第49話 月明かりに照らされて
/639年8月9日/
15:00
雲ひとつない晴天の下、皮膚がヒリヒリと痛むほどの暑さに晒されながらタイト達は次の村へと辿り着いた。
リ「はあー、やぁっと村に着いたぜ〜」
コ「あ、暑いぃ。頭から、冷水を被りたい」
シ「さすがにこの暑さは堪えるね」
ロ「魔法があるとは言え、無駄使いはできねぇからなぁ、暑い」
パ「今回は襲われなかったから、少し損した気分になるな」
レ「風が吹けば違ったんだろうけどね、」
タ「みんなお疲れ様」
そう言ってタイトはみんなに向かって、魔法で冷風を送る。
コ「あぁ、最っ高...」
パ「あー、生き返りそー」
シ「そこで断言しない人、初めて見たかもしれない」
タ「あはは、餌によってくる動物みたい」
コ「さり気ない畜生扱いに、涙を禁じ得ない」
拭いても拭いても汗が滲み出ているみんなに対し、疲労感はあれど、まだ余裕のありそうな様子のタイト。
リ「タイト、なんでお前ぇ、そんな余裕そうなんだよ。」
タ「鍛え方が違うのさ、、、」
パ「これあれだな。調子に乗って、暑さにやられるためのフラグだな」
リ「是非とも、くたばっていただきたい...
あれ?なんだろう、いきなりここら辺の気温下がった?」
パ「おぉ、ほんとだ!にしてもなんだろうな、、、
こんなにも視線を感じるのは...」
レ「・・・」
ある程度、涼んだところでタイトが1人先に村の方へと振り返りながら、
タ「じゃ、俺ちょっと宿探してくるから、みんなご飯屋さんか喫茶店かどっかに入って涼んでていいよ、!」
シ「いいの?」
タ「もちろん」
レ「私も着いていこうか?」
タ「昼もまだだし、レイも先にご飯屋さんに行って食べててもいいよ?」
レ「・・・、・・・、〜〜ッ、
タイト、そっちは任せた」
長考の末、タイトの意見をのんだレイ。
リ「長かったな」
パ「あぁ、欲望と本能、理性とタイトを思う気持ちが熱い戦いを繰り広げたな今」
リ「その気持ち、少しくらい俺たちに分けてくれてもいいんだがな、、」
パ「何言ってんだ?レインは基本優しいだろ」
リ「どういうことだってばよ」
周りには聞こえないような小声で話す2人。
コ「じゃあこっちはご飯屋さんに入っておくから、任せたよ!」
ロ「なんか、食いてーもんあるか?先頼んどくが、」
タ「どれ位かかるかわかんないから、注文は俺が店に着いてからでいいかな?ちょっと時間取らせるかもだけど、」
レ「そればっかりは仕方ない」
シ「僕たちのことは気にせずに宿探してご飯も食べていいからね!」
タ「そう言って貰えると嬉しいよ!」
というわけで、タイトはみんなと別れて宿を探す旅に村へと出掛けた。
前の村は地形も関係して、家と店がギュッと密集していたが、この村は平坦な大地で近くに丘と林があるだけなので、建物同士の感覚がやや離れている。
タ「うちの村と似てんなぁ」
山や森は無いものの、畑や田んぼの広さといい、発展の度合いといい、どことなく住んでいた村に似ている。
タ(うわぁ〜、俺の村にちょっとだけ帰りたくなってきた)
タ「何言ってんだよ、まだ始まったばかりだし、魔王倒してからだろ」
自分の思ったことに自分で返事をするタイト。
タイトが村を練り歩いていると、とある場所に人だかりができていた。と言ってもせいぜい5、6人程が集まって話しているだけだが。大きな瓦礫の山の前でやや深刻そうな表情で話し合っているのが、遠目で分かる。
タイトは少し気になったため、近くまで寄ってみると、瓦礫の山の正体は教会の建物であった。
話を聞く限り、
・昨日までは普通に教会が建っていた。
・朝見た時には既に教会は壊れていた。
・中に居た人(神父)は何とか無事。
・昨晩にそれらしい物音は聞こえなかった。
・神父含め、犯人の目撃情報は一切ないと言う。
・何かを盗まれた訳でもない。
建物のみを狙った犯行にしか思えないが、なんのためにやったのか、不可解な点が多く、確信的な動機は分からなかった。
教会はいざと言う時の避難場所にもなるので、早めに復旧してくれることを願うばかり。
その後タイトは宿を見つけて、無事に予約を完了し、みんなが居た方へと歩き出した。
バサッ!
翼を羽ばたかせたような、音がタイトの上空から聞こえてきた。
タ(音でかいな。魔獣かなんかか?)
タイトが警戒しながら空を見ると、地上から10m程の高さで翼が人の片腕程の長さの大きく、太陽光をそのまま反射しそうな程の純白な翼を広げて空を飛ぶ人影。
タ「人?!」
その人物はタイトの方をちらりと見たが、すぐに前を向き直して、立ち姿勢で上下に上がり下がりを繰り返しながら、タイトの後方へと飛んで行った。
タ(もしかして、あれが!)
タイトは途端に笑顔になっていきなり走り出した。
所変わってご飯屋さん也
コ「もし、生まれ変わるなら何になりたい?
ちなみに私はペンギンになりたい。ぺちぺち歩いてて可愛い」
リ「俺は、チーズ蒸しパンになりたぁい」
パ「鼻ほじったゴリラが脳裏を通り過ぎって行った」
シ「僕はー、トンビとかかなー?自由に空とか飛んでみたい」
ロ「空かー、私も飛んでみたいなー」
パ「私は犬かなー?裕福な家の人に飼われて、何もせずとも幸せを享受したい」
コ「強欲な壺」
レ「私はラッコかなー?海で何もせずに波に揺られていたい」
リ「どれかと言ったらトド/レ「それ以上言ったら○す」
コ「今のはリューソーが悪い」
リ「すみませんでした」
そんなどーでもいいような事を話していると、店の扉が勢いよく開いた。
店員「いらっしゃいやーせぇー」
レ「あ、タイト」
振り向くことなくタイトが来たと言い当てるレイ。
ロ「もう、見ずとも分かるようになってやがる」
コ「位置情報を探知するなにかを取り付けられてる説が濃厚」
よほど急いで来たのか、タイトは肩で息をしながら早歩きで皆の元へと向かい、どこか嬉しそうな楽しそうな表情で話し出した。
タ「さっきね!そこでね!髪の色が橙色で、背中に真っ白な翼を持った人を見たよ!しかも飛んでた!!」
シ「それってまさか!!」
タ「そう!東雲!!!」
シ「ほんとに!?」
タ「めっちゃ綺麗な白色の翼だったよ!」
シ「僕も見たかったな〜!」
珍しく、やや興奮気味かつ大きめの声で話し合う2人。そして、2人の話に置いてけぼりの4人。
リ「普段の俺らが言えることじゃないが、うるさいなこいつら」
ロ「ほんとにな、双方共に」
レ「タイトが嬉しそうで良かった」
コ「えへ、えへへ、、、彼氏と推しが無邪気にはしゃいでる。かわいい、かわいいよぉ、最高だよぉぉ」
パ「推し?」
コクウの『推し』という言葉に反応するパルス。いや、反応してしまったパルス。コクウは、よくぞ聞いてくれました!と言わんばかりに笑顔になって語り出した。
コ「タイトは、私の、推し。
見させてもらっているだけで感謝しなければならない。
傍に近づき、話せるなんて、身に余る幸福。
目の保養、心の充電器、生き天国。」
タイトを恍惚の表情を浮かべ、崇拝するような眼差しでタイトを見るコクウ。
リ「生き地獄の反対版とかあんだな」
ロ「もしタイトがコクウの期待を裏切るようなことをしたらどうすんだ?」
コ「推しが何をやっても許すのがヲタク。
余程の事、シキを死なせる位のことがない限りは全てを無条件で許しましょう。」
ローネの質問に真顔で言い放つコクウ。
パ「こいつが1番ぶっ飛んでるかもしれん」
レ「コ、コクウには、!シキがいるでしょ、!?」
レイが焦ったように言う。レイの言葉にコクウは両手を胸に当てながら、ゆっくりと諭すように
コ「もちろん、私の好きな人はシキただ1人だから。
大丈夫、私はタイトを取ろうとか、2人の距離を無闇矢鱈に縮めようとかは思ってないから。
ただ、私はタイトを見るだけで幸せなの。タイトが幸せそうにしているのが私の喜びなの」
そこまで言うと、コクウは急にレイの肩を両手で掴みかかり、
コ「だから!レイもタイトの事を諦めずに、頑張ってね!私たちは2人の仲を応援しているからね!」
レ「は、はい...ありがとう...ございます?」
コクウの勢いに萎縮してしまったレイ。
リ「さっきまで、距離をどーとか言ってたのにな、1番期待してんじゃねえか」
パ「あのレインが押されているとは」
ロ「この隊、まともなやつ、居ない」
((今更だろ))
ロ「それもそうか」
その後、やや大きめの声で話していたタイト達は店の人に注意されてしまい、一度冷静さを取り戻した。
タイトの昼食を食べ終わったあとは各々、自由行動となった。タイトとシキは東雲を探しに行くと言って、元気よく走り去って行った。
リ「幻の植物でも見に行くかのような感じだなあいつら。見るのは人なのに」
パ「よくわかんねぇな」
ロ「あれだろ、有名人を近くで見に行くのと同じ感覚なんだろきっと」
↑3人はいつも通り特訓をするみたい。
コ「シキ、行っちゃったし、どうしよっかな?」
レ「・・・じゃあ、私と一緒にこの村回りながら食べ歩きでもする?」
コ「いいね!村巡りは賛成!ただ、食べるのはもう少し待ってもいいかな?」
レ「そこは自分の判断でいいよ」
18:30
日も傾きかけてきた頃に再びご飯屋へとタイト達は集まった。
シ「見つけられなかった、、」
タ「あの人どこに行ったんだ?」
コ「残念だったね、そういう日もあるよ」
どうやら2人はお目当ての人物を見つけられなかったようだ。シキが珍しく、分かりやすく落ち込んでいるのが見える。
全員が集まってから夕食を食べ、夕食後は宿へと向かった。旅の疲れもあってか、いつものような遊び大会は開かずに早めに就寝することとなった。
タ(眠れない)
タイトは昼間に見た純白の翼を広げる姿が、閉じた瞼の裏で何度も鮮明に再生されて、頭が覚醒してしまいなかなか寝付けずにいた。
タ「・・・散歩でも行くか」
タイトは他2人を起こさないように、なるべく物音を立てずに部屋の鍵を持って外へ出た。
外に出たタイトは村の中心とは逆の方向の丘の方へと歩き出した。
タ「今夜は満月か、」
太陽光を反射した月の光が、1寸先も見えないような明かり一つない暗闇に影を成して輪郭を作り出す。真っ暗では間違えそうな道も月明かりが照らす。
タ(今日がもうすぐ終わっちゃうな)
人や物音は一切聞こ得ず、虫の鳴く音だけがこの夜に響く。田舎特有の虫の多さは鬱陶しいので、タイトは弱い電気魔法を全身に帯電させて、近づけないようにしながら辺りを歩く。
5分程歩いただろうか。タイトのすぐそばを蝶か蛾かがユラユラと揺れながら通り過ぎ、丘の上に浮かんだ、大きな円を描いている月へと飛んで行く。
その蝶の行方を何となく追うタイトの視界の先、丘の頂上に1人の少女が月を横目に見ながら立っているのを見つけた。
少女は飛んできた蝶に目線をやると同時にタイトの存在に気がつき、タイトの方を振り返った。
他の明かりで簡単に上塗りできてしまいそうな月明かりが作り出す影が、少女の表情を薄くタイトの視界へと写す。
初めて見る少女の表情は決心のついたような、寂しく思わせるような控えめな笑顔は、どこか儚げで、強さを感じさせるようで、なぜか、この夜が終われば消えてしまいそうな気さえしてしまう。
月明かりだけが頼りの明るい夜に、そんな少女とタイトは出会った。




