第7話 男ってそういう生き物
*エレナ視点*
/7月3日/
老婆「みんな私を気味悪がったさ。爺さんだけだったよ。ずっと一緒に居てくれたのは。今はもう死んじゃったのだけどね。」
エ(10歳)(おっと、あまりに面白くない話に意識が飛びかけていた。
えーと?なんだっけ?大切な人の霊が見える婆さんだっけ?)
眠気が覚めない頭で話の内容を整理する。
タ(10歳)「他の人とかは見えないの?」
エ(こいつちゃんと聞いてるのパネェな。この婆さん話が長い上に面白くないのに)
老婆「爺さんが死ぬ前は私の母親が見えていたよ。
でも、爺さんが死んじまってからは爺さんしか見えなくなった。きっと天国に行っちまったのさ。爺さんは多分私の神技で現世に魂だけの状態なんだろうね」
そう言い、私達を見ていた目が少し後ろの方を捉える。
タ「話したりとかは出来ないの?」
老婆「できないねぇ」
タ「なんだかお婆さん可哀想。」
老婆「そんなことは無いさ。見えるだけ有難いってものよ。それに見えるだけで何も誰とも話すことの出来ない爺さんの方が可哀想だ。」
この村は王都や国からかなり離れた場所に位置しているため、住んでいる村人の平均年齢が高い。
同年代は私たち3人以外にはおらず、1番歳が近くても20程離れている。だから、たまに老人の昔話に付き合わされる。
その後も1時間程の長話の末、ようやく終わりの合図が来た。
老婆「おや?もう夕日が沈みかけている。最近は寒くなってきたから日が沈むのも早いねぇ。今夜はあったかくして寝なよ。悪いねぇ、こんな年寄りの長話を聞いてもらって。」
エ(ほんとだよ)
タ「お婆さんの話は面白いから平気」
エ「お前すごいな」
タ「え?何が?」
さも当たり前かのような顔をするタイトの顔面を殴りたいのを一旦我慢し、帰路に着く。
修行を初めてから3年の月日が流れ、2日前に10歳になった。レイの家族と一緒に、レイ、エレナ、タイトの誕生日パーティをした。
レイのお父さん、ゼナーク・ヒヤシンスは黒髪に赤い目。
レイのお母さん、サナー・ヒヤシンスは綺麗な赤く長い髪に、緑色の目。
私たちが同じ日に生まれたことで、毎年誕生日パーティは一緒にするし、時々ご飯を食べたりする程仲がいい。
エ「2日前は楽しかったね。」
タ「そうだね。僕たちの10歳の誕生日パーティだったから、思ってたよりも盛大なパーティだったね」
エ「タイト、驚きすぎて固まってたね。そんでその後、なんも無いところで躓いて、大惨事になるところだったね」
少し揶揄うように言う。
タ「う、嫌なこと思い出させないでよ。大丈夫だったから良かったけど、」
躓いた瞬間、お父さんが咄嗟にタイトを支えたおかげで、テーブルにあと少しで着きそうな所を回避できた。
ひっくり返してたら、みんな許すだろうけど、タイトが立ち直れ無くなるからほんとに良かった。
エ「そういえば、誕生日プレゼント何貰った?私は新しい靴と、剣だった」
タ「あ、僕も剣は同じ、もうひとつは魔法の杖。杖って言っても、両手で持つやつじゃなくて、初心者用の小さめのやつね。」
エ「へぇ〜良かったじゃん。ていうか前までは魔法だけでいいって言ってたのに、今日の修行で剣の練習もしてたね。なんで?」
タ「うん。ジョーカーさんにやっぱり剣も扱えるようにした方がいいって言われたからね。」
エ(なんだよ!私が言った時は練習しようと思う素振りすら見せなかったくせに!)
エ「ふーん」
苦虫を噛み潰したような気分になる。いつもは人の感情に鈍感なタイトなのにこういう時ばかり
タ「今少し怒った?」
と、火に油を注ぐ発言をするタイト。
エ「うるさい!私が言った時は持とうとすらしなかったくせに!ジョーカーに言われたらすぐに変えるんだ!」
怒りが爆発した。言わないようにしていた言葉を全部吐き出す。
タ「ひぃっ!そんなに怒らないでよ。そりゃあ、経験豊富なジョーカーさんに言われた方が説得力があるから練習を始めたの。普通でしょ?そこまで怒らなくても良くない?ていうか、エレナだって魔法を習い始めたじゃん。」
実際、1年ほど前から魔法を習い始めた。剣だけでは魔法も使う相手と戦うのは厳しいとジョーカーとの訓練で知り、魔法が使えた方が戦略が増えると考えたからだ。
エ(それはそうだけど、そういうことじゃない!なんにもわかってない!)
エ「そういうんじゃないの!私だってなんでこんなに怒ってるのか分からないよ!ただ、こう、、、なんだか、信用されてないというか、ジョーカーに取られたというか、とにかく!私だってわかんないの!察してよ!」
タ「そんなぁ、、、」
怒ると人の話を聞かなくなる。なのでこうなると話は平行線になる。
自覚はしており、直そうとは思うが、感情が先に出てしまうため、直らない。
タイトもそのことをわかっているので何も話さなくなる。気まずい雰囲気の中、家に着く。
ハ「おかえりー!」
タ「ただいまー」
エ(少し大きな声で言いすぎたかな?早めに謝っとこう。)
そう思うが、少し考え込んでしまい、以降、母や父からの言葉も上の空で話した内容すら覚えていない。
悪いのは自分だとわかっているが、なぜか謝れない。なんだか気恥ずかしくなり、声が出なくなる。
謝るタイミングを伺っているうちに寝る時間になり、タイトは自分の部屋に入って行ってしまった。それを見て、私も自分の部屋に戻り、ベッドに入り、また考えてしまう
エ(もしかして、ずっとこのままなのかな?私のこと嫌いになったかな?)
と、なぜだか泣きそうになってしまう。
エ(胸が苦しくてチクチクと痛い。タイトに謝れば治まるのかな?でも、どうやって謝ればいいの?わからないよ。)
あれやこれやと考えしまう。やがて、決心したように立ち上がり、タイトの部屋の扉をノックする。
エ「ねぇ?起きてる?寝てたらごめんね?ちょっと入るね。」
部屋に入り、タイトの近くまで歩く。タイトは壁を向いたままベッドに横たわっている。こっちを見向きもしない。
エ(こっちを見てくれない。やっぱり嫌いになったのかな?)
なんだか、悲しい気持ちになってきた。そして、無言のままタイトのベッドに入る。そして、左手をタイトのお腹の方に回し、右手を背中に当てる。
エ「その、、、さっきは、ごめんね。強く言いすぎた。なんだかタイトを取られた気がして、それで、、なんでか悔しくて、タイトに当たっちゃった。タイトは何も悪くないのに。ほんとにごめん。」
それでもタイトは何も喋らないまるで聞こえていないかのように。
エ「ねぇ、、なんか言ってよ?近づくなとか、お前なんか嫌いだ、、とかでもいいからさ、、。無視は、、つら、い、、よ」
時計の針は0時を刺す時間帯、あれこれ考えたせいもあり、そのまま夢の中へと入って行ってしまった。
*タイト視点*
/7月4日/
窓から朝日が部屋に差し込み、陽の光で目を覚ます。
タ(昨日の夜は少し寒かったな。お姉ちゃんはちゃんと布団かぶって寝たかな?)
と、考えているとなんだか妙に背中が暖かい気がする。思考が停止する。そして考え始める。
タ(なんで背中が暖かいの?ていうかお腹も少し暖かい気がする。え?なんで?昨日の夜は寒かったのに?)
止まった時間をゆっくりと動かすように、おもむろに上体を起こすタイト。
そして恐る恐る左手の方を見る。
タ「お、お姉ちゃん?、、、ナンデェ?」
隣で小さな寝息を立て、気持ちよさそうに寝るエレナ。若干、目元が赤く腫れているような気がする。
タ(昨日寒かったからかな?おかげで僕も暖かくして寝れたからいいや)
とりあえず問題は解決。ほっ、と一安心する。隣で年相応の表情を見せるお姉ちゃんに、
タ(これが起きると鬼になるとは思えない)
絶対に口には出せないけど。
窓の外に目をやると、先程まで少し赤みを帯びていた空が青色に変化していく。
タ(そろそろ起きて修行を始めなくちゃ)
なんだかんだ言って、3人で修行をするのが楽しくなっているのに気づき、なんだかおかしく思う。
ジョーカーさんは月の終わりか、始めに来て何日間か一緒に修行をしてくれる。ジョーカーさんは忙しい?らしく、他にも行かなくては行けないところや、僕たちと同じように修行をつけている人もいるらしい。
タ(いつもは遅くても、毎月1日には来るのに今回は遅いな。そろそろ来ると思ってるんだけど、)
と、思っているところで、
エ「ふぁぁ、んん〜」
ようやく目を覚まし、欠伸をしながら体を伸ばすお姉ちゃん。
まだ眠いのか、目を擦りながらゆっくりとこちらに向き、目が合う。
タ「おはよう、修行そろそろ始めないとね」
いつも通りに言ったはずだが、なんだかオロオロしだすお姉ちゃん。明らかに挙動がおかしい。
いつもは真っ直ぐにこちらの目を見て話すお姉ちゃんだが、今日は目が泳いでいる。顔も少し赤い。
エ「お、、おはよう。そ、その、、、昨日のこと、、許してくれる?」
タ「昨日のこと?」
そういえば、喧嘩したようなしてないような。すっかり忘れていた。
タ「別に改まって謝らなくてもいいのに、僕も悪かった?から。」
言いながら、自分が悪いとこあったっけなと記憶を遡ってみる。
エ「そう、良かった。ありがとう」
そう言い、少し笑顔になるお姉ちゃん。やけに素直だ。そんなに気にしていたのか?
エ「ねぇ、昨日のこと誰にも言わないで欲しい、な」
タ「昨日?喧嘩したこと?別に誰に言っても面白いことではないから言うつもりもないけど、」
エ「ち、違う。昨日の、、夜のこと」
タ(ん?なんかあったっけ?昨日の夜は自分の部屋に入ってすぐに寝たと思うから、言うも何も他に記憶が無いんだが?)
少し考え込む。なんのことなのか、微塵も思い出せない。その事がお姉ちゃんに伝わったのだろう。
エ「その反応、もしかして私がなんで、タイトの部屋で寝ているのかも覚えてないの?」
お姉ちゃんから微かに殺気を感じる。理由を当てなければ、死ぬ予感がした。
タ(2分の1、2分の1、2分の1)
タ「さ、寒かったから?」
エ「おめぇ、寝てたな!どおりでなんも返事しねぇわけだ!」
お姉ちゃんの怒りに火をつけてしまった。めちゃくちゃ怖い。
タ「お、落ち着いて。お父さんとお母さんが起きちゃうから?あ!わ、わかった!寂しかったからでしょ?昨日、帰ってから一言も話さなかったから!」
2分の1中のその2を言う。が、
タ「半分不正解だ!バカ!!!」
そう言われながら、思い切りお腹を殴られ、意識が遠のく。
タ(そこは半分正解だと褒めてくれてもいいじゃないか)
先程にもまして真っ赤な顔をしてこちらを恨めしそうに睨むお姉ちゃんを見て、深い二度寝に落ちる。