第5話 発想の変態?
*エレナ視点*
本格的な特訓が始まって2年ほどの月日が流れた。
普段はタイト、レイ、私の3人で各々のやりたい特訓をやっている。仕事の合間に来るお父さんや月に1度来てくれるジョーカーも私たちがやりたい特訓をさせていて、行き詰まったり分からなかったりしたら聞く、という体制にいつの間にかなっていた。
やりたいようにやっているので一人一人で何をメインの武器として戦うのかがでだいたい決まってきていた。
私は魔法を使わず、剣だけで戦う近距離型。レイは剣と魔法の両方を使う近〜中距離型。
(うん。レイが魔法を使うのは許せる。うん。女の子だから ね。うん。しかもちゃんと剣も使っているからね。うん。レイは全然許せる。でもよぉ、)
エ「なんでタイトが魔法使いなんだよぉ?!おかしいだろ!」
急に大声を出したからか、タイトはビクゥッ!と体を強ばらせてこちらを振り向く。
エ「ねぇ!?いや、いいよ別に魔法を使うくらい。
でもさぁ!違うじゃん!なんで魔法主体なんだよ?!剣使えよ!男だろ!?近づけよ!なんで後ろからなんだよ!?私と役割交代でもいいくらいだよ?!いや、嫌だけど!
なぁ?てかいつの間に魔法使えるようになってんだよ!?こっちは最低級の魔法すらまだ使えねぇんだよ!」
と、不満や怒りや疑問の全てを強くぶつけるように言う。
タ「い、いいじゃん別に、僕が魔法を使うぐらい。しかも、魔法って意外と普段でも使えて便利なんだよ?」
と、答えのようで答えになっていない返事をしてくるので、
エ「違ぇよ!そういう事じゃねぇよ!魔法は別に使ってもいいよ!でも、近づいても戦えるようにしろよ!?なんで離れたとこから攻撃しようとしてんだよ!?」
タ「だっ、だって、近接戦闘はちょ、ちょっと怖いんだもん!」
エ「女子か!私たちより女子か!お前姉貴見てみろよ!?ゴリゴリ近接で大立ち回りしてんだぞ!?なぁ?逆だろ!普通男のお前が先頭に立って、「ヤーン、こわーい」とか言ってる女の子を守る側だろうが!?」
という、言い合いが最近は何度も行われており、レイからすればただの漫才のように見え、何も言わず、ただ笑っている。
タイトは何故かそこだけは譲らないという強い意志を感じ、魔法主体から変えようとはせず、私は最前線に立つような構成になってしまった。
そんなある日、私も最低限の魔法も使えるようになって、いつものようにレイと剣の打ち合い(レイは魔法あり)をしようとしていた時、タイトが何故か<靴を脱いで>外に出て風魔法を出していた。
魔法は特に詠唱を必要とせず、手を前に突き出し、魔力の流れを意識し、出したい魔法を強く想像する。そして手から放つように魔力を飛ばすような流れを作る。というものだった。
コツさえ掴めば、同じ火魔法でも、球状にして飛ばしたり、円を描くように火を放てば、簡単な円周を作ったり、そこら一帯を焼け野原にするような火魔法を撃ったりと、使い道が無数に広がっている。
また、手からだす延長のような感覚で杖から出すこともできる。
杖によっては魔力を強化して出すこともできるため、魔法使いの人はよく杖を使っているそうだ。
(私?いらねーよ、んなもん。)
あとなんか、魔力の流れを掴めば手から出す要領で、体から離れたところに魔力を出して集めて、なんか思った方向に出すことができるらしい。
そんで、コツ掴めば同じようなのを何個も作って一斉照射を1人でできるらしい。頑張れば1種類だけじゃなく、火と水、風とか色々な種類出したりもできるんだって〜。
(何言ってんのか訳分かんねー。なんだよ離れたとこに出して集めるて。一体どーやんだよ。意味わかんねー。
まぁ、一旦魔法のほとんどをおさらいをしたわけだが、タイトは一体何がしたいんだ?)
おさらいしている間もずっと魔法を出そうとしているタイト。おさらいをしても靴を脱ぐ必要性が思い当たらない。
(なんでだ?何がしたいんだ?あれか?地面から産地直送の新鮮な魔力を取り入れるためとかなのか?)
考えても一向にわかりそうもないので、直接聞いてみることにした。
エ「ねぇ、なんで靴脱いで魔法出そうとしてんの?」
タ「ん?これ?あー、足からも、、、魔法、出ないかなぁ〜って思って。」
エ「足?え?今でも足場凍らせたり、泥沼にできたりするじゃん。」
タ「でも、それは一旦手を地面につけないとできないしさ、手をつけない状態だと魔法としては効果時間が短かいし、なんか弱い感じがして。」
エ「・・・つまり、足からも手と同じ威力の魔法を出したいと君は言うんだね?」
タ「いきなり誰だよ。まぁ、そういうことかな?」
エ「別に手を地面につけても良くない?」
タ「それだと、次の行動に移りづらいんだよね。」
と、ここで全てを語りきったと言わんばかりにもう一度足から魔法を出そうと試し出したタイト。
(よし、一旦整理しよう。
タイトは足からも魔法が出るようにしたいと思っている。今のやり方じゃあ威力も持続時間もないからもう少し強くしたい、と。
まぁ、タイトの言う通りこれは足から出したとは言えないようなものだ。足から魔力を出したと言うよりも、魔力を流れ出したと言うのに近い。手から出す感覚とは全然違う。
で、手を着くのは次の行動に移る時の時間の無駄になる。あー、考えすぎて知恵熱出そう。まぁ、良い、ここまではわかる。)
私の脳みそでもそこまでは理解することができた。そこまではわかる。でも、、、
エ「いや、だからって足から出せるようにしようとはならんだろ?発想やば!どういうことだよ!お前あれだな?変態だろ!発想の変態だろ!?」
タ「変態はやめてほんとに。」
エ「え?いやだって、今のは威力も持続時間もカスなんだろ?」
タ「うん。」
エ「で、手を着くのも時間の無駄なんだろ?」
タ「うん、まぁ。」
エ「じゃあ、足から出そうってなったんだろ?」
タ「そうだよ。」
エ「変態じゃねーか!」
タ「そうはならないでしょ!」
一問一答の末、変態だということになり、それだけは違うと否定してくるタイト。
エ「だってさぁ?タイト、ジョーカーの話とかで足から魔法出した人がいたとか聞いたことある?」
タ「ない。」
エ「だよねぇ?私達よりも全然長生きしている人もいるのにまだ1人も居ないんだよ?つまり、そういうことだよ。」
タ「いや、だからって変態ではないでしょ!?」
レ「タイトってえっちだったの?」
また、どこから音もなく現れるレイ。
タ「違う!エレナが勝手に言ってるだけ!」
必死に弁明するタイト。何も知らないレイに事情話す。
横でタイトが必死に私の声をかき消そうとしてくるが、そもそもタイトは声が小さいのであまり効果がなく、努力虚しくあることないこと全て説明し終えてしまった。
レ「その、タイトって、すごくえっちだね。」
と、全てを聞いての一言を言いづらそうに、そして、恥ずかしそうに言った。
タ「ちがぁぁぁぁう!!」
その日、タイトの声が村中に響いて聞こえたそうな。
そして、タイトはその特訓を初めてほんのひと月で、ほんとに足から手と同じ威力の魔法を出せるようになった。
エ「やっぱりへんt/タ「違う!!!」