笑し、再び進――『それ以上 進むな!』


 今度は明らかに背後から声が聞こえた。

怪訝も露な顔を向けると瑠璃鱗の龍が低い位置に浮かんでいた。


「目の前に禍が在るのが見えぬのか?

 此程に強大な禍が見えぬとは……街道を外れている。乗れ」


獣神(ケモノ)如きが、この私に命ずるのか!?」


「禍が見えぬだけでなく力量差も見えぬのか。

 乗るのが嫌ならば己が足で街道に引き返せ。

 街道の外は禍だらけなのだからな」


「私を誰だと――」「知らぬ」「獣神(ケモノ)めがっ!」

ダグラナタンは苛立ちを剣に込めて投げた。


その剣が宙で止まる。


「初対面なのだから知らぬのが当然ではないか?

 荒野では武器は大切だ。手離すな」


剣は切っ先を龍に向けたままダグラナタンの方へと宙を滑った。


「このっ!」

その柄を握り、龍へと地を蹴る――


「ようやく此方に動いてくれたか。

 しかし遅かったか!」


龍が何かを放つ仕草をした。


――と見えた時、浮遊感があり、少し遠くに見えていた地面が下方に遠ざかった。

「何っ!?」


 勢いのままに、龍が居た筈の宙で剣を振り下ろしたが、その姿は見えず、弧を描く地面の端近くに着地した。

下を覗き込むと広い地面は遥か下で、草地が丸く(えぐ)られているのが見えた。


「この地……が、あの穴か?」

草混じりの土が円盤状になっている上に自分は居るのだと、ようやく思えた。

その弧を描く端から下を見ているのだと。

しかも、見えはしないが何かに包まれているらしいと。


「龍……何処に消えた?」


唐突に、晴れ渡る空から(いかずち)が地に突き刺さった。


『浄破邪!!』


「龍! 何処だっ!?」


『この禍は凶悪だ!

 その空間ごと都に飛ばす!

 悪く思うな!』


「何を勝手な! ――は?

 この景色……まさか王都……の門か?」


丸い地ごと ゆっくりと降下した。


門兵達が駆け寄って来ている。


「何事で御座いますか!?」

「ダグラナタン様っ!

 御無事で御座いますか!?」


《浄結界……解還……》「おい龍!!」


《無事ならば……それで……よい》「龍!?」


獣神(ケモノ)に何かされたので御座いますか!?」


「いや……何事も無い」


「「ですがっ――」」


「負けてはおらぬからなっ!!」


「「っ! 当然で御座います!!」」


「屋敷に帰る。今日のところは、だ」


「「はっ!」」敬礼っ!



―◦―

―・―*―・―



《すまなかったね。

 あの子は優しいんだけど言葉遣いが、ね。

 気分を害して当然だよね》


《いえ……失礼極まりないのは私の方です。

 申し訳ございません》


《結局のところ、力不足で禍に触れてしまったんだから、もう気に病まないでね。

 あの子も自覚しているからね》


【禁忌なんぞ無視して使えばよいものを……】

〖人神の目の前で?〗【見えも聞こえもせぬ】

〖そうだろうけどね〗【真面目にも程がある】

〖オフォクスそっくりだよね♪〗【……むぅ】


《ですが――その後、確かに都や街道の外は禍だらけだと、私にも見えるようにはなったのですが……改心できなかったのです。

 それどころか翻弄されたと悔しがり、怨みがましく根に持ち続けていたのです》


《それで青い龍を捜して滝に?

 俺は金色なのに?》


《もう誰でもよいので腹癒せしたくて。

 獣神様は人神に手出しできませんので……四獣神様に勝ったと自慢したくて……》


《でも俺達には相手にされず、滝に行こうとすれば子供達が邪魔をする。

 だからだったんだね。納得したよ》


《そんな……納得だなんて……》


《もっと早く知って納得しておけば君に こうまでさせなくて済んだんだろうと、己の足りなさが悲しいくらいに情けないよ》


《ドラグーナ様っ、そんな……ただ私が愚かだっただけでございます!

 罪を犯した事すら解っていなかった私が愚か過ぎたのです!》


〈人神は獣神に護られておる事を知らぬ。

 獣神の毛や鱗が何たるかを知らぬ。

 最果ての向こうに在る地を忘れ去っておる〉


《最果ての、向こう……?》


《オフォクス。驚かせ過ぎだよ》


〈知らなさ過ぎるから驚くのだ。

 ドラグーナの千もの子は、人神が住む地を禍から護っておったのだ。

 それを知らず、お前は子等に何をした?

 獣神の毛や鱗や羽、角や牙や爪やらは生命そのものだ。

 皮を剥がされず、ただ封じられただけで済んだ事を有り難く思うのだな。


 最果ての向こう、神世の半分には、かつては人神の国々が在った。

 今の神世は獣神の地であった。

 住めぬ地にしておいて、分けて貰った地では満足せず獣神を端に追いやり、勝手に国を造りおったのだ。

 都合の悪い事は子孫に伝えず、忘れ去るが儘にしおったのだ〉


《その辺にしてあげようよ。

 ダグラナタンは反省しているんだから。

 それに彼だけを責めても仕方のない事も言ってるよね?》


《私が捕らえ、捕らえさせた龍……龍神様は人神を護って……私は……私は……何と愚かな事を……ああっ!! 鱗を剥いでしまったお子様は!?》


《ほぼ毎日 会っていると思うんだけど?》


《……毎日? まさか!》


《うん。戻って来たね》

〖マディア、エーデリリィ。

 神殿に来てくれるかな?〗【【はい♪】】


2神はエーデラークの姿で入って来た。


《見えるかな?》


《エーデ……》


《うん。

 マディア、ダグラナタンは鱗を剥いだ事を反省してくれたし、心配しているよ》


エーデラーク達は やわらかな笑みを湛えて頷き、封珠に手を添えた。


〈古い事です。もう忘れました。

 そんな事よりもナターダグラル様、私達の命の欠片を受けて頂けますか?〉


〈貴方の覚悟は見えておりました。

 必ずナターダグラル様を封珠からお出し致しますので、私達の仲間となって頂けますか?〉


《オフォクスが説明したと思うけど、心を強く生きる為、罷り間違っても操られない為に、欠片を受けてもらえるかな?

 君は人神である事を誇りに思っているだろうけどね》


《誇りなんぞと……最早、私には人神に価値なんぞ見出だせなくなっております。

 こんな私でも皆様のお役に立てる機が残っておりますのならば、どうかどうか獣神様の末端にお加えくださいませ》


《エーデラークの子なら俺の孫だね♪

 それじゃあ始めよう》〈〈はい♪〉〉


《ならば儂らも手伝うとしようぞ》

《だよなっ♪

 ドラグーナ、ヘロヘロだからなっ♪》

《ダグラナタンは封珠の中だしねぇ》

《睨んでおる奴も押さえ込まねばなるまい》

真四獣神が揃った。


【はいは~い♪ 歓迎会かなっ♪】

【おい、どっちもエーデラークかよ】

【父様……お話しは後程、ですか?】

イーリスタとディルムとラ(依代達)ピスリも呼ばれて来た。


〈今は、どっちもでいいんだよ♪

 ディルムも話す?〉


【おい、秘話法になってねぇぞ。

 聞こえちまうだろ】

《ディルム? ルロザムール付きの?》


【ほらぁ。バレちまったじゃねぇかよぉ】


マディアが笑いながらディルムを引っ張って来た。

〈肉球ぺったん♪〉「あのなぁ」

〈見えますか? ナターダグラル様〉


《白い……虎?》


〈はい♪ 虎なんです♪

 ディルムも込める?〉


〈ヤダよ! 俺は魔法円の外だからなっ。

 他に虎なんて何処に居るんだよ?〉

てってっ――と西方位に。


《言葉遣いが……》


〈僕達も そうですけど、かな~り作ってますから♪〉







人神が見ていた為に禁忌とされている術が使えず、破邪のみで戦ったラピスラズリは禍に触れてしまったのでした。



この記憶が開いたラピスリは、現状の災厄の種を蒔いてしまったのは己だと重く捉えていましたが、ダグラナタンがマディアとエーデリリィの命の欠片を受けて龍の子となった事で少しは気持ちが軽くなったのではないでしょうか。



改心したダグラナタンはいいとして、新たな問題はザブダクルです。

次章はザブダクルが生きていた古の神世にも絡むお話になります。



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