第74話 いい加減、目を覚ませよ
予定ではこのままだと、話数がとんでもない数いきそうなので、今後は文字数を増やしていこうと思っています。
/639年9月30日/
〜仮想空間だぞ〜
パルス、魔法が作動前に神技で移動して回避するという方法を思いつき、実行。
パ(ハッ!斬撃は赤髪のあいつの後ろに行けば避けられるのでは!!)
パ「これはもう勝ち申した!
天才すぎて自分が怖い!」
パルス、予定通り2人を補足。スパイルは自身の体スレスレに螺旋状の水魔法を2本、自身の周りを回転するように作り出している。エイビーツはスパイルのやや前に立ち、低い姿勢で剣を構えている。
パルスは距離を測り、予定通り<瞬間移動>でスパイルの後方に飛べる位置へ移動。
スパイル、エイビーツもパルスを視認し、出方を伺う。
パルス、予定通り<瞬間移動>でスパイルの後方へ移動。魔法使いのスパイルに向けて剣を振るう。
パ(あっ、ちょ待って、思ったより作動早い)
パルスは剣が相手に達するよりも先に魔法が作動することを察知、というか命の危機、生存本能が働いて再度神技を使って、罠が無さそうな少し離れた建物の上へと飛んだ。2人はパルスの位置を目視で探し始めた。
作動した罠は、空間30cm程を瞬時に凍りつかせて、氷は重厚感のある音を立てて地面に落ちた。
パ(くっそ!結局目に魔力を流さんといけんのか…
魔力がぶれるし苦手なんだよなー!)
目に魔力を込めると、ほわほわとしたような、サラッとした流れる煙のような魔力が人を覆い尽くすように微かに見える。
そして、スパイルの周囲に点在する、しっかりと個を持つ魔力の塊。
パ(これが罠かー…)
10や20ではない。数えるのが億劫になるほどの量の魔力の塊がスパイルを覆い尽くさんとばかりに設置されていた。ただ、剣を振るという特性上、エイビーツの周囲には明らかに罠が少ない。
他は僅かな隙間こそあれど、その間を抜けることができる生物など数える程しかいないだろう。
パ「これが魔法が得意な種族ですかい。
あいつも使えよほんとに、勿体ねー」
パ(あの罠を掻い潜んのは無理。作動前に逃げることはできるけど、攻撃できん。意味ねぇ。)
パ(まずはあの罠を減らすしかないな。神技で逃げれるし、なんとかなりそー)
方針も決まったことで、屋根の上で立ち上がる。そこでようやく2人はパルスを視認する。
パルスは膝を曲げて低い前傾姿勢をとる。屋根の引っ掛かりに足の踏ん張りを乗せて、思いっきり後ろ足を蹴り上げた。
爆発的な加速で2人の方へと一直線に駆け出したパルス。
ス「<瞬間移動>で横とかに飛んで魔法使うかもだから、気をつけろよ」
エイ「あぁ、」
2人は武器を構えたままパルスから目を離さずにじっと観察する。どこへ飛ぼうと対処できるように。
パルスは2人の予想通り<瞬間移動>を使った。だが、パルスは2人の目の前に飛んで行った。エイビーツのすぐ近くではなく、安全地帯など微塵も存在しない罠だらけの空間に。
ス「、!」
ス(血迷ったか!?)
2人がパルスを認知した。2人の方なんか、見向きもせずに、横を向いて<瞬間移動>してきたばかりで地面に足すら着いていないというのに、横方向に移動しているパルスを。
パルスは移動前の慣性の働くままに走り出し、周囲に散らばる罠魔法を次々に作動させ始めた。
ス「おい!やめろ!」
スパイルがパルスに向けて魔法を放つも、パルスは即座に<瞬間移動>で再び屋根の上へと移動。また、さらに屋根を蹴り上げて急加速からの<瞬間移動>。
エイビーツは自身の周囲には罠が少ないとはいえ、少し歩けば罠がある。追いかけようにも思うように動くことが出来ず、スパイルは魔法が微塵も当たる気配がない。
2人はパルスに対処することができず、周囲にあった罠魔法はあっという間になくなっていた。
ス「あぁ!クソ!この欠陥魔法が!!」
スパイルは目の前で罠魔法が消されているのを、ただ見ているだけしかできず、いらだちを隠せないでいた。
シ【慣性も受け継げるのか】
タ【すごい!ほとんど無くなった!】
コ【その使い方は頭いい!】
控え室は大盛り上がりの様子。
ス「あーもう、めんどくせぇ」
スパイルは静かに、体の内側に魔力を溜めるように、魔力の流れを制御する。
キィィィィン
ス《夜明け》
屋根の上に再び飛んだパルスは、こちらに体を向けてゆっくりと線を引いているかのように剣を流していくエイビーツを発見する。
パ(これがこいつの神技か!?)
ズパァ!
パルスの予想通り、エイビーツが引いた剣の角度のまま斬撃がパルスの方に飛んでいく。ついでにリューソーも範囲内に入っていた。
パルスからすれば、来るとわかっていて避けられないはずがないため、難なく<瞬間移動>で回避。
パルスはそのまま、エイビーツの後ろで新しく魔法の準備もせず、追撃もせず、未だに体の周りを水魔法が回転させているだけで何もせず、こちらを棒立ちで見ているスパイルの後ろへ<瞬間移動>。
完全なる死角への移動からの、確実に命を取るかのような、右肩からスパイルの首筋へ1本の糸を辿るかのようにパルスは剣を振るう。
パキィ、
が、スパイルの周りを回転していた螺旋状の水魔法が瞬間的に凍り出し、パルスの剣を受け止めた。パルスの剣は水に侵入したところで氷に変わったので、剣を動かそうにもガッチガチに凍らせて動かせない。
罠魔法も危険なくらいに光出していたので、パルスは仕方なく、剣を手放し<瞬間移動>で屋根の上へと移動。先程までパルスが居た場所では、地面を焦がすほどの火魔法が勢いよく放たれていた。
パルスは威風堂々といった立ち姿で、剣を取られたくせに、両腕を胸の辺りで組み、上から2人を見下ろして威圧するような大声を出す。
パ「なるほど!正面突破の阿呆に有効というわけだな!がっはっは!」
大口で笑うパルスだが、目は一切笑っていない。
パ「ハーハッハッハッハー!…」
パ「剣返してぇー!!!」
ス「えぇ…
なんだアイツ、」
本性を表したな馬鹿め!
仲間とかを信じていない系のモブがちょっとした事で態度を改めるような、急激な感情の変わり様にスパイルも少々困惑。
パ「剣以外何も出来ないのに!取らないでよ!!」
駄々をこねる子供のように、屋根の上で地団駄を踏み鳴らすパルス。
エイ「ものを盗るのは良くない」
ス「これ俺が悪いの?!」
スパイルはパルスの剣を自身の収納魔法に投げ入れて封印。エイ「冗談だ」ス「本気だったら殴ってた」
リ「おうおう、地響きかと思ったらお前かよ」
パ「先にお前を殺す」
リューソーはパルスをガン無視して、スパイルたちの方を見る。
リ「あれ?あいつ覚醒してんじゃん、
罠は無くなってるけど、こりゃ近距離は厳しいかもな、そも近づくのムズいわ」
パ「マジ?どこでわかんのそれ」
リ「雰囲気」
パ「いやそれ人によっては、全然わからんやつやろ!
覚醒つったらもっとこう、金髪になるとか、気がこうぶわぁ!ってなるとかあるだろ!?」
リ「しらん」
リ「ちなみに俺は成り方を知らない!成ったこともない!」ドンッ!
パ「種族覚醒の効果的に、お前がなっても仕方ないしな使えねー」
リ「おい?最後聞こえてんぞ?」
スパイルが2人に向けて杖を構える。その次の瞬間、スパイルの周囲に20を超える魔法が生成され、2人に向けて発射される。
パ「あれが覚醒時の効果か、」
リ「やべーな、一旦逃げないとな」
パ「手ぇ出せ」
リ「ほいさ」
パンッ!
パルスの<瞬間移動>で2人はスパイルの魔法を回避。
リ「お前剣どした?」
パ「盗られた」
リ「素手でいけそ?貸そうか?」
パ「触れれたら、上に飛ばして落とす」
リ「あの魔法見てどう思った?」
パ「その剣を貸せ」
リ「借りる側の態度では無いだろ」
まあいいが、と言いながら剣を貸すリューソー。と、その目の前で屋根に飛び乗ってきたキィスペス。それを後ろから追いかけているレインが見える。
キィスペスは屋根の上からスパイルの方へ、着地する気が微塵も見えない大の字で屋根から身を投げ出した。
キ「俺を受け止めてぇー」
ス「せめて、足で着地する気概を見せてくれや」
フワッ、
と、自由落下するキィスペスを風魔法の渦で一瞬宙に浮かせて着地させるスパイル。
ス(これは、あんましやりたくねぇな)
ス「まぁ、あいつに負けるくらいなら…分からせられるなら、使うか」
ス「キィスペス、あれやるから少し離れた方が良い」
キ「お、!あれやるのか!?」
キィスペスがスパイルの言葉に即座に反応し、少し後方へと移動する。
スパイルは杖を収納魔法に入れる。そして、自身の体から魔力を垂れ流しにして、魔法として成立はさせず、その魔力を体の外で操り始めた。
レ「あいつ、ほんとに逃げるのが上手すぎる。
出る物語間違えてるよ。鎌倉から出張して来た?」
リ「若様?」
リ「レインで逃げられるなら、他に捕まえられるやつはそうそう居ねぇな」
パ「人を追い詰めることに関しては、その道のやつよりも上手なレインに逃げられるなんてな」
レ「・・・馬鹿にしてる?」
リ「してないしてない」
パ「半分!」
ゲシゲシ、
と、リューソーの脛をつま先で何度も蹴るレイン。
リ「痛っ!痛い!やめて!そしてなんで俺!?」
パ「へへへ」
レ「パルスは後でご飯全部貰う」
パ「へへへへ?」
いつも安全圏にいたパルスは、180度振り返って拳銃を向けられたことに脳みそが理解を拒んでいた。
リ「よし、こっからは3対3だな!」
パ「頑張るぞー!」
レ「はい。」
パ「はい?!」
パルスの仲間を鼓舞する言葉に素っ気なく返すレインは、スパイルの方を怪訝な表情で見つめている。
レ「あの男、魔力を周囲にばら蒔いてる」
魔力を込めてスパイルの方を見ると、彼はレインの言う通り、魔力を体から流し出して半径5m程の球体を作り出して自身と仲間を覆っていた。
リ「…みたいだな、」
パ「魔力の無駄じゃね?」
リ「いや、あれはな、あの範囲内であれば、魔法をほぼ脊髄反射の速度で出せるようになるやつだぜ」
レ「ほぼ反射か、速いね」
リ「俺らの種族だからできる、奥の手みたいなやつだな。まだ範囲はちいせぇが、まさか使えるとは…!」
パ「なんで嬉しそうなん?
・・・M?」
リ「違うわい!」
心躍るかのような挑戦的な笑みを浮かべるリューソーに半分?だけ勘違いするパルス。リ「半分じゃねぇよ!完全だわ!!」
3人に目掛けて飛んでくるいくつかの魔法と矢。
レ「お呼びのようだね」
リ「そろそろ戦うか」
パ「戦闘あるある
無駄に長い考察をただ待ってくれる相手」
レ「作戦はどうする?」
リューソーは少し考え、るフリをして真顔で意気揚々とレインに返答する。
リ「・・・要らん!正面突破だ!」
パ「最初っから最後まで、クライマックスだぜ!」
レ「ダメかもしれない」
既に一直線に走り出している2人。2人の背中は既に、レインの遥か前方に並んでいた。
レ(あれ?パルスはともかく、リューソーってこんなに速かったっけ?)
レインも2人の経路から外れるように、遅れて走り出す。
ス「くそ、もう来たか…
もう少し広げたかったが、」
キ「1人、大きく右側、2つ隣の建物の中を、壁をぶっ壊しながら突き進んできてる」
エイ「わかった」
その場からは動くまいと、言うかのような低い姿勢で足元に力を込めて踏ん張るエイビーツ。軌跡をなぞるように、ゆっくりと剣を振る。
ズパァ!
レインの隠れて進んでいた建物が、高さ1mと少しの辺りで斬り断てられる。が、特にこれといった苦もなく、建物中の机に手を着いて、華麗に颯爽と舞うように避けるレイン。
キ「あ、あいつがこっちを遠くからも見れるやつだから無駄やね」
ス「・・・お前、追放してもいい?」
キ「トラウマ思い出して泣いちゃうかも、本気で、今…」
ス「嘘嘘、冗談だから戦ってくれ」
涙目のキィスペスを慰め、目の前の戦闘に集中するスパイル。
ス「いつも速すぎんだよ…お前は、」
すぐ目の前に来ているリューソーとパルス。
リ「パルス!止まんなよ!」
パ「なんか知らんけど、任しとけぇ!!」
リューソーがパルスの少し前に出て、エイビーツに殴り掛かる。
エイビーツは神技を一旦使わずに、普通に剣を振り払う。
リューソーは振るわれた剣に対し、剣が触れるギリギリで瞬間的に一旦止まり、剣が通り過ぎてから再び走り出して殴りかかった。
右頬を掠めながらも、エイビーツはギリギリのところで躱す。続けて剣を握り直して左下から逆袈裟で剣を振り上げる。
リューソーはその剣を、エイビーツの両手を右足で力強く踏みしめてその剣を止める。
リューソーは自身の一回りほど大柄な体型のエイビーツの両腕を、片足で封じ込める。
エイ「動かん…」
リューソーはそのまま左の拳を振るう。リューソーの拳はエイビーツの顔面に綺麗に振り抜かれた。
パルスは走りながら、腕だけの力で剣を投げると同時に剣をスパイルの目の前へと慣性を乗せたまま<瞬間移動>させる。そして自身もスパイルの後方へ<瞬間移動>。
パルスは走りの勢いをそのままに、左足を大きく踏み出して上体を後方へ逸らしながら、矢のような右足の蹴りをスパイルにお見舞いする。
パキキ、
と、音を立てて、パルスの足を捉えるように、氷が軌道上に生成される。
パルスは蹴りを止めることなく再び神技を発動し、スパイルの右側へ移動する。
スパイルはまるで、起きれば顔を洗うかの如く、日常の一部分かのように、眉ひとつ動かすことなく投げられている剣を左手から渦の風魔法で対処。
パルスの足に右手首添えて、手をくるりと回転させて軌道を大きく逸らす。
スパイルと視線が合うパルス。リューソーの言葉を思い出し、パルスは即<瞬間移動>で逃げる。
瞬間、まるで空気が発火したかのように激しくパルスが居た空間が勢いよく燃え盛る。
リューソーの隣へ移動するパルスと、顔面に拳を食らったエイビーツがフラフラとスパイルの近くへとよろめく。
2人は追撃をしようと、足に力を込めるも、目の前から大量の矢が飛んでくる。
そっと、片手をパルスの方へと差し出すリューソー。それに対して、瞬時に触れるパルス。
響き渡る快音とともに、パルスの神技が発動してリューソーが移動、それに続けてパルスも移動して矢を回避。
キィスペスの後方に飛ばされたリューソーは、そのまま目の前の彼に襲いかかる。
神技で居場所を常に把握しているキィスペスは、後方のリューソーに気が付き、咄嗟に拳を腕で防ぐ体勢に入る。
バン、!
濁ったような音と、乾いたような音が同時に聞こえる。キィスペスは事前に察知して足を踏ん張って完璧に防御していたにも関わらず、大きく殴り飛ばされる。
腕を交差させて防御していたキィスペスは、前に出していた左腕に力が入らず、入れようとすれば顔を歪めてしまうほどの激痛が走る。
殴り飛ばされた勢いでキィスペスは魔力を詰め込まれた領域へと侵入する。
ス「ッ!!、」
キィスペスの侵入を確認して、スパイルは咄嗟に領域内の魔力を発散させようかと思ったが、キィスペスはそんなスパイルを予知していたかのように大声で叫んだ。
キ「スパイル!仮想空間だから大丈夫だ!」
ス(そういう問題じゃ、)
ス「今回、だけだぞ!」
キィスペスはわかっていた。スパイルは実践ではできない作戦を決行することに、良い感情は持っていないことを。
だが、リューソーには勝ちたいだろうという気持ちを汲み取ったのも事実であった。
作戦は続行。
前後で挟まれたスパイルたちだが、焦る様子は特に見せずに迎撃の体勢に入った。エイビーツはパルスを、キィスペスはリューソーを、そして両方に対応するスパイル。
スパイルはまず、パルスの方を先に対処するべく、走って近づいてくるパルスに牽制と、神技を使わせるための魔法をいくつか放った。
また、同時にエイビーツの顔面の回復も行い、エイビーツは剣を静かにパルスへと構える。
パルスは可能な限りの魔法を自力で弾き返し、避けて近づいて行く。領域内に侵入したことで、四方から突然生えて出てくる魔法。パルスはその魔法には神技を惜しみなく使用して、エイビーツの左側へと移動した。
パルスは一切の躊躇なく、無駄のない最小限の動作で剣を振り下ろした。エイビーツは左足を少々後ろに引きながら体をパルスの方へと向き直す。上からの剣に対抗するため下から剣を振り上げるエイビーツ。
ガンッ!
剣を激しく打ち合う2人。しかし、パルスはエイビーツの剣に対して、圧倒的に力負けし、振り下ろした剣を再び上へと弾き持ち上げられてしまった。
パ(力つんよ!)
パルスはどうにか、追撃をしようとエイビーツを見る。そして、エイビーツの後ろでこちらを見下すように、冷めた視線で見つめるスパイルの姿が視界の端で映った。
バゴォーン!
突如発生した横向きの竜巻。パルスは直前で<瞬間移動>で脱出に成功。再び屋根の上へと飛び、振り出しの状態に戻った。
パルスは痺れた両手で、再び剣を握りしめる。
キィスペスは弓矢を一旦収納し、少し長めの短剣を右手握りしめて取り出した。
リューソーはキィスペスに対し、最短距離で距離を詰めて、大きく左足を踏み出して、拳を体で隠れるように肘を引いた。
キィスペスはリューソーに向けて、右手1本で短剣をお腹の辺りに命中するように、水平方向に振り始めた。
その短剣に対してリューソーは捻った体を右手の拳に使うのではなく、左足を軸とした鋭い右足の蹴りで短剣を下から蹴り飛ばした。
キ「うぐっ、!」
さらに、右足を踏み出して左手の拳を構えたリューソー。
バゴォーン!
激しい音が鳴り響く。と、同時に向こうを見ていたスパイルと目が合う。悪い予感が頭をよぎった為、大きく後ろへ飛んで逃げた。
リューソーを挟むように生成された大きな岩の壁。その壁どうしが引き寄せ合うように、勢いよくお互いの距離を詰め、激しい衝突音を鳴らしながらリューソーの目の前で粉々に砕け散った。
リ「あぶね」
リ(一旦、仕切り直すか)
リューソーは一旦、スパイルの領域からは脱出し、攻撃の機会を伺う事に決めた。
そこへ、スパイルとキィスペスの左斜め上方向から飛んでくる氷魔法。
2人は咄嗟にその魔法に視線を移す。キィスペスはすぐに収納魔法から普通の剣を取り出すも、それよりも先にスパイルが火魔法の渦でその氷魔法を溶かし、ただの水としてその場に振らせて氷魔法を無効化した。
キ「あっ、」
ここで気づく。キィスペスは神技を確認していないことに。1人少ないことに。氷魔法とは真逆、自分のすぐ後ろに低い姿勢で、その1人が既に接近していることに。
振り返る猶予すら与えずに、レインはキィスペスを切り刻んだ。まるで豆腐に包丁を通すかのように、鮮やかに刀を一度も詰まらせることなく、切り伏せた。
キィスペス、脱落。
そのままの勢いでスパイルに攻撃を仕掛けるレイン。しかし、スパイルの風魔法がこれ以上の狼藉を許さない。
幾重にも重ねられた空気の流れの層に、レインの剣は徐々に速度を落とされ、やがて止められた。
今にも手放しそうな剣をしっかりと握り、もうすぐ来るであろう魔法の追撃を回避するためにレインは足に力を入れ始めた。
レ(来る...)
予想通り、スパイルの表情、心情から攻撃が来ることを察知したレインは大きく後ろに飛ぼうとした。その時、
眼帯の紐が風魔法により引っ張られ、蝶蝶結びが解けてしまう。眼帯はレインの目からズレ落ちそうになるのを、レインは咄嗟に右手を剣から手放して抑えた。
だが、スパイルからすればそれは、ただの隙でしかなく、レインはスパイルが生成した氷魔法の大きな棘に心臓を貫かれてしまう。
レイン、脱落。
パルスは一度体勢を立て直し、再びエイビーツへと挑む。幸い、スパイルの集中はリューソーの方に向いているため、パルスは思い切って相手の懐まで<瞬間移動>で距離を詰める。
エイビーツは勘が冴えているのか、パルスの移動先を的確に振り向いて来る。
だから、パルスはそれを逆手にとって、<瞬間移動>で射程範囲内に入った時に、エイビーツは合わせて攻撃してくるが、パルスは一旦攻撃を遅らせて、攻撃を引き付けたところで反対側へ移動。
完全に無防備の背中を捉えたと思った。パルスは移動先で地面を踏みしめると、下から体ごと突き上げるような風魔法が発動した。
ぶわっ、!
パ「あ、ちょ、!」
完全に体勢を崩した。風魔法も一向に止む気配もなく、目の前のエイビーツもこちらに体を向き直していた。
パルスは再び神技を使い、反時計回りで90度回転。振り向きつつあるエイビーツの真正面から、突き上げられた体勢をそのまま利用して剣を振り下ろした。
エイビーツはパルスの剣に対して防御ではなく、剣自体を狙うような、横薙ぎの攻撃で剣を振るった。
ガキィン!
パルスは痺れた腕では満足に剣を握ることができず、エイビーツが剣そのものに向けて振るってきた剣の衝撃に剣を手放してしまった。
パルスは咄嗟にエイビーツを蹴りにかかったが、その足もすぐに切り落とされ、痺れた腕では拳も出せずにそのまま首を切られた。
パルス、脱落。
2人が脱落したのを目の前で目撃しながら、止まることなく、スパイルに一直線に距離を詰めるリューソー。
ジジッ、と機械音を立てて消えたレインに突き刺さっていた氷の棘を拳で破壊し、氷の粒をスパイルに振りかける。
スパイルはそれを風と火魔法で溶かして吹き飛ばす。
リューソーとスパイル、ゼロ距離まで近づいた2人はお互いに素手どうしのど近距離勝負にもつれ込んだ。
リューソーの右手の拳をスパイルは左手で、内側へと強めに押し出して軌道を逸らす。続けてスパイルの拳をリューソーは手のひらで受け止める。
ス「いい加減、諦めろよ」
スパイルはリューソーと拳と足を交えながら、リューソーに話しかける。
リ「それは、無理な、お願いだな」
ス「魔法使えば、この戦いも、お前は余裕で勝てたんじゃ、ないのか?」
リ「そう、なのかもな、!」
リューソーの蹴りをスパイルは腕で受け止める。反撃としてスパイルはその足を掴み、リューソーに殴り掛かる。
ス「別にいいじゃねぇか。
魔法を使って強くなったって、あの子よりも強くなればいいだけじゃないのか?」
リューソーは左足1本で、左足が上げられた右足を越えるように体を回転させながら、拳を避けつつ、足の拘束も解いた。
リ「そう、だなっ!
だけど!前も言ったがな、それだけじゃ意味がねぇんだよ、
みんなの意識を変えるには、突出したなにかが必要なんだよ、!
魔法以外の何かがッ!!!」
リューソーの拳がスパイルの腹に命中する。
ス「・・・いつまで続ける気だよ。多対1だぞ」
命中したと思われた、リューソーの拳は紙一重で氷魔法に防がれていた。
リ「死ぬまで、負けねぇ、
勝つか、死ぬかだ」
ス「それはお前がか?それともあの子がか?」
その言葉にリューソーは攻撃の手が一瞬止まる。そこにスパイルはリューソーの顔面に風魔法を乗せた拳を食らわせた。
リューソーはよろめきながら後退するが、倒れる気配は無い。それどころかさらに戦う意志を強固にしたかのようにスパイルを見つめる。
ス「・・・無駄、なんだよ…全部…全部全部!!!
お前の夢も努力も!あの子の淡い期待も!あの村の存在そのものから!何もかも!!」
ス「いい加減!目を覚ませよ!
本当にできると思っているのか!?」
ス「そんなことで!あの村が!変わると思うのか!?結局、それで強くなって帰ったところで!今度はお前が搾取される側に回るのがオチだ!
それを!わかっているのか!」
スパイルは、今までの不満や怒りを全て、八つ当たりするかのようにリューソーにぶつける。
リューソーは表情を変えることなく、スパイル目掛けて距離を再び詰める。
リ「わかっている、そんなことくらい、それも全部覚悟の上だ」
ス「なんでだ!?なんで!そこまでして、あの村に尽くす必要がある!?
あんな...あんな、腐り果てた村なんかに!」
領域内に再び入ったリューソーに、スパイルはありったけの魔法をぶつける。
リ「約束、したんだ」
リ「絶対に助けるって…俺が守るって」
砂煙が立ちこめる中、リューソーは方向転換して、転がっている剣に向けて走り出した。
それまで、待機していたエイビーツが剣を拾おうとするリューソーとの距離を詰める。
ス「餓鬼かよ...」
剣を拾うには間に合わないと判断したリューソーは、剣の持ち手を滑るように足を運びながら、先端部分を掠めるように踏む。
若干浮き上がった剣を今度は左足で上へと蹴り上げ、エイビーツの追撃に対して迎撃の体勢を取る。
リューソーはなるべく、スパイルからの魔法がエイビーツの体で邪魔になるような位置に身を構える。
エイビーツがリューソーに向けて右肩の位置から、水平方向に剣を振るう。リューソーは頭を下げてその剣を回避。
エイビーツは続けて、剣を持ち替えて今度は左袈裟で切りかかってくる。確固たる殺意を持って、首目掛けて切りかかってくる剣をリューソーは、左半身を右半身で隠すように左足を後ろに下げて、状態をやや右に傾けながら剣を避ける。
そしてそのまま右足を踏み出して、左手の拳で殴り掛かる。エイビーツは腕での防御は間に合ったが、リューソーの力が強く、ややよろめいて横にズレる。
直線上にエイビーツが居なくなったことで、スパイルがリューソーに手を向けて魔法を放とうとしている。
リューソーはそろそろ落ちてくるであろう剣を確認。リューソーはその剣を、手で掴まずに落下する前にスパイル目掛けて蹴り飛ばした。
予想外の一手にスパイルは対処できず、手のひらに剣が突き刺さる。
だが、蹴った体勢から次の体勢に移行しようとするも、まだすぐ側にいたエイビーツの振るった剣には対処できず、リューソーは左腕を切り落とされてしまった。
リ「ッ…!」
おびただしく左腕の切断面から飛び出る血。リューソーは激痛に耐えながら、怯むことなく、逆にその血をエイビーツの顔に向けてぶちまけた。
エイ(まだ、やるか、!)
視界を奪われたエイビーツは、リューソーを近づけまいと、真っ暗な視界中でお粗末に剣を振るう。しかし、リューソーは冷静にその剣を全て避け、右手の拳をエイビーツの腹にねじこんだ。
勢いよく後方へ転がって行くエイビーツから視線を外し、スパイルを見ると、速度はそこまでない水魔法がいくつも飛んできた。
リューソーは難なくそれを避ける。が、それが自分に向けられたものではないことには気づかなかった。
ス「おら、洗い流してさっさと立ちやがれ」
エイ「言われなくとも」
エイビーツは既に立ち上がり始めていた。リューソーは急ぎ、スパイルの方へ距離を詰めようと走り出す。が、何故か真っ直ぐに走れず、右へ倒れかかる。
その様子を見て、スパイルはリューソーに問いかける。
ス「もう一度聞くぞ、
いつまで、続ける気だ?」
リューソーは右足で踏ん張り、倒れるのをギリギリで持ち直して、答える。
リ「なら、何度でも言うぞ?
俺は!死ぬまで、負けねぇ!」
右足で地面を蹴り上げて、スパイルとの距離を飛ぶように詰めるリューソー。
迎撃用の魔法を足と右手だけで、幾らか攻撃を受けながらも対処し、何とか走り続けるリューソー。
やがてスパイルの領域内へと入る。
ス「お前、知らないはずがないよな、?
この魔法は仲間がいない時が、一番強いってことを」
急速に距離を詰めるリューソーと、焦る様子もなく深呼吸をして落ち着いているスパイル。
スパイルは透明な水の中に絵の具を垂らすように、魔力で満ちた空間に魔法を加える。
パキィ!!
瞬間、半径5m程度のスパイルの領域が余すところなく全て凍り付いた。スパイルは右手に予め込めていた火魔法をゆっくりと放出して、自身の周りだけを溶かす。
顔の寸前まで伸びているリューソーの拳を確認した後、リューソーに背中を向けて氷を溶かしながら歩き進み、氷の世界を脱出する。
ス「・・・死んでくれよ
お前が生きてるから…諦めないから…あの子も淡く、細い絶望的な希望を持ってしまってんだよ」
リューソーは氷漬けになったまま、エイビーツの神技によってぶった斬られ、脱落した。
リューソー、脱落。
よって、「空兎」の勝利。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜現実也。とても疲れた也〜
*タイト視点*
コ「2人とも、あれできる?」
シ「………いや、難しい。魔力が空気の流れや風ですぐに思った形を保てずに流れて行く。」
タ「・・・できなくはなさそうだけど、これめっちゃ集中いるよ」
コ「これさ、充填されている時は、普段自然に流れ出る魔力すら流れ出る余地が無いから、初期消費量は多いけど無駄は無くなるよね?」
シ「そうそう。
そして魔法を作る工程として、魔法を想像する、魔力を流す、魔法を完成させる、放つ、の手順が必要なのに、1番時間のかかる流す作業が減るのはかなりの強みだね」
タ「俺たちでそれができるのは、杖から出す魔法の1つだけだもんね」
レ「しかも、既に魔力で立ち込めたところから生成されるから、魔力探知だけじゃ魔力か魔法かの区別がつかずに反応が遅れる」
((総評!すごいらしい!以上!))
レイが部屋の中から戻ってきた。表情は少しだけ不服というか、不完全燃焼というか、ちょっとだけ悔しそう。
パ「コクウは何があったんだ?急に気絶してさー」
コ「あははー、あれはねー」
少女説明中、、、
タ「今回、なんか初見殺し系多かったね」
コ「そうだねー。でも、タイトのやつは油断しすぎだから、避けれたやつだから」
タ「うぐ…言い返す言葉もございません」
ちょっとだけ、理不尽だと思っていたり、思っていなかったり。
レ「今回は、私がタイトに伝えるのが遅かった。
次回からは、タイトを抱えて動けるように、いつでもそばに居るように努める。」
レイが真っ直ぐにこちらを見つめて、真剣な表情で言ってくる。
タ「いやァ〜、それはちょっと〜、あははー…」
コ「次同じようなことあったら、この冗談を本気にするかも」
タ「はい、気をつけます。全力で警戒を解きません」
コ「よろしい」
レ「冗談…?」
プチ反省会を開いていると、リューソーも部屋から戻ってきた。パ「あれ、本気の目だったな」シ「ね、凄かったね〜」
リ「わりいー、負けちった〜」
リューソーは悔しさを隠すかのように、明るく笑いながら部屋から出てきた。
シ「結構惜しいところまでいってたけどね〜」
パ「初手人数不利になったからな」
タ「すみませんでしたッ!」
リ「草」
こりゃあ、今日一日はみんなに弄られそうだ。
コ「リューソー、大丈夫なの?
スパイル?だっけ?あいつと何か言い合いしてたけど…村とかなんとか」
リ「あぁ…俺は、大丈夫だ」
リューソーは特に気にした様子もなく、いつもの笑顔のままサラッと答えた。
その姿を見て少し安心した。正直、あまりにもな言われ様に、内心怒っているのでは?とか、無理しているんじゃないかと心配していた。
リ「俺ちょっと、あいつと話したいことあるから先出るわ」
パ「こっちはお前待ちだったっての」
リ「そうだったのか、!」
タ「じゃあ、みんな出ようか?」
レ「わかった」
俺たちは忘れ物がないことを確認して、仮想空間の部屋を後にした。
協会に戻ると、時間がまだ少ししか経っていないとはいえ、人が結構残っていた。
そんな中で『空兎』の隊員の3人が食堂の椅子に座っているのが見えた。ただ、その中にスパイルは見えない。リューソーはその3人に近寄って話しかけた。
リ「よっす、!おつかれー
スパイルどこいるか知ってっか?」
キ「おつかれ、スパイルは戦いが終わった後すぐに出て行ったよ。どこに行ったかは分からない」
エイ「変なことを起こしてなければいいが、」
ファ「ナンサーとマーキュリーが着いてるから大丈夫でしょ」
リ「そっか、、ちょっと話したいことあったんだけど...まぁいいか。」
声が少し低くなり、少し残念そうな表情をするリューソー。
リ「あいつどんな感じだった?ちょい不機嫌だった?」
ファ「うーん、割かし不機嫌になることが多いから、いつも通りといえばそうかも」
リ「あいつはすーぐ顔に出るからな〜」
エイ「間違いないな」
リューソーの一言に笑い出す3人とリューソー。ひとしきり笑った後、レイが1歩前に出て、キィスペスに質問を投げかけた。
レ「ねぇ、あなた途中途中魔法を使おうとしてたのに、使わなかったのはどうして?
あなた、魔法が得意そうなのに…」
レイの問に、キィスペスは少し驚いた表情を見せたあと、少し笑いながら話し始めた。
キ「気づいてたか…。
そうだな…俺は元々、魔法を主体で戦う魔法使いだったんだよ。」
タ「元?今は使わないの?」
なにか理由があるのか気になり案件だったので、少し食い気味に聞いてしまった。
キ「あぁ、使わない…と言うより、使えないが正しいな」
キ「少し、長くなる、
外を歩きながら話そうか」
キィスペスがそう言うので、とりあえず次に受ける依頼だけ、受領してタイト達はみんなで協会を出て歩き始めた。リ「これおもろそう」タ「よし、じゃあこれにしよう」
協会を出て歩き始めてすぐくらいに、キィスペスは長袖と手袋で隠している自身の両腕を、俺たちの前にさらけだした。
初めて見るその光景に、正直驚きすぎて声が出なかった。
キィスペスの両腕は指先から手首の少し下にかけて、薄い7色の色が腕の輪郭をなぞったかのように形どったような、半透明の腕だった。
モヤのように7色の色は連続的に色を織り成し、色が定まることがなく常にゆっくりと動き続けている。腕の向こう側が見えるのに、実態はある。触れることも出来る。その部分だけ、魔力だけでできたかのような魔力の濃度を感じる。
腕を腕として視覚的に見ることはできるが、頭のどこかでそれを腕として認識するのが困難な、そんな不思議な腕。
リ「魔透病か」
リューソーがぽつりとその病気?の名前であろう言葉を口にした。
キ「よく、知ってたな」
リ「まぁ…な、」
リューソーはどこか寂しそうな表情で頷いた。
シ「僕も聞いたことがある」
コ「なんだっけ?魔法が使えなくなるとは聞いたことがあるんだけど、、、」
キ「そうだな。この病気は、魔法使いを殺す病気だ」
キィスペスは街を歩きつつ、手袋を付け直して再び腕を隠しながら断言した。
キ「この病気を発症してから魔法を使うと、この半透明な部分がどんどん広がっていく。そして、無視して魔法を使いすぎるとやがて、全身が半透明となり、死に至る。」
パ「だから、魔法使いを殺す病気なのか」
キ「そうだ」
キィスペスは頷きながら、次の言葉を紡ぎ出す。
キ「原因は不明。魔法使いが発症することが多く、治療法も特効薬もまだない病気。発症してから完治したという、話すら聞いたことがない。」
リ「そもそも対処法が、『魔法を使わなければ良い 』と結論づけちまってるから、病院とかで大した研究とか治療の開発が進んでいないんだよな」
キ「そう…なんだな、」
リューソーの言葉にキィスペスは悲しそうな、諦めたような顔をした。
キ「俺さ、元々は結構すごい魔法使いだったんだぜ?階級もそれこそ個人で二等星まで昇り詰めてさ、ここじゃなくて、前の仲間と一緒に難しい以来とかをこなしてたのに…」
キ「この病気が発症して魔法が使えなくなって、俺は…!
・・・部隊を追放された。[魔法の使えないお前には用がない]ってさ」
コ「酷い…」
全くもってコクウと同じことを思った。キィスペスは今さっき言われたことかのように、本当に苦しそうに自身の過去を告げる。
キ「そんでさ、俺冒険しかしてこなかったからさ、それ以外の道を知らなくて、途方に暮れているところを今の部隊に誘ってくれたのが、スパイルだったんだ」
タ「え、あいつが?」
(やべ、つい本音が出ちゃった。)
エイビーツは吹き出して、ファーレンが怪訝な表情でこっちを見てくる。本当にごめんって。
キ「まぁ、今日のあいつを見てたらそう思うよな〜。あんなこと滅多にしないんだけどな、なんでだろう」
リ「多分俺のせいだな!がはは!」
なんでリューソーが笑っているのかはさておき、俺は疑問に思ったことを聞いてみる。
タ「それって、解呪とか回復系の神技とかでどうにかならないの?」
キ「無理だな。試したことがあるけど、なんの効果も無かった。1回、腕を切り落として再生させるところまでやったことがあるけど、再び生えてきたのがこれだった」
シ「それは…辛いな…」
シキは魔法を主体として戦うから、キィスペスの気持ちがわかるのだろう。自分のことかのように悔しそうな表情をして話を聞いている。
キ「まぁでも、もういいんだ。俺は俺で今は楽しくやってるから。
あの日、スパイルにこの隊に誘われてから、俺は生まれ変わったんだ。魔法使いとしての俺は確かに死んじまった。けど、ゆっくりとしか進めていない今の俺を、みんなは急かすことなく受け入れてくれている。
それだけで俺は幸せだよ。」
キ「全部、スパイルが俺を誘ってくれたおかげだよ」
キィスペスは最後にそう締めくくった。その顔は悪いものが取り除かれたようないい笑顔だった。
ファ「元々この隊は、私とこのデカブツとスパイルの3人の隊だったんだけどね、スパイルがそういう奴を見過ごせないみたい」
エイ「デカブツです」
ファ「マーキュリーもあの神技だからさ、気持ち悪がられて能力も上手く扱えてなくて路頭に迷っていたところをスパイルが誘ったんだ」
ファ「ナンサーは、、、いつの間にかいたし」
なるほど。スパイルという男は俺たちの印象とは違い、かなりの人格者らしい。・・・ナンサー、。
キ「魔法を使おうとするのはただの癖だな。長年使ってきたんだ、そうそう簡単に意識を変えるのは難しい。けど、少しずつでも弓を極めていこうと思っているよ」
キィスペスはどこか遠い目をしながら最後にそれだけ言って、俺たちは別れることとなった。
ファ「じゃあなー!この街でまた会うだろうけど、今度あった時はまた戦おーなー!
私、お前に負けたの、絶対に忘れねぇから!」
リ「おぅ…あんなに清々しい恨み言葉あるんだな」
エイ「次はちゃんと避けろよー」
タ「うぐっ…」
あいつがやってきたくせに、どの口が言いやがるってんだ、!全く。
シ「そろそろ日も落ちて来たし、夕飯にしようか」
レ「そうね」
コ「ご飯の返事が相変わらずお早いこと」
パ「あれ?誰か忘れているような、、」
ロ「私だな」
((お前、居たのか…))
リ「忘れてたなこりゃあ」
その後は、初めて来た街で色んな人にご飯屋さんを聞いて、空いているところで夕飯を取って宿へと行った。パ「私の…ご飯、、、」レ「冗談だよ」リ「冗談に聞こえねー」
宿では、いつも通り順番に風呂に入って、日課の紙飛行機を窓から投げ飛ばした。
今回のはちょっと出来が悪かったのか、グワングワンしながらどっか飛んで行ってしまった。難しい。
旅で疲れたということもあって、ゲーム大会は行われずに就寝することにした。
音1つ聞こえない、深淵のように真っ暗な夜中。
静かな部屋の中で、リューソーが静かに外へと出て行った。その音を聞いた俺は目が覚めてしまった。
少し気になった俺は、シキは…寝ているようだったので、1人で音を立てないように部屋を出てからリューソーを追いかけた。
夜中はなにか長袖のものを着ていないと少し肌寒く感じ、音1つしない市街地がさらに寒さを引き立たせているような気がした。
街頭に照らされたリューソーを俺は後ろから追いかける。リューソーが建物の角で曲がったので、後を追うように俺も曲がった。
壁│三リ<ニュ、
タ「ドッヒャア!」
声も出さずに壁から生え出てきたリューソーに、俺は言ったことも聞いたこともないような叫び声を、この閑静な夜中の闇の中に響かせた。
リ「ヒャッヒャッヒャッ、」
余程俺の反応が面白かったのだろう。取り憑かれたように、浅い呼吸で笑いが止まらないリューソー。
(ぶっ〇したい。)
リ「ひー、ひー、あーおもれー、!
どうしたんだよ、人のケツばっか追いかけて」
タ「笑い過ぎだ。
なんも言わずに出て行ったから気になってさ」
リ「ほら、前も言ったじゃん。眠れない日は星を見に行くのが好きだって」
そういえばそんなことも言ってたな。忘れていたぜ。いやでも、誘ってくれてもいいのに。
タ「あー、でも、誘ってくれても良かったのに」
リ「それはまぁ、そうだな!
よし!行くか!」
タ「あ、え、そんな簡単にいいのね」
少し歩いて、街を囲う塀の上へと上り、そこで2人して並んで仰向けに寝転んで、星を眺めた。
雲ひとつない静かな夜。月明かりもないので今夜は星がよく見えた。
お互いに無言のまま何分か空を見上げていた俺は、リューソーが寝たんじゃないかと気になって、ちらっと横を見てみた。
リューソーは起きていた。静かに星を見つめていた。でも、ただ星を見ているだけじゃないような気がした。
星を見ている時のリューソーは、星を見ているようで、別の何かを見ている。いつもの笑った表情じゃなくて戦っている時にしか見せない、あの真剣な表情を少し砕いたような、何かを考えているかのような、そんな表情をしていた。
リューソーは無数に散らばる小さな光を際立たせる真っ暗な夜空を、どこか遠くを、見ていた。
数分が過ぎた後、リューソーは満足したのか、帰りの提案をしてきた。
リ「そろそろ戻っか」
タ「そうだね、」
特に断る理由もなかったのです、そのまま帰ることにした。その後も特に事件も事象もなく、静かで月のない、からっぽの街月夜の下を歩いた。




