〜娘はシャーロックホームズ?〜
読書が趣味のジュンイチ。好きな本は探偵の推理もの。
目を覚ますと、別人になっていた。
もしかして、俺…ジョン・ワトソン…?
==========
今日は随分と寒い日だ。
新年だから、美味しいものでも買って帰ろう。
妻には十年も前に離婚され、娘は昨年結婚して、家を出た。昨日ふらっと現れたが、少し話すと台風のように去っていった。元気そうで何よりだ。
1人ぼっちの家はがらんとしていて、昔よりも寒い気がする。この家もだいぶ古い、その体感は間違ってはいないのだろう。
体が冷え切ってしまったから、飯を食べる前に一度布団で眠ろうか。
厚い布団の中で、お気に入りの作家の最新作を開く。ゆっくりとページをめくっていく。
ああ…あたたかいなあ。
パタンと呼んでいた本を閉じて、微睡に身を任せた。
--------------
目を覚ますと、知らない場所だった。
ぼんやりとした視界のピントが合っていくと同時に、ガタガタと乗り物が動くような音が耳に流れ込んでくる。
ここは、妙に狭くて揺れる……
脳みそをフル回転させ、周りを見渡すと、窓から見える御者の姿。流れる知らない風景。
もしかして、俺は今、馬車に乗っているのか?
いや、俺は自宅のマンションで眠りについたはずで…?
ゆ、誘拐?いや、なんのために?
はたと気づく、メガネをかけていない。のに見えている。
確かめるために顔に手をやると、服の袖が見えた。
なんだこの服は?
スーツ…?正装なんて、リモートワークになってからここ二、三年は着ていないはずだ。
「おい、ワトソン大丈夫か?」
声をかけられてハッとする。
俺か?俺に声をかけたのか…?
声の方に顔を向け、ギョッとした。
相手の心配そうな顔が、見慣れた日本人の作りでなく、
まるっきり外国人のそれだったからだ。
「大丈夫か?やはり、戦争の影響が」
ア、アイキャントスピークイングリッシュ、と言いかけて止まる。相手の言葉が、理解ができたからだ。何より、こちらのことを心底心配してる顔だ。誘拐犯には見えない。
「あ、ああ、ええと…?」
「だから、同居人を探すなら紹介するよ。名前は、シャーロックホームズ」
まあ、期待はしないでほしいがね、と彼は続けた。