第65話 地獄へ誘う歌姫
/639年9月13日/
おどろおどろしい程に静かで冷たい夜。
PM19:30過ぎ
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*視点 戦闘時*
タイトが敵を撃破し、一息を着いたところで加勢に行こうと歩き出した。
タ(うーん、ちょっとバラけてるな。しかもみんなまだ戦闘中か)
魔力探知でみんながいるであろう方角に目を向けて探知すると、結構個人個人で戦っているらしく、どこに行くべきか迷うタイト。
タ(1番近い人でいいか。近いやつはどこだー?)
タイトが探知の仕方を自身の視界から、俯瞰して見る方に切り替えたところ、自身のやや後方に1人の魔力を探知した。戦っている様子もなく、周りに誰もいない。
タ(こんな暗い中、何してるんだ?こっちは危ないぞ?)
タ(害はなさそう。その人のためにもさっさと戦いを終わらせないと、)
そう判断したタイトは、ひとまずその人物を無視して仲間の方へと走り始めた。
?「〜〜は〜〜が〜♪」
その時、奇妙な程に静かなこの林の中に、小さくか細い声の歌声が、タイトの耳に聞こえた。
タイトの後方からの声。
上手だ!とか、なぜこんな場所で!?とかではなく、タイトはただ、その歌の何かに、自分でも分からない異常なほどの興味が湧いた。
タ(女性の人?)
遠くにいるのか、まだはっきりとは聞こえないが、声色からして女性だとタイトは判断した。
?「〜〜と 〜ろの〜♪」
タ(いや、そんなことよりみんなの所へ)
タ(?!)
そこでようやくタイトは気づいた。不審に思い立ち止まってしまった為気づかずにいたが、動き出そうとした今、ようやく自分の現状を知る。
タ(体が、動かない!?)
ピクリとも動かない体。声を発しようとするも、まるで声の出し方を忘れたかのようで声が出ない。
やがて、声は段々と大きくなる。いや、声が大きくなったのではなく、声の主が近づいてきているのが気配、足音で分からせられる。
?「〜の〜にで〜〜はないわ〜♪」
寒くもないのに全身に鳥肌が立つ程の悪寒、動く事の出来ない絶望。拒絶反応すら覚える恐怖心。
それを嘲笑うかのように思える歌声。
タ(動け!動け!頼むから動いてくれ!)
?「〜〜な声で こう囁く〜♪」
やがて、歌声がはっきりと聞こえる距離まで近づいてきた。そして、1本の指先でタイトの背中の輪郭を少しなぞる。
タ(今、真後ろに、?「鏡よ、鏡」
そう歌いながら、その少女はタイトの目の前に姿を現した。
ニタッ、と顔にこびりつけたような表情で、タイトの視界全てを覆うほどの距離まで近づいた少女。全身を真っ黒の服で身を包んだその少女は次の瞬間、
?「世界で だーれよりーも、イタズラ好きなのは誰ですか〜♪」
そう歌いながら、その手に握られた包丁で動けなくなっているタイトの四肢の左腕以外を何度も何度も突き刺し、切りつけ始めた。
タ(あぁあぁぁああぁぁぁぁぁ!!
熱い!全身が傷口が焼けるように痛い!!)
声すら出せずに自分が切り付けられている所を見せつけられ、痛みと恐怖と刺される度に吹き出す血で脳みそが壊れそうになるタイト。
?「そーれーはーあーなーたですーと、写る私が笑うー♪」
最後に少女はタイトの顔を両手ですくい上げるように持ち、不気味さを覚える笑顔と恍惚とした表情を両立させた顔でタイトを見つめた。
タ「があぁぁあぁぁぁあぁぁあ!!!!」
タイトの悲鳴がこの林の中で響き渡る。
ここで、ようやくタイトは体を動かすことができるようになった。ただ、腕と足はほとんど動かすことができないが。
タ「ああああ!!ああ!ああああああ!!!」
そして、その呪いが解けたことでタイトはその場に崩れ落ちるように膝から倒れた。
だが、それを支えるように少女はタイトの顔を自分と見つめ合えるように持ち、タイトが膝立ちで見下ろす状態を維持した。
?「あぁ、あなたの顔、僕の好みにぴったりの顔だ!
その恐怖に満ちた可愛い表情も、先程の勇敢に立ち向かうかっこいい表情も、全部全部とっても良い!」
少女は突然、意味のわからないことを言い出した。さらに少女は続けて、
?「ねぇ、あなたの名前はなんて言うのかな?あ、聞いた側が先に名乗るのが礼儀か。」
少女はコロコロと表情を変えながら話し続ける。
?「僕の名前はリィンカ・スカビオサ。女神、マイサ教団の暗殺部隊所属。通り名は『地下アイドル』」
ス「ねぇ、あなたは?あなたの名前はなんて言うの?教えて?なんて呼んだらいい?好きな食べ物は?好きなことは?普段何をしてるの?
ねぇ、あなたを教えてよ、!」
リィンカ・スカビオサ。ショートに切られた女性にしては短めで淡い青色の髪。目は白が多少含まれたような赤。細身で身長は目で見て分かるほどにタイトよりも小さい。
捲し立てるように話す少女。タイトは痛みとあまりにも意味不明な現状に声も出せず、理解が困難な様子。
ス「あぁ、怖くて話せない?ごめんね?痛かったよね?でもね、こうしなくちゃダメだったの。許してね?
フフ、今のあなたの表情、本当に良い。好き。大好き。もっと見せて。もっと、もっと色んな表情が見たいな」
ス「あぁ、あなたが欲しい。あなたを攫って、僕の家で一緒に暮らしたい。
でも、僕はあなたを『殺さなくてはいけない』。こんなにも愛おしいのに、何とかならないのだろうか...そうだ!」
少女は急に思いついたように声を上げた。
ス「ブルーマド様に取り合って、あなたを僕の奴隷として僕の家で飼うのはどうだろう!逆らえないように魔法も、問題の神技と種族覚醒も封じて、四肢を失う、のは可哀想だから鎖で繋いで、僕の監視下に置けばブルーマド様も許してくれるはずだ!」
ス「そしたら、あなたも生きていられるし、神技も種族覚醒も発動しない!僕はあなたと暮らせる!実にいい考えだ!ねぇ!あなたもそう思うだろう!?」
少女は勢いよく自分の思いついた考えをタイトに尋ねるも、タイトは何も答えなかった。
タイトは激痛で自由に動かすことの出来ない中、体は少女に向けて座り込んだ姿勢のまま、左肘だけを使って匍匐前進をするような形で、牛歩にも劣る歩みで距離をとろうとしていた。
タ(やばい!こいつやばい!今まで会った人間の中で1番イカれてる)
ス「あー、逃げちゃだーめだよー?」
少女がタイトに焦点を合わせ、少しずつ遠ざかろうとするタイトを見つけ、逃がさないように歩み寄る。
タ(もう、今しか!)
タイトが地面に着いた右足に魔力を流し、そのまま地面に流そうとしたそのとき。
ザン!
タイトの右足の甲を貫通して地面に突き刺さる1本の包丁。
タ「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
ス「あなたが足から魔法を出すのはさっき見てたよー」
少女が投げた包丁がタイトの足の甲に突き刺さり、魔法の生成を阻害する。少女はさらに収納魔法からもう一本の包丁を取り出した。
ス「だからさ、もっと一緒にお話しよ?僕、あなたのこともっと/
ゆっくりとタイトに近寄る少女は、横から飛んできた氷魔法に包丁で受けようとするも、
ス(あ、こりゃ無理だ)
氷魔法を受けた衝撃で横へと吹き飛ばされてしまった。そしてそのまま、タイトに負けて伸びていた先程の敵にぶつかる。
ス「いてっ!...あれ?意識がない、回復させてあげよーっと」
少女はそういうと泥沼に浸かったまま、動かなくなっている敵に回復魔法をかけ始めた。
敵「はっ、!」
ス「ケシック、大丈夫ー?ちょい遠くから見てたけど、ちゃんと負けてたね〜」
ケ「見てるなら助けてくれても良かったじゃないか、!それに本名で呼ぶな」
ス「あなたの通り名とかどうでも良くて忘れちゃった、あは!傷は治しといたから、あなたは先に戻っておきな?」
ケ「悔しいがそうさせてもらおう」
そういうと、敵の1人はタイト達とは逆方向に歩いて暗い林の中へと消えて行った。
シ「タイト!!大丈夫かい!?」
先程の氷魔法はシキのものらしい。シキは慌ててタイトに近寄り、回復魔法を掛けようとしたが、少女が既にこちらに向かって歩いてきているのが目に見えた。シキはタイトの目の前に立ち塞がり、直ぐに戦闘態勢に入って杖を構える。
ス「あなた、タイトって言うんだ〜!どっかで似たような名前聞いた事あるな...
まぁいいや!」
ス「うんうん!新しい子も僕の好みの顔だー!まぁタイトの方が好きだけどね〜!
でも、不意打ちは酷いんじゃない?何も言わずにさー?」
シ「黙れ。タイトをこんなにしておいて何が卑怯だ。そもそも襲撃してきたのはそっちだ」
ス「あら怖い。でも仲間思いで良い部隊だねー!ちょっと妬いちゃうなー!」
完全に常軌を逸してしる少女。シキが怒っている所を初めて見るタイト。シキの態度には圧があり、タイトですら少し恐怖を覚えるものだが、少女はそれをなんとも思っていないのだろう。
急にへにゃ、っと口元を抑えて笑い出し、
ス「タイト、タイト、タイト!フヒヒ、あなたのこと、1つ知れちゃったな〜!ねぇねぇタイト、あなたの苗字は?ねぇ、なんて言うの?もっと教えてよ!新しいあなたが教えてくれてもいいんだよ?」
シ「・・・なんか怖いなあいつ」
タ「そうなんだよ、!めちゃくちゃイカれてるのあいつ!まじで怖かった!」
心底嬉しそうにタイトの名前を連呼して叫び、笑う狂った少女を見て、嫌悪感を抱くシキと仲間が来たことによる安心感で今にも泣き出しそうなタイト。
タ「シキ!気をつけて!あいつ、どういう条件かはわかんないけど、こっちの動きを止められる神技持ってるから」
シ「そうか、それは厳しいな。使われる前に倒すか」
ゆっくりと大胆不敵にも正面から歩いて2人に近づいていく少女。シキはその歩みを止めようと、魔法で牽制しようと杖に魔法を込めたところで、少女が大きく息を吸い込んだ。そして、少女は再び歌い出した。
ス「君は出来る子知ってーるよ 辛い時は 弱いくらいが丁度いい あたしそれでもすきだよ」
タ(また!動けなく、!)
シ(条件は歌か!)
動けなくなった2人に包丁1本で、容赦なく近づいていく少女。シキは勘で咄嗟に心臓の位置に腕を持っていき、即死は免れるようにはしていた。
ス(うん、ちゃんと心臓は守ってる!ちゃんとしてるね〜
でも、かっこいい人好きだから無駄に殺すつもりないんだよね〜!てか、この人は殺す必要ないし〜)
ス「お願い 君が欲しいの 名前を呼んでよ」
少女はシキもタイトと同じように、腕と足を連続で切り付けた。そしてさらに、包丁をシキの胸の辺りに先端を軽く押し当て、
ス「いつだって 会いに参上! 君はひとりだ」
そのまま肋骨の間を通り抜けるように、肺を突き刺した。シキの口から溢れ出てくる血。さらにもう片方も突き刺して完全に自分一人では回復できないように仕立てあげた。
ス「だから歌う 『1人じゃない』 もういいでしょう?」
少女はすかさず簡易な回復魔法をシキに掛けて、死なないように、だが完全には肺の傷口を塞がないように回復させた。
ス「ソロプレイはお仕舞い なんだっだっだってば」
少女は最後にシキを軽く押して、足に力が入らなくなったシキはそのまま背中から倒れた。
ドサッ、
シ「ゴハッ、ガハッ、!」
口から咳き込めば咳き込むほど血が出てきて、苦しそうにもがくシキ。
シ「ヒュー、ヒュー、」
呼吸をしようにも、肺に穴が空いていて上手くできていない。
タ「し、シキ!!」
ス「心配しないで、あなたの仲間が死ぬことはない。ちゃーんと回復魔法で死なない程度に治してるから」
タイトに説明し終えた少女は、悪いことを思いついたように薄く笑ってタイトに話しかけた。
ス「でもぉ〜、もしもー、タイトが僕と来てくれるってのなら〜、この子を完全に回復させてあげるんだけどな〜?」
タ(〜〜ッ、!!!)
タ「あ...あ、そ、それでシキが助かる、なら/
ドンッ!
シキが激痛に耐えながら右腕を上げて、少女に向かってめいいっぱいの風魔法を放った。
魔法をまだ使える余力があるとは考えていなかった少女はそれをモロに食らい、後方へと少し吹っ飛んだ。逆に、踏ん張りの効かないシキは自身の風魔法でタイトと共に後ろへと飛んで行った。
タ「ぐっ、」
シ「タイト..に、逃げて...きみを、これ以上...巻き込めない」
タイトの上に乗っかったシキがタイトの足に回復魔法をかけながら、タイトに逃げるように促す。
魔法には酸素を使用する特性上、呼吸無しの魔法使用は1番苦しいはずなのに、シキは自分よりもタイトに回復を掛けてあげていた。
タ「ち、違うんだ!あいつらの、狙いは!」
自分なんだ!そう言いたいが、言えない。言いたくなかった。巻き込んでしまったことによる申し訳なさが、ここまで傷つけてしまったことに対する罪悪感が、自白することを拒んだ。
タイトがそんなことで悩んでいる間にも少女は近寄ってくる。が、
ダンッ!
ス「キャ!」
タイト達の目の前で少女が予備動作も、魔法の気配もなく、突然横に吹き飛んだ。
コ「シキ!」
まるで瞬間移動かのような速度で移動してきたコクウ。コクウはシキに駆け寄り、シキを抱き抱えた。
コ「大丈夫?!」
シ「僕は..いい...だから...タイトを、逃がして...」
タ「違うんだ!」
まだタイトを逃がそうとしてくれているシキに、タイトは気持ちを吐き出すように、掠れそうな声で、言葉を出した。
タ「俺...なんだ、アイツらの狙いは...!」
コ「・・・」
シ「」
シキとコクウは黙ったままでいた。タイトは続けて、
タ「だからさ、2人は逃げてよ...ごめんねシキ、そこまで傷つけちゃって...俺は、大丈夫だから」
タイトはそう言うと、回復魔法をかけてもらったが、まだ完全に治りきっていない足で立ち上がろうした。が、そんなタイトの肩をコクウが、手で優しく抑えて立ち上がらせないようにした。
タ「ッ!
なんで!」
ス「ちょっとー、あなたたちはどんだけ不意打ちをするのさー!しかもなんか全然勢い止まんないしさ〜」
少女が戻ってきた。その表情には、声には少し怒りが滲み出ていた。
コ(シキを治すには時間がかかる。タイトなら直ぐに回復し終える。)
コ(・・・タイトにシキの回復をしてもらお)
コクウはタイトの腕と足を即座に回復させると、
スっ、と立ち上がり、
コ「タイト、シキの回復をお願い」
とだけ言って、少女の方に向かって歩み寄って行った。コクウの後ろ姿だけで分かる。コクウは今、本気で怒っている。
タ「ま、待って!あいつの神技は!俺も加勢に!」
シ「タイト、大丈夫。さっき見てたし、私も食らったから知ってる。それにタイトは今、刀持ってないでしょ?だから、シキの回復に集中して。」
タ(シキの、声?)
ろくに話すことのできないシキの声で、コクウの口調で聞こえてきたそれにタイトは困惑する。
それどころか、周りの環境音が一切聞こえないことにタイトは気づいた。
ただ、タイトはシキ?コクウ?に言われた通りにシキに回復魔法をかけ始めた。
ス「大人しく渡せば痛い目見なくて済むのにー」
コ「・・・」
少女が話し始めてコクウは歩みを止めて、一切動かなくなった。
ス「無視ー?まぁいいや」
少女はまたも大きく息を吸い込み、歌い始めた。
ス「花びらが散ればあなたとおさらば♪」
ようにタイトは見えた。
タ(今、歌っている、のか?さっきから声が、聞こえない?)
タ(でも!コクウが!)
シュン、
この時、ようやくタイトの手元に刀が戻ってきた。
タ(遅い!今じゃない!)
恐らく歌い始めたであろう少女の目の前で動かずに、両腕を無防備に下げたまま、立ち尽くしているコクウ。
意気揚々と上機嫌に歌いながら近づく少女。
ス「それならば僕と踊りませんか♪」
そしてコクウに向けて包丁を振りかざした。
ス「宙を舞う花が どうもあなたみたいで/グジャァァ、
瞬間、歌っていた最中だった少女の目の前でコクウが突如動き出し、耳元を覆いたくなるような裂傷の音が響きながら、素手で口元をビリビリに引き裂いた。
ス(?!?!?!)
ス「あ、あぁぁあ」
突然の出来事に、少女は状況の理解が追いついていない様子。
コ「早く回復しないと、出血多量で死んじゃうよ?」
コクウが静かに感情の篭もっていない声色で忠告した。
タ(何が、、、?あ、音が聞こえる。)
少女は慌てて自分の口元に手を当てて、回復魔法をかけた。少女は回復魔法が得意なのだろう、即座に引き裂かれた口元を元に戻し、外見では分からない程に回復した。しかし、
ス「あんえ゛?」
声がまともに発せないようだ。拙い言葉で出た音にコクウは自身の右手を開いて見せながら答えた。
コ「やっぱり、コレを完全に作り出すのはできなかったかー」
そう言って開かれたコクウの手にあったのは、止血だけはされた舌の先端だった。
ス「ッ!あえじえ゛」
コ「返して欲しい?」
少女は警戒しながらも、頷くしかないように、渋々頷いた。
コ「そう、じゃあ約束して。これを返してあげる代わりに神技を使わないで大人しく捕まることを。」
コ「破ったら、殺すから」
ただの口約束に少女は深く頷いた。
タ「なんで、契約魔法ですれば!」
シ「だめだ...!」
回復が間に合ったのか、シキは普通に話せる程度に回復した。シキは慌てた様子でタイトに懇願した。
シ「タイト!止めてくれ!このままじゃ、コクウが!」
タ(ッ!嘘の約束で、治ったらコクウを殺すつもりか!?)
タイトは急いで立ち上がって、2人の少女の方へ走り出した。
シ「コクウが人を殺してしまう!」
タ「……え、?」
ス「抱きしめて愛が♪」
治った瞬間に即歌い始めた少女はすぐさま、包丁をコクウに向けて振るった。
ビタっ!
と、包丁はコクウに届くことはなく、何かに止められたかのように空中で動かせなくなっている。
コ「タイト、こいつ今、歌ったよね?」
タイトに向かっても圧のある聞き方をするコクウ。そんなコクウに恐怖を感じたのか、少女の歌が止む。
タイトは静かに頷いた。するとコクウは見ることなく、理解したようで、
コ「そう、じゃあ」
コ「死ね」
コクウが少女の首を片手で掴み、持ち上げた。ぎりぎりと音を立てながら、手のひらを閉じていくコクウにタイトは
タ「ダメだ!!」
と、コクウの行動を止めるよう大声で叫んだ。コクウは首を掴みながらも、一旦閉じることだけはやめて、タイトに話しかけた。
コ「甘いよ、タイト。こういう奴はちゃんと殺しとかないと。後々後悔するのはタイト自身になるかもしれないから」
冷静に考えて正しいのはどちらだろうか。野放しにすれば、今後必ずまた現れて邪魔をするであろう存在を殺すか。人権という薄く、守りたいものを守ることすら困難となり得る場合のある人間としての権利を遵守するのか。
どちらも正義ではある。ただ、正解はすぐには分からない。答えなんか無いかもしれない。
そんな問題を前にタイトは答えを探していた。
タ(どうすれば、、、エレナ、エレナなら!)
タイト出した選択は、
タ「それでも!殺したくない!だって、!俺たちは、勇者なんだから!」
はっきり言って幼稚な考えである。タイトの選択にコクウは黙ったまま、投げ放すように少女を押し投げ、両手両足を土魔法で拘束した。
コ「命拾いしたね。うちの隊長が優しくて」
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*タイト視点*
シュン、
魔道具のローブも着た状態で戻ってきた。これで全部戻ってきて一安心。
リ「おい!お前ら大丈夫か?!」
次第にみんなが集まってきた。リューソーは頬に切り傷があり、パルスは少し足を引きずり、レイは服の所々に汚れが見られた。
タ「パルス、足大丈夫?」
パ「おう、少し捻ったって何だこの状況」
一先ずみんな無事で良かった。リューソーとパルスは、捉えた少女と俺たちの状況を見て、驚いて一瞬固まって何度も見比べていた。
レイは目が合うと同時くらいに、焦ったように走ってこちらに近寄ってきた。
レ「タイト、!大丈夫?!こんなに怪我して、!誰が、こんなに!」
そう言って、横に捉えられた少女を見つけたレイは、少女を凝視して、肩を震わせながら
レ「あ、、、あなたが、」
タ「レイ、落ち着いて、俺はもう、大丈夫だから」
震えるレイをなだめる。
ス「あれー?もしかして、タイトのことが好きなんですかー?!」
レ「、!急に、何を言って、」
ス「僕もタイトのこと好きになっちゃいました!」
ス「さっき、殺されそうな所をタイトが、[私に生きてて欲しい]って![殺さないで欲しい]って、懇願してました!私に死んで欲しくないみたいです!」
(何言ってんのこいつ)
タ「そんなこと誰も/ス「なので!これからは敵同士、正々堂々!
頑張りましょうね!」
レ「……」
こんな状況で良くもまぁ、そんなことを言えるものだ。肝が据わっているなんて次元じゃない。再びレイが震え始めた。怒ってそう。
コ「うるさい。今からいくつか質問をする。7秒以内に答えろ」
ス「怖いな〜。まぁ答えられる範囲でなら」
ダン!
少女がもたれかかる木に、顔の横スレスレのところに足の裏を強く押し付けながらコクウが命令する。
コ「お前は、何?どこの誰?」
ス「・・・」
コ「4、3」
ス「僕はこの世界で信仰されている女神、マイサ教団の暗殺部隊所属のリィンカ・スカビオサ」
少女は素直に答え始めた。
コ「そうか、じゃあお前たちの目的はなんだ?」
ス「・・・」
コ「3、2」
タ(早くなった?)
バチッ、
この時、電気が流れるような魔力を微かに感じた。ただ、一瞬探してみたが、敵はどこにもいないので気のせいだということにした。
ス「僕たちの目的はタイト。あなたを殺すことだ。タイトの種族が極夜である可能性があり、女神マイサの祝福を無下にするとして、始末することが目的」
コ「・・・タイトだけ?その判断は?レインは対象外?」
レ「ッ、」
コクウの質問にレイの肩が少し跳ねる。
ス「昔、極夜を絶滅させる為に教団が大事件を起こしたことがあったでしょ?その時の生き残りから生まれた子どもがタイトなんだってー。
だから今のところ狙ってるのはタイトだけ」
タ(父さんが...極夜、なのか?)
知らなかった。父さんはあまり自分の過去について話す人では無かった。
でも確かに、何度か手合わせしてもらった時とか、利き手麻痺してて、利き手じゃない左手で戦ってるはずなのになんか強いなとは思っていた。けど、そういうことなら納得のいくところはある。
シ「なんでそんなことを軽々しくできるんだ?」
ス「どっちに聞いてるの?僕が人を殺せること?それとも組織がそういう動きをしていること?」
シ「どちらもだ」
ス「組織がなんでこんなことをしてるのかは知らない。気に食わないんじゃない?
で、僕が人を殺せるのは、そうしないと生きていけないから。仮にも僕は雇われて、家に住まわせて貰っている立場だからね。与えられた仕事位はしないと、追い出されちゃう」
リ「家は無いのか?」
ス「人それぞれ事情があるのを知らない?人の家庭事情にズカズカと。常識ないね」
リ「なんだこいつ。圧倒的に劣勢なのに強すぎるだろ」
パ「お前が弱すぎんだよばーか」
後ろで斬り合いを始めた2人。リ「うるせぇぇ!」パ「バカ晒す前に黙っときゃいいんだよ!ばかが!」
コ「最後。このまま、私たちが旅を続けたとして、あなた達はどこまで追いかけてくるつもり?」
コクウの質問に、少女は少し笑顔でこう答えた。
ス「タイトが死ぬまで。どこまでも。」
コ「そう、じゃあ」
少女の答えにコクウは1呼吸置いて、真っ直ぐに見つめながら、
コ「潰す。組織ごと。それで万事解決だ」
コクウが宣言するように言い放った。
ス「できるの?たったの6人で。これからの刺客も全部どうにかするつもり?」
コ「相手に『最強』が居ても、私は諦めないよ。タイトは仲間だからね。それにタイトは私の推しだからね」
ス「ふー...ん?推し、?」
そこにちゃんと疑問は持つ感性はあるのね。コクウの自信は頼もしい限りだ。
タ(万に一つもないけど、仮にジョーカーが敵だったとて、俺は戦えるのだろうか?
・・・戦っても勝負にならないか。
そもそもあれが人を騙すとかどう考えても無理だし、考えるまでもないかー)
有り得もしないことを考えるのは辞めた!
さて、今後のことを話し合わないと。
タ「この子どうする?」
シ「とりあえず、次の街まで同行して、街の警備に引き渡そうか」
リ「嫌だな〜。そいつと一緒なの」
ス「あら奇遇。僕もあなたのこと嫌だ」
パ「リューソー、お前はもう、喋るな。お前じゃ勝てねぇ」
リ「強く、なりてぇ!」
ス「優しいんですね」
少女が不意に言い出した。その目は1点にレイを見つめていた。
ス「殺さないなんて」
レ「・・・目の前で死なれたら、明日のご飯が美味しくなくなる」
ス「そうですかー」
すると、少女は立ち上がって、
ス「激甘ですね。徹頭徹尾。端から端まで。僕を殺すことさえも、できないなんて」
そして少女は1呼吸置いて、
ス「初めまして そう言うと♪」
少女は突然歌い始めた。周りの誰もが固まってしまう中、コクウだけは動き出した。
少女はそのまま後ろの木にもたれるように、笑顔を見せたまま倒れた。少女はコクウが掴む前に、後ろに出現した黒いモヤに飲まれて消え去ってしまった。
コ「くっ!油断した!」
逃げられた。空間転移ができる神技持ちがいることを忘れていた。
・・・
シュン、
瞬間、シキの目の前に大きな火球が出現した!
(あ、あれ俺のやつ)
シ「危なっ!」
シキはギリギリのところで、上体を勢いよく逸らして、ブリッジの状態になりながら回避した。
火球はそのままシキの後ろにいたリューソーにぶち当たった。
リ「うわぁぁぁぁ!!」
ボウっ!
激しく燃えるリューソー。やがて火が収まりまっ黒焦げになったリューソーが姿を現した。
リ「あぶねー。死ぬとこだったぜ」
パ「なんでその焦げ方でその程度の認識なん?お前ほんとに人間か?」
シ「ちょ、!今背中グキって言った、!助けて!」
コ「あはは!シキ凄い!神回避じゃん!」
シ「笑ってないで助けて、お願いだから」
リ「こんな無様なシキ、初めて見るな」
コ「私も初めて!
・・・〇首当てゲームでもしようかな?」
シ「何言ってんの!?」
パ「お前らならホクロの位置も分かるだろ」
シ「ほんとに何言ってんの!?分かるわけがないよ!?」
今日のいじられ役はシキらしい。
(いつも通りで安心感すら覚える)
逃がしてしまったものは仕方ない。パッと見、みんな大きな怪我が無くて、心から安堵する。
タ「レイ、大丈夫?」
レ「わた、しは、大丈夫」
タ「そう、良かった。でも、みんな無事でよかっ
ザン、
黒いモヤの中から伸びてきた長い槍。それがレイのお腹を貫通して俺の目の前に現れた。
レ「ゔぁ゛っ、」
タ「レイッ!!!!」
レイの肩を支えようと手を伸ばすも間に合わず、目の前でレイが倒れた。そしてその槍は引き抜かれてモヤに消えた後、再び姿を表すことは無かった。




