第23話 ほなまた
/639年6月28日 仮想空間にて/
*視点 戦闘時*
リ「もうすぐか?」
レ「ここを抜けた先だよ。あ、また大木を投げた」
レ(角度的に丁度タイトの方向に飛んで行ってる)
レイン達はやがて、一帯の森の木が伐採された、開けた場所に出た。木の断面は叩き折られたかのように、統一性のない刺々しい切り株となっていた。
バギャァ!
そして、丁度その切り株が作られる瞬間を見た。カマッセが素手で大木を殴り、一撃で殴り倒す様を。
そして、カマッセは右肩をぐるぐると回しながら、近くにいる4人のうちの1人仲間に声を張上げて尋ねる。
カ「いよっしゃぁ!奴らの居場所はぁ!?」
「はい!ここから北西の方角、先程の場所から5mほど下がった位置で止まっております!」
切りたてほやほやの大木を肩に乗せ、振り返ったカマッセとレイン達の目が合う。カマッセはしばらく考えた後、状況を理解したのか、気持ち悪く笑った。
カ「クック、マージの居場所がバレちったか。
で、あの腑抜け野郎に任せてお前たちがこっちに来たと。」
いちいちタイトを馬鹿にしないと気が済まないのか、タイトのいない所で言い始めた。それに対し、レインは表情1つ変えることなく、正面から睨みつけて、低く鋭い声で言う。
レ「あんたを殺しに来た」
レインの一言で辺りの空気に緊張が走る。カマッセはレインの堂々とした佇まいに唾を飲み込む。
パ「へいへーい!相手びびってるぅー!!」
リ「ヘイヘイヘイ!!」
ほぼ無言で凄むレインに対し、手を叩き、足を踏み鳴らし、大声で奇声を発し、煽り返す2人。
そう、こいつらが主人公の仲間達です。愉快ですね。さらに続けて、
リ「レインの姉御!あいつらどうしやすかい?!」
レ「あなた達は周りの雑魚どもを。真ん中のデカイのは私がやる」
リ「了解しやした!」
パ「お?レインの姉御、なんだか嬉しそうスっね?目元が笑ってまっせ!」
レ「フフ、合法的に殺せるなんて、素晴らしい世界」
リ「殺しに一切の躊躇がない!」
パ「そこに痺れる憧れるぅ!」
やがて、意味もなく騒ぎ出す猿2人と殺すことしか頭にない1人。そんな奴らを目の当たりにして、カマッセたちは真顔で喋りだした。
「・・・親分、あれがほんとに主人公側の人間ってほんとですかい?」
カ「お前たちの名前が未だに公表されていないということは、つまりそういうことだ」
「どう考えても、討伐される側でしょあいつら」
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コ「・・・・・・」
シ「・・・・・・」
一言も喋ることなく、真剣な表情で顔を見合わせるシキとコクウ。コクウが小さく呼吸をする。
コ「・・・すぅ、いっせーのーが!いちいぃぃぃぃ!!」
コクウとシキがお互いに1本ずつ親指を上げる。
コ「あぁぁぁぁ!」
シ「っし!!」
次にシキの番となる。2人とも片方の手は既に上がっており、次に当てた方が勝利の盤面。
あまりにも暇すぎて、遊び始めてしまった2人。
シ「・・・よし、じゃあいくよ?」
コ「ドンと来い!」
シ「いっせーのーが、2!」
2人とも指を挙げずに、続いてコクウに番が戻っていく。
コ「ちょ、フフ、シキってば、2なら自分もあげないとダメじゃん」
シ「・・・あ、」
コ「フッ、愚かなり。そろそろ勝負を決めさせて貰うとしよう」
シ「さぁ、かかってこい」
再び無言の時間が流れ、心理戦が始まる。と、ここでコクウが1つ、シキに尋ねる。
コ「ねぇ、この決闘始まって結構経ったけど、今何時くらいだっけ?」
シ「えーと、今は大体、12時前ってと/コ「いっせーのーが、いちぃぃ!」
シキは親指を挙げていない。だが、コクウの親指が、挙げられていないシキの親指を見下すかのように、そして天を指すようにそそり立っている。
コ「・・・ッ!」
シ「くっ、油断したッ!」
無言で拳を高々とあげるコクウと、対照的に悔しそうに座り込むシキ。
シ「ふー、よし!そろそろ皆のところに歩きながら向かおうか」
コ「さんせー!」
シキはスっと立ち上がり、2人は土魔法で作った塔をゆっくりと降り、皆の所へゆっくりと歩いて向かい始めた。
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カ「おらぁぁぁ!!」
カマッセが手に持っていた大木を勢いよくレイン達に投げたことで、止まっていた時間が進み出した。
レインは投げられた大木に対し、刀を構え、氷魔法で刀に少し肉付けして、縦に割るように振り下ろす
大木は半分の位置で綺麗に縦に割れ、刀に付けた氷魔法を滑り、レイン自身には当たらないよう、切った大木に角度を付けて回避する。
ドガァァ!!
2つに割れた木が後方で音を立てて大破する。
それが開戦の合図となった。氷魔法を解除。レイン達は走り出し、それぞれ、正面にいる相手に向かって距離を詰めに行く。
レインが相手をするカマッセは両腕を回すだけで特に何もせず、横にいる、先程位置を知らせていた子分が魔法を放ってきた。
1つ放ってはまた1つ放つという、それほど修練を積んだとは思えない、魔法の未熟さにレインは、逆に警戒心を高める。
レ(目的は時間稼ぎ。あの動き、何かある)
以前、止まることなく、放たれた魔法を刀で弾きながら歩き続け、近づく。5mほどまで近づいた時、ずっと肩を回していたカマッセが肩を止め、
カ「っし!両方、5回分は溜まったぜ!よくやった!」
「へい!じゃあ、あれっすね!」
カ「ああ!あれだ!ご苦労さん!」
そう言って、子分は地面に手を着き、カマッセの前だけに土魔法で壁を作り出した。
レインは咄嗟に5mの距離を詰め、無防備となっている子分の首を即座に切り落とし、カマッセを追いかける。
壁の向こうには既にカマッセはおらず、
ガサッ!
と、森の中からの音に振り向くと、カマッセが森の中を走って、レインから離れて行っていた。
レ「逃げるな、卑怯者」
森の中と言えど、2mを超える巨体が狭い木々を掻い潜りながら進んでいくのがよく目立つ。レインの神技も相まって、レインは有利と言えるだろう。
レ(罠か)
レ「上等、全部へし折る」
<透視>
レインは神技を使用しながら、正面から森の中を疾走し、カマッセの後を追う。
辺りを注意深くかつ、手短に確認するも、罠という罠を見ることなくカマッセに追いつく。
レ(射程圏内。周りは特になし。いける)
ここでもう一度、カマッセ周辺を神技で確認した後、さらに加速し斬り掛かる。
横に振るった刀が届く直前、カマッセは急に振り返り、いつの間にか、土魔法で作ったであろう石の剣で受け止められた。
レ「無駄な足掻きを」
カ「それはもう悪役の台詞だろ」
レインはカマッセの巨体から来る力に、強引に後方に飛ばされる。勢いはそれほど強くはなく、レインは刀を木に切りつけながら押し当て、勢いを殺す。
再度近づこうと、走り出すと同時に位置の確認のため顔を上げる。カマッセは丁度、レインからは見えなくなる木の影に、レインを確認しながら隠れる。
そして、神技から見える、普通ではありえない行動。
カ「右、2回分」
カマッセは右手に握り拳を作り、木に向かって左足を踏み出す。捻った体を元に戻すように思い切り、木を殴りつけた。
レ(なんか来る)
咄嗟に、大きく横に飛び、カマッセの狙う方向の延長線上から逸れる。
瞬間、カマッセの拳から放たれた何かは、大木に直径20cmの穴を開け、後方の大木の数本を貫通させた。木の葉や草が踊るように宙に舞い、カマッセの前方に1本の道が出現した
ドゴォ!!
何によって出たのか分からない、低い爆音が森中に響く。
カ「貴重な2回分を避けやがって、お前いい目してんな!」
そう言いながら、カマッセは目の前の今にも倒れそうになっている大木をへし折り、切り倒す。
レインはカマッセの死角となっている左右のやや後方から人の頭ほどの大きさの氷と土魔法を放出させる。レイン自身も大木を両足で蹴り、大木間を飛び移りながらカマッセに近づく。
カ「左、1回分」
3方向からの同時攻撃の着弾寸前、カマッセは左の拳を握り、その場でぐるっと回りだし、拳を振りかざした。
カマッセを中心とした、とてつもない風圧が大木の根元を揺らす。当然、魔法は遥か遠くに飛んで行き、レインの体も風に乗り大きく後方へ飛ばされた。
カマッセは浮かせられているレインの居場所を視認し、大木を持ち上げ、着地点に向かって走り出した。
カ「左、1回分」
レインの着地点へと左から右へと大木を振るう。レインは左手から出せるだけの魔力で風魔法を地面に向けて放出させて滞空し、大木を避ける。が、
カ「右、1回分」
振り抜いた、1tを超える大木の慣性を殺して尚、右から左へと振るってくる。だが、この間にレインは軽やかに着地し、体勢を整える。
レ「......」
レ(少しだけ)
レインは刀を握り直し、近づいてくる大木に向かって刀を振るう。
カマッセの持つ大木は、確かに左側まで振り抜いた。だが、レインは吹っ飛ぶことも傷1つも付かず、ただ右手に刀を持ち、そこに棒立ちで立っていた。
カ「....ッ!」
手の違和感に気づき、手元を見ると、大木の持ち手から20cm先からが無くなって、否、大木の木片は目の前に転がっている。
カ「化けもんが」
瞳の奥底から見られてるような感覚にカマッセは冷めた空気を感じた。
レ「終わりだ」
そう言うと、レインは走り出して、カマッセとの距離を詰めた。
カマッセは手元に残った木製のゴミを投げ捨て、諦めたように棒立ちになり、レインをギリギリまで引きつける。
カマッセはレインが足を踏み出したことを確認し、即座に後方へ飛び、右から左への薙ぎ払うようなレインの刀を避ける。すかさず、
カ「左の1回分!」
左手の拳で地面を殴り、大地を揺らす。空振りに合わせ、地面の揺れでレインは体勢を崩し、次の動作に直ぐに入ることを拒否される。
カ(好機!)
カ「右のぉ!1回分!」
好機と見たカマッセは右足で地面を蹴り上げ、レインに殴り掛かる。レインは咄嗟に拳を刀で防御するが、
ガキィ!
刀からは初めて聞く音が鳴る。
レ(ダメだ、、折れる)
そう思い、レインは刀から手を離し、カマッセの拳に抵抗もなく弾き飛ばされる。
カラン、
レ(右の後方、直線で大体10m程度)
音から刀の大体の位置を割り出す。カマッセは既に拳を振り上げていた。
レインはなるべく拳に直接触れないよう、両手に土魔法の装甲を作り、カマッセの猛攻を受け流す。
右、左と、カマッセの攻撃の手は止まない。
レ(素手での攻撃は危険すぎる。一撃で確実に致命傷を与えないと反撃をもろに食らう)
回避と受け流しを適宜しつつ、自然な足運びで、徐々に刀に近づいていく。
そして、約3mの距離まで近づいた。同時にカマッセは右の大振りで殴りかかってきた。
レ(今!)
レインは右の大振りを相手の懐に入る最小の動作で入り込み、カマッセの無防備な腹に風魔法で攻撃して、後方に後ずさりさせる。
カ「ぐっ、!」
レインは少しの間動けないであろう、カマッセから離れて、刀目掛けて走り、手を伸ばす。
レ(あと、1m)
カ「右手に、両手の全部!!!」
カマッセはレインの刀目掛けて、5mの距離から拳を思い切り突き出した。
文字では表せない轟音が仮想空間中の空気を揺らす。
カマッセの目の前には1本、横幅5m程の大きな道が果てしなく伸びていた。地面は深く抉られ、木も草もカマッセの振るった先には塵一つ残っていなかった。
バキバキ、ドォン!
やがて、支えていた重心が欠損した大木が次々に倒れ始める。
カ「ふん、認めよう。なかなかに面白い戦いだったと」
うんうん、と頷きながら、カマッセはレインを称える。
カ「だが!俺の方が強い!残念だが、事実!所詮はその程度よ!」
バチィッ!
言葉を言い切った瞬間、カマッセに電流が走る。比喩ではなく、本物の電流が。カマッセは膝から崩れ落ちた。
カ「ガッ!な...なぜ」
痺れて動けないカマッセの後ろに立つは、我らがレイン。
レ「さあね、なんで負けたか明日までに考えれば?」
そう言って、レインは収納魔法から予備の剣を取り出し、カマッセの首に押し当てる。
カ「最初から、掌の上、という訳かよ」
レインは何も答えず、カマッセの首を無言で表情を変えることなく、切り落とした。




