第3話 日常
*タイト視点*
エ(7歳)「じゃあ!じゃんけんで負けたタイトが鬼ね!」
そう言いながら颯爽と走り出したエレナ。
タ(7歳)「はぁ、嫌だなぁ。」
僕は少し不服そうに言う。
レ(7歳)「ちゃんと捕まえに来てね。」
少し笑いながら言い、レインも走り去って行った。
タ(鬼交代できるかなぁ?)
あまり乗り気では無い。なぜなら、僕はは3人の中で1番足が遅いのである。
しかし、僕が遅いのではない。2人が速すぎるのである。
鬼ごっこにおいて正確なルールはなく距離も帰って来れるのであれば村の中どこへでも行ってもいい。そして、エレナたちの住むこの村はかなりの田舎ということもあり、辺り一面に畑が広がっている。
また、近くに森や山などの自然もあり、逃げが有利な地形になっている。そのため見つけても遠すぎたり、そもそも見つからなかったりする。それがより一層僕を憂鬱にさせた。
タ「……57、58、59、60。はぁ。」
小さくため息をつく。自分よりも明らかに足の早い2人を捕まえに行かなくてはならないのだから。
1人寂しく2人を探して、畑の間の一本道を歩いていると、前の方から1人の男性が歩いてきた。僕はその人物に気づき足早に近く寄った。向こうもこちらに気づいたようだ。
?「やぁ、こんにちは。また来たよ。」
タ「こんにちは。久しぶり、ジョーカーさん!」
ジ「さん、は要らないよ。」
少し微笑みながら答えるのはジョーカー・ゴデチア。見た目は40代ほどの細目でメガネを掛けており、髪は右は黒、左は白と珍しい色をしている。この男は冒険者として色々な土地へ行き、魔物や害獣を駆除している。
昔はこの村に住んでいて、亡くなった知り合いの墓が近くにあるらしい。
ジ「ところでタイトくんは1人で何をしているんだい?」
タ「今は、エレナやレイと鬼ごっこをしているんだ。」
ジ「家から随分と離れているみたいだけど?」
タ「範囲はこの村中ならどこへでも行っていいんだ。」
ジ「かなり広いんだね、、、1人でも、大丈夫かい?よかったら捕まえには行けないけど、一緒に探してやろうか?」
タ「いいの!?」
ジ「うん。今回も2、3日ここにいようかなと思っているからね。」
タ「やったぁ!ありがとう!」
それは願ってもいないことだった。そして僕はジョーカーを密かに憧れていた。僕はジョーカーがしてくれる冒険話が大好きである。また、冒険話はエレナやレイも大好きであった。
2人を探しながら冒険の話を聞いていると、
?「やぁ、こんにちは。タイトくん。あら?そっちにいるのはジョーカーじゃないの。随分と久しぶりだねぇ。3年ぶりかな?」
ジ「ふふ、先月も会ったでしょ。シロおばさん。」
タ「こんにちは。シロおばあさん。」
2人に話しかけたのはシロ・アネモネ。曲がった背中にシワだらけの皮膚。いかにも老人のような見た目をしている。かなり歳をとっており、本人でさえも何年生きているのか正確にはわかっていない。
また、嘘をつくことを生きがいとしており、よくエレナや僕たちに嘘を言っては笑っている。
シ「はっはっは。それで今2人で何をしているんだい?」
タ「今はね、エレナやレイと鬼ごっこをしているの。で、2人をジョーカーさんと一緒にさがしているんだ。」
シ「へぇ、そうだったのかい。そういえば、ついさっきエレナちゃんがそこを通って行ってたよ。」
タ「本当!?ありがとうシロおばあさん!」
そう言って勢いよく走り出そうとした瞬間、
シ「はっはっは。嘘だよ。」
派手にズッコケた。シロおばさんは小馬鹿にするように笑い、ジョーカーさんは少し哀れんだ目で見ていた。
タ「えぇ!嘘なの?」
シ「タイトくんは騙しやすくて面白いねぇ。」
タ「ひ、酷い。」
少し涙目になる。
ジ「まだまだ嘘をつけるくらい元気なことで何よりですよ。いったい、何時になったらくたばってくれるんですかね?」
タ「そんなこと言っちゃダメだよ。ジョーカーさん。」
ジ「はは、ついうっかり。」
シ「タイトくんは優しいねぇ。」
タ「ねぇ、シロおばあさんってだいたいどのくらい生きているの?」
シ「う〜ん、そうだねぇ、だいたい200年くらいかなぁ。魔物の血も混じっているからねぇ。」
また、少し笑いながら言う。
タ「もう!さすがにもう騙されないよ。」
シ「はっはっは。それじゃあ近くの魔力を探知して魔王様がどこにいるかあててみようかねぇ。」
そう言って、目を瞑り、10秒ほど経った。
シ「ふっふっふ。見つけたよぉ。これはすぐ近くにいるねぇ。だいたい1mくらいかのぉ。」
タ「さすがにわかりやすいよ。魔王はこことは反対側のとても遠いところにいるんだから。」
シ「はっはっは。さすがに騙せないかぁ。それじゃここいらでお暇させて貰おうかな。」
タ「うん。またね!」
ジ「それでは、さようなら。」
関係ない話だが、アネモネ・シロはこの数ヵ月後に寿命で亡くなった。
また、2人で冒険の話をしながら歩いていると、ジョーカーが急に立ち止まった。そして耳元で
ジ「タイトくん。そこに木があるだろう?その木の裏にエレナちゃんがいるよ。だからバレないようにゆっくり近ずいてタッチするんだよ。僕は少し歩いて気づいてないフリをするからね。」
と、たくさんある木の中の1つを指差し、囁いてきた。そして僕も小さく
タ「わかった。」
と言い、頷いた。そして、バレないようにゆっくりと近ずいて行った。
*エレナ視点*
音を立てないように体を強ばらせ、息を潜めて緊張している心臓の音が聞こえるほどじっと待つ。
数秒前に木の影から覗いた時に10数メートル近くまでタイトが来ていることを確認した。一緒にジョーカーもいたので危うく飛び出して行きそうなのを堪えバレないように木の影に隠れた。
エ(もう行ったかな?)
10秒ほど経ちもう一度確認するために木の影から覗く。自分には気づかずに歩いて行くジョーカーを見てほっとし、緊張もほぐれていっていたその時、
タ「タッチ!」
エ「わあぁぁぁ!」
タ「うわぁぁ!」
過ぎ去って行ったと思っていたタイトが少し大きな声とともにタッチして触ってきたことに驚く私。私の驚いた声に驚くタイト。混沌と化した現場に少し遠くから笑うジョーカー。
タ「び、びっくりしたぁ。」
エ「それは私の方でしょ!後ろから大きな声を出して脅かさないでよ!」
タ「脅かしたつもりはないのに、そんなに怒んないでよ。」
気の弱いタイトはあまり強くは言えずにいた。しかし、怒っていると思われていることが気に食わない私は、
エ「怒ってない!」
と、強く言った。それに対しタイトは、
タ「怒ってんじゃん。」
エ「怒ってないって言ってるじゃん!」
と、徐々に言い争いになっていった。と、私は思っているが、傍から見ればタイトが一方的に言われているだけである。
エ「ていうか、絶対タイトには見つかってないよね!今のタイトじゃ見つけられないもん。絶対ジョーカーが見つけただけじゃん!ずるい!ずるい!」
と、ずるいと連呼する私に図星で何もいえなくなって萎縮してしまっているタイト。さすがに可哀想に思ったのか、横からジョーカーが
ジ「こらこら、その辺でやめておきなさい。タイトが泣きそうになってるよ。」
エ「うっ、、、ジョーカー、、、もういいや、、、みんなでレイを探しに行こう!」
タ「そうだね。」
ジ「それじゃ、レインちゃんを見つけたら今回もお土産を持ってきたから渡そうかな。」
エ「え!本当!?やったぁ!」
タ「またくれるの?ありがとう!」
ジ「じゃあ、早く探しに行こうか。レインちゃんはいったいどこに隠れているのかな?」
我先に見つけんとばかりに周りを凝視する2人。いつの間にか鬼ごっこがかくれんぼになっていることに誰も気づかないでおり、結局、タイトが最初に時間を数えていた場所のすぐ近くに隠れていたレイに言われて気づく3人であった。
無事にレイも見つけ、お土産タイムに入った4人。
タイトには魔法の使い方、魔法の出し方などについて書かれた魔導書。
レイにはここら辺では食べられない遠いところで作られたとても美味しい食べ物。
ジ「そして最後に、エレナちゃんにはこの絵本。この絵本きっとエレナちゃんは気に入ると思うな。」
と言って、収納魔法から取り出してきた絵本。題名は「勇者エースの大冒険」。
冒険という言葉だけでとても気分があがる私。そしてジョーカーに質問をする。
エ「へぇ〜、どんなお話なの?」
ジ「ん〜、それは見てからのお楽しみだね。」
エ「ん〜!ケチ〜。」
少しくらい教えてくれてもいいじゃんかと心の中で思う。
ジ「まぁまぁ、それじゃ、日も暮れてきたし、知り合いのお墓にも行かなきゃだし、また明日ね。」
みんなで口々にお別れを言って、ジョーカーと別れ、家に2人で帰ると、
?「あら、お帰り。もうすぐ夕飯できるから手を洗ってきなさい。」
と、私たちに言うのは、ハーネット・ゼラニウム。私たちのお母さん。綺麗な黄色の髪と目をしている。滅多に怒ることはなくとても優しい。
エ&タ「「はぁーい。」」
と、口を揃えて返事をし、ジョーカーに貰った本を自分の部屋に置いた後に手を洗い、リビングへ向かうと料理が並べられていた。テーブルの椅子に着くとほぼ同時くらいに
?「おかえり。また3人で遊んできたのかい?」
と、私たちに聞いてきたのはエイジ・ゼラニウム。私たちのお父さん。青い目に私たちと同じ黒い髪をしている。
お父さんもとても優しく、剣技の才もあり現役時代はかなり強かったらしい。怪我で利き手が麻痺してからは田舎の方に来て今の生活を始めたみたい。よく知らないけど。
エ「うん。でも、ジョーカーも来たんだよ。」
と、他愛のない話をみんなでして、食事を終え、私の部屋に行って、ジョーカーに貰った絵本を読んだ。
絵本は初めて読んだ。話は、姫を魔王にさらわれた勇者が姫を取り戻すために冒険に出かけ、色々な苦難を乗り越え、魔王を倒し、姫を助ける話であった。
この話を読んだ直後、私は自分の部屋を出て隣のタイトの部屋へ足早に行き、勢いよくドアを開けた。いきなり来た私にとても驚くタイト。タイトもジョーカーに貰った魔導書を見ていた。
タ「え?ど、どうしたの?急に。」
私は今、絵本を読んで、とても気分が高鳴っているのを感じていた。そしてその勢いのままに高らかに宣言した。
エ「決めた!私、勇者になる!!!」
いきなりそう言われたタイトはよく分からないという顔をしていた。