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今、生きているあなたへ  作者: ひびき
雷鳴の如く
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94/94

第89話 <選択>勇者という名の

/639年11月6日/

AM7:00 4日目


 とんとした拍子に特に理由もなく意識が夢から覚めてきたタイト。


タ(まだ...もう少し...寝れる...。)


 体感的にまだ朝早いと感じたタイトは至福の二度寝を決め込もうと再び意識を落とそうした。


タ「・・・くさい、」


 しかし、鼻から空気を吸い込んだことにより、アルコールやら肉やら魚等が混ざったような刺激的な匂いに当てられて強制的に意識を覚醒させられることとなった。


 これ以上寝られないと悟ったタイトは静かにまぶたを開けると、目の前に未だ気持ちよさそうに静かな寝息を立てているレイの姿が見えた。


タ(・・・相変わらず距離近いな...。

そのうち勘違いしちゃうやつ出てくるだろこれ)


 レイを起こさないように慎重に布団から脱出したタイトは、おもむろに上体を起こして周囲の惨状を視界に入れた。


 倒れた空のコップやまだ途中まで入ったままのコップ、並べられた酒瓶に開けたまま放置しているおつまみ。そこら中になんの規則もなく好きなように寝ている人間共。もう何が書かれているのか、半分も理解のできない画伯たちの絵。

 酒は飲んでいても寝る時には布団を被る程度の知能は持ち合わせていたようだ。ただリューソーの布団は近くに寝ていたシキに横取りされているようだった。シキの布団がモコモコで暖かそう。


タ「昨日、誰も寝袋使ってない。」

タ「てかシキって、もしかして寝相悪い?」


 そんなことを重いながらタイトは、布団を羅生門されて震えるリューソーに、まだ余っていた布団を収納魔法から取り出して上から掛けてやった。すると、リューソーの顔がたちまち満面に咲く笑顔へと変貌した。


 それを見たタイトは優しく微笑みながらリューソーを起こさないようにそっと、かけた布団を取り除き、出入口へと忍び足で向かった。

 途中で食べ残しのあたりめを一口食べるタイト。


タ「うまいな、くさいけど」


 口にあため目を含んだままタイトは、外の状況を確認しようと出入り扉を押し上げる。


・・・動かない。


 どれだけ踏ん張ろうとも扉は誤差程度に動くだけで開く気配が微塵もない。


タ(雪が積もって、その重みか。)


 昨日の昼間から降り始めた雪。夜中でどの程度降ったのかは知らないが、タイトの様子から見てずいぶん積もっていそうだ。

 タイトは埒が明かないと思ったのか、急に右手に火魔法を作り出したところで、


コ「あーダメダメ。火魔法で溶かしたら大変なことになるよ。」

タ「んえ?」


 タイトが出入り口に押し当てる直前にコクウが起きて間一髪、タイトを止めた。


コ「それの対処法は、扉に直径10センチないくらいかな?そんくらいの穴開けるの。

で、そのあとにその穴から外めがけて風魔法でドカン。で解決するはず」

タ「や、やってみる」


 タイトはコクウの言うとおりに土魔法でできている出入り扉に円形の穴をこじ開け、その穴をふさぐように右手を配置し、風魔法をそこそこの威力で放った。


ドッ、


タ「これで・・・いいのかな?」


 タイトが確認のため、コクウのほうを振り返るもすでにコクウは横になって夢の世界へと冒険に出かけていた。

 仕方なしと、タイト恐る恐る出入り扉を押す。すると、扉は先ほどとは違い、何の抵抗もなく開いた。


タ「これが経験の差か、」


 コクウに対して感心しているタイトの心は慢心でいっぱいなようで、今しがた真上に放った雪の塊の行方なぞ気になることはなく、


バムッ、


 タイトは外の世界を認識することなく、雪の塊を頭からかぶったのだった。手で押し上げられないほどの雪の重み、それが自由落下してきたので。当然タイトが無傷なわけもなく、ほかのものと同じようにその場で横になった。違うのはかぶっているのは毛布ではなく冷たい雪の塊というところ。ドンマイ。


 ちなみにタイトはまだ眠りの浅く音に気付いたコクウに救われた。


AM8:00


ア「この程度の雪なら、、、行けなくもないな。」


 雪一つ一つは大きく、視界一面を占めるほどであるが風がないため、静かに柔らかく降り注ぐ程度の大雪。恐らく一晩中降っていたのだろう、昨日は1ミリも積もっていなかった雪が場所によっては20cm近く積もっている。


リ「雪だあぁぁぁ!!!」

パ「かまくら作ろうぜぇ!」

ア「行動開始するんだが?」

ツ「まあ、朝ご飯もまだだしそれ食べてからでもいいんじゃない?」

レ「雪...かき氷...」

タ「食べないでね?」


 少し遅れて≪軌跡≫の連中が起きてきた。出入り扉が開かず、火魔法で雪を溶かしてしまったため仮拠点の中と置いていたものやら、タイトたちが貸した毛布までもが水浸しになったらしい。


タ「コクウに止められてなかったら、俺たちもこうなっていたのか。」


 毛布は乾かすからと、コクウが受け取り?奪い取り?乾燥やら熱消毒やらなんかいろいろやって収納魔法へと放り投げていた。


リ「リューソー選手、第一球を、投げました!」

パ「ああっと!デッドボール!!リューソー選手死刑!!!」

リ「どこの審判してんだその球審!〇井球審でもギリしないぞ!」

パ「アーイ!!!」

シ「ほらー!朝ごはんできたよー!」

ル「母親かな?」

シ「  」


AM9:00

 行動できるときに移動するとして、簡易的に朝食を済ませて仮拠点を片したタイトたち。


ア「魔力量に余裕がある人が交代で先頭に立って行きを溶かしながら慎重に進もう」

シ「僕、結構自信あるから最初やるよ」


 アカツメの提案で最初はシキが先頭となって歩き始めた。また、シキが先頭へ移動したことにより、タイトが最後尾でリューソーの横へ、パルスがホーツキの隣へと移った。


リ「タイト転けるなよ~」

タ「善処する」

リ「いや気張ってたら何とかなるもんだろ!」

リ「なに改善余地のない事象みたいな感覚で言ってんだ」

タ「・・・・・・リューソーは面白いね」

リ「オマエ、ゼッタイ、タスケナイ」


 じゃれあいながら最後尾を歩く2人。ふと、タイトがなにかを思い出した。


タ「そうそう!そんなしょーもないことより、シキに言われた匂いやら魔力残滓やら消してかないと。」

リ「テメェ、」

タ「最後尾にリューソーいるし匂いは重点的にやらないと!」

リ「首に雪詰めるぞこの野郎」

タ「冗談だ」


 両手に雪玉を武装したリューソーを前にすぐに降参したタイト。ちなみに雪は投げつけられた。


パ「雪溶かして見ると、やっぱ結構積もってんな」

ル「なー。昨日寝る前も結構降ってたし、朝からこれだしなー。」

ツ「まだ風が出てないだけましだけどねー」

デ「早く帰りたい」

コ「今帰ってますよー」


シ「道は右で合ってる?」

ラ「んにゃ、ここは左だ。・・・だよな?!」

ツ「左で合ってるよー!」


12:00


 休息兼昼食のためその場に留まったタイトたち。


リ「今日は魔獣とかに襲われなくて順調だな!」

ア「この寒さだからな。活動できる動物は限られるだろう。

・・・で、何作ってんだ?」


 軽快に話しながら腰程度の高さまで育てた雪玉を転がすリューソー。


リ「俺たちがここを通ったという、証!」

ア「その証、時間経過で消えるくね?てか、そういうのは普通頂上付近でやるものでは?」

リ「まあ、作りたかったからな」

ラ「それが本音だろ」

パ「リューソーお前、ガキみてぇだぞ」


 そういうパルスは、既に2段積み上げられた雪玉に木の枝や木の葉、さらには自身の手袋やマフラーの装飾を施した雪だるまを完成させていた。


リ「誰が言ってんだ」



タ「食べ比べの時間だよー」


 昼食を担当しているシキから接近をやんわり断られたコクウの元へ、まるで今にも踊り出しそうな様子のタイトが近づいてきた。


コ「食べ比べ、?」

タ「こっちが、普通のミカン!そしてこっちが、冷凍ミカン!」

コ「え?今雪の中から取り出した?皮剥いたやつを?」


 なぜだか異様に気分の上がっているタイトに追いつかない様子のコクウ。両手に皮を剥いた状態のミカンを持ちながら小刻みに体を揺らすタイト。何がしたいのかわからないままコクウを見つめる。


タ「...」ピタ、


 が、何の予告もなく急に立ち止まったタイト。


コ「こわいこわいこわこわい」


 さすがに恐怖が勝ってきたコクウ。タイトはそんなコクウのことは見えていないかのように両手のミカンを見比べていた。


タ「・・・さすがに両方を一気に一口は無理だろ。」

コ「ほんとに何しようとしてたの!?」

タ「食べ比べ」

コ「比べれないでしょ!?」

タ「レイー、1個上げるー」

レ「嬉しい、いただきます」


 タイトは普通のミカンをレイに手渡し、2人は仲良くミカンを食べ始めた。


コ「何だったんだ今の...」


シ「昼ご飯だよー」

ル「母さん、、、」


 おふざけも程々にして、昼食を食べて再度出発。と行きたいところだったが、微妙に吹雪いてきてしまい、行動するのは危険と判断。かまくら式の仮拠点を生成し一時待機する羽目になった。


シ「僕は魔力回復のために仮眠するね。何かあったら叩き起こしていいからね。」

リ「ばっちり了解だぜ」


ア「あまり余裕がないのに...。すぐに止むといいが」


 そんなアカツメの願いも虚しく、行動を再開できたのは待機開始から約2時間後のことだった。


PM14:30


ア「ツバキ、少し危険だが先頭に立って道案内を頼む。1秒たりとも無駄にしたくない。」

ツ「分かった!」

ア「雪は俺が溶かす」


 吹雪は止んだ、、、とは言い切れないほどの降雪。辛うじて10数メートルが見えている程度だが、まだ3分の1も下山できておらず、麓で合流予定の5日目に間に合うか怪しくなってきたため列順を少し変更して無理くり出発。シ「ただいま」リ「おかえりんご」


 やや駆け足で下って行った一行だが、山の天気とは気まぐれなもので時間とともにすぐさま様相を変える。しかも、それは悪い方向が多い。

 結局、再出発してから30分程度で再度停滞を余儀なくされた。


コ「ちょっと厳しいなぁ、、、」

パ「コクウの神技であの雲ごと吹き飛ばせない?」

コ「うーん...さすがに無理かなぁ。」


 パルスの問いかけに首をゆっくりと下に落としながら、気まずそうな表情で否定するコクウ。


コ「自然って想像してるよりも、もの凄ーく強大で不変的なものだからさ、それを変えるとなるとそれに匹敵する力が必要になる。しかも、一時的に凌いだところで自然はすぐに元のカタチに戻ろうとするから、力をずっと維持しなくちゃいけない。」

パ「ほ、、ほう?」

コ「パルスに『そこの木の下を通りたいから、私たちが通る間は持ち上げてて』って言ってるようなものだよ」

パ「なるほど!それは無理だな!」


 ちなみにコクウが指さした木は、根を地面に張って自生している現役の木だ。


PM16:00

 引き続き待機していたが、一向に吹雪は止まず、ついには日も暮れてしまった。


ア「今日はここで野宿だ。念のため、仮拠点の出入り扉の真上に長めの棒を作っていてくれ。何かあればそれを頼りに扉をたたく。」

ル「りょー」

シ「わかった」


 それぞれが仮拠点づくりに入ろうとしたところで、アカツメが腕を組みながら小さくため息を吐くのが見えたタイト。


ア「さすがに5日目には間に合わないだろう。」

タ「そうだよな。でも、予備食多めに持ってきていて正解だった、!」

ア「・・・」


 進捗が芳しくないため焦っているのか、アカツメの口調がいつもよりもとげがあるように聞こえた。タイトの言葉にも、少し振り向くだけですぐに他のほうへと視線をずらしていた。


シ「今日はちゃんと毛布かけて寝ないとねリューソー、」

リ「そうだな、それはな、、、そうだな」

ル「あのぉー」


 仮拠点生成中のタイト達に作り笑いを浮かべながら近寄ってくるルナピス達。大方用件は見当がつく。


ル「今晩も毛布を貸していただけないでしょうか?」

シ「・・・。」


 シキが無言で昨晩貸した毛布を取り出してルナピスたちに渡した。ルナピスは感謝の言葉を一応言っていたが、後ろにいたホーツキは軽く会釈しただけ、デルフィニーに至っては目すら合わなかった。


 吹雪の中、食事を作るのは無理なため、十分に換気をしながら排気口用の穴付近で料理を作り、食べ始めたタイト達。今晩はこのまま就寝予定のため、それぞれの部隊で分かれての食事となった。明日の朝、動けるなら早朝から行動したいらしい。


パ「なかなか思い通りには進まないものですなぁ」

レ「そうだね、」

コ「まあでも、旅とか冒険とかこんなもんでしょ」

シ「そうそう。『予測不能な事態こそ任務の醍醐味』?だっけな」

((呼ばれた気がした))

リ「馬鹿にしてるだけだぞ」


タ「アカツメ、焦ってるのか、最後俺の言葉にこっち見たものの、何も言わずにそっぽむいたからなー」

シ「あれ?そうなの?」

タ「違った?」

シ「焦ってはいるだろうけど、タイトを無視するほど追い込まれている感じはしなかったけどな、」

シ「タイトが無視されたのは初耳でどんな様子化はわからないけど、少なくともまだ想定の範囲内的な様子だったと思うよ?」


コ「1日目の御者と打ち合わせの内容的に、何日か遅れてもやり過ごせる程度の備蓄はありそうな言い方だったよ?」

タ「あれ?じゃあ俺の考えすぎだったのか?」


 タイト的にはあからさまに異様な態度に見えたが、周りの言葉もあり、勘違いということに落ち着けたタイト。


リ「でさー、俺が雪に半分以上体が埋まった時の仲間の一言目が、[火をつけたロウソクみたい]だったんだよ!」

パ「だはははは!」

シ「ふふ、、!」


 夕食も食べ終えてちょっとした雑談の時間へと入ったタイト達。最初は現状の確認をしていたはずだが、気づいたらただの雑談になっていた。恐らく何かのすたんど的な攻撃かなんかだろう。3個までしか覚えられないやつ。知らんけど。


リ「そん時は白い服着てたから余計そう見えたんだろな。燃やしてやろうかと思ったよ」

タ「リューソーって、そう言う面白話無限に出てくるよね?なんかそういう何か持ってるよ」

リ「やっぱ?俺もそう思う」

レ「最初らへんの任務の時も、埋まってた」

コ「穴があったら入りたいリューソーの話はそこまでにして、」

リ「話の落としどころおかしいだろ?!」

コ「明日は早いかもだから、そろそろ寝るとしよう」


 寝袋を全員分取り出しながら就寝準備を始めるコクウ。コクウの言葉にみんな素直に準備を開始。途中リューソーが壁を2つ作って、その間で寝たいと言い出したが、安全面の考慮で却下された。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

/639年11月7日/

AM4:00 5日目


タ「・・・苦しい」


 タイトは息の詰まるような感覚が襲ってきて、生命の危機を感じたのか目を覚ました。原因を探るべく、目を開くとまたもやそこにはレイ。ではなく、ガチガチと音を立てて激しく震えるリューソーが目のまえに見えた。そして力いっぱいにタイトに抱き着いていた。なぜか寝袋と寝袋の中の毛布がない。

 反対を見るとシキは気持ちよさそうに寝ている。


タ(寝ぼけてんのかな...?シキの寝袋が二重に見える...。それに、リューソーも寝相、悪いのか・・・)


 あまりに苦しいので二度寝を決めるべく、リューソーを押し返そうと手を伸ばしたタイト。その手がリューソーの額に触れた時、生き物とは思えないほどの冷めきった体温のリューソーにタイトは急激に覚醒し、飛び起きた。


タ「リューソーが死ぬ!!!」


 あまりの緊急な事態にタイトは自分が入っていた寝袋から脱皮し、リューソーを中に突っ込んだ。リューソーの不安になる程の激しい震えは、5分もすれば消えていった。ただ、触れればまだ冷たいままのリューソー。そのままタイトは起きる羽目になった。もしシキから剝ぎ取ったら、今度こそリューソーが死

ぬ気がした。なぜかタイトは、自分は狙われないという謎の悪い予感がした。


タ「てか、3日目から思ってたけど、そんなに寒くないんだよな...。俺死ぬんかな?」

タ「いや、最初は夏の時だったな。暑さを全く感じなかったんよな。この夏」


 明らかに何かがタイトの身に起こっている。普通は異変に気が付き、少しは調べようとするものであるが、タイトは違う。


タ(魔法多用してるからその影響だな!)


 なんてったってタイトだからな。鈍感とかそういう次元じゃない。鈍感という言葉を起用してもいいのかすら怪しい。あれだ。タイトがタイトしてるだけなんだ。そう。これが、()()()という人間なのだ。ここ試験に出すからな。覚えておくように!


タ「いや、、、」


 お?


タ「今日は暖かくなったという可能性が、」


 そんなことあるわけもなく超猛吹雪。しかも明るさ的に日の出前だぜ兄弟。


タ「眠い...。寝たいけど、寝たらリューソーが死ぬ。明らかに薄手の俺よりもリューソーが死ぬ。本能が言ってる。」


 タイトはそのまま全員が起きるまで、小さく魔法の実験をしながら待機していた。


AM6:00


 全員が起きた頃合いで、出入り扉を誰かが叩いた。アカツメだ。猛吹雪の中だが作戦会議のため、一時的に四方と上を囲った建物を建造し、全員がそこへ集合した。


ア「この吹雪の中移動するのは自殺行為だ。よって大変遺憾だが、今日はある程度吹雪が収まるまで待機する。」

タ「了解」

ア「ただ、この吹雪は日中に止むとは思えない。

危険を承知だが、もし今日あまりにも進めなかった場合は、今後は夜間でも収まり次第行動する。」

パ「マ?」

ホ「えぇ、ほんとに?」

ア「まだ半分も下山できていない。この先もいつ進めるかわからない。

丸一日を無駄に過ごすことはしたくない」

ツ「不本意だけど、しょうがない」


 不満がある残っている者もいただろうが、言い返す言葉が見つからないのだろう。肯定も否定もなく無言で会議は可決した。


ア「これからそれぞれの部隊から1人ずつ監視役として立てて、その他は好きなように過ごせ。夜に行動する可能性が大いにあるから仮眠をとることを勧める。

引き続き出入り扉にはわかりやすい印をつけておいてくれ。あと、行動開始したらあまり止まりたくないから早めに飯は済ませておいてくれ。以上。」


 アカツメの言葉で本日の朝礼は終了し、それぞれが待機するための仮拠点へと戻ろうとしたとき、ルナピスがタイト達の方へ近づいてきた。


ル「なあタイト、すまねぇが食料をちと分けてくれねぇか?」

タ「食料、?」

ル「あぁ。その、こういう何日もかかる任務に慣れてなくて、食べる量を間違えちまってな。今日の朝までは何とかなるが昼からが完全になくなっちまうんだ。」


 食料が底をつきそうだという理由で、申し訳なさそうに苦笑いをしながらタイトに乞食するルナピス。


タ「こっちもあるにはあるんだけど、余裕があるのが1日分だけであと残ってるのが非常食ばっかなんだよね。」

ル「もらえるだけありがたいぜ」


 他の仲間に事情を説明し、少し話し合うタイト。

 5日目。今日では確実に帰ることができない。5日目を差し引いたとして残りは2日×6人分の食料と多めの非常食。ここ連日の天気を見ていると3人の1日分の食料と非常食を少し分けたところで足りるかといったところ。ただそれ以上は分けられない。


タ「ちょっとアカツメ達にも聞いてみるね。」

ル「いいのか?」


 タイトはそう言うと、この吹雪の中こちらを眺めていたアカツメの方へ小走りで行った後、少しだけ話したのちに食料を抱えて戻ってきた。


タ「アカツメ達も[安心できるほどの余裕はないらしいから、分けられるのはこれだけだ]って言ってこんなにもらえたよ」


 タイトはそう言って、アカツメから分けてもらった食料をルナピスに渡した。


ル「ほんとにすまねぇ!こんなに恵んでもらえるとは!ほんとにありがとう!」


 ルナピスは勢いよくお礼を述べ、タイト達は仮拠点へと戻っていった。


シ「ねぇタイト、アカツメ達から食料を貰うとき、何か言われなかった?」


 仮拠点に戻ると間髪入れずにシキがタイトに質問した。


タ「アカツメ?あー、なんかちょっと嫌そうな顔はしてたね。あと[あんまり肩入れするなよ。つけあがるから]って言ってたなそう言えば。」

シ「ねぇ、タイト」


 シキは少し言いにくそうに、遠慮がちにタイトに声をかけた。


シ「あの隊、やっぱりおかしいよ。最短で5日間かかる任務に5亀の昼にして食料が尽きるなんて、考えが甘いとかそういう次元じゃないと思う」

コ「それは私も思ってた」

パ「毛布のこともあるからなー」

レ「あいつ、感謝の気持ちが軽かった。多分、元から分けてもらうつもりで来てるんだと思う。」


 仲間たちの不安不満の声が上がり始めた。タイトはそれを聞いて黙ってしまった。


シ「アカツメが言ってたように、僕たちもあいつらとのかかわり方を考えた方がいいよ。何でもかんでも助けるんじゃなくて、たまには突き放さないと。」

リ「旅も任務も結局は自己責任だからなー。でも俺はなるだけ助けたいなー」

シ「僕もできるならそうしたいけど、度が過ぎてるからね。

タイトには厳しい話かもしれないけど、覚えておいてほしい。」

タ「うん、わかった、」


 そのあとはいつもの空気に戻り、朝食を済ませ、最初の監視役を決めた。ただ、まだ起きたばかりのせいか、みんな寝る気配は一切見せず、トランプだのボードゲームだのを雑談交じりで始めようとしていた。そんな中、タイトは今日という1日が朝の4時に始まった為すでに眠いようで、楽しそうな空気に割って入った。


タ「俺、今日ちょっとアホみたいな時間に目を覚ます羽目になったから、さっそくで悪いけど寝るね。

俺の番が回ってきたらちゃんと起こして。みんなもなるべく寝てね。」

パ「わかる!そういう日あるよな!

けど、今からはしっかり寝るんだぞ!」

リ「何があったかは聞かないが、ただ君に感謝を」

レ「何に対しての?」

コ「意味わかんないけど、なんかあったんだろうね?」

シ「なんだろうね」

タ「シキ、おやすみ」

シ「なぜ僕だけ名指しなんだ?」


シ「違うよ、仲が良すぎるとかそういうんじゃないから。落ち着いて。今のは多分嫌味の方のあれな気がするから。だから一旦落ち着いて、睨まないで。僕もわかってないから。・・・なんでリューソーまでこっちを見るのさ。」


 タイトは何か一波乱起きそうな身内に対して気に留めることもなく、そのまま眠りへと落ちていった。


AM10:30


 次にタイトが目を覚ましたのは、眠ってから約3時間と少しのことだった。周囲を見渡すと、現在はコクウとパルスのどちらかが監視役として起きていた。他はタイトと同じように仮眠をとっている。


タ「あれ?2人で監視してるの?」

コ「そんな感じ。一人だと退屈で退屈でしょうがないからさ。」

パ「2人1組になったってわけ。タイトはシキとだよ。」

タ「りょーかーい」

コ「なんかね、リューソーがね、シキを嫌がってね」

パ「めちゃ必死だったよな。なんでかは言わなかったけど。」

タ「・・・ホントナンデヤロナ」



タ(外、まだ吹雪いてんのかな?)


 会話が途切れたため、タイトは外の吹雪の音が聞こえてこないか耳を澄ましてみる。すると、絶えず悲鳴を立てて吹きさらす風。


タ「吹雪、止みませんなー」

コ「ねー、この感じだとほんとに今日は夜しか動けない可能性が大」

パ「うへぇー、仮眠とっとかないと死ぬかもなー」


 そのあとも、吹雪は止むことはなく交代で待機しつつ早めの昼食、夕食まで済ませて日が完全に落ちたころにようやく吹雪は止んだ。


PM21:00


ア「朝伝えたように、完全に日は沈んだが行動する。」


 隊列をなしてタイトたちは進み始めた。


リ「うひゃぁ~、何も見えねぇなこりゃ」

タ「火魔法で雪を溶かしつつ、辺りも照らさないとだから1人の負担激しいな」


 現在、先頭を道案内役としてツバキ、魔法要員としてコクウが配置されている。シキはコクウの補助役として前から2番目に位置で歩いている。補助といっても、魔力が切れた際の予備という名目で位置づけただけで、シキとしてはコクウが心配なのだろう。


リ「夜だけど、今はそんなに寒く無くてよかったなー」

タ「ん?そう?動いてるからじゃなくて?」

リ「ん~、さすがにそれだけじゃない気がする。確定的に暖かい気がする」

タ「それあれじゃない?凍死する前の体が暑いと勘違いする、みたいなやつ」

リ「怖いこと言うなよ~!」


リ「...本当にそれな気がしてきた。」

タ「嘘だよぉ...!単純に火魔法を何個も設置してるからでしょ。それと俺も臭い消しのために暖かい風魔法を吹かせてるし。」

リ「なーんだ、それならよかった」


 足元をよく見ながら慎重に進むタイト達。特に魔獣に襲われることもなく、ゆっくりではあるが順調に進んでいたが、比較的緩やかな傾斜を下っているときに突如として短い悲鳴が聞こえた。


デ「きゃぁ!」


 悲鳴ともに何かが地面を擦れる音が聞こえた。声の方に目をやると、デルフィニーが地面に微かに出てきていた木の根を踏んで派手に転んでいた。また、運も悪く、転んだ先の雪の中に小さめの岩があり、左足を思いっきりぶつけてしまっていた。


デ「いったぁ!!もうほんとに最悪!!!」

ホ「だ、だいじょうぶ?」

パ「おいおい、ちゃんと集中しねぇとあぶねえぞ」


 近くにいたホーツキがデルフィニーの足からとめどなく流れる血を止めるために回復魔法をかけ始めた。


デ「こんな時間に出発して、集中できるわけないじゃん!!」

パ「お前、もしかして、仮眠とってないのか?」

デ「・・・」


 なぜかキレて来たデルフィニー。その様子からパルスは仮眠をとったか確認をするも、デルフィニーは黙り込んだ。


デ「しょ、しょうがないじゃない!昼間からそんな簡単に寝られないわよ!」


 どうやらパルスの言う通りらしい。それを聞いたアカツメはなんの動揺も起こった様子もなく。ただデルフィニーが復帰するのを黙って待機していた。もう期待すらしていないということなのだろう。


ザクッ、


 突然、レイがタイトの斜め後ろにいつの間にか移動し、自身の刀を雪の中に突き刺した。


リ「うお、びっくりした」

タ「ど、どうしたの?」

レ「こいつ、ずっと私たちを追ってきていた。」


 レイはそう言いながら刀の先に刺さったそれをみんなに見せつけながら答えた。刀の先に刺さっていたのは、体長3、4メートル程の白い蛇だった。


レ「そんなに早くないから無視してたけど、追いつかれそうだったから。」

ア「俺の神技には引っかからなかった...。たまたまか?」

リ「魔獣、いるんだな?てっきり全員昼間だけかと思ってたぜ」

レ「それはただ見えてないだけで、そこら中に走り回ってるのとか飛んでるやつとかいるよ。」

シ「動物は夜行性のものが多いよ」

リ「ホエー、そうなんか。知らんかった」

タ「・・・こいつ食えるか?」


 レイが仕留めた蛇をまじまじと見つめて言い放つタイト。こいつ、顔がマジだ。


パ「蛇は毒あるやつが多い印象だがな。どうだろな」

シ「念のためやめておこう」

ア「こんなところで毒を貰ったとかシャレにならんから」

タ「残念。食料確保かと期待したのに。」


 タイト達が話しているうちに治療が完了したらしく、整列し直してすぐに出発した。


PM22:30


コ「これ以上は不安になるから交代を所望する!」


 出発から2時間半、1回目の交代の時間がやってきた。


タ「じゃあ、次は俺が変わるよ」

ラ「お!いいのか?」

タ「俺は別に魔法だけじゃないし、魔力量も多いみたいだからね。お任せあれ」


 時間を無駄にしたくないからか、タイトが率先して名乗りを上げた。特に誰の異論もなかったためそのまま抜擢された。


タ「うお、!」

ツ「まあ、最初はそうなるよね。」


 魔力温存のため、後続にいた時は魔力探知を切っていたタイトは、先頭に立って初めて気づく。火魔法の灯に照らされて見えてくる魔獣の数々。そのほとんどは姿が見えた途端に逃げ出すものが多数だが、こちらと目が合ってもじっと見つめてくる梟やら、中型の鹿型のような魔獣がいる。


タ「こりゃ神経削られるな」

ツ「ほとんどは敵対の意思はないっぽいから無視していいと思うよ」


 この山の住民たちを横目にタイト達は雪を溶かしながら慎重に歩を進めた。


AM2:00


 仮眠をとっていたとはいえ、いきなりの夜間の行動。他の面々も足元が危うくなる場面が増えてきたため、行動を中止し仮拠点で寝ることにした。


ア「この時間だし、明日は昼頃から行動を再開したい。行動を開始する前には昼食をとっていてくれ。」

タ「わかった」

ル「お,,,おう。」


 目もほとんど開いておらず、頭をふらふらと揺らしながらルナピスは返事をした。


タ「あーーーー、疲れた神経使っためちゃくちゃ緊張した寝る。お休みお休みお休み。」

リ「あまりの勢いにもう寝てしまってる」

シ「相当疲れたんだろね」

コ「気持ちはすごくわかる」

レ「お疲れ様」

パ「めちゃくちゃに起こしてやりたい」

タ「こ・ろ・す」

リ「寝る前最後の一言がそれかよ(笑)」


 タイトが一足早く寝たところで他のみんなも準備が整い次第、順次眠りについた。


/639年11月8日/

12:00 6日目 


 行動開始!


 雪はあまり降っていないとはいえ、肺が凍りそうなほどの寒さは未だに続き、積もった雪は解けずに残ったままであった。


ア「順調に行けたら、明日には下山できそうだな。」

パ「おー、ようやく帰れるのか」

ラ「んにゃ、下山できてもそっから町までは歩きだぞ」

パ「持ってくれよ、!私の足!」


ホ「もう少しだってよ!」

デ「やっと、うちに帰れる、、」


リ「へへ、俺、帰ったら浴びるほど酒を飲むんだぁ」

タ「俺は限界まで寝るー」

コ「ベッタベタなフラグ建てるのやめてね?」


 任務達成が目前であることに希望を抱きながら下山を開始して2時間が過ぎた。


ア「止まれ。なんか、引っかかった」

ル「そんなん...そこら中にいるんだから、普通だろ」

ア「あぁ、最初はそう思ったんだが、すぐそばを通り過ぎたはずなのに姿が見えない。」

シ「動いていない魔獣の気配がいくつもあるね。」


 魔力探知を始めたシキは周囲を何度も見まわしながら言う。


レ「少し大きめの雪玉?石?みたいなのは見えるけど、それ以外は木の上にもいない」

ア「場所は?」

レ「周囲一帯。まばらに。」

ラ「あの白いやつか」

シ「引っかかった正体は雪玉?魔法かなんかで作ったのか?」

リ「あぁ、あれか。それにしてもきれーな球体に作ったもんだな」


 リューソーが後方にあった雪玉を見つめなが言う。周囲を見渡してみると、規則性はなく、そこらへんに雪玉が配置されている。大きさは様々で、1段だけのものもあれば、2段、3段と積まれているものもある。


ア「この任務、登山も下山も、誰一人にも会っていない」


 ふと、アカツメが重量を感じるような物言いでみんなに聞こえるように言った。

 その一言でパルスがはっと、気づいた。


パ「・・・吹雪では、偶然が重なると雪だるまが自然に作られる可能性があるッ!!?」

リ「発想力はすごいが魔獣だ馬鹿」

パ「うぃ?」


タ「敵対してると決まったわけではないし、このまま通り抜けられることも、、」

ツ「私、この魔獣、知らない」

シ「僕も、雪玉に擬態する魔獣は聞いたことも、見たこともない」

タ「新種か」

リ「なんか気分上がるな」

コ「魔力探知にも簡単にひっかるのに、任務でよく立ち入ることのある山で、新種?」

ラ「物陰に隠れるでもなく、堂々と雪玉のフリか」

ア「・・・毎年冬になると、この山に任務へ向かった部隊が返ってこないことが多かったな」


 やや興奮していたタイトとリューソーにどんどんと絶望的な情報が追加されていく。


ル「それがなんか関係すんのか?」

ホ「ただ、遭難してただけじゃ?」

ア「そう思っていたが、遭難者たちは雪が溶けた時期に探しに行っても見つからないことの方が多いらしい」

ア「遺留品さえも」


 アカツメの最後の一言がさらに絶望を呼ぶ。


シ「魔力探知に引っかかる。発見が容易な場所にいる。囲むような配置。毎年、遺留品すら残らない行方不明者。そして、未確認。つまり?」


レ「捕食対象全員を逃がすことなく、皆殺しにしてる」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

       *視点 戦闘時*


 レインの言葉を聞いたタイト達は即座に武器を手にした。


タ「これ、避けて通れないの?」

ア「俺が最初に引っかかったといったのは、じつは神技だけじゃなくてな」


ア「殺意を感じ取ったからだ」

パ「なるほど?」

ア「で、お前らは殺意を感じた様子はない。

つまり、狙われてるのは俺で、俺が動くと襲い掛かってくる。と予想する」

タ「さよなら希望、いらっしゃい絶望」

ア「全員が背中を合わせるように円形に並べ。」


ホ「今から戦うってこと!?」

ア「ああそうだ。しっかり集中してねぇと、死ぬぞ」

コ「数は?」

レ「・・・わからない。どこまでが一つの群れなのか」


 レインの情報により、事態の最悪度合いがさらに増す。


リ「これ、マジでやべぇ気がすんぞ」

コ「私、一帯の雪を溶かす」

コ〈ベクトル操作〉


 コクウが神技を使用して周囲一帯の木の上に積もった雪すらも、完全に溶かした。やや蒸発する程度の熱を受けても、一向に溶けることのない白い球体。


パ「どうせ襲われるんなら、先手を打ってくるわ」

タ「パルス待って、俺もやる!なるべく最初に数を削っとこう」

パ「りょーかい。私あそこの3段をぶった切りに行くからそれ以外で頼むわ」

タ「わかった!」

レ「なら、私も、」

ツ「待って、あまり妙な動きはしない方がいいかも。すでに警戒されてると思うから」


 魔法の準備をしようとしたタイトとレインをツバキが制止する。


タ「俺、足から出せるからそれで地面からやれる!」

ツ「そうだったね。なら良し!」

シ「パルス、すぐに戻ってくるようにね」

パ「おす」


 タイトが棒立ちの状態から魔力を地面に流し込み、見えている範囲で白い球体の真下まで魔力を伸ばす。白い球体は気づいていないのか、魔力が到達しても動かずにいる。


タ「準備できた!」


ア「全員!戦闘準備!」

ラ「気合い入れてけ!」

ル「チッ!やるしかねぇか」


 戦闘目前というのに異様に閑散とした山の中にランタナの声が響き、緊張が走る。


パ「タイト!行くぞ!」

パ〈瞬間移動〉

タ「おう!」


 パルスが神技、タイトが土魔法を使用し、宣言通りに白い球体へ攻撃を開始した。タイト達の奇襲は成功し、タイトは付近の球体を突き刺し、パルスは3段積み重なったものを一刀両断にした。

 攻撃を受けた白い球体は真っ赤な血を吹き出した。


「ウキャアアアアアアアア!!!」


 攻撃の行き届かなかった遠くの方から甲高い叫び声が聞こえる。


リ「いや~な叫び方だな」

シ「恐らく遠くの仲間を呼んだのだろう」


 遠くで擬態していた10数体がこちらに向かっているのが見えた。白い毛皮とは反対に皮膚は真っ黒で、獲物を仕留める為としか思えないほどに細く鋭く伸びた爪と牙。


パ「白いやつの正体わかったぞ!」

ラ「何だった?!」

パ「猿だ」

ア「上も気をつけろよ!」


 地上だけかと思ったが、猿であると知って初めて視線を上へと向けた。視界に映ったのは全方位から木から木へと軽快に飛び移りながら、こちらに敵意むき出しにしながら近づいてくる猿の大群。


タ「何匹いるんだよ!?」

コ「想像よりも多すぎる、!」

シ「それに速い!」


 遠くにぼやけて見えていたはずの大群がほんの数秒の内に数十メートルの距離まで来ていた。


ア「近づいてくる前になるべく数を減らすんだ!」


 魔法やら弓矢やらで遠くにいるうちに撃ち落としていくが、数が多すぎて焼け石に水状態。まだまだ50匹以上は生き残っている。そんな折、木の上にいる猿の内の数匹が何もないところから何かを投げつけてきた。


ツ「何か飛ばしてきた!」


 移動の勢いを利用しながら飛んできたそれは、形を絶えず変えながら重力のままに落下する透明な、ただの


タ「水...?」


パ「魔法が使えるのか!?」

ア「この気温に水はまずい」

コ「水は私が絶対に蒸発させる!他は戦いに集中して!」


コ〈ベクトル操作〉


 ジュワ、と体にかかる直前で音を立てて瞬時に気体へと変わっていく水。それでも猿どもの進行は止まらず、木の上と地上の双方がすぐそばまで近づきタイトへ飛び掛かってきた。


タ「速い、けど!」


 タイトは飛び掛かってきた猿を難なく切り伏せた。


タ「目で追えないほどじゃない。ただ、」


 1匹目に懲りることなく、猿は飛び掛かってくる。今度は複数体。


タ「数が多すぎる」


 息つく間もなく連続的に襲い掛かってくる猿。さらに時折木の上から水をかけても来る。魔法の使える猿を倒しても他の猿が同様に水をかけてくる。


 幸い、攻撃方法は爪と牙しか持ち合わせていないようで、近くの猿さえ気を張っていれば対処はできる。

 が、こちらも連日の移動と吹雪による停滞、夜間行動。敵の数も徐々に減ってはいるが、目に見えて疲れが出てきている。


 デルフィニーは自分に向かってくる敵をひたすらに倒していた。他の者には気が回ることはないが、ただ自分に近寄る敵を震える手を御しながら1匹1匹ずつ。

 そんな時、猿の内の1匹がデルフィニーに飛び掛かった。デルフィニーはそいつに対して、火球を何度も放って撃ち落とした。ただやはり実践不足なのだろう。猿の後ろにさらにもう1匹、隠れていることには気づかなった。


 デルフィニーは顔に向けて飛び掛かってきた猿に対処できなかった。


デ「きゃあああああ!」


 耳に刺さるようなデルフィニーの絶叫が聞こええた。声の方へと目を向けると、デルフィニーが背中から倒れこみ、左目の上から下へかけて引っ掻かれたような痛々しい傷と、激しく飛び散る血液。それを好機ととらえた猿どもが一斉に飛び掛かっていく。


リ「タイトすまん任せた!」

タ「はい!」


 惨状を目にしたリューソーがいち早く駆け出した。


デ「やだっ!!いやぁ!!!誰か!たすけ!」


 飛び掛かった猿たちは無防備となったデルフィニーの腹部や足を腕を、噛み付き、引っ搔き、爪を突き刺し、できうる暴力の限りを尽くしていた。


 そこへ一気に駆け出したリューソーが通り抜けながら、飛びついていた猿を切り伏せた。一時は危険を免れたデルフィニーだが、それで攻撃の手を休めるほど自然に身を置く者たちは甘くない。

 新たに数匹飛び掛かっていく。リューソーがまた助けに駆け出そうとするが、リューソーに向けて飛び掛かる猿にそれを遮られる。


ホ「助けに、行きたいのに、!」

ル「くそッ!がああ!」


 ほかの者もどうにか助けに入ろうとするが、絶え間なく襲い掛かってくる敵に隙が見つけられない。また魔法で援助しようにも、敵自体が小さく、動きが速いため的を絞ることができないうえ、デルフィニーにあたる危険すらある。

 タイトも足からの魔法で何とかしようとするが、リューソーの抜けた穴を補強するだけで手一杯のようだ。


レ「・・・パルス、行ってきて。ここは何とかするから。」

パ「わかった!」


 パルスはレインの言葉を受けて〈瞬間移動〉でデルフィニーに近寄った。そのまま剣を振り下ろそうとしたが、


パ「おい!落ち着け!止まらないとお前ごと切っちまう!」

デ「痛いッ!あぁ!!死にたくないッ!!」


 他の声も聞こえていないのだろう。暴れまわるデルフィニーにパルスは狙いが定まらず、新たに飛んでくる猿を斬ることしかできなかった。


 地面を伝うデルフィニーの血の面積が徐々に増えていく。


デ「やだ!!やだぁ!!!」

ア「やむを得ない!電気魔法だ!」

パ「あぁ、!クッソ!使えねぇ!!」

ツ「パルス!私と変わって!!」

パ「わかっ/ビチャッ、


 パルスが飛ぼうとした瞬間、パルスの足元で大量の血が飛び散った。すぐにデルフィニーの状態を確認するパルス。そこには、全身に血が付着した未だ暴れている様子のデルフィニー。ただ、先ほどまで引っ付いていた猿がどこにもいない。


パ「あ?」

ホ「デルフィニー!!」


 呆気にとられるパルスと走って駆け寄ってきたホーツキ。


ア「倒せたか!パルスは戦線復帰!タイト!2人の真下に仮拠点を作って隠してくれ!ホーツキはそのまま回復を!」


 タイトはアカツメの指示通りに地面へ魔法を流し、2人を降下させるように地面を変形させながら、穴を作り出し、上部分を覆い隠した。


ル「ぐおおおおお!!」


 低いうなり声のような雄叫びのような声を出すルナピス。ルナピスの左腕にかみついた猿に対して、噛み付かれたまま剣を突き刺した。


 その後、数が減っていき、小さなかすり傷や切り傷を何人か受けるも特に大きな怪我は無く、事なきを得た。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

         *タイト視点*


ア「はあ、、はあ、、よかった、まだ奇襲に特化した魔獣で」

シ「1体1体は、そこまで強くなかったね」

ル「デルフィニーは無事か?」

ホ「なんとか血は止まった。けど、私じゃ目までは治療できなかった。魔力も、もうない」


 左目を包帯で覆われ小さく血が滲み出ている状態のデルフィニー。引っ搔かれたり噛まれたりした傷はところどころ傷跡が残っていた。


ル「そうか、でも生きててよかった」

デ「寒い...」


 襲われた際に服を破かれたのか、ところどころに素肌が見えており、冷えた空気が流れ込んでいるのだろう。身を縮めこませても尚震えている。


(なんか余り物の冬服あったっけな?貸してもいいかは別問題だが、)


 記憶を頼りに収納魔法を漁る。


ア「目は、女神信仰してる方の教会に行けば、3日以内だったら回復可能だろう」

リ「そこまで直せるのか?!」

ア「なんかお前、元気そうだな」


 人街を見るような目でリューソーを見つめるアカツメ。体力がアホなんですこいつは。


リ「俺たちが普段使うものもそうだが、回復魔法には時を戻す効果が、少しだけ混じっているらしい。

だから、かなりの練度が必要だが、失った身体機能なんかも、早ければ直せる可能性が、あるらしい」


 息を整えながら助言するアカツメ。本当にきつそう。

 とっとっと、あった。手にあたった防寒着を掴み収納魔法から取り出した。それを持ちながらデルフィニーに近づいた。


(・・・視線を感じる。わかってるよ...分かってるけども!)


タ「これ、寒そうだからつかって」

ル「いいのか?」

タ「うん、俺は寒くないから」


 正直目のやり場に困るし、変にいちゃもんをつけられたくもない。それと、やっぱり放っておけない。多分、エレナもこうするはずだから。


ル「本当に何から何まですまない!替えの服もなくて困ってたんだ」


(なんでだよ。替えの服くらい余計すぎるくらい持ってこいや。収納魔法にぶち込んでこいや。)


 心の中で叫びつつも、声には出さない。


ツ「どうする?このあと」

ア「一旦、転がった死骸を燃やそう。そのあとは...動ける者の方が少ないから、この場を離れてから今日の行動はやめて仮拠点を建てよう」


 今回の戦闘がよほど堪えているらしい。任務が始まってから、休憩の時も寝ているときも常に神経を使い、満足な休息は取れていない。更にここ数日は魔法を消費しながらの下山で正直、疲労やら体力やらその他にも回復が追い付いていない。

 そして、今回の戦闘。みんな限界なのだろう。...リューソーは別だ。そういう神技だろう。確実に。


 そんなことを考えながら転がる猿の死骸を一か所に集めて燃やした。

 休憩がてら燃え尽きるまで待機しつつ、火が弱まってきたところで水を掛けて鎮火し、その場を去った。


ア「さっきも言ったが、今日はここで夜を明かす」


 みんないつも以上に覇気がない。全体的にぐったりしている。


ア「大丈夫か?」

ツ「もう、魔力がほぼ残ってない」

ホ「魔力ゼロ」

ル「俺は神技が出ない」

コ「ラムネ、摂取しないと、頭が、ぼーっとする」

シ「僕も、ここ連日で魔力の大半がなくなった」


 シキはコクウになけなしの回復魔法をかけながら答える。レイも微かに魔法を出しながら自身の魔力量を確かめている。


デ「まだ、傷が痛む」


 おそらく根元まで回復が行き届かなかったのだろう。俺も俺で魔力が残っているのか怪しい。刀を主体的に使用してはいたから他の人よりも残っているが、何かあった時のために今は使えない。


 パルスもランタナも神技の連続使用と役割的に疲労がかなり来ている。

 ・・・あと1人?やつは魔法も使わないし、神技も体力が増える系統の予想だ。他の誰よりもピンピンしている。面構えが違う。どうして疲れてんの?みたいな顔をやめろ。

 いやこいつ、俺を煽ってるだけだわ。比較的無事そうな俺だけを見やがって、ちょー殴りてぇ。


 残った魔力を使い、3部隊分の仮拠点を生成し、一度休息をとることにした。


タ「リューソー、18時になったらみんなを起こして」

リ「わかったー」

タ「何してんの?」


 勝手に拠点に入ろうとしてくるリューソーを止める。リューソーは心の底から疑問の表情を浮かべている。


タ「余裕、あるんだろ?外で3部隊分の見張り、頼んだわ」

リ「ふむ...ここで喧嘩を売ったのは間違いだったわけですか」


 納得したリューソーはそのまま外で見張りを始めた。


 18時にリューソーが起こされたときに、周囲が雪だるまに囲まれていたことが唯一の異変くらいで、その後は夕飯を食べて、やや回復したアカツメが神技を、俺も魔力探知を発動してその日は眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

/639年11月9日/

AM6:30 7日目


ア「調子はどうだ?」


 思ったより早い時間に目が覚めて仮拠点から這い出ると、アカツメ達はすでに起きており、行動を開始する準備を始めていた。


タ「昨日の100倍マシ」

ツ「私も結構回復したよー」

ラ「はっはっは、俺は筋肉が荒ぶっている!」


 何言ってんだ?


ア「ただの筋肉痛らしい」

タ「伝え方気持ち悪」


 つい本音が出た。ランタナも笑ってるしいいか。


タ「まだ朝飯を食ってないから、今からたたき起こしてすぐに準備する」

ア「8時に出発すれば日が暮れる前には下山できるだろう。そこまで急がなくてもいい」

タ「それって、順調に行けば?」

ア「・・・もちろん」


 アカツメが疲労感のような、絶望を受け入れたような表情で言ってきた。あれはもう限界が近い。断言できる。昔、エレナに連れ回された後、エレナが誰かにそのことを伝えているときの俺と同じ表情をしている。苦労人の顔だ。アカツメとはおいしい酒が飲めそうだ。まだ飲めないけど。


AM7:50


リ「起きてこないな。」


 俺たちと≪木陰≫の準備は整ったが、≪軌跡≫が一向に姿を見せない。


ア「昨日の今日だ。少しだけ待とう」


 しかし、8時を過ぎても≪軌跡≫が仮拠点から出てくることはなかった。


リ「そろそろ様子見に行くか~」


 リューソーと2人でルナピス達の仮拠点の扉を叩くと、中からドタドタと慌ただしい音を立てながらこちらに向かってくる様子がうかがえた。寝てたかもな。


 扉を開いたのはホーツキだった。見たところ寝起きというわけではなさそうで、髪はきれいに整えられているため少し前には起きていそうな印象。ただ、焦っているのは合っているらしい。浅い呼吸を何度も繰り返しながら、今にも泣きだしそうだった。


タ「どうした?!」

ホ「助けて!ルナピスが!!」

リ「ルナピス!?」


 後ろで待っていたみんなに目配せしつつ、ルナピスの容態を確認に入った。

 ルナピスは寝袋から上半身を起こした状態で、大きく肩で息をしているのが見えた。目は開いてはいるが、ただ目の前を見ているだけでこちらに気付く様子もない。よく見れば腕は震え、肌が紅潮しているように見える。


タ「いつから?!」

ホ「朝起きた時にはすでに!」

タ「回復魔法はどうだった?」

ホ「なんでか、全然魔力が回復できてなくて、!それで、魔法かけられなくて、!」

タ「まじか、。おーい、ルナピスー?!」


 顔のすぐ近くで手を振って見せると、ルナピスはようやく気付いたのか、明らかに異様なほどにゆっくりとこちらを振り向いた。


ル「おぉ...タイトか...。もう...出発か、今すぐ...じゅん、び...するから...」


 ルナピスは立ち上がろうとしたが、途中で力がなくなったようにこちらに倒れ掛かってきた。とっさに支えに入ったが、ルナピスは完全に力が入っておらず、全体重がのしかかってきた。そして、ルナピスの体は燃えているのかと錯覚するほどに熱かった。


コ「かなり酷めの熱だね。

昨日、猿に噛まれたよね?解毒した?」


 ルナピスは喋ることもままならないのか、力なく首を振った。

 コクウはすぐに傷口を見せるように指示し、患部を確認する。ルナピスの左腕はパンパンに膨れ上がり、牙が入ったであろう部分は青白く膿んでいた。

 コクウは口元に手を当ててしばらく考えたのち、息を吐きだしながら収納魔法を漁った。


コ「これ、最後の回復薬。これを飲んだらだいぶ楽になると思うけど、念の為病院に行くことを勧める。

あと、今日一日は絶対安静。血を流すことは厳禁。なるべく動かないこと」


 ルナピスは何も言わずにコクウの言葉を聞いていた。


デ「それじゃあ、今日は街に、帰れないってこと?」


 こんな状況だというのに、デルフィニーは素っ頓狂なことを言い出した。


シ「・・・仲間が危険な状態だというのに、最初に心配するところがそこ?」


 語気からシキが苛立っているのがわかる。そりゃそうだろう。

 この任務を通してわかったのは、デルフィニーは基本的に空気が読めない。普段は何も言わないのに、口を開くと自分のことばかりだ。今じゃなくても良いということを平気で言ってくる。


(・・・あぁ、くそ。考えないようにしてたのに...。勇者なのに...。)


ホ「助かるの?」

コ「言ったでしょ?ただの熱。かなり重度の熱だけど回復薬も飲んだし安静にしてれば治る。」

パ「ど、ど、どうする?今日、行動は...」


 できない。

 パルスの頭にはその考えがよぎっているのだろう。ただ、今日の停滞は正直かなり厳しい。食料的にも全員の体力的にもよろしくない。かといって、強制的に進むことは容易ではない。起きた時はよかったはずの空模様がまた風交じりの雪が降り始めていた。健康的な者なら何ともない程だが、歩くことすらままならない者、片方の視力が失われて距離感の掴めない者。それらを連れて歩くには危険すぎる。


(いい考えが思いつかない。どうする。ここをどう切り抜ける。勇者ならどうする。)


 いろいろと考えを巡らせていたが何もまとまらない。そんな時、アカツメが口を開いた。


ア「置いて行こう」




 何を、言っているんだ?あまりに唐突な言葉に言葉が出ない。それは宣告された者たちも同様で、理解が追い付いていないのか、ただアカツメを見つめていた。


リ「ちょ、、こんな時にその冗談は厳しいって/ア「冗談じゃないよ。」


ア「本気」


 アカツメの表情は猟奇的な思惑でも、苦渋の判断の末というわけでもなく。ただ、淡々と今後の予定を告げているようだった。それがあまりにも狂気的に見えて、冷血に思えた。


 アカツメに反対するものがいないのか、ほかの皆が気になり、目を見合わせようとした。だが、


 ランタナとツバキは心が決まっていたのか、こちらとは一切目を合わせない。

 シキは真顔でこちらを見て静かに首を横に振った。『仕方ない』というかのように。

 コクウは、ただ下を向いて表情が読めない。リューソーは顔を引き攣らせて周りを見回していた。パルスは眉間にしわを寄せて考え事をし、レイは心配そうにただこちらを見ていた。


ホ「置いて...行くって...どういうこと?」


 ホーツキが震える声で聴くのに対して、アカツメはあまりにも淡泊に答えた。


ア「お前たち3人を残して、俺たち、他9名は下山する」

ホ「私、たちは?どうなるの?」

ア「顔合わせ、説明の時に救難信号を送るやつを貰っただろ。それを使え。」

ホ「でも、!これ使ったら報酬が!」

ラ「報酬と、命。どっちが大事だ?」

ツ「そもそも命がないと報酬もないよ?」

ホ「もう少し、待ってよ!今日はなんでか魔力が回復しなかったけど、明日なら!」

ア「魔力、技量の回復には、人間の3大欲求が大きく関係している。こんな食事も睡眠もまともにできないところで回復が難しいのは当然だ。お前たちはなおさらな。そんなことも知らないのか」


 確実に追い込むような止まらない正論に、ホーツキの表情が崩れていく。見ているだけで心が締めあげられるようだ。


ラ「それ、なら...そん時に、助け合えって...言われたのは、忘れたのか...?仲間、だろが...。」

ア「助け『合い』だろ?今の状態のお前たちに、俺たちを助けられるような力はないだろ」


タ「やめ、てよ」


 ふと口に出ていた俺の声は小さすぎたのか、降り落ちてくる雪を少し揺らしただけで、アカツメには届かず、アカツメはこちらを一瞬振り向いただけで止まらず、


ア「それにこの任務を通して、お前たちは助けてもらうことは多々あったが、助けられた覚えは1つもありはしない。」

ル「・・・・・・」


 何とか口を開いたルナピスもアカツメの言葉に完全に言葉を失ってしまった。デルフィニーは糾弾が怖いのか、完全に2人の陰に隠れている。


リ「そんなこと、!言うなよぉ。この1週間、一緒に頑張ってきたじゃねぇか?」


 リューソーが切羽詰まった声で訴えかけた。よかった、リューソーは俺と同じ気持ちらしい。


ア「タイト、リューソー、お前達はまだ、綺麗すぎる」


 さっきの蚊の鳴くような声は聞こえていたらしい。聞こえたうえで、らしい。


ア「タイト、お前はこの部隊を率いる立場である、隊長だろ?もう少し俯瞰して考えてくれ。」


 アカツメの攻撃対象がこちらに向いてきた。


ア「この不安定な天気の中、また吹雪くのはいつか分からない。2時間後かもしれない。夜かもしれない。明日かもしれない。もしこれで全員で停滞したとして、明日、進めないほどの吹雪が来たら、また1日、帰りが遅くなるんだぞ?」

ア「食料も尽きそうな状況で、全員で停滞するのか?進める今を捨てて」


 わかっている。そんなことくらい。言われなくても。それでも何か反論しなくてはいけない。あまり感じなくなったはずの刺さるような冷たい空気を吸う。


タ「食料!は、まだ山にいる魔獣を狩れば、、、

ア「この雪の中で行動してるのは昨日の猿くらいだぞ。食料確保の旅にまた、危険に飛び込むのか?」

ア「次は誰が死にかけるんだろうな?」


 アカツメは嫌な言い方をわざとする。勝てない。勝てるわけがない。隊長として、仲間の命を預かるものとして最良の判断をしているのはアカツメの方だからな。当然だ。

 それでも、勇者として、エレナが目指した物語の主人公として、誰かを見捨てるなんてできない。見捨てることが正しいとは思いたくない。


タ「それなら、2人を介護しながら進めば、!/ア「次、魔獣に襲われたとき、俺はここの人間では勝てないと考えている。俺は逃げるつもりだったが、お前は戦うつもりなのか?」

タ「それ、は...2人を背負って逃げれば/ア「逃げ切れるとでも?そんな大きな荷物を背負って」


 あまりにも言われすぎてて、なんで俺が庇っているのかわからなくなってきた。

 今、お前から、逃げたいっての。


タ「それでも、!今までは助けてくれたじゃないか、!?戦闘の時も、食料だって。」

ア「今までは助けていられる余裕があった。だが、今はこちらに他の者を助けられるような余裕がない」

ア「俺たちの命を削ってでも他人に分け与えられるようなお優しい心は、俺にはない。」


 なにも言い返せない。俺が何かを言えば、それを叩き潰すような正論が飛んでくる。もう、反論の材料がない。考えることをやめそうな頭で必死で考えているうちに、アカツメが先に口を開いた。


ア「お前たちがこいつらと一緒に降りてきてくれるのか?それとも、救援を待つのか?」

ア「前者は仲間の命が危険にさらされ、後者は加えて報酬が減るぞ?」


 ≪軌跡≫を助けるということはその2択を選ぶということ。


ア「俺たちと来れば、お前の仲間がこれ以上危険にさらされることはないんだぞ。」


 悪魔のような、天使の言葉だ。でも、でも勇者は、勇者は!


ア「俺は仲間の命が一番大事だが」


 血液が一気に押し出される感覚がした。背筋に悪寒が走る。それ以上は言わないでくれ。

 そんな思いが言いもしなかった言葉が伝わるはずもなく、


ア「お前は、違うのか」


 俺は、それだけは反論しようと勢いよく顔を上げた。この言い合いのさなか、初めてアカツメの表情を見た。


 なんでお前が、俺なんかに、不安そうな顔を、してんだよ。


リ「タイトが!そんなわけ、!


 リューソーがアカツメに向かっていくところを俺は右手を広げて制止した。

 俺は何も言い返さず、収納魔法の中から非常食を可能な限り、3人で2日は耐えられる程の量を渡した。いや、押し付けたといった方が正しいのかもしれない。


タ「ごめん、俺には、君たちを助けられない。」

ホ「そんな...!」

タ「食料だけは渡すから...救援を呼んでくれ」


 俺は、3人の顔を直視することができなかった。怒っているだろうか。失望しただろうか。そんなことを思うと視線が下を向いてしまう。


ア「行くぞ」


 アカツメの言葉を合図に、皆はやや駆け足で進みだした。


タ「すまない」


 最後に、どちらに、誰に言ったのかわからない謝罪を一言だけ残して、足を踏み出した。

 少し遅れたもののすぐに皆に追いついた。駆け足なのは先の論争で大きく時間を使ったからなのだと。


 俺が最後尾に追い着いたところで、アカツメが走りながら近づいてきた。


ア「どうして、あそこまでしてあいつらを助けようとしたんだ?」


 なんで?そんなの決まっている。


タ「俺は、『勇者』...だから」

ア「勇者、ねぇ...。」


 アカツメがコクウを見つめながら、続けた。


ア「まるで、勇者という名の、『呪い』のようだな」


 呪い、かぁ。


ラ「アカツメ!!」


 俺たちの会話を聞いていた、いや聞こえたのだろう。ランタナがアカツメに声を荒げる姿を初めて見た。


ア「ッ!」

ア「すまない、今のは失言だった」


 ランタナの声にハッとした、アカツメがすぐに謝罪してきた。


ア「それと、さっきも。言い過ぎた」


 さっきとは、論争のことだろうか。謝るなよ。惨めになる。


(俺、隊長、向いてないなぁ)


 1つ何かが折れたような、そんな確かな感覚が心の中に残った。


 そのあとは、雪がひどくなることはなかったが、途中で魔獣の襲撃にあった。なんとか全力で足止めしながら逃げたことで回避できたが、正直ぎりぎりだった。きっと3人がいたら逃げ切れていなかった。まるで、俺の考えが間違いであることを証明するようだった。


 空が夕焼けから紺色に色を変えるころに、ようやく下山した。

 下に到着し、一旦野宿の準備をしていると、3台の馬車に乗った重装備の部隊、救援部隊と鉢あった。かなりの時間、救援を渋っていたのだろう。

 アカツメが地図に大まかな位置と仮拠点の特徴を伝えて対応していた。そして、話を半分ほど聞き逃していたがどうやら1台の馬車に乗って街へ帰っていいらしい。


 俺たちは馬車に黙って揺らされながら、2時間ほどで街へ到着した。

 冒険者協会で報酬を受け取り、事情の詳細は明日に報告することとなった。


 宿に着くと、乗り物酔いをしたリューソーはすぐ布団に倒れこみ、風呂はシキが先に入ることになった。


 紙を1枚手に取るも丁寧に折る気にはなれず、紙をぐしゃぐしゃに握りつぶして外へと投げた。

【参】

また遅くなって申し訳ございません。正直言うと、今回の雪山任務の話は全体的に人の本心のような、リアリティ重視の暗めの物語を作ろうと思い、なかなか気分が乗らず、かなり期間の空いた投稿になっていました。

現実にもいますよね。こういう他人の施しを前提で予定を組んでいる人。そういう人だったり、文句ばっかりの人だったリを今回の題材として取り上げてみました。

今後のタイト達の旅の中でも重要な出来事であると思います。最後、煮え切らない終わり方となってしまったことについても、ご理解いただけると幸いです。

皆さんは(なんか大変そーだなー)程度に思ってくれて大丈夫です。

次回はあの娘が再登場します。

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