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翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団外伝  作者: みや凜
第一部 第1章 ショウと力丸
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バステート



 また春が訪れた。


 すっかり輝竜家に馴染んだ力丸が、夕食後、気候の心地よさも相まって紅火作の寝床でうとうととしていると――


「お♪ 狐儀、久しぶりだなっ♪」


――の声にビクッとして逃げようとしたが、白久に捕まってしまった。


「世話になってる師匠から逃げるたぁ許せんな。

 お前、狐儀が見つけてくれなかったら谷底で死んでたんだぞ」

それでも頭をぽふぽふしている手は優しい。


「暖かくなりましたし、すっかり元気にもなった様子ですので、そろそろ山に戻させて頂きたく存じます」


「そっかぁ。ま、仕方ねぇよな。

 力丸、もう大怪我すんじゃねぇぞ」ぽふぽふ。


 あ……『子分』じゃなくなった……

 ソレって……ううん。違うよねっ!


「不安で悲しいってアリアリな顔すんなって。

 シッカリ修行して許しを得てから、また来りゃあいい。な?」


狐儀が頷く。


「兄貴達っ姉ちゃん達っ! 早く早く!

 狐儀が力丸お迎えに来てるんだからっ!」


 彩桜が兄達を連れて来た。

皆で力丸を囲み、次々と抱いて撫で、口々に励まし、必ずまた来いと言う。


「泣くな力丸。親分の命令だ。

 修行して狐から卒業したらまた来い。

 もうお前はウチの家族なんだからなっ♪」


力丸は涙ポロポロで何度も何度も頷いた。



 それからも暫く別れを惜しみ、最後に彩桜がギュッとしてから狐儀に差し出した。


「何年でも待ってるからね。

 力丸、行ってらっしゃい」


 彩桜ぁ、兄貴達ぃ、姉ちゃん達ぃ……

 俺……俺っ――


「力丸のお家は、ここに決まってるでしょ。

 だから『行ってらっしゃい』だよ♪

 頑張って早く帰ってきてねっ♪」

ぽんぽんなでなで♪


 うん! うんっ!!

 俺、頑張るからっ!!


「それでは、ありがとうございました。

 お預かりさせて頂きます」


 え? 師匠?

 師匠も預かるって言った?


後ろ首を咥えられている力丸は、少々無理矢理に振り返って狐儀の表情を確かめた。


 いつもと同じだよな?

 でも、預かるって言ったよな?


 あれ? 静かだ……?


「では、修行を再開しますよ」


 山、、に、戻ってる!?


「落ち着いていませんね。

 では、少し話しましょう。

 ダイナストラはドラグーナという龍神を知っていますか?」


 俺を神として呼んだ?


「神としての話です。

 如何です? 知っていますか?」


 父様を禁忌で殺そうとした極悪神、です。


「今も、そう信じているのですか?

 ティングレイスの言葉を、信じるに値するものと思っているのですか?」


 それって……?

 でも……俺も疑ってる……?


「輝竜兄弟が如何な御方であるのか、ダイナストラには見えましたか?」


 えっ……? みんな堕神なの?


「そうです。

 彼等こそが七つに分けられたドラグーナ様なのです」


 えっ……じゃあホントは何があった!?

 じゃなくてっ! あったのですか!?


「ドラグーナ様は優しき大神様。

 その本質は今もお変わりありません。

 その優しさは、力丸として半年共に暮らしたダイナストラが最もよく知っているでしょう?」


 はい!


「ドラグーナ様はティングレイスを助ける為、已む無く禁忌を使ったのです。

 その他に助ける(すべ)の無い罠に嵌められてしまったのです。

 ティングレイス自身に依って。


 ティングレイスはドラグーナ様が助けると確信して仕掛けたのです。

 身代わりとなりそうな近衛神達を先に堕神とし、ドラグーナ様ご自身が禁忌を使わざるを得なくしたのです。


 勿論ティングレイスは逃げ道を用意しておりました。

 ドラグーナ様が禁忌を使わなければ助けなかったと責められるように。


 それでも尚ドラグーナ様は、友の命には代えられないよ、と笑って堕神となられたのです。

 全てをお伝えしましたのに……」


 そ、んな……

 でも……やっぱり、って気もする……

 じゃあ極悪神は父様なんだ……。


 うん。神の王子じゃなく、

 ただの狐な俺を元気にしてくれた

 大好きな彩桜と兄貴達が

 極悪神だなんて考えられない!


 え? それじゃあ他の堕神も……?

 父様が嵌めたんですか!?


「その通りです。

 私の友、アーマルとウンディはドラグーナ様の近衛をしており、『龍神様の盾と剣』と称されておりました。

 今は堕神としてショウを保護しています。

 ショウも人の世で学んでいるのです」


 アーマル、ウンディ……

 大悪神って習った!


 じゃあ堕神って……

 ホントは正しくて清い神様なんですね!?


「はい。あの女神様も堕神。

 その意味が解りましたね?」


 はいっ!!

 正しい神の道を守る為、

 ドラグーナ様をお護りする為に

 堕神となられたんですよね!?


 じゃあ……姉ちゃん達って、みんな……?


「そうです。

 彼女等は使徒女神様方です。

 使徒神長のランマーヤ様だけは、その任の重さ故に神としての御記憶を封じられ、今は人の子としてご成長なさっておられます。


 神力は封じられておりませんでしたが、それもまた罠。

 神としての自覚無きままに禁忌に触れさせ、大罪を着せようとしていたのです。

 ですので御身(おんみ)をお護りする為、父であるアーマルが封じました。

 彼女にもアーマルとウンディが付いておりますので、いずれ御記憶を取り戻され、神力を開き、彩桜様をお護りする事でしょう」


 でも……

 大悪神って記憶抜かれてるんじゃ……?


「それでも切り離しきれない断片的な記憶が残っているのですよ。

 ドラグーナ様にも、その御記憶を取り戻して頂きたいのです」


 そっか。うん! 俺も修行頑張ります!

 ドラグーナ様の家族に入れてもらえたから

 ちゃんと正しい神の仲間に入りたいです!

 修行させてください! お師匠様っ!


「そうですか。では始めましょう」


 はいっ! あ……――


「まだ何かありますか?」


 ドラグーナ様が、ひとりに戻ったら

 姉ちゃん達は?


「使徒神に戻るだけですよ。

 牡丹様だけは元々奥様ですけどね」


 あんな幸せそうなのに……

 なんか納得いかないんですけど?


「ですが……それはドラグーナ様がお決めになられる事ですよ」


 う~ん……み~んな奥様に、とか?


「ドラグーナ様ならば、そうなさるかも知れませんね」


 ふぅん……俺、家族だから

 意見言ってもいいよな?

 だから早く戻らなきゃ!

 修行、お願い致します!


カチャッ。


 え? あ!♪


「おやつは後ですよ」

大木の(うろ)の前に置かれた皿を片付けに行った。


 黒瑯兄のクッキーだ♪

 この匂い。彩桜が置いてったんだな♪

 よ~し! 俺ガンバル!♪


「バステート! 貴女も修行なさい!

 クッキーを返しなさいっ!」


 へ? ・・・誰っ!?


黒猫が遠くを全力で駆けていたが、白いものが現れ交差したのは一瞬で、力丸の前に姿を見せた狐儀に首根っこを咥えられてプラ~ンとなって戻った。


 誰!? あ、でも見覚えある?

 ……女神様か助けた猫!


狐儀は黒猫を浮かせ、クッキーを回収した。

「クッキーは修行の後です。

 そもそも力丸が貰ったものです。

 貴女もそろそろ神としての自覚をお持ちなさい」


 猫が神!?


「力丸は狐ではありませんか」


 お師匠様がしたんでしょっ!


「そうですけどね。

 姿は神力次第なのですよ?

 彼女は不適と処され猫にされたのです。

 何もかもを強く封じられたが為に、己を猫と信じてしまっているのです」


 実は凄い女神様なの?

 その封印、解けないのですか?


「鍵を握っているのはティングレイスのみ。

 外からは開けられず、一縷の望みは封じられている者自身が開きたいと願う心のみなのです。


 これはドラグーナ様も同じ。

 名をお呼びすれば神であると気付き、開こうとなさる可能性は高いのですが……。

 失敗すれば完全に閉ざされてしまうようにティングレイスが仕込んでいるのです」


 バステート様は閉ざされてしまったの?


「いいえ。野良猫から脱してくださればよいのですが……御名だけは受け入れてくださいましたが、そこから全く進まないのです」


 狐には? できないのですか?

 俺の仲間には、、できませんか?


「そうですね……良い考えかも知れません。

 猫の呪縛から解かれさえすれば――」


合点したと頷いた狐儀がバステートと視線を合わせると、黒猫は宙に浮き、ストッと下りた時には黒狐に変わっていた。


 俺と同じくらいだ♪

 一緒に修行しないか?


身体だけでなく内側でも何やら変化があったらしく、ペタンと座ったまま瞬きを繰り返していたバステートは、狐儀をジッと見、力丸をジッと見て、ひとつ頷いた。


〈修行させてください!

 私も神に戻らねばなりません!〉


「力丸、大手柄ですよ。

 では今度こそ始めましょう」







秋に大怪我をした力丸は春に山に戻りました。


力丸が助かった直後に交通事故に遭ったと運ばれてきた黒猫はバステートという名の女神でした。


エジプト神話のバステトではありません。

似て非なるバステートです。



神の王ティングレイスには三千もの王子がいます。

その末の二神がダイナストラとショウフルルなんです。



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