第16話 おかえり
/639年4月/
*タイト視点*
タ(16歳)「痛っ!」
夜ご飯の準備をしていると、横から頭に風魔法をモロに食らった。
ダ「ほらぁ、言ってるだろ?気を読むようにしろって。そんなんじゃ不意をつかれた時に咄嗟に反応できないぞ」
タ「まだ俺が火を扱っている途中でしょうが!
危ないから料理中はやめてよ」
神父から料理を作れるようになった方が、旅の中のご飯にはあまり困らないと言われたので一応、その練習を続けている。
ダ「気を読むことと、別のことを同時にできるようになりなさい。最悪料理は失敗してもいいから」
タ「それは食材が勿体ないでしょ」
ダ「それはそうか」
人や動物などの気配、殺気などを魔法無しで感じ取れという神父の修行だが、これがまぁ難しい。気を抜くと、すぐに忘れてしまう。その度に罰として感知できなかった魔法が直撃する。
ダ「魔力に頼ってはいけない。体力は使うが、魔力の放出は制御できて、完全に消すこともできるのだから。」
タ「わかってるよ」
17歳の誕生日までもとい、俺が旅に出る日が近づいてきており、修行も大詰めといったところである。
ちなみにレイはまだ帰ってきていない。
ジ「常に相手の行動を予測しながら戦うんだ。いくつか予想する中で、1番やってきそうなことと、自分が今されたら嫌な行動の2つに絞って次の行動に移る。」
ジョーカーさんはためになるが、話が難しくてできないこともしばしばある。
ダ「この世界では、神技がない人のことを『無能』と、呼ぶ人がいる」
タ「無能、、、」
ボソッとつぶやく
ダ「能力がないことと、何も出来ないことの2つの意味の込めた皮肉だ。
いいか?これを言われたら、絶対に勝って、相手を煽り返せ!
煽られたら煽り返し、殺意を持たれたら殺意を返せ!いいな?」
タ「なんて野蛮な世界なんだ」
/639年5月/
ジ「君たち、魔王を倒す倒す言ってたけど、魔王と戦うには各地にいる患部を倒さないといけないのは知っているのかい?」
タ「かん、、ぶ、?」
ジ「その反応絶対知らないよね?言っといて良かったぁー」
初耳学だ。直接乗り込む予定だった。
タ「全員ぶっ倒せばいいの?」
ジ「いつの間にそんなに野蛮な性格になったの?ちょっと悲しいんだけど、、、」
((そういう時期なんだ。そっとしておきなさい))
ジ「そうか、、それなら仕方ないな。」
タ「その解釈の仕方はちょっと腑に落ちない気が」
コホン、
と雰囲気を切り替えるため、小さく咳払いをするジョーカー。
ジ「幹部は全員で8体いる。7体は旅の途中で、残りの1体は魔王城にいるから。幹部の挑戦は計画的にね。
今度、幹部の場所が記された地図持ってくるよ。」
タ「いいの?」
ジ「それくらいお安い御用さ」
タ「いつもごめんね」
ジ「いいんだよ、気にしないで、」
ダ「知らない誰かのために命を懸ける ては行けないよ。命懸けで助けた相手が自分を狙う人物だったことがないとは言いきれないからね。
助けるのは仲間か素性のしれた人物までにしておいた方がいい。」
タ「勇者なのに?」
ダ「勇者である前に私たちは人間なのだ。死んでも復活して何度も挑めるわけじゃない。自分の命、仲間の命を最優先に考えて動くんだ。」
タ「・・・わかった」
この世界は思ったよりも綺麗じゃない。
綺麗に見えて、汚れた部分を新しく塗り直したかのような汚さが今の俺には見える。
どうやら、この世界も『残酷』らしい。
/639年6月14日/
ダ「ちょっと神父の会議に出てくるから留守番よろしく!」
そう言い残し、2日ほど前から教会に帰ってこない神父。年に2回ほど神父の会議が行われているようで、たまに1人になることがある。その場合は、体づくりや、1人でもできる修行の反復練習を行っている。
今日の修行も終わり、神父の家で1人、夜ご飯を作ろうと準備をしていたところで、家の呼び鈴が鳴る。
昼間に人が尋ねてくることは多いが、今はすっかり日も暮れて、外は真っ暗になっている。
タ「珍しいな。こんな時間に誰だ?あの神父を殺すための刺客かな?」
なんて馬鹿なことを言いながら、玄関に近づく。
返事をしていなかったせいで、もう一度呼び鈴が鳴らされる。
タ「はーい。今出ますよー」
玄関の扉まであと一直線の廊下に出たところで、いつもとは違うような、何か暗く、冷たい雰囲気を感じ取った。
何か言い表すことのできないような、静かな恐ろしさが伝わってくる。
一応、剣を腰に携えて、恐る恐る扉を開ける。
タ「どちら様ですかー?」
扉を開けると、目の前には黒髪で長髪の少女が立っていた。その少女は身長は俺よりも少し低く、体型はスラッとしており、痩せすぎずといった体型。
少女と目が合った瞬間、お互いに動きが止まった。一瞬の間だったが、とてつもなく長い時間が流れたかのように感じた。
少女は驚いたような表情でこちらを見つめる。
俺はその少女を知っている。いや、忘れるはずがない。
タ「レイ?」
カサッ、
名前を言いかけたところで、左の方から草が擦れる音が聞こえた。咄嗟に腰の剣に手を添えたが、見た先には人も獣も見えなかったので、手を下ろした。
タ「レイ、だよね?」
レ「タイ、ト?」
タ「久しぶり!とりあえず、暗いし、中入って」
レ「う、うん」
レイを中に招き入れ、居間まで案内する。
タ「いやぁ〜、あの日以来だね。今日は1人でこっちに来たの?」
レ「・・・う、うん」
タ「ここまで来るの結構大変だったでしょ?」
レ「ううん、大丈夫。」
久しぶりに会えて舞い上がった心を極力抑えて、いつも通りに振る舞う。
タ「今から晩御飯を食べようと思ってたんだけど、一緒にどう?それとも、もう食べて来た?」
レ「ま、まだ食べてない。食べてもいいの?神父さんは?」
タ「今日は教会の会議?的なのがあるらしくて帰ってこない。だから1人で食べる予定だったから、丁度良かった!」
レ「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
タ「どうぞ、口に合うといいんだけど」
((残念なことに私は料理に疎いので、料理の場面に関しては詳しく書くことが出来ませんのでご了承ください。カレーとかオムライスぐらいしか作れません。こんなことなら少しでもやっとけば良かったッ、!))
レ「自業自得」
((悲しみの雨))
しょうもない会話を繰り広げながら、お椀にご飯を盛る。自分のは並盛りに、レイのも同じくらい盛ったところで、
(そういえば、レイはよく食べるんだった)
ということを思い出し、2回分多めにご飯を盛ってレイに差し出した。
タ「レイって結構食べるほうだったよね?これくらいでいい?」
すると、レイは恥ずかしそうに目を逸らして顔を赤くしながら、
レ「そ、その、、もうちょっとだけ、」
(さすがに女子相手に失礼だった!)
タ「ご、ごめん!さすがに失礼だったよね?!」
自分の繊細さに欠ける発言に反省しつつ、レイのご飯を減らそうと手を伸ばしたところで、
レ「・・・ない。」
タ「え?」
レ「足りない、、!から、もう少し増やして、欲しい」
その後、レイは俺のよりも1.5倍程の量のご飯を盛り、それを驚くほどの速さで食べた後、おかわりまでした。
(健康体でヨシ!)
((よく食べる子大好物です!))
タ「急に癖をさらけ出すな」
レ「ご馳走様でした」
きっちりと手を合わせて言い、食器を流しまで持っていったところで、
タ「この後どうするの?もしあれなら、今夜、ていうか、俺の勝手な判断だけど、レイも帰ってきたし、もう少しで旅に出るだろうから、それまでここに泊まったら?」
レ「いいの?」
タ「まぁ、いいんじゃない?あの人だし、1人も2人も変わらんとか言いそうだし」
レ「確かに言いそう。」
タ「じゃあ、そういうことで。あぁ、そうだ、長旅で疲れたでしょ?先にお風呂入っていいよ」
レ「さすがにそれは悪いよ」
タ「いいんだって。その間に色々準備しとくから」
レ「いろいろ、じゅんび、」
((1つ屋根の下で若い男女が°д°((⊂タ
タ「部屋とか、布団とか決めなくちゃいけないしね」
レ「そ、そうだよね!わかった!先に入らせてもらうね!」
急に早口になって、足早に浴室へと行くレイ。
((残り湯で/タ「さーて、どうしよう?おっさん神父の部屋で寝かせるのはさすがにレイが可哀想だなあ。でも、俺の部屋で寝させるのは如何なものか。かと言って居間で寝させるのもなぁ」
考え出すと全部が失礼なのではと考えすぎてしまう。
タ「どっかに使われてない部屋あったよな?」
目的の部屋を探し出し、扉を開けると長年放置されていたのだろう。空気中に埃が舞う程汚れていた。
窓を開け、風魔法を部屋に放ち、埃を飛ばした後に、何も無い部屋の真ん中に布団だけ敷いて撤退した。
その後、食器を洗い終わったところでレイが浴室から出てきた。
レ「先に入っちゃってごめんね?お次どうぞ」
タ「うん、わかった。じゃあ入ってくるね」
着替えの準備をして浴室へと向かう途中で、レイに引き止められる。「ねぇ、紅茶の茶葉とかってある?」「それならここにあるよー」「使っても大丈夫?」「いいと思う」「じゃあ、使わせていただきます」
ササッと、お風呂を済ませて、浴室から出ると、紅茶の良い香りが居間に立ち込めていた。
レ「あ、早かったね。これ、どうぞ。今日のほんの少しのお礼にすぎないけど、」
そう言って、レイは俺の分まで紅茶を用意してくれており、差し出して来てくれた。
タ「いいの?じゃあ、遠慮なくいただきます」
レ「どうぞ〜」
タ「レイに確認したいんだけどさ、俺前も言ったけど、旅に出ようと思う。レイはさ、どうする?」
レ「私も前に言ったことと変わらない。タイトが行くと言うなら私も行く。」
タ「そう、それなら嬉しい。
離れてる間もちゃんと修行とかしてた?」
レ「・・・うん、、やってたよ」
レイは少し昔を思い出すように、でも、どこか悲しそうな表情を見せる。
(レイも色々と苦労したのだろう。あまり聞かないでいよう)
タ「俺、ジョーカーと神父に修行つけて貰ったんだよね〜」
レ「・・・へぇー、あのジョーカーさんに?いいなぁ」
タ「今、想像出来ないからって、神父だけしれっと消したな」
レ「タイト、身長伸びたね?前は私の方が高かったのに、」
タ「去年くらいに結構伸びたね〜」
立って、背比べしてみると、ちょうど俺の目線の位置にレイの頭が来るくらい、身長が伸びた。
(成長を感じる!やったぁ!)
心の中で叫ぶ。
それから俺たちは、紅茶を飲みながらここ数年の話や、旅の出発日やどこへ向かうかなどを話し合った。
話し込んでいると、眠気が襲ってきて、段々と意識がぼーっとして、考えられなくなってくる。
タ「ごめん、今日はもう眠いから俺寝るね。さっきも言ったけど、レイの部屋は布団以外何も無いけど、我慢して欲しい。」
レ「ううん、部屋を準備してくれるだけ有難いよ。
ほんとに今日は色々と*****」
(結構疲れてんのかな?)
レイの最後の言葉が聞き取れなかった。
寝るための準備を済ませ、部屋へと向かう。「おやすみなさい」「おやすみ」
布団に入ったあと、気絶したように、深い夢の中へと落ちていった。
/639年6月15日/
目が覚めると、部屋に入る日光の角度から寝過ごしてしまったのだと気づく。窓の下を見るとクシャクシャで不格好な紙飛行機が転がっていた。
居間へ行くと、レイは既に起きており、人の家だからだろう、右往左往していた。
タ「おはよう、レイ」
レ「あ!おはよう、良かった」
知らない家に1人で少し不安だったのだろうか、少し安堵するレイ。
2人で朝ごはんを軽く食べて、レイを修行に誘ってみると、快く受けてくれた。
模擬戦をやってみると、修行してたというのは嘘じゃないみたいで、昔のように圧倒的に負けることはないが、修行をした今の俺でもレイに1本入ることはなかった。
ほぼ同じぐらいの技量なので、一向に決着がつかず、長い間打ち合っていると、
ダ「その影はもしかして、レインちゃんじゃぁないかっ!」
タ「あ、帰ってきてしまっ、いてぇ!」
レ「あ、ごめん」
神父が帰ってきた事に気を取られ、木剣で首を殴打された。
タ「い、いや、よそ見した俺が悪いから」
ダ「勝負中は何があっても相手を見ろと教えただろう?」
悔しいことに何も言い返せない。
ダ「レインちゃんが帰ってきたってことはつまり、もうすぐ、旅に出るってことだね?」
タ「うん。次にジョーカーが来た時に挨拶して、出発しようと思う」
ダ「そうか、今月はいつ来るんだっけ?」
タ「確か、明日に来るはず」
ダ「じゃあ、明日にはもう行くんだね?」
タ「うん」
ダ「そうか、」
神父は少し寂しそうな表情を浮かべる。ゆっくりとした動作で肩に手を置いて、諭すように、話しかけて来た。
ダ「それじゃあ、最後にこれは言っておこう。私から最後の教えだ。よく聞くんだよ。」
いつになく真剣な表情にこちらも呼応するように、真面目に聞く。
ダ「君たちがこれからやろうとしていることは、ここ数百年誰もなし得なかったことだ。
きっと時代遅れだとバカにされるだろう。
だが、誰もなし得なかったことには理由がある。一人一人、それぞれの何かがある。それを旅の中で見て、学んで来なさい。その結果の選択を私は否定しない。
だから胸を張って堂々として行きなさい。」
神父は忘れるな、と言うかのような力強い言葉で俺たちに教え込む。
ダ「そして、旅の中で何度も高い壁にぶち当たったり、挫折を味わったりするだろう。
そんな時は上ばっかりを見るんじゃなく、たまには自分よりも下の人間を見て自分を安心させるんだ。
これは、人として間違っていると思うが、自分自身が人として保つためには必要なことだと私は考える。
私たちはそこまで、できた人間ではないのだから。」
今までに言われたことの無いくらい、人としてだめな助言だと思う。でも、なぜだか、納得してしまった。
ダ「タイト!」
タ「は、はい!」
ダ「いつの時代も、男は女を守るもんだ!
これだけは時代が変わろうとも!常識が変わろうとも!世間に批判されようとも!この意識だけは変えてはいけない!
だから!お前がレインちゃんを守るんだぞ!いいな!?」
タ「当然、そのつもり」
ダ「ヨシ!その意気だ!しっかり守れよ!!そして、お前なら辿り着けるはずだ!だから、頑張ってこい!」
タ「はい!」
つい、大きな声で返事をしてしまった。でも、不思議と恥ずかしさは無い。
神父は次にレイの方に向き直って、話しかける。
ダ「レインちゃん!」
レ「は、はい、!」
ダ「タイトを支えてやってくれ。こいつ結構どんくさいところあるから。なんかいつの間にかコロッと死んじゃいそうだから、注意して見てやってくれ」
レ「、、はい、任せてください」
タ「おい、同意するな」
最後に2人を交互に見ながら、
ダ「そして、お互いに信頼し合うこと。いいな!?」
タ「わかった」
レ「はい」
ダ「・・・よし!それじゃあ明日の準備をするために、今日の修行はここまで!すぐに準備に取り掛かるように」
タ&レ「「はい」」
午後から早速準備に取り掛かった。と言っても、レイは既に1人でここまで来たため、準備は既に終わっているも同然であった。
旅に必要なものを神父に聞きながら、準備を進める。「調理器具とか持っていってもいい?」「私はどうせ使わないし持って行っていいよー」
ダ「2人ともー、はいこれ。お金とか寝袋とか旅の必需品その他諸々。一応買っておいたんだー」
タ「こんな大金貰ってもいいのー?」
ダ「もちろんだとも、最初はどうしても武器とか揃えるのに必要だからね。
旅の始まりは重要だからちゃんと考えて、新品を買い揃えるんだよ?」
タ「色々と悪いなぁー、こんなにしてもらって」
ダ「いいんだよ。私たちからすると2人はまだまだ子供なんだから」
そんなこんなで準備も終わり、3人で最後の晩餐と洒落こんだ。椅子は2つしかないので、神父は立ち食い。
3人で、昔のことを思い出すように話に花を咲かせた。
ダ「そん時さータイト君、泣いてたんだぜ?2人を守れないーって、まじで面白いよな」
レ「可愛い」
タ「やめてくれよ、恥ずかしい」
タ「てかさ、神父がいつも使ってるあの、剣みたいな武器何?」
ダ「あぁ、これか?これは刀って言うんだ」
タ「彼方?」
ダ「遠くに行くんじゃぁ無い。
刀だ。片側しか切れないが、切れ味は抜群だ。切れない方は峰打ちと言って、相手を打撲させることとかできるから色々汎用性はあるよ。
あと、さやから抜く時の速さは輝くものがある」
レ「一緒。私も刀を武器にしてる」
タ「あぁ、そうかここまで1人で来たんだし、持ってないとおかしいか。」
(かっこいいし俺も刀にしよう。・・・流され易すぎんだろ俺。)
話し込むうちに夜も遅くなり、明日のために早めに寝ようと自室へと戻る。
(これだけは持っていかないとな)
大量の紙の束を1枚だけ残し、収納魔法に放り込む。
今日はいつもよりも丁寧に紙飛行機を作った。
窓を開け、夏直前の少し湿った、生暖かいような冷たいような柔らかな風を浴びる。
今日だけは遠く、遠くまで飛んでくれと願って、紙飛行機を空へと投げ放つ。
紙飛行機はすぐに暗闇へと消えていき、行先も行く末もわからない。だが、きっと悪くない結果になっていると信じて、明日からの希望を胸に眠る。
/639年6月16日/
予定通りジョーカーがやってきた。
ジ「レインちゃんがいて、その表情、つまり、そういうことなんだね?」
タ「うん、俺たち」
ジ「「結婚か
タ 旅に出るよ」」
お互いに心外といった顔をする。
タ「なんでジョーカーが驚くの?!」
ジ「はっはっは、冗談さ冗談」
ジ「それじゃあ、あの日、渡すつもりだったプレゼントを渡そう。」
きっと、5年前のことだろう。ジョーカーはそう言って、俺に両手で持つほどの大きめの杖。レイには剣。
ジ「タイト君はちゃんと剣と魔法の杖を使い分けるんだよ?レインちゃんのその剣はもしもの場合の予備と思ってね。」
タ「わかった。・・・あとさ、その、お姉ちゃんのは?」
ジ「エレナちゃんの?いるのかい?」
タ「うん、できれば持って行ってあげたい」
少しでも多くのものを旅の終着点まで持って行きたい。
ジ「あの時渡そうとしてたのは、エレナちゃん用の手袋だね。はい」
タ「わがまま言って、ごめん」
ジ「いいさ、これくらい」
タ「それじゃあ、2人とも、今まで本当にお世話になりました!俺はまだまだ弱いと思うけど、いつかみんなを守れるくらい強くなるから、これからを信じて待っていて欲しい!
2人が後悔するくらい強くなってみせるから!」
修行を経て、夢に、目標に少しずつ近づき、漠然としていた思いが形になっているように思える。
だから、あの日以上に強く宣言する。
レ「2人とも安心して、私がタイトを守るから」
タ「今、守る宣言したのに」
ジ「ハハッ、レインちゃんらしいや」
ダ「タイトー、負けるなよー」
(やっぱ、かっこよくは閉まらないなぁ)
と、思いつつ受け入れていることに気づき、少しおかしく思えてくる。
ダ「タイト、これを君にやろう」
そう言って、差し出してきたのは、普通の剣よりも半分以下の刀身となっている剣。
タ「これは?」
ダ「短剣だ。護身用に、予備として、武器として持っておきなさい。」
手渡しで短剣を受け取ると、そのまま神父は抱きしめて来た。抱きしめてきた神父の肩は小刻みに震えている。
ダ「守りきれなくて、本当にごめん」
きっと、あの日のことをずっと気にしていたのだろう。こう見えて、責任感は人一倍ある人だから。
タ「大丈夫、もう俺は大丈夫だから。気にしないで」
そう言うと、神父はゆっくりと離れた。
ダ「2人とも、行ってらっしゃい!」
ジ「頑張るんだよ!君たちならきっと大丈夫」
タ&レ「「行ってきます!」」
俺たちは最後、笑って別れた。
二度と会えなくなるわけじゃない。いつか旅をしていれば会える。だから悲しむ必要は無い。笑顔で楽しく最後を送り出してくれたのであれば、その後はどうなっているかなんて関係ない。
俺たちはただ、これからは本当の意味で進むだけなのだから。後ろは振り返らない。
隣のレイがなぜだか笑ったような気がした。俺も笑った。
冒険者の町、『ダッシュ』は村から徒歩で3日ほどで着く。始まりの町は初心者が稼ぐにはおすすめの場所で、冒険者が最も多い町である。
俺たちは道中、特に苦戦もなく魔物を倒し、野宿とご飯の調達を自分たちでしながらの3日。ようやく町の入口にたどり着いた。
ようやく、長い、長い1歩が踏み出せるような気がした。
思えば色々あったなと、回想に入ろうとしたが、尺的に辞めた。
レ「タイト、行こう?」
レイも楽しみなのだろう。笑って問いかけてきた。
タ「うん、行こう。ここから、ついに始まるんだ」
ゆっくりと頷くレイ。そして、2人同時に足を踏み出す。俺たちは笑顔のまま、始まりの町へと入って行った。
さぁ、ついに旅が始まりました。長かったですね。
物語の概要?冒険と書いているのに、16話にしてようやくですね。随分と時間がかかってしまいました。
ゆるや〜かに頑張るので今後もよろしくお願いします