第41話 美学が足りないねぇ
/639年7月30日/
冒険者協会にて
タイト達は近々、次の街へと出発するための準備としてお金を稼ぐために、協会の貼り紙とにらめっこを繰り広げていた。
タ「どの任務受けよーかなー?」
リ「迷える子羊よ!何を悩んでいるのかね?」
タ「あ、!あなたは!?」
後光を照らしながらタイトに壮大な物言いで聞くリューソー。
リ「まぁ、特に何も無いんだがな」
タ「頼むから最後までやりきってくれよ」
((話の落とし所がなかった。))
タ「そんなのボツにしてよ
ここで赤裸々に言わないでよ」
まだ朝だと言うのに、既にタイトは疲れている様子。
リ「どの任務にするかで迷ってんのか?」
タ「そうなんだ〜」
リ「そんな時はな、心躍る方を選んどけ」
タ「と言うと?」
自信満々の笑顔でリューソーが一言。
リ「死災」
パ「心躍ったまま、正常に戻ることなく〇ね」
コ「行くなら1人でどうぞー!」
レ「先に隊から除名しとく?」
タ「受付に後で言いに行ってくる」
リ「冗談だから。冗談だからね、俺を殺す時だけ円滑に物事を進めないでくれる?」
不安になり、みんなを止めようと焦り始めたリューソー。
ガタッ!
後ろに座っていたローネが唐突に立ち上がって、ねぎを背負った鴨を見つけたかのような目でこちらを見ていた。
ロ「今、、死災って言ったか?」
震えた声で言うローネ。
ロ「それは止めざるを得ない」
パ「あぁ、すまんすまん。このバカだけだから気にすんな」
リ「俺も冗談だわ」
ロ「そか、ならいいやー」
冗談と知り、再び座るローネ。
リ「冗談無しに、『これ面白そーだなー』ってやつ選んでいいと思うぞ」
タ「心躍るってやつ?」
リ「そそそ」
リューソーの言葉を聞き、タイトが1つの貼り紙を指さす。
タ「んー、じゃあこれ」
・・・
・・
・
シ「・・・で、今に至ると。
僕が居ない間に、、」
そう言うシキの視線の先には、薄暗く、白い糸まみれの森。対象は森の中心に巣食う、巨大な蜘蛛。毒持ち(恐らく)。
巨大で大量な糸のせいで本体すら見えず、近づくことすら叶わない。
リ「タイトも、俺たちを理解って来てくれて嬉しいよ」
シ「これほんとに4等星で受けれる任務なの?」
タ「一応、、」
コ「被害が少ないからかなー、?」
レ「うーん、、見えない」
パ「レインでも見えないって、ほんとにいんのかぁ?抜け殻とか許せんぞ?」
レ「見えないというより、普通じゃ見えないくらいの細い糸がそこら中にあって集中できない」
レイが糸を切っているのか、何も無いところで刀を振り回している。
タ「俺らもしかして糸まみれ?」
レ「うん」
3人「うわぁぁぁぁ!!!」
糸を振りほどこうとのたうち回り始めるタイト、リューソー、パルス。
シ「一旦近くの糸は燃やしてしまおうか」
とりあえず、鬱陶しく絡みついてくる糸を消そうと、火魔法を前方へと放出するシキ。
しかし、火魔法が触れても一向に燃え広がる様子はなく、火魔法をぶつけた箇所すら燃えずにそのままであった。
シ「火の耐性あるのかよ」
コ「今まで散々燃やされてきたから、耐性でもついたのかな?」
リ「可哀想に、とは1ミリも思っちゃいないが」
真顔で平然と言い放つリューソー。
パ「さすがに剣では切れるよな?この太い糸」
リ「切れなかったら、もう柱を呼ぶしかないな」
リューソーが目の前の糸目掛けて剣を振るうと、糸は容易く切る事が出来た。
リ「お?切れた切れた」
パ「先に進めそうだけど、糸はまだまだあんな〜」
そう言いながら、タイト達は足を進める。タイトがレイの前に進んだところで、レイがタイトを呼び止めた。
レ「あ、タイト、ちょっと止まって」
タ「ん?どした?」
レイは刀を構えるとタイトの周りで刀を軽く振るった。
レ「うん。これで細い糸は全部取れたよ」
タ「まだあったのか。俺、レイにいつも世話ばっかりかけちゃうね」
レ「ううん気にしないで、私が好きでやってるだけだから。ちなみに全身ぐるぐる巻きになってたよ」
レイの一言にずんずん進んでいたリューソーとパルスの足が止まり、レイの方を振り返る。
リ「てことは俺らも?」
パ「私もか?」
レ「うん」
リ「俺も取ってくれ!」
レ「何言ってんの、?それくらい自分達で取りなよ」
さも当然、のような顔をして首を傾げるレイ。
リ「こ、こいつッ!冗談抜きで、そういうもんだと思ってやがる」
パ「タイトは特別枠ですかい」
渋々と言った様子でお互いの周りで剣を振る2人。
シ「てことは僕もだよねー、変な魔力を体中に感じると思ったらそういう事か。」
コ「短刀取り出そっか」
パルスとシキは収納魔法からお互いに短刀を取り出し、シキの周りを切った。
コ「私は大丈夫だから」
シ「りょーかい」
ロ「私も剣だけ出しとくかー」
そう言うと、ローネも収納魔法から剣を取り出しながら、周りをサッと切って腰に携えた。
リ「剣て案外普通のやつ使ってんだな」
ロ「なんだ、不満か?」
リ「いやいや、魔剣とかいっぱい持ってるのかなと思ってな」
ロ「魔剣は魔王城に置いてあっからなー。
持ち出し自由だけど、別に要らんし」
パ「なんだこいつッ!強そうだぞ?」
ロ「一応幹部やらせてもらってますローネです」
お辞儀をしながら自己紹介をするローネ。
その後も邪魔な糸を切りながら奥の方へと進むタイト達。進めば進む程糸の束は、人を丸々巻き付けることができる位に太くなっていった。
そして、その糸が360度どこを見ても張り巡らされている程に多くなっていた。
タイトとレイはこまめに糸を切りあっているが、他の面々は気が向いたら程度で進むこと優先でいた。
その差なのだろうか、突然体に大量の太い糸がどこからともなく発生。
リ「うお!なんだこりゃ」
パ「ちょっ、にげn」
リューソーは糸を切ろうと剣を構えるも一手遅く、為す術なく繭のような糸に捕らわれてしまった。
比較的糸の少なかったレイとタイトはお互いの糸を切れる程度の拘束であり、何とか糸に捕らわれることはなかった。
シャンッ!
ローネは捕らわれた瞬間に剣で糸を切って脱出してきた。
ロ「おいおい、一体誰に喧嘩売ってんだ?この蜘蛛はよぉ」
タ「おぉ、さすが魔王幹部」
ロ「てか、これ多分今糸まみれのやつ出て来れないぞ?繭の中で体をぐるぐる巻きにされるから身動きが取れない」
タ「ま?」
レ「リューソーが繭の中で動いてないのはそういう事か、」
ガサガサッ!
不気味に鳴り響く葉が擦れ合う音。
タ「えちょ、、まじ?」
ガサガサ、ガサガサ!
葉の擦れる音は段々と近づいてくる。そして、音の元凶は姿を現した。
糸の大きな通り道のような合間から明らかに大きさがおかしい、無数の毛が生えた鋭い足がまず見えた。1本、2本、5本と足が出てきたところで本体の全貌が見えた。
足を抜かした時の全長が優に3mを超えてそうな巨体。クリっとした硝子玉のような複数の目。丸々と膨らんだ腹部。
音の原因は辺りに張り巡らせた糸を伝って移動する時にその大きな体の重みから来る、糸の揺れによるものだった。
タ「この世の気持ち悪いを全部、集めた?」
蜘蛛の大きさも相まって、気持ち悪さが加速しており、タイトは少し引き気味の反応。
ロ「おいお前」
ローネは蜘蛛を視線から話すことなく、いつもよりも低い声で喋りだした。
ロ「さっき、誰に喧嘩売ったと思ってんだ?」
試すような笑みを浮かべながらローネは、魔王幹部の気を放った。
禍々しく、凍てつくような圧倒的な威圧感に、タイトは動くことができなくなっていた。
また、蜘蛛もその圧を感じたのか、ローネから距離をとるように少し後ろへと下がった。
ロ「ふん。この程度の気で恐れをなす、か。
なんかもういいや、あと任せたぞ」
ローネはそう言うと、放っていた気を抑え、近くの気に背を預けて座り込んでしまった。
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*視点 戦闘時*
タ「任せたって言われてもな」
レ「本体が目の前にいるんだし、ちゃちゃっと倒しちゃおう」
タ「先にみんなを解放する?」
レ「うーん、先に2人で集中して蜘蛛を処理してからの方がいいと思う」
タ「りょーかい」
タイトはまず土魔法で相手に向けて放ち牽制。蜘蛛はこれを自身の体から出すのではなく、右上から左下にかけて太い糸の束を目の前に作り出して防御。
レ「細い糸には気をつけてね!」
タ「おう!」
衝突を機に2人はそれぞれ走り出した。と、同時に蜘蛛もその巨体からは想像のつかない速度で、糸の上を縦横無尽に動き出した。
タイト達は糸の獣道や森の木の間を抜いながら距離を縮めるでもなく、離れるでもなく、2人で一定の距離を保っている。
魔法で攻撃を行いながら、糸と木でお互いを見失いながら、タイトは魔力探知でレインと蜘蛛の大体の位置を把握しながら走り回る。
タイトは相手が見えたら魔法を放つ。を何度か繰り返すが、蜘蛛は魔法を的確に糸の束で防御する。
レインは木の上の方へと行き、糸の獣道を移動していると、糸の終点に蜘蛛が顔を覗かせてきた。
レ(こうも正確に、、、)
防御だけでなく、蜘蛛の立ち回りに違和感を覚えるレイン。恐らく何らかの方法でこちらの位置がバレているのだろう。
蜘蛛はレイン目掛けて口から何やら怪しげな液体を吐き出した。
レインは咄嗟に自身の足元の糸を切り刻み、下降。液体の落下を予測し、近くの木やら糸やらを蹴り、穴からも離れる。
が、レインは刀を糸に捕らわれてしまった。レインはやむ無く即座に刀を手放し、その場を離脱。直後、レインが居た場所に糸の束が発生。
垂れてきた謎の液体は、ジュワァァァと音と煙を立てて木と糸を溶かしていた。
レインはそのまま糸と森の中へと身を隠す。
蜘蛛がレインへ攻撃をしているのを確認したタイトは糸と木を使って距離を詰め、剣を振るう。
が、蜘蛛は口から糸を吐き出し上へと逃げられてしまい、タイトの剣は空振りに終わる。
タ「ちょっと待てや」
タイトは左手の人差し指に魔力を集中させる。タイトはあの時、レインが自身を鳥から連れ去られるのを助けてくれた時のことを思い出しながら、
タ(弧を描く様に)
左手を横へと振るい、口から出ている糸目掛けて風魔法を放つ。魔法は糸に見事命中。しかし、糸に触れた瞬間、風魔法はただの魔力へと還り、糸を断ち切ることは出来なかった。
タ「火だけじゃないのか、」
上昇を終えた蜘蛛はタイトに向けて、口からタイトを捕獲するように円形で網状の糸を放った。
タイトは地面に着地後、すぐに剣を構えて上から下、左下から右上、右下から左上の3方向で糸を切り、糸の破片は体には付くも捕獲は回避。
続けて、未だ上で待機している蜘蛛目掛けて、タイトは刀を投げつけた。投げた後すぐにタイトは蜘蛛目掛けて飛び上がって距離を詰める。
投げた刀は蜘蛛に着弾する前にたった今作られた糸の束に突き刺さり、受け止められた。
だが、タイトが次に瞬きをした時には刀は消えており、代わりにそこら辺の木の棒が突き刺さっていた。
<交換魔法>
蜘蛛のすぐ右横にレインがタイトの刀を手に、顕現する。
これには反応できていない蜘蛛。レインは一瞬のうちに剣を5度振るい、蜘蛛の足を3本切り落とした。レインはその後すぐさま身を隠した。
シイィィィャァァァア!!!
足を切り落とされ、奇声をあげる蜘蛛。
タイトも追撃をしようと短刀を手に蜘蛛の目の前へとたどり着いた。だが、蜘蛛の復帰は早かった。
すぐに目の前のタイトに向かって先程の怪しい液体を吐き出した。
タ(ちょ、、むり!!!)
タイト、咄嗟に左手から風魔法を放ち、体を後ろへと押し出して毒を緊急回避。
ロ「お、!おかえり〜」
地面に着地すると、いつの間にか元の場所に戻って居た。ローネの暇そうな声が聞こえてくる。
ロ「どんな感じだー?」
蜘蛛はタイトを追いかけて、タイトと10m程の距離を空けて地上へと降りてきた。
タ「あいつ、ちょっと厄介かなー?」
「なら、手伝ってあげる!!」
タ(誰の声だ?)
声が何かに遮られているかのように、籠った声で聞こえてきた声。声のするほうを見てみると、繭が1つ。
バリィィっ!
突然、視線を移した先にある繭の糸が四方へと勢い良く飛び散り、中にいた、コクウが姿を現した。
コクウは全くの無傷の状態で出てきており、右手を蜘蛛に向けて伸ばして何かを構えていた。
コ「さぁて、蜘蛛よ。君は既に、将棋で言うところの、王手に嵌っているのだよ」
四方へと散った糸の屑がコクウの周りで止まり、屑の一つ一つが棘の形を成して、先端を蜘蛛の方へと向けられていた。その普通ではありえない光景に呆気に取られているタイトにコクウは説明をする。
コ「私の神技は<ベクトル操作>!
この世のあらゆる物質は私の思うがまま」
タイトに聞こえるくらいの声でそう言うと、コクウは無数の糸の棘を蜘蛛目掛けて放った。
糸の束により何本かは受け止められるものの、コクウは数の暴力。そしてベクトル操作で糸を避けさせることなど容易い所業。
コクウが放った糸の雨は、蜘蛛の腹部や顔に多くの風穴を空け、2本だけを残し、その他の足を全て削ぎ落とした。
きしゃぁぁぁあぁあ!!!
怒号のような叫びを上げながら、コクウに向かって毒を吐く。
しかし、毒はコクウに届くことはなく、それどころかコクウの遥か手前で地面に吸い寄せられたかのように、物理法則を無視して地面にぶちまけられた。
コ「仕上げは、頼んだよー!」
ザンッ!
コクウの合図の後すぐに、レインが蜘蛛を縦に真っ二つに斬り裂き、タイト達の前で刀に着いた液体を振り払った。
レ「タイト、刀、ありがとう」
タ「、、あぁ!刀ね」
コ「レイン、お疲れ様!」
レ「それじゃあ、みんなを助け出そうか」
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*タイト視点*
その後、レイは自分の刀の回収、俺とコクウはまずシキを助け出した。というより、コクウの時と同じように繭を四方に四散させながら出てきた。
シ「いやぁー、蜘蛛だったから僕の出番なく終わって良かったよ〜」
タ「ごめん、シキが虫嫌いなの、忘れてた、!」
((忘れてたッ!))
シ「おい、!」
シキが珍しく、やや驚いたような大きめの声でツッコミを入れた。
タ「捕らわれてたのに、結構余裕そうだね?」
コ「シキは私の神技で守ってたんだー」
タ「そんなこともできるの?」
コ「空気の壁を作ればできるよー」
ここで、刀を回収に行ったレイが合流した。
次にパルスの繭と体に張り付いている糸を、丁寧に斬り開いた。中からかなり疲弊したパルスが膝を着きながら出てきた。
パ「はあ、、、はあ、、、さすがに死んだかと思った」
コ「良かったね。中から溶解液とか分泌されて服とか溶けてなくて、」
パ「今からでも、エチチな展開で集客するか?」
((させねぇよぉ?))
最後にリューソーの糸を切り開く。と、中から何故か半裸になったリューソーが汗を輝かせながらカッコつけながら出てきやがった。
リ「オイヤメロヨ、ノックするのがジョーシキダローガ?」
タ「ねぇ、コクウ。糸をもう1回巻き直す子もできたりする?」
コ「お安い御用さ」
リ「判断はえぇよ」
その後、蜘蛛の足やら目やら毒やらを剥ぎ取って、最後に燃やして今日の任務は幕を閉じた。




