プロローグ
カケルと奏の結婚式が始まった。
もうすっかり慣れてしまったミュムが現れてにこにこと見守る中、進んでゆく式を眺めながら、サイオンジは以前、霊酒を酌み交わしながらキンギョと共に聞いた狐儀の話を思い出していた。
―・―・―*―・―*―・―・―
〈それで、お仲間様とは如何程いらっしゃるのですか?〉
ひと区切りついたところでキンギョが尋ねた。
〈全ての神の一割程で御座いましょうか。
龍神様の御子様方が中心とお成りで御座いまして、確かに増えつつあるので御座います。
対して敵方は四割程。
残りは何も知らず敵方に従っておるので御座います〉
〈龍神様の御子神様は多いのですか?〉
〈はい。
大いなる強き神ほど多くの御子を成す事が叶うので御座います。
明確な身体を持たぬ神は、人とは子の成し方が異なります故〉
〈つまり雌雄を要しない、と?〉
〈はい。
核と成ります魂に己が力を分け、込める事に依って生み出すので御座います。
ですので雌雄の姿は己で決めておるので御座います。
まぁ、人と対峙するが為の姿、とも申せましょう。
夫婦と成る神も居ります。
力を共有する為、強き絆を結ぶので御座います。
その場合、一神のみで子を成す事も、二神で力を込める事も御座います。
龍神様の御子は千柱程。
我が友、飛翔と利幸も然うで御座います。
彼等は龍神様の御子の中でも抜きん出て優れており、其故に目を付けられ、堕とされましたので御座います〉
〈では、友ではなく兄弟、と?〉
〈同時期に生まれた兄弟であり親友なので御座います。
人の兄弟とは心情的にも異なります故〉
〈もしや、親神様を同じくする神様同士での結婚も?〉
〈はい。普通に御座います。
兄弟であり親友であった者が力を求め、絆を結ぶ為に結婚する事も御座います〉
〈それが……普通……〉
〈はい。
そろそろ勤行殿も御子の幸せを考えなさっては如何です?〉
〈剛司を娘だと受け入れよ、と?〉
〈はい。丈二殿とお似合いと存じますよ〉
〈ふむ……親友と結婚、か……〉
〈半分程は受け入れたのでしょう?
あと半分。よくよくお考えくださいませ。
サイ様は何か御座いませぬか?〉
〈そうさなぁ……カケルを逃がしてくれた死神様は夫婦なんだろ?〉
〈はい。
夫エィムは龍神様の末代の御子のひとり。
妻チャムは主様の御子で御座います。
エィムも優れておりますが、神とは申せ十全十美な者はそうそう生まれませぬ。
補う為、主様がチャムを成され、我が弟リグーリに託したので御座います。
リグーリは敵神を欺く為、老神に姿を変え、エィムとチャムの指導神と成ったので御座います〉
〈姿を変えたくらいで敵神を欺けるのかぁ?〉
〈目立たぬよう中位に留まり、益も損も成さぬ劣神の振りをして御座います故、己が欲望に目が眩んでいる敵神には見えておらぬようで御座います。
エィムと、その弟であり親友であるミュムも又然り。
虎視眈々と密かに力を蓄えておるので御座います。
生みの父、育ての父達共々、神に御戻り頂く為に〉
〈育ての父? そうか。飛翔達だぁなぁ?〉
〈はい〉
〈そうかぁ。そんじゃあオイラ達ユーレイも神様の欠片持ちやら、元は神様やらだから協力せにゃあなぁ。
キンギョ、考え込むほどの事かよぉ?
仲がええんだから結婚させりゃあええ。
それだけだぁよ♪
モグラの仇討ちなんてチッポケな事だけじゃあなく、ユーレイ皆の安泰やら何やらかんやら引っ括めて、デッカイ神様とイッチョ戦ってやろうじゃねぇかよぉ♪〉
〈御師匠様……〉チッポケ、と――
〈オイラにとっちゃあ、親友で相棒も、弟子で相棒も、己が命より大切な事に変わりはねぇよ。
だ~が、そりゃあ個人的な事だぁ。
その感情に囚われちゃあ、今度はオイラが怨霊になっちまう。
下を見ようともしねぇ輩が上に鎮座してちゃあ世も末だぁよ。
ま、今はその視野の狭さを利用するだけだがなぁ。
一歩一歩着実に力蓄えて大改革だぁよ。
キンギョ、一緒に一発かましてやろうじゃねぇかよぉ♪〉
〈はい! 御師匠様!〉
―・―・―*―・―*―・―・―
〈御師匠様、ミュム様がお泣きに……〉
耽っている間に利幸と寿の式になっており、笑顔のミュムの頬に煌めきが伝っていた。
〈さっきエィム様も泣いとったよぉ。
今度は龍神様を皆連れて来にゃあなぁ〉
〈これも一歩前進、なのですね?〉
〈その通りだぁ。全て一歩一歩だぁよ♪〉
サイオンジはキンギョに微笑み、二人の間で安堵しきって眠っている犬の背を撫で、今は夫婦となっている親友だった弟子達にも微笑みを向けた。
―◦―
二組の結婚式が終わり、教会から出――
〈ショウ! ショウだよなっ!♪〉
ワンワンワンワン!♪!
ソックリ犬3匹目が勢いよく駆けて来て跳び、ショウを組み敷いて一緒に転がった。
〈誰っ!? 嬉しそうだけど誰っ!?〉
〈俺だよ♪ ダイン♪
お前、ショウなんだろ?〉
〈ダイン? 僕はショウだけど……〉
〈俺は言葉だったが、ショウは記憶なのか?
兄を忘れるなんてナイだろ〉
〈う~ん……もしかして、捨てられた時に生き別れた、とか?〉
〈捨てられてないからっ!
あ……でも捨てられた、で合ってるのか?〉
〈僕、箱に入れられてたんだって~〉
〈そうなのかっ!? 俺は違うからなっ!
やっぱ捨てられてないからなっ!〉
〈ふぅん……〉
〈ショウ兄ちゃん、だぁれ?〉
〈お前こそ誰だよっ!?
ショウは末っ子なんだからなっ!
あ……父様、また子を生んだのかっ!?〉
〈生むのって母ちゃんでしょ〉
〈お前……ただの犬か?〉
〈うんっ♪〉尻尾ふりふり♪
〈俺は神の王ティングレイスの子、ダイナストラだっ!〉
〈あ……〉〈ショウ兄ちゃん ど~したの?〉
〈ショウ! よ~く聞け!
お前は俺の弟! ショウフルルだよっ!〉
〈…………あ♪ なんかパッカ~ン♪
そっか。僕、犬じゃなかったんだね~。
ダイン兄様、なんだよね?
でもどーして兄様まで犬?〉
〈ショウが犬だからだよ〉フンッ。
〈僕のせい? ナンで?〉
〈ショウが居なくなったから捜してたんだけどな、白い狐が浮かんでるの見つけて、怪しいから追ってたらデッカイ狐の背中にボスッ! って激突だよ。
んで、ただの狐にされて、話すのもダメにされてたんだよ。
でもな、いろいろ教えてもらえて、神としての修行もさせてもらったんだ。
で、やっとこ自力で狐から脱したんだ。
ショウが街で暮らしてるって聞いてたからな、てっきり人してるんだと思ってショウと同じになりたい! って脱したら、こうだよ。
ナンでショウこそ犬なんだよぉ〉
〈わっかんな~い。
でも兄様も犬だから犬でいい♪
モグも一緒だし♪〉
〈で、コイツ何だよ?〉
〈モグはサイオンジの友達♪ 僕の弟♪〉
〈ダイ兄ちゃん♪ ショウ兄ちゃん♪ みんな呼んでるよ♪〉
〈みんな?〉〈あ♪ 目で呼んでるね~♪〉
〈行こっ♪〉
〈仲間……なのか?〉〈〈うんっ♪〉〉
〈仲間……いいな……〉
〈兄様も教えてくれたヒト居たんでしょ?
仲間じゃなかったの?〉
〈仲間ってより、師匠?〉
〈師匠でも何でもいいでしょ♪
王子してた頃よりずっと幸せ♪
あ、さっき兄様も捨てられたって言った?
僕を捜しに来てくれたのに、どーして?〉
〈捜しに来たんだけどな、捨てられてたって聞いて、そーいや誰も捜しに来てくれなかったよな、って気づいたんだ。
王子が行方不明だってのに……5年も、誰も……な〉
〈あのみんなだったら、すぐに捜して助けてくれるよ♪
今だって見守って待ってくれてるもん♪
兄様も もうみんなの仲間なんだよ♪
ね、僕達のお家でゆっくり話そ♪〉
〈父様と、、戦う仲間なんだな?〉
〈そ~なっちゃうね~。ダメ?〉
〈いや……俺も戦うつもりなんだ。
とっくに気持ちは王子ヤメだったんだよ。
だから――〉タタタッ!
走ったダインをショウとモグが追う。
〈俺も仲間に入れてください!!
一緒に神の王と戦わせてください!!〉
皆を見回した後、サッと伏せた。
〈もう仲間だぁよ〉〈そうよね~♪〉
〈さっき狐儀殿から全て聞いたよぉ。
さ、オイラ達の公園に戻ろうなぁよ♪〉
口々に嬉しそうな声が上がり、ユーレイ達は霊道に向かった。
〈力丸、俺達も家に帰ろ♪〉〈彩桜!?♪〉
〈やっと見えたの?〉〈うん! うんっ♪〉
〈お帰り♪〉〈うんっ♪〉ふりふりふり♪
〈ショウはコッチ残ったんだね♪〉
〈兄弟一緒がイチバンでしょ♪〉
〈だよねっ♪ じゃ、車に乗ってね♪〉
身体のある者達と犬達が乗った車を連れて彩桜は瞬移した。
〈ふぅん。面白い仲間が増えたね〉
〈いいんじゃない♪ 楽しみね♪〉
〈確かにね〉
屋根の上のエィムとチャムは笑顔で教会に入った。
『翔³(ショウソラカケル)ユーレイ探偵団』本編最終話の直後のお話でした。
外伝は、プロローグから約5年前の秋から始まります。
神で王子なダインとショウが狐と犬として、堕神とその欠片持ちだらけの人世で暮らしていた5年弱のお話とも言えます。