第15話 5年後にここで
/634年7月2日/
朝、目が覚めると、昨夜の雨が嘘かのように、空は青く澄んでいた。日光が地面や木々の水に反射して輝いている。今日は暑くなりそう。
タ「あ、虹が出てる」
タイトは教会にこれから身を置くこととなったため、早速昨日から寝泊まりをしている。
タ「みんな、ぼ、、俺、頑張るから見ててね」
タイトは大きな半円を描く虹を見上げながら、呟いた。
今日は葬式が挙げられる。タイトが教会から出ようとすると、神父が近づいてきて、
ダ「ちょ、ちょっと待って、準備が速いねタイト君」
タ「神父が遅いだけじゃないの?」
ダ「『さん』を付けられなくなってしまった」
神父はタイトの急な変わりように驚き、固まった。
ダ「まぁ、男の子だしそういうこともあるか」
神父は理解のある大人であった。理解というか気にしないくらい適当なだけだと思うが。
ダ「タイト君、今日は1日これ付けときなさい。
あと、葬式だから葬式にふさわしくない装飾品は外さないといけないよ。」
そう言い、神父は十字架の着いたペンダントを首にかけてきた。レイから貰ったペンダントをタイトは収納魔法に大切に仕舞った。
タ「そうだね、ごめん」
ダ「謝ることではないよ。それじゃ私ももう少ししたら行くから、先に行ってらっしゃい」
タイトは少しピンと来ないような表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻って、
タ「わかった!行ってきます!」
参列にはこの村の人間ほぼ全員とジョーカー、ティールとティールの父親もいた。だが、レイはいるのにレイの親は2人とも居ない。
葬儀は10時から始まり、午前中いっぱいで終わった。
村への被害は森の木々がかなりの数、倒されていたこと。木々を広範囲に渡って切り倒していた、あの斬撃は少し離れた山に大きく痕を残していたこと。
村に直接的な被害はなく、葬儀後は、全部元通りとはいかないものの、みんなの日常へと戻っていった。
葬儀が終わったあと、タイトの元にレイとティールが集まった。
テ「その、えっと、なんて言えばいいんだっけ?」
タ「気にしないで、もう僕は大丈夫だから」
レ「本当?無理しちゃダメだよ?」
タ「ごめんね、心配させちゃって。でも、本当に大丈夫だから」
レ「それならいいけど、」
2人はタイトをかなり気にかけている様子だ。でも、タイトは自分で立ち上がり、歩き始めている。その様子を見て、2人は少し安心している。
テ「タイトごめん、こんな1番大変な時に俺もう、次の町に行かなくちゃいけない。お父さん、結構ギリギリまでこの村に滞在してたみたいで、今日立たないと次の町での依頼に間に合わないみたい。」
ティールは申し訳なさそうに言った。
タ「ううん、謝らなくていいよ。今日最後に会えて良かった。」
テ「そう言って貰えると嬉しい」
ティール父「ごめんなぁ!本当はもう少しいてやりたいが、もうほんとにギリギリでよぉ!」
ティールの父が飛び込んでくるかのようにどこからか急に近づいてきて、タイトの肩をブンブンと揺らしながら怒涛の謝罪をしてきた。
ティール父「次、こいつか俺に会った時、無料でなんか作ってやるからなぁ!」
タ「大丈夫です。なので離してください。脳みそが崩れちゃいます」
やっと肩揺れが収まった。タイトは少し具合の悪そうな顔をしている。
テ「父さん、俺がもう説明したから大丈夫。」
ティール父「そうか?!それはすまんかった。
そんで、早速、俺たちは出発する!なぁに、気にするな!世界は広いようで狭い!いつかきっとお前らはまた会えるさ!」
タ「僕、将来、旅に出ることにしたから余計会えそうだね!」
テ「そうなんだ!?」
レイは目を見開いてタイトを見つめた。今まで口に出したことはなかったので、堂々と宣言したことに驚いたのだろう。
テ「じゃあ、もう俺たちは行くね!タイトも頑張ってな!また、この世界のどこかで会おう!」
タ「気をつけてね!また、この世界のどこかで」
レ「バイバイ。また、この世界のどこかで」
タイト達はお互いが見えなくなるまで手を振り続けた。やがて見えなくなり、手を下ろしたところでレイが話しかけてきた。
レ「タイト、旅に出るんだ。」
タ「うん、すぐにって訳じゃないけど、いずれこの村を出てこの世界を旅しようと思ってる。
それで、お姉ちゃんの夢見た、魔王を倒すってのを俺が叶えようかと思って。もう、誰も悲しまないように。
だからこれから今まで以上に強くなるよ!レイだって守れるくらいに!」
レ「そ、そうなんだ、、、嬉しい///」
唐突な告白に嬉しさからか赤面するレイ。が、何かを思い出したかのように、ニヤついていた表情がスっといつも通りの表情に戻る。
レ「ごめんタイト、遠くにいる私のおばあちゃん?が病気で倒れちゃったみたいで、今日中にそっちに引っ越すことになったの。
本当は一緒にここにいて、旅もしたいのに、できないかもしれない。
エレナと約束してたのに」
レイはとても悲しそうな表情で泣きそうな声で訴えかけてきた。
タ「それは、しょうがないよ。俺たちはまだ子供だから。」
レ「でも・・・」
タ「う〜ん、じゃあ!こうしよう!
僕は5年後の僕たちの誕生日にここから旅に出る!だから、それまでにもし、帰ってこれれば一緒に旅に出よう!」
レ「いいの?」
タ「俺も、レイがいてくれたら嬉しいから」
レイは首を傾げる。
タ「?どうしたの?」
レ「いや、さっきから僕、なのか俺、なのかごっちゃになってて、どうしたんだろうって」
タ「あれ?僕呼びしてた?」
レ「うん」
どうやら気づいていなかったみたい。
タ「んー、これは自分の心から強くしようと思って。だからまずは、呼び方とかそういうところから変えていこうかと思って。」
レ「そうなんだ、結構似合ってるよ、!」
いたずらっぽい、でも嫌味のない笑顔でレイは言った。
タ「それなら良かった」
少しの沈黙が流れた。草や木が風に揺られる音だけが聞こえる。
次の会話が別れの最後になることを悟ったのだろう。何を言えばいいのか、少しでも長くいたい、2人の気持ちがこの無音の世界を作っていた。
やがて、レイが口を開く。
レ「・・・それじゃ、私も行くね。」
タ「うん、、、」
レ「絶対、絶対に帰ってくるからね!5年後までちゃんと待っててね!約束だよ!?」
タ「約束ッ、!」
タイトとレイは小指を絡め、指切りげんまんをする。
レ「ゆーびきーりげーんまーん、嘘つーいたーら拳10発、ゆーびきった!」
タ「なんて現実味のある恐怖の罰なんだ」
タイトは7月だというのに身震いをさせ、自らの腕を摩る。それに対し、レイは
レ「フフッ、、フ、、うっ、う゛、、それじゃぁ、、タイ゛ド、!まだね゛!」
レイの頬を一筋の水滴が伝い、流れ落ちる。太陽の光が水滴が伝った場所を指し示すように反射して輝く。1粒、2粒、やがてレイ目からボロボロと涙が溢れ出てくる。
レイの泣いている姿を初めて見た。レイは涙を流しながらも精一杯、笑顔を作ろうとしていた。
なんだかこちらも泣きそうになってきた。
タ「レイ!またね!5年後に一緒に行こうね!」
レイは「うん!うん!」と何度も何度も頷いた。
この時間が少しでも長く続くように、でも、名残惜しくて離れたくないという思いが大きくならないように、レイは最後に1度だけ、ほんの少しだけ、不意にタイトに抱きついた。
5秒にも満たない時間で離れる。タイトは突然の出来事に完全に固まってしまった。
レ「タイト!、、バイバイ!!」
タ「う、うん!」
タイトが言い終わるのをしっかり待って、レイは後ろを振り返り走って行ってしまった。見えなくなるまで振り返ることなく。
タ「あー、もう泣かないって決めたのになぁ。でも、これは仕方ないよね?」
タイトは大きく空を見上げた。
目に溜まった涙を拭い、教会に戻ると、ジョーカーと神父が待っていた。
ジ「おかえり、ティール君とはもうお別れを済ませてきた?」
タ「うん。あと、レイも引っ越すからレイとも」
ダ「レイちゃんも?」
タ「なんかおばあちゃんが病気で倒れたらしい」
ジ「これから寂しくなるなぁ」
タ「2人とも来れば良かったのに」
ジ「いやぁ、若人の輪の中におっさんが居たら、ねぇ?」
ダ「うむ。おっさんは若い子たちの青春を見ると、灰になって消えちまいそうになるからね。」
タ「何その化け物仕様。大人になるの嫌になるんだが?てか、結局俺の周りアホばっかじゃん」
人が変わってもしょうもないやり取りをするのは、みんな同じだということを知るタイトであった。
ジ「あ!そうだ。タイト君、これ、君が持っていなよ。魔王を倒すんでしょ?」
そう言い、ジョーカーは盾が生成される腕輪を出してきた。そして、それをタイトの方に差し出す。
タ「いいの?」
ジ「もぉちろんさぁ
エレナちゃんを連れて行ってあげな」
タイトはそれを両手で受け取り、よく観察した後、左腕に通した。
タ「これ...大事にする、!」
ジ「エレナちゃんも喜ぶよ。
さて、今日はまぁ、やめておくとして、明日から『本気』と書いて『マジ』と読む修行を始めるわけだけども、今まで通り、魔法主体の戦い方でいいのかな?
それとも、他のやつとか色々やってみる?」
タ「俺、お姉ちゃんみたいになりたい。」
ジ「近距離ってこと?」
タ「うん。で、剣の中に魔法を多めに混ぜる感じの戦い方がいい」
ジ「了解した。ほんじゃ、明日から本格的に始めるよー」
タ「2人ともよろしくお願いします!」
タイトは深く頭を下げる。頭を上げるとどこか覚悟を決めたような表情をしている。
ダ「いい表情をするようになったな」
ジ「今のタイト君、修行中のエレナちゃんとおんなじ顔してるよ」
ジョーカーはゆっくりと教会の扉の方へと歩いていく。そして扉に両手をかけてゆっくりと押し開けて、扉を全開にしたところで、その場でこちらを振り向く。
ジ「僕達が君を強くしてやる。厳しい修行になると思うが、君は付いて来れるかな?」
タ「付いてこれるか?か、」
その質問にタイトは、開け放たれた扉に向かい、やがてジョーカーを追い抜き外へと出る。3歩程進み、タイトは2人の方へと振り向き、挑戦的な笑みを浮かべ、こう言い放った。
タ「2人の方こそ、俺の気持ちに付いて来れるかな?」
ダ「フンッ、エレナちゃんに似て生意気なガキになりやがって」
ジ「これくらいがちょうどいい。
くれぐれも、僕たちをがっかりさせてくれるなよ!」
不意に巻き上がった一陣の風が、草木を揺らしながらタイトを包み込む。風はタイトの熱を2人まで届けるように、教会へと吹き込んでゆく。
夜になると、タイトは神父に紙を貰えないか尋ねた。
ダ「別にいいけど、何に使うつもりなの?」
タ「お姉ちゃんがね、毎日夜に紙飛行機を作って、外に向かって投げてたんだ。だから、今度から俺がやろうかなって。
そうしたらね、お姉ちゃんの物も、夢も、思いも、全部持って行けるんじゃないかなって、」
タイトは優しく穏やかな表情で答える。
ダ「悪い理由じゃないならいいや。
本当はお祈りに使う用だけど、私が持ってても、どーせ使わないし」
タ「いや、それは使えよちゃんと!
・・・でも、本当に助かる」
ダ「おうよ!引き取ってもらったからって遠慮はするなよ!まだまだ、ケツの青い子供なんだから」
タ「その表現は挑発に使う言葉じゃない?」
ハッハッハと笑って誤魔化す神父。少し呆れたように、でも、少しだけ嬉しそうに笑うタイト。「気にするな、そんな細かいこと」「使いたかっただけでしょ」「バレちった?」
タイトは用意された自分の部屋に戻る。慣れない手つきで紙飛行機を折り、外へ向かって投げる。
タイトの作った紙飛行機は、よれよれでとても遠くまで飛ぶとは思えないものだった。
でも、届く。遠くまで飛ばなくたって、ちゃんと届く。
きっと、わかってくれる。
/7月3日/
ついに、修行が始まった。
ジョーカーが言うには、体はどうせ後から勝手に成長するから、今は体づくりよりも、戦う時の考え方や、動き方、体の動かし方、誘導の仕方などの主に頭を使うこと、暗記することを重点的に教えていた。
神父は、戦う際の心構え、戦いの時に何を考えるべきか、命優先の行動など、生き延びることを目的としたことをと教えていた。
ジ「わざと片方の手で、相手に見えるように大きめの技を作ると、相手はそちらに気を取られる。その間にもう片方の手で叩く。これ子供騙しみたいだけど思ったより、みんな騙されるよ」
そう言って、ジョーカーは左手で大きく、派手な火魔法を、右手で圧縮された風魔法を作ってみせる。
ジ「あと、安易に相手に近づいてはいけない。魔法やその場の石とかで1度牽制をしてから近づくことを癖付けるといい。」
ダ「タイト君は魔力も、神技を使うための技力も爆発的に多いね。魔力が多いのは嬉しいけど、神技がないのに、技力が多いのはかなり皮肉だね。」
タ「見えるの?」
ダ「あぁ、目に魔力を込めて見ると分かるよ。普通の人は体に気を纏ってるように見えるけど、タイト君のは溢れ出てる。」
タイトは目に魔力を込めて、ゆっくりと目を開けて見てみる。
タ「おぉ、ほんとだ。薄〜く2つの色の気が見える」
ダ「でしょ?それで、相手の技量を伺うのもいいね」
タ「すげー便利」
「おぉー」とやや興奮気味のタイト。
ダ「タイト君は自分の神技を調べてみたことある?」
タ「ううん、ないよー」
ダ「そうか、なら旅の途中で調べてみるのもありかもしれないよ?
もしかしたら、自分の身体強化系かもしれないし」
タ「確かに、考えたこともなかった。気が向いたら調べてみるよ」
ジ「剣は足腰が肝心だ。腰を捻って全身で剣を振るんだ。そしたら風だって巻き起こせる。」
タ(13歳)「それはさすがに冗談すぎる。」
ジ「僕はできるよ?ほら、」
そう言うと、ジョーカーは剣を手に取り、左から右へ水平方向と、上から下へと見えないくらいの速度で、剣を振り下ろすと、
ゴォッ!
という、大きな風を切る音とともに草葉を巻き込んだ、風が起きた。
ジ「ね?」
タ「ね?じゃないよ。ジョーカーの存在自体が冗談みたい。てか、もうほぼ人外だろ」
タイトは少しバカにしたように言ったのに、ジョーカーはなんだか嬉しそう。「えへへー、そんなに褒めて貰えるとは」「いや、褒めてないよ」
ダ「いいかい?もし、人相手の時でも自分、もしくは相手の剣が折れても勝負は終わりじゃない。
勝負はどちらかが戦闘不能になるまで、と思いなさい。相手が降参だと言っても信じきったらダメだ。絶対に気を抜いてはいけない。」
タ(13歳)「それ前にも言ってたね」
ダ「それだけ大事ってことさ」
ジ「自分の魔法でも、相手の魔法でも、魔法を外側から魔力で包み込むような想像で魔法に触れると、魔法が詰まった小さな球が作れるよ。
こいつは、魔力に触れると発動するから、方向とかを指示してたら思ったように飛んでくれるよ。
そして、触れた魔力の大きさに比例して強くなって、相手の魔力でも自分の命令で出せるから、結構便利だよ。」
ダ「これをいつでも出せるような場所に忍ばせておきなさい」
そう言って神父は5つの小さな球をタイトに渡す。
これがなんなのか全く分からないタイト。
タ「これなに」
ダ「金属の球。略してきんtグホォッ!/タ「言わせねえよ?」
とんでもないことを言い出しそうになったので、貰った球を投げつける。
ダ「いてて、冗談はいいとして、それは電気魔法対策だよ。こいつ電気魔法飛ばして来そうだな〜、て思ったら自分と相手の中間地点の横に逃がすように投げとけばこの球に吸い付くよ。
ちなみにこれは魔法で作れるからお得。投げた後は天然由来なので、放置しとけば勝手に土に還るので環境にも優しい。」
タ「この世界でそんなこと考えたくないなぁ」
ダ「球が無い時とか、これまだ使いたくないなーて時は、水魔法を体に纏わせれば無効化できるよ。一瞬だけだけど。」
タ「水って逆に通すんじゃないの?」
ダ「いや、純粋な真水は絶縁体と言って、電気を通さない。不純物が入るとそれを伝ってくるから、水は電気が通るようになる。
だから、これで防御できるのは作り出した一瞬だけなのさ、」
ダ「あと、微弱な電気魔法は神技とか機械とかの通信関係を遮断、または妨害することが出来るよ」
タ「果たして、それが必要な時が来るのか?」
ダ「タイトが使うことは無いかもしれない。でも、敵とか、他の人が使うことがあるかもしれないから覚えておいて、」
妙に力強く教えてくる神父。タイトは不思議に思いながらも、言う通りに覚えることにした。
ジ「ちゃんと、闘心を剣や拳に纏わせるんだよ。出来れば5以上纏わせた方がいい。それだけで敵への攻撃の強さが変わってくるから。逆に防御は出来れば4以下で防御するのが好ましい。
まぁ、難しいよねこればっかりは。僕もできたことないし。」
タ(13歳)「うーん、攻撃に割くのは結構怖いなぁ。もう防御に徹して、全身に纏わせとこうかな?」
ジ「まぁ、それでもいいんじゃない?インパクト狙いすぎて、無防備になっても本末転倒だし。」
タ「俺は安定を取るよ」
ダ「剣は自分の魂だ!ていう人もいるけど、武器は所詮、道具だからね。もちろん戦闘以外では大事に扱うのは当然だ。でも、戦闘の時に武器第1に考えるのは危ない。
武器を利用して勝つ、と思った方がいい。必要であれば、わざと捨てることだってありだと思うよ」
ジ「そろそろ体も成長してきたし、体づくりを始めようか?まずは走り込みで体力と足腰を。
筋力をつけるためにも腕立てや腹筋を毎日やってね」
タ(15歳)「何回ぐらい?」
ジ「最初は無理しない程度でいいよ。できるようになったら段々数を増やしていってね。魔法で重りとか作れるから使ってみるのもあり。
これは旅に出ても続けた方がいいよ」
タ「わかった」
こんな感じの修行が始まり、数年の月日が流れた。