第52話 さぁ、行くぞ!
/639年8月11日
22:40
タ「さぁて、勝っても負けても心残りがありまくりの依頼を消化しに行くかー」
やや欠けた月が照らす夜道を歩き、タイトは約束の場所へとたどり着く。
タ(まだ誰も来てないな、暇だし準備体操でもしとくか)
丘の上にはまだ誰もおらず、タイトは暇潰しがてら準備体操をしていると、
バサッ!
という、風を切る音とともに引き込まれそうな夜の黒い空から1人の少年が降りてきた。
ラ「あ、こんばんは。もう来てたのですね。お待たせしました」
タ「いえいえ、今来たばっかりです」
ラ「・・・」
タ「・・・」
タ&ラ((き、気まずい...))
ほぼ初めましての2人。そりゃあ気まずいってもんだよな。2人とも焦る表情を出さないようにして、必死に話題を探している。
先に口を開いたのはラルムの方だった。
ラ「冒険者?の人ですよね、今回は巻き込んでしまってすみませんでした。本当は俺らで解決しないといけないことなのに...」
ラルムはタイトに向かって深く頭を下げて謝罪をする。
タ(お?こっちはまともそうだぞ?)
タ「気にしないでください。こっちもわかってて首を突っ込んだので...」
ラ「・・・」
タ「・・・?」
頭をあげたラルムはタイトの方をじっと見て、何か考え事をしているのか、何も喋らずにいた。
やがて考え事が纏まったのか、ラルムはタイトに向かって質問をした。
ラ「あなたは...龍に、勝てますか?」
突然の質問の意が分からない質問にタイトは脳内に宇宙を創造した。
タ「・・・あぁ、り、竜?ですか?あの...?」
ラ「はい、」
タ「いやぁ、1人だと勝てないと思いますね」
ラ「龍を倒せるようになるまで強くなる予定とかは?」
タ「俺らの旅の目的は魔王を倒すことなんで、ゆくゆくは倒せるようにはなりたいですね」
ラ「魔王を...ですか、」
何か言いたげな様子のラルムだが、言いたいことは口には出さず悩みの表情から一転して控えめな笑顔で、
ラ「頑張ってください、応援、してますよ」
タ「感謝します」
激励の言葉をいただいてしまったタイト。
タ(今から戦いずれー。嫌だなー、ほんとにいい人そうだから戦いたくねーよ!)
タ(てかなんで戦わなくちゃいけないんだよ!!
・・・俺のせいか。)
タ「あ、」
思い出す過程で、ふとタイトは気になったことをラルムに聞いた。
タ「そういえば、どうして兵士になろうと思ったんですか?」
ラ「・・・それは、」
ト「2人とも来てくれたんだね」
トワがやや離れた位置から2人に話しかけた。
タ(来なかったら確実に殺されそうだったからな)
とは口が裂けても言えないタイト。
トワは歩いてタイトの傍まで近づくと、鋭い目つきでタイトに
ト「で、何の話してたの?」
怖い。前科があるとはいえ、質問が直球すぎる。信用されてないのが目に見えて分かる。
タ「いや、ちょっとした世間話、、、です」
ラ「……教会が、、壊されていたことについてだよ。」
ト「ふーん...まぁいいや」
タ(この人、めちゃ優しい!
それに比べこいつはッ!敬語使いやがれこのデコスケ野郎め!)
トワはくるりと踵を返して2人から少し離れたところへと歩いた後、再び2人の方を振り返って、
ト「はい、じゃあ今から戦って貰うね。どっちかがもう戦えねーなって思ったらそこで終わり。
常識の範囲内であれば特に反則はとらないから。
戦え」
もうほぼ女王様のような態度のトワ。
タ「あい」
ラ「・・・」
タイトとラルムは距離を取り、お互いに向き合う。
タ(戦いと言っても、この人は本気ではやらないだろーなー)
タ(八百長してわざと負けようかな?腹立つし)
タイトは収納魔法から刀を取り出して切っ先をラルムの方に向けて構えた。
ラルムの方も剣を収納魔法から取り出して、右の腰の辺りに剣を添えてやや屈んだ状態で構えた。
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*視点 戦闘時*
ト「はーい、それじゃあよーい、ドン」
タイトは合図と共に軽く走り出すと同時に、!ラルムは翼を広げて夜空へと飛び立って、上からタイトを見下ろす状態となった。
タ(まぁ!?さすがに手を抜きすぎてバレちゃダメだからね!飛ばない訳にはいかないよね!?)
ラルムは更に左手を広げると自身の周囲に10を超える小さな魔法陣を展開。シキの神技と同じような魔力と技力を併せて使用する系の神技。
タ「え、ちょっ、」
ラ「<光の導き>」
ラルムが呟いた瞬間、小さな魔法陣の一つ一つから光線が発射された。嫌な予感を感じていたタイトは土魔法で目の前に高さ3m程の大きな岩の壁を咄嗟に作り出していた。
ボガガガガ!
音速に近い速さで発射された光線は岩の壁に激突して幾つか相殺したものの、3つほど岩を貫通してタイトの横を掠める。
ぼがぁぁあん!
突然、タイトの隣の地面に光線が上から下へと突き刺さった。
タ「へ?」
タイトが上を見上げると、岩の壁を超えた光線が急に曲線を描いてタイトに襲いかかってきた。
タイトは足に魔力を込めて風魔法で後方へと大きく飛んで、光線の雨を回避。
タ(まじだ、あいつ本気で勝ちに来てる!
まじかよ...さっきの会話はなんだったんだよ!)
タ「そっちがその気なら!」
タイトは左手に魔力を込め、上空でこちらを見下ろすラルム目掛けて、人1人を優に包み込める程の火魔法をなるべく見ないようにして放った。
それと同時にタイトはラルムの横に回り込むように走り出した。
ゴオォォ!
と火魔法は音を立ててラルムの方へと近づいていく。
ビュウ!!
ラルムは逃げることなく、火魔法を背中の翼で強い風を起こして火をかき消した。
ラ(火の明るさで視界が、まぁいいか)
ラルムは視界の悪さを魔力探知で補い、タイトの位置を補足。タイトはラルムの右側から再び火魔法を放とうといる最中であった。
ラ「<光の導き>」
ラルムも左手をタイトの方へと伸ばして再び神技を発動。先程と同様に小さな魔法陣を幾つも発現させた。
パキィィ!
ラルムは後方から飛んでくる氷魔法を見ることなく、1つの光線で完全に破壊。
タ(バレてた!?なら!)
タイトも周囲に幾つもの魔法を創造。
タ「物量で押し切る」
左手の火魔法を捨てるような形で発射し、すぐさま走り出すタイト。走って光線を避けながら周囲に魔法を常に創造し続けてラルムへと発射する。
ラルムも無数に飛んでくる魔法を空を舞いながら避けつつ、神技を絶え間なく発射。
((ちなみに、1度作り出した魔法陣は本人が動いても追尾せず、その場で発射されるぞ))
タ(これ弾き返せたりしないかな?)
タイトは左手に限界まで研ぎ澄ました氷の剣を創造し。足を止めて当たらない位置飛んでくる左腰の光線を右上から袈裟斬りで弾くように振りかざした。
パギャン!!
タイトの思い通りには行かず、氷の剣は音を立てて砕け散る。
タ(氷の剣で試してて良かった)
ビュン!!!
遠距離攻撃の戦いの硬直に痺れを切らしたのか、ラルムは滑空の体勢でタイトの魔法を掻い潜って急接近。
タイトの左頬目掛けて水平に振りかざされた剣を、タイトは体を右側に反らすことで左側頭部の髪を数本犠牲にギリギリで避けた。
体を反ることによって捻れた体を戻しつつ、タイトは右下の位置にある刀を逆袈裟斬りで斬りかかった。
ラルムはそれを左翼のみを羽ばたかせて、タイトの左方向へと高速で移動して刀を避ける。
さらにラルムは移動しつつ神技を発動。
タ(ズルいってこいつ!)
タイトは咄嗟に収納魔法へと左手を突っ込んであるものを左腕に装着。
4本の光線がタイト目掛けて発射された。
ズドッ!
タイトは光線に対して左腕を体の前に差し出して、あるものを発動して光線を受け止めて防いだ。
タ「形見だからあんまし使いたくないが...
エレナ、ちょっと借りるぞ」
タイトは左腕に直径50cmの半透明の盾を、エレナの形見である魔道具の腕輪を使って防いでいた。
ラルムはそれでも止まることなく、急接近してくる。タイトはすぐに盾を消して、ラルムを迎撃するために刀を構える。
ガキィィィ!
2人の刀と剣は、激しくぶつかり合った。散らした火花がお互いの顔を僅かに照らす。
タ(あぁ、もう最後までとことんやるつもりですかい!)
覚悟を決めたような真剣な表情のラルムを見て、タイトは一縷の希望を捨てざるを得なくなった。
ラルムは鍔迫り合いから一旦距離を取ったかと思えば、翼で急接近して宙に浮きながらタイトに左側から逆袈裟斬りで斬りかかった。
タイトはそれを左肩から水平方向にやや下るように刀を振るって剣を防ぐ。が、
ラルムは両翼を思い切り羽ばたかせて、上へと飛び上がりつつ、左翼のみを再び羽ばたかせて空中で体の上下を半回転。
背中を反りながら飛び上がることによって下から斬り上げていた剣を上から振り下ろしたような体勢に移動させた。
タ(なんやそれ!)
タイトの真上に飛び上がって倒立の体勢となったラルムは剣を右肩から水平方向に、タイトの頭部目掛けて振りかざす。
受け止められる気がしなかったタイトは咄嗟に屈んで剣を避けた。
ラ(避けた...良い判断)
タイトは低い体勢のまま、右足を後ろへと踏み出して、ラルムの着地点に合わせて右手のみで水平方向に刀を振るった。が、翼を使うことで着地を一瞬ずらされ、タイトの刀は空を切る。
ラルムは上から剣をタイト目掛けて振り下ろし、タイトは腕輪を発動してそれを防御。
タイトは盾で剣を振り払いつつ刀でラルムを攻撃。ラルムは剣を再び振るうことでタイトの刀を防ぐ。
2人はそのまま接近戦に持ち込み、激しい打ち合いを繰り広げた。
ラルムは前後左右に加えて上下に移動しながら多角的に攻撃を仕掛けてくる。翼を使った瞬間的な高速移動でタイトが刀を空ぶった後隙を確実に狙うように立ち回る。
また、翼は逃げの時にも使用され、タイトの刀が入るかと思っても瞬間的に避けられる。さらに神技がこれまた厄介で、逃げにも攻めにも使って来る。
タイトも魔法と腕輪を駆使してなんとか捌く。
ラ「神技は、使わないのですか?」
ラルムは不意に剣を振るいながら、タイトに聞いてきた。タイトもその問いに刀を振るいながら答える。
タ「生憎、!無能なもんでな!!」
ラ「なん、、、だと、」
ラルム、タイトの無能力者発言に戸惑いを隠せないでいた。
タ「んだよ、惨めだと思うのかよ、?」
ラ「いえ...なんでも、ありませんっ、!」
ラルムは吹っ切れたように言い捨てながら、後ろへと飛んで距離を取りながら両翼を使って、タイト目掛けて強風を発生させる。
タイトはその風を左手に、できる限りの魔力を込めて風魔法を放って相殺。
ヒュォォォォ
空気の衝突による音が鳴る中、ラルムは構わずに接近。タイト、右手に魔力を込めながら先に刀を右から水平方向に振りかざす。刀を防御する読みでタイトは、直前で刀に電気魔法を纏わせる。
ラルムはタイトの刀を、己の左翼の羽を左手の人差し指と中指で抜き取って刀にぶつかるように投げた。
ガキィ!
タ(え、!?硬!重!)
およそ羽にぶつかったとは思えないような音を奏でながら、タイトの刀は防がれた。本体から離れたことで電気魔法も伝わることなく。
ラルムは右足に闘心を込めながら、移動を上乗せした蹴りをタイトの腹に食い込ませた。
タ「うぐっ、、」
速さだけでは無い、純粋なラルムの脚力がタイトの体に重くのしかかり、タイトは勢いよく後方へと吹き飛ばされた。
ゴロゴロと地面を転がりながら、魔力を地面に流しながら勢いが止まるまで体を無理には動かさずに待つタイト。
勢いが止み、即座に上体を起こすタイトだが、内臓をやられたのか、
タ「う、、うごぁ、!」
口から血反吐が出るタイト。相手の居場所を知る為、目視と念の為の魔力探知で確認するタイト。幸い、ラルムは追撃には来ることは無かった。
余裕そうな表情で空を飛ぶラルムは、『待っている』と言わんばかりにその場で待機している。
タ「んだよ、地上は、怖ぇかよ。そりゃそーだよな、飛べるのはお前だけだもんな。そりゃ安全な空に逃げるよな」
タイトは腹に回復魔法を当てて応急処置しながら立ち上がる。タイトの回復も特にこれといった妨害もせずに見るだけのラルム。
タ「頭が高いな...!引き摺り下ろしてやる!」
タ(久しぶりにやるけど、なんとかなるだろ)
ラ(来るか、、)
タイトは上で待つラルムを見上げながら、両足に魔力を込める。
タ「翼なんかなくたってなぁ!空も飛べるんだよ!」
タイトは両足の裏からありったけの風魔法を放ち、一直線にラルムまでの距離を、空中を突き進みながら近づく。
ト「ーーー!!!」
ラ(やっぱり、足から魔法を)
最短距離で近づいたタイトは勢いそのまま、左肩から袈裟斬りでラルムに刀を振るった。ラルムは刀を右へと弾きタイトの突進を躱す。
タ「あー!おぉっとっとっと、」
タイトは若干、体勢を崩すも風魔法の量と角度を調節しながら体勢を立て直す。それを確認してラルムはタイトに攻め込む。
ガキィ!
ラルムの剣をいつもの感覚と同じように、刀で防いだタイトは大きく後方へと弾き飛ばされる。
タ(空中は踏ん張りが効かないから、力を受け止めたら飛ばされるのか、!)
足の向きをやや後ろ向きにして勢いを完全に殺して、今度は逆に攻め入る。
と思いきや、ラルムは神技を構えてタイトを撃ち落とす気満々の御様子。
タ(手加減という言葉を知らないようだ...
最初からだったわ)
タ(なんとかなれー)
タイトなるようになるさの精神で、ラルムに向かって全速前進!
覚束無い足操作でフラフラになりながら、左手も使って光線をたまたま、運良く、偶然、奇跡的に全て掻い潜って、ラルムに接近することが出来た。
タ「なんとかなったー!」
タイトはそのまま、刀を構えて勢いを乗せて振りかざそうとした。その間、ラルムは剣を左手に持ち替えて構えることなく、その場で飛び尽くしていた?。
タ(なんで、?)
タイトは不思議に思いながらも、勢いは急には止まれず、射程圏内に入ったその時、
フッ、
とタイトの意識が途絶えた。なんの前触れもなく。タイトが自分の意識が無くなったことにすら気づかず。
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*タイト視点*
意識を失い、次に目を覚ました時には、俺は地面に伏せており、ラルムはトワの方へと近づいて行っているところだった。
ラ「君は...最低だ...」
ト「あなただって、わかってて最後攻撃したんでしょ?同罪だよ?私たち」
トワはラルムを見ることなく、遠くの月を眺めている。何やら会話をしているようだが、なんの話しなのか理解できない。
タ「ま...だ......おわって...」
立ち上がろうと体に力を入れるも、全身が痺れたような感覚に襲われ、上手く力が入らない。言葉を発することすらしんどい。
ト「この勝負はあなたの勝ち。
さぁ、ずっと夢だった兵士になれるじゃない、喜びなさいよ」
ラ「ッ!それは、!」
ラルムは何かを言いかけるも、言葉が出てこず、会話が途切れる。
ト「・・・」
ラ「・・・ごめん、」
最後にラルムは一言謝罪して、その場を立ち去って行ってしまった。
(負けた。依頼を完遂することなく。最後の好機すらも逃した。
なぜあの時意識を失ったのか分からない。今までそんなことはなかった。力を酷使しすぎた?そんなはずは、なくもない。)
そんなことを考えていると、いつの間にか近くに寄ってきていたトワが回復魔法をかけてくれた。体の痺れはなくなり、正常に動ける程度まで回復し、上体を起こした。
そのまま立ち上がろうとした時、トワの右手が目の前に差し伸べられた。少し迷ったが、せっかくの厚意を無駄にはできないなと思い、その手を掴んだ。
タ「すまない、」
そう言いながら掴んだ手は引っ張るつもりがないのか、俺の手を掴もうとすらせず、トワはこちらを軽蔑のような目で見下ろしていた。
ト「すまない?謝罪にしてはあまりにも軽すぎるんじゃないの?」
タ「・・・」
言葉が出てこない。
ト「どうしてくれるの?ねぇ?せっかく依頼したのに」
タ「それは...本当に申し訳/ト「言葉だけなんかいらないのよ。どうしてくれるのかを聞いてるの。わかる?」
何ができるのだろうか。どう、取り返せばいいのだろう。わからない。答えがない。どう答えてもきっとだめなのだろう。詰んだのだ。完全に。逃げ場がないほどに。
ト「あなた魔王倒すとか宣ってたけど、そんな弱くてほんとに倒す気あるの?ねぇ?依頼すらまともにできないやつが勇者になれるとでも思ってるの?」
逃げたい。返す言葉が見つからない。間違ってはいないんだ。依頼を完遂出来なかった俺が悪いんだ。
こんなので報酬を受け取っていいはずがない。重い口を無理やりこじ開けて報酬が要らないことを伝える。
タ「報酬は、受け取らない」
ト「何言ってんの?当たり前でしょ?依頼、できてないんだから。あんたほんとに大丈夫?頭。」
タ「・・・」
体から力がどんどんと抜けて行くように感じる。このまま立ち上がれそうもない。もう、何もできる気がしない。
ト「もういいや。あんたもう帰っていいよ、2度と合わないよう、気をつけてね。それじゃあ」
トワはそれだけ言って、目の前から去って行った。
脱力感が広がっていく体に身を任せて、仰向けに寝転がる。
(この感情が無くなるのは、頭の整理が着くにはどのくらいかかるだろうか)
大きな暗闇が広がる夜空の下に、胸に犇めく暗い、黒い、熱なき感情を必死に我慢していた。




