第55話 地を踏みなす強き者
/639年8月16日/
照りつける太陽に目をつぶれば、心が安らぐ平和な昼下がり。
14:00過ぎ
タ「あり?」
バシャン!
水面から顔を出している石から石へと飛んで、川を横断しようとするタイトは、思いっきり石を踏み外して川へと飛び込んだ。幸い、川の水は浅かった。
リ「ははっ、なーにやってんだー、タイトー」石から石へと飛んで華麗に横断
パ「手本見せてやるよ」<瞬間移動>で飛んで横断
コ「お手本とは?」<ベクトル操作>で浮遊して横断
レ「大丈夫?」
レインがタイトの近くの石へと飛んでタイトに手を差し伸べる。川底に手を付き、起き上がる途中で固まっているタイト。
タ「・・・川に、めだかの学校があったのさ、」
シ「帰ってこいタイト。君は今、夢を見てる」
びしょ濡れのタイトを川から救出。川を超えて少しすると、タイト達は林を抜けて平野へと出た。
視線の先には目的の街とその右手側に広がる広大な森林。
リ「もーすぐで次の街、【インバース】?だなー」
シ「合ってるよー」
パ「やっと終わりが見えてきた」
コ「ほんとに暑いもんねー」
レ「前回の街からは結構かかったねー」
タ「2週間と少しだね」
ロ「・・・」
タイト達は特に支障もなく、次の街である【インバース】にあと数時間で到着するところだった。
シ「4日前にも言ったと思うけど、【インバース】近くの森で最近行方不明者が出てるみたいだから、近づきはしないだろうけどここからは警戒しながら進もう!」
コ「はいっ!」
タ「りょーかい」
よし!いい返事だ!
リ「魔物か人攫いか、」
パ「魔物だったらそのままぶっ倒してもいいけどなー」
シ「倒すなら依頼受けてからね。報酬が減っちゃう」
((※補足説明
もし、依頼として受注待ちの案件を、受注せずに完了した場合は報酬が減ってしまいます。
やむを得ない状況もあるので、特に罰とかはないです。))
コ「説明ご苦労」
((有り難きお言葉。))
リ「存在しないもう1人の仲間みてぇな立ち位置に居んなこいつ」
そんなことを話しながら歩いていると、先程言っていた行方不明者が出るという森らしきものにタイトは違和感を覚える。
タ「俺の目がおかしいのかな?木がめちゃくちゃでかく見えるんだけど、」
割と近くにあるように見えた森林は、歩けども歩けども近づいているようには感じず、それに対し、歩けば歩くほど大きく見えていく。
シ「大丈夫、正常だよ」
コ「あの森の名称は【プレゼン】。別名、【巨人の森】とか、【小人の世界】とか言われてるよ!」
リ「久々に見るとやっぱデケーな」
パ「初めて見たぜ」
タ「草とかも大きく見えるんだが、」
シ「あそこら一帯がそもそも規格外の大きさだからね」
レ「・・・あの木、切り倒せるかな、」
リ「着眼点おかしいだろ」
その後も歩き続けるタイト達。もうあと30分程歩けば街に到着するだろうという距離。冒険者やらなんやらが街の外で特訓?をしていたり、街から出かけていく様子が見える。
近くから見る森林は話に聞いた通りに巨大であった。草ですら5m程あり、葉っぱに至っては人1人をゆうに覆いかぶせる程の大きさ。
タイトは横目にそれを凝視しながら進み続けた。
タ(何も無くても道に迷いそーな森だな)
そんな中ふと、先程からあまり話さないでいるローネにリューソーが話しかけた。
リ「ローネお前どうした?」
ロ「んぁ?」
リ「今日あんま喋んないけど、体調悪いんか?」
ロ「そうかぁ?あー、いつも通りだろ」
否定するローネだが、なんだか歯切れが悪い。
リ「まぁお前がそう言うならいいかー」
その時、1つの叫びのような悲鳴が聞こえてきた。
「誰かァーー!!!助けてくれぇ!!」
声が聞こえてきたのは先程から話に上がっている、巨大な森林の方からであった。
手前にある巨大な草1つ2つを小さく揺らしながら、1組の隊と思われる男女合わせて4人が続けて転げるように飛び出てきた。
全員の表情は、手のひらで握り潰した紙のようにくしゃくしゃにシワが浮き出ており、今にも発狂しそうな鬼気迫る様子であった。
彼らの後ろに視線をやると、否、視線を向けることを強制されたと言うべき事情が彼らの後ろで起きている。
巨木の地に生える、通常では考えられない程の大きさの草が、巨木を避けるようにして何本も大きく、速く、激しく揺れる。
草ひとつの大きな揺れに干渉した近くの草がまた揺れ動き、それが連鎖して、そこら一帯だけが風が吹いているかのように揺れ動きながら恐怖そのものを奏でていた。
リ「やばい気がする!」
シ「なにか、来る!」
草の激しい揺れが森林の入口付近へと近づいたと思った次の瞬間、揺れの主が姿を現した。
それは手足を持たぬ生物。それは鱗で覆われた体表。それは視界に収めることの出来ない長い体。ほれは捕食者であった。
パ「何食ったら蛇があんなでかくなんだよ」
出てきたそれは蛇の見た目をしていた。尤も、大きさは規格外のものであるが。
10数メートル伸びた蛇の尾は未だ草の中で全体を見せていない。左右に柔らかく蠢きながらこちらに近づいてくる体躯。ぬらぬらと陽の光を歪に乱反射させた鱗。匂いを嗅ぎとるため舌を素早く出し入れし、眼は獲物を探す目そのもの。
周辺は混沌に陥っていた。叫び出すもの、その場で立ち尽くすもの、同じく走り逃げるもの。ただ、立ち向かうものはそこにはいなかった。
頭部を高い位置に上げ、ぎょろぎょろと獲物を探していた目が、一点を捉える。先程、森林から逃げ果せていた隊を。
リ(あ、体勢に入った。)
リ「タイト!どうする?!あいつら、助けるか?!」
タ「え、えと...」
タ(ど、どうしよう!分からない!あの蛇がどのくらい強いのかも、逃げ切れるのかも分からない!)
目の前の助けを求める他人の声と、仲間の命の天秤。ただし、どちらも成功する保証はなし。
そんなこと、タイトが決められる訳もなく、迷いが、悩みが表情、態度、時間として映し出される。
リ「急げ!逃げるなら早くしねぇと!どっちも間に合わなくなるぞ!」
パ「直感で決めろ!」
ロ「・・・」
タ(エレナ...エレナならどうする?目の前で助けを呼ぶその声をエレナが聞いたら、、、)
タイトは自分自身で考えることを放棄し、応えを出した。それは自分自身に課すように声を絞り出した。
タ「助け、、ないと、、」
その声を聞いた時には既にみんなは行動に移っていた。
【緊急依頼 巨大蛇討伐】
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*視点 戦闘時*
タイトの答えを聞き、一斉に走り出したタイト達。リューソーとパルスを先頭に、次にタイトとレイン、少し後ろから魔法と弓矢を準備しながら、射程圏内まで近づくシキとコクウ。ローネは静観を貫くつもりだろうか、その場で剣だけ抜いて立ち止まっていた。
シ「援護はするけど!無茶しすぎないでね!」
シキとコクウがやや離れた位置で立ち止まり、タイト達に忠告しつつ、シキが火魔法、コクウが矢を放つ。
シキとコクウは既に捕食の体勢に入っている蛇の妨害を1に考え、速さ重視でそれぞれ放った。真っ直ぐにタイト達を追い抜き、走り逃げる人達の上空を通り過ぎて、ものの一瞬で蛇の元へと飛んで行った。
ぎゅるんッ!
と、蛇は体を急速に捻り曲げて生物の限界を超えたような動きと速さで2人の攻撃を避けた。
コ「ッ!ピット機関が敏感で避難が簡単ってやつか、」
シ(避けられた、次はどうする?神技はみんなを巻き込む。なら、タイト達とやつの間に広範囲の火魔法で壁を作れば、!)
シキは再び魔法の準備に取り掛かった。
リ「タイト!パルス!あいつらの救出頼む!」
タ「2人は!?」
リ「囮作戦だ!!」
リ「ちな、囮はちゃんと俺たちだからな!」
レ「髑髏は命を誓う旗」
パ「そんなん言うてる場合か!」
タイト達がようやく、知らん奴らの元へとたどり着く。リューソーとレインは無視してそのまま蛇の方へと走って行く。
「た、助けてくれ!」「死にたくなァい!」
タ「お、落ち着いて、!そのまま走って街の方へ!」
リューソーとレインがタイト達と離れた3秒後、タイト達のすぐ側で、蛇と隔てるように火の壁がそそり立つ。
パ「おら、飛んでけ!」
<瞬間移動>で知らんやつらを街の方へと飛ばす。
パ「私、あいつらをもっと街の方へやってくから、タイトはまだ近くにいる奴らの誘導を頼む!」
タ「わかった!」
レインが水魔法を広範囲に放つも、蛇はものともせずそれを大人しく浴びる。
レ「蛇の弱点のはずなのに、」
未だ捕食の体勢をとかないでいる蛇。
リ「レイン、土か氷魔法貸して」
レ「ほら、収納魔法に入れときな」
レインが小石よりもやや大きいくらいの土魔法で生成した尖った石をシキにいくつか渡す。
リ「ありがとう!」
レ「それじゃ、気をつけて」
リ「お互い様だろ」
2人は一瞬目を合わせた後、左右に別れて走り出した。が、蛇は近場にいる2人の方を見ることも無く、途端に口を膨らませたかと思えば次の瞬間には、その大きな口から赤橙職の液体を目の前の火へと吐き出した。
シュウゥゥゥ、、
と、音を立ててその液体は、火を消化するだけに留まらず、地面に付着した液体はそこら一帯を黒い物質へと変えた。
シ「強い酸性の毒!?」
コ「ッ!タイト!!」
付近の人間の避難誘導をしていたタイトに蛇の視線が定まる。
タ(来るッ!)
そう直感で感じたタイトは目の前に足で、1、2m程度の分厚めの氷の壁を急いで生成し始めた。
また、蛇の行動を予測したみんなも先手を取ろうと動き出していた。
リューソーは足を止め、土魔法を蛇の頭部目掛けて投げつけ、レインも体の向きを反転させ、刀に火魔法を纏わせて刀を投げた。コクウは手持ちの矢を全て放り上へと放り投げて<ベクトル操作>で蛇へ飛ばす。
シ〔、、動くなぁ!!」
シキも叫びを上げながら、杖から風魔法の弾丸を10個程度生成し、一斉照射した。
だが、蛇はレインの刀だけは危険と察知したのか、刀だけは身を捩らせて避け、他は先程避けたことすら煽りに思えるかのように無視して移動を始めた。
蛇の鱗に当たったそれらは全て、弾かれ、砕かれ、相殺されてしまった。レイン達の総攻撃を無傷で突破。
コ「魔法も物理も効かないの!?」
さらに、蛇は蛇行しながら信じられない速度でタイトへと近づき、そのまま氷の壁ごとタイトに体当たりを食らわせた。
タ(まじ、かよ...!)
大きく後方に飛ばされて多少地面を転げるも、タイトは直ぐに立ち上がり、体勢を立て直して蛇を視界で捕捉する。
リ「タイト!!」
タイトが顔を見あげた時には既に、蛇の頭がタイトの目の前に居た。獲物としか見ていないような鋭い眼光にタイトが圧倒されたのも束の間、蛇はその体の頭部付近を急速に尻尾方へと後退させた。
蛇はその柔軟な体を、鞭のような要領でタイトが行動に移る間もなく加速し続けて、音速に近い速度の尻尾でタイトに襲いかかった。
ズバッ!
タイトに尻尾が触れる寸前、ローネがタイトの前に現れ、その手に持った剣で大木程ある大きさの尻尾を切断した。
切断された尻尾は勢いそのままにシキ達の後方へと飛んで行った。
タ「・・・ハッ!」
タイトが我に返った後、間を置かずに蛇は切断された尻尾を長さはそのままで新しく尻尾を再生。
そして、蛇はまたもや口を膨らませ始めた。先程よりも大きく、大きく、頬を膨らませて。
タ(また来る!)
タイトが右手に魔力を込めて最大限の火魔法を放とうと構えた。
ロ「チッ!あいつ!何やって」
ロ(毒はどうしようも...ッ!)
少し焦りのようなものを見せたローネだったが、次の瞬間には何かに気づいたのか、はたまた諦めたのか、剣を鞘に収め始めた。
周辺の人間の避難を粗方済ませたパルスは<瞬間移動>で走り出しているリューソーに近づく。
ロ「構えろ!」
リ「わかった!!!」
2人は<瞬間移動>で蛇の頭部へと移動し、空中に浮いたまま剣を振るう。
ガキッ!
恐ろしく堅い鱗に2人の剣は肉の断片を見ることができぬままに弾かれてしまう。
リ「なっ!」
ゴォ!
レ「〜ッ!」
透明になり、予備の剣に電気魔法を纏わせて蛇の頭部から少し離れた位置へ全速力で突きを食らわせようとするレイン。しかし、どこで感知されたのか、その部分のみを浮かせて避けられてしまい、そのまま止まれずに通り過ぎて行く。
蛇はもう間もなく吐き出すのか、頭部をやや後ろに下げて助走の準備に入った。
コ「タイトッ!」
右手に光が揺らいで見えるほどの火魔法、左手には発生する冷気がストンと地に伏せるほどの氷魔法を纏わせて、横に走り出すコクウ。
コ「消し飛べ」
シ「だめだ!」
それを直前でコクウの方を掴んで止めるシキ。シキの必死の剣幕にコクウは咄嗟に魔法を解除する。
シ「それは、その他大勢を巻き込む」
コ「でもッ!タイトが!」
余程の緊急事態なのか、余裕がなさそうな2人。
タ「間に合え!」
タイトが蛇が毒を吐き出すよりも先に火魔法を放った刹那、彼の者はタイトの前に降り立った。
それは蒼き大空へ鳩が羽ばたくような、小鳥が囀るような、小川が暖かくせせらぐような、吹いた風に草花が揺らいで音を奏でるような。
あえて言い表すのなら、小説に書き記された、平和の1頁を切り取り、貼り付けた。はたまた平和そのものを体現したようだった。
雑音も、不穏な光景も、一抹の不安要素のない余裕に満たされたようなその者の様子に、タイトは1秒が永遠に感じられるような感覚に陥った。
そして、タイト達が気づいた時には、目の前に居た20mは優にある蛇は、0.5m間隔で輪切りに切り刻まれて、毒を吐くことはなく絶命していた。
これにて、
【巨大蛇討伐 完遂】




