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今、生きているあなたへ  作者: ひびき
序章:幼少期 助走編
15/86

第14話 弱い、醜い、脆い

/634年7月1日/

          *タイト視点*

 いつの間にか眠ってしまっていた。床や天井がいつもとは違う。


タ(今は何時だろうか)


 小窓から見える景色は真っ暗な闇の中のようで、雨音だけが、聞こえてくる。


 頭痛はなくなっており、まだ疲れが取れていないのか、鉄のように重い足取りで、部屋の扉を開ける。


 聖堂には女性や、年寄りを中心に何人か人が残っていた。しかし、僕が教会に着いた時よりも人はだいぶ減っている。そんな人たちを横目に、外へ出ようと扉を目指して歩く。


 何やら話し声が聞こえる。興味もないので一切聞く耳を持たずに、教会の正面の扉を開け、外に出る。


 未だ止まない雨で地面はぬかるんでいる。雨雲に月は完全に隠れてしまって、距離感が掴めない。


タ(家に、帰ろう。きっと、みんな待っている)

 と、自分に言い聞かせる。自分の正気を保つために。

 雨の中、傘もささずに歩いて家へと向かう。雨なんか、どうでもいい。


 村に被害はなく、家も道も畑もいつもと何も変わらない。


 やがて家の前まで来た。近くで戦闘があったような痕跡はない。まるで、襲撃があったことが夢であるかのように。


タ(家の扉を開けるのが怖い。もし、誰もいなかったら、)

 そう考えると、扉に伸ばした手が震える。怖い。悪い想像で足がすくむ。

 1度深呼吸をして、僕は勢いよく扉を開けた。


タ「た、ただいまー」


 いつものように、家に入る。お母さんが「おかえりー」と笑顔で言ってくる。お姉ちゃんが「遅い!!」と怒ってくる。お父さんはそれを見て静かに笑っている。


 それが、僕の思う、いつも通りの日常。




 ・・・だが、僕の声に帰ってきたのは、泣きそうになる程の静寂。誰もいない。気配すらない。机の上には1度、家に寄った時と全く同じ配置で、お皿が置かれていた。



 上手く呼吸ができない。空気が浅く口の中に入り、喉が震える。ハッ、ハッ、と何度も何度も息を吸い込む。

 吐き気を催す程の悪い予感が、次から次へと頭に浮かんでくる。焦り、不安、後悔、そういった感情に押し潰されそうになる。


タ「きっと、戦闘の後で、森の中で、みんな休憩して、いるんだ。きっと、そうだ、そうなんだ」


ビチャッ、ビチャッ

 と、雨でぬかるんだ道を再び歩き始める。1歩、また1歩と進む。


 早くみんなに会いたいと願う気持ちと、見つけてしまいたくないという、相反する思いが、止めてしまいたくなる歩みを、なにかに引っ張られてるかのように、強制的に進ませる。


 早くも遅くもない歩みで、お姉ちゃんと別れた場所に辿り着く。ここでようやく戦闘の痕跡を見つけることができた。


 横滑りしたかのような、地面の跡。そこから森の中へと足跡が続く。

 その足跡を辿るように、森の中へと入っていく。


 森の中は酷い有様だった。木が何本もへし折れ、草や背の低い木なんかは所々ではげている。

 木や地面には気を失ってしまいそうな程の、おびただしい量の血痕が付着しており、奥に行けば行くほど血の量が増えていく。


タ「お姉ちゃん、お父さん、お母さん。どこにいるの」


 歩いていると、一気に空の開けた場所に出た。目の前に木の切り株と、上に着いていたであろう木の幹と枝と葉っぱが大量に倒れている。切り口は誰かが切ったかのように凹凸がない。

 遠めで見ると、真横よりもやや斜めの袈裟斬りのような、斬撃を飛ばしたように木々が切り開かれている。

 右の方は木の切断されている範囲が段々と広くなっているのに対し、左側は段々と狭くなっている。


タ(左の方でお父さんが神技を使ったんだ)

 それしか考えられなかった。そして、この一撃、もしくはその直後に勝負は決まったのだろうという確信もあった。


 切られた木の範囲が段々と狭まっていく。

 やがて切り開かれた木の終点、神技の起点へとたどり着いた。

 木々の奥から話し声が聞こえてくる。土砂降りで、そこらじゅうから雨の音が聞こえているのに、急に雨の音が消え去り、会話の内容だけが、脳内に響いてくる。


ジ「あなたがいながら、どうしてこうなったのだ?

あなたならどうにかできたはずだ。どうして、3人をッ、!」


 ジョーカーさんの声だ。声の大きさ、声色はいつも通りなのに、静かな怒りを感じる。

 ジョーカーさんは目の前にいる人の胸倉を掴み、今にも襲い掛かりそうな様相。


タ(あなた?それに3人って)


「ジ、ジョーカーさん!気持ちはわかるが、こんな時にやめてくれよ!身内同士で争っている場合じゃないよ!」


 誰かがジョーカーさんを止めているようだ。


タ(あなたって、この人のこと?)


 だが、止め方からして違う気がする。


ダ「・・・私は生まれてから死ぬまで、命令通りに動かされる奴隷の運命だ。君のように誰からも最強だと言われる程の力があれば、違ったかもしれないが、」


ジ「ーーッ、!!」


 声を聞いて驚いた。どうやらジョーカーさんの言う『あなた』とは、神父さんのようだ。

 神父さんは答えになっているのかわからないことを静かに答えていた。


 ジョーカーさんは、目を小さく強く瞑り、歯を強く噛み締め、悔しそうな表情を浮かべる。その後、神父さんの胸倉を掴んでいた手を諦めたように、突き放したように手を離した。


ダ「あなたの怒りは尤もだ。きっと謝罪すら失礼に値するのだろう」

ジ「タイト君は、無事なんだろうな」

ダ「君がやつを殺してくれたおかげで、もう外に出ても大丈夫だろう。」


 話に聞き耳を立てながらふと、下に目線をやってしまった。

 目に入った景色はまさに、地獄そのもののようだった。焦げた木や葉が、焼けて灰となり、雨水の流れに乗って広がっている。木の幹や葉、草には尋常ではない量の血痕。泥水の混じった、赤く染った地面に倒れて動かない3人。


タ「お父さん、、お母さん、、?」


 僕の言葉に3人は咄嗟に振り向いた。


ジ「タイト君!見ては、、もう、手遅れか」


 お父さんはお腹から倒れていて、背中に大きな刺傷があって、背中と胸の辺りから大量に出血している。右手を上の方、お姉ちゃんの方に伸ばし、お姉ちゃんの方を見て倒れている。その目が閉じることは無い。


 お母さんは横向きに倒れていて、身体中に大量の刺傷があり、体の至る所に血がついている。


 そして、1人に視線が止まる。目を離そうと思っても、まるで金縛りにあったかのように、動けなくなり、1人に視線が釘付けになる。


 最初、誰なのか分からなかった。理解したくなかった。体の大きさ、髪の長さ、服。それらを見て、ようやく解像度が明確になっていく。

 そして、気づく。


タ「おねぇ、、ちゃん、?」


 前のめりに倒れ、右腕の肘から上がなく、近くにころがっている。背中側から見ても分かるほどの大きな切り傷が胸についている。元々の服の色が分からなくなるほど、全身が血にまみれている。

 3人とも、ピクリとも動かない。


タ「嘘、、だよね?絶対大丈夫って言ってたじゃん。」


 僕はぼやける視界の中でお姉ちゃんに近づく。


タ「死んだ、ふり、、なんだよね?

もう、、大丈夫だから、、十分驚いたから、

だから、もう、起きて、、よ」


 血にまみれたお姉ちゃんの体を優しく揺すり、起こそうと試みる。手に血が着く。まるで体温を感じない冷たく重い血。


タ「魔王を倒すって言ってたじゃん。

それまで死ねないって、

い゛っじょに、っ、ぼうげんいぐって、っ、やくぞぐしだのに゛!」


 顔から雨ががとめどなく、滴り落ちてゆく。言葉一言一言で、息が詰まる。

 いくら呼んでも返って来ない返事。いくら揺すっても動かない体。



 そこで、ようやく、死んだのだと理解してしまった。


タ「あ、ああ、

ああああああああぁぁぁ!!!」


タ「僕が弱いから!怖がりだから!ぼくのせいで、ぼぐのぜい゛でえ゛え゛え゛!」


空を見上げ、抑えきれない心を全て吐き出すように叫ぶ。本気で叫んでいるのに、一向に晴れることは無い。


「タイト君、大丈/ジ「止めるな。止めてしまうと、タイト君は壊れたままになってしまう。

辛いのはわかるが、これはタイト君自身が乗り越えなくては意味が無い。」


 僕を止めようとしてきた人をジョーカーさんは止める。そして、3人は僕をあやすでも、叱るでもなく、ただ、待っていた。


タ「1人に、しないでよ!お姉ちゃんがいなかったら、

僕はっ!」


 恐怖。後悔。自分への怒り。弱く、今なお叫ぶことしかできない醜さ。脆すぎる自分の心。色んな感情が滝のように流れてくる。


 土砂降りの雨に打たれて、7月だというのに寒気を感じる。



 そんな寒気を、凍りつきそうな心を、優しく、後ろから抱きしめられるような温かみが僕を包んだ。手を握られ、頭をゆっくりと撫でるような感覚がする。


タ(僕がもっと強ければ。一緒に戦う勇気があれば。もっと、もっと、、!

強く、、なりたい!)


 ゆっくりと立ち上がり、ジョーカーさんと神父さんの方へ歩み寄る。呼吸を整えて、ぐしゃぐしゃになった顔で、僕は言った。みんなに宣言するように、自分に強く、言い聞かせるように。


タ「強くなりたい!もう後悔はしない!誰も失わないために!僕が強くなって皆を守るんだ!僕自身がエレナの分まで強くなる!誰も悲しまないように、僕が!俺が!魔王を倒す!!

だから!」


 1つ、また1つと言葉を、思いを重ねる。

 もう一度、呼吸を整える。


タ「だから!これからは本気で修行するから!なんだってやるから!俺を!強くしてください!!」


 2人に深く頭を下げる。


ジ「その覚悟、本気なんだね?」


 僕は強く頷く。


ジ「わかった。これから、僕が本気で君に修行をつけてやる。」


 いつものふざけたような声ではなく、初めて聞くような真剣な声で、言葉で俺の無理な願いを聞き入れてくれた。


ジ「でも、僕はずっとこの村に滞在することはできない。タイト君を連れて回ることも出来ないから、その間は1人になるけど大丈夫?」


「大丈夫」と、答えようとすると、僕が言う前に神父さんが間に入って言った。


ダ「その間は私が面倒を見よう。タイト君の身も教会に置くといい」


 神父さんを刺すような目で、ジョーカーさんは振り向いた。


ダ「この子が魔王を倒す旅に出るまで、私もこの子を私を殺せるくらい強くすること。そして、私の命を賭けて守ることを約束しよう」

ジ「信じてもいいんだろうな?」

ダ「この子は昔の私に似ている。でも私では無い。私のような人間にならないよう、育てる。」


ダ「どうか、信じていただけないだろうか」


 神父さんの目は、憎悪というより、悲しみや苦しみなどのような感情が見えた。


ジ「・・・わかった。信じよう。」


 1呼吸置き、ジョーカーさんは神父さんの申し出を許可した。2人に修行をつけて貰えるのは僕としてもうれしい。


タ「ありがとう!これから、よろしくお願いします!」


ジ「今日、明日は少し忙しくなるから、明後日からまた始めよう。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 こうして、少年が本気で強くなるための修行の日々が、数々の壮大な冒険が、仲間との出会いや別れ、人々の夢や思いが希望が、悲しみや絶望が、楽しくも苦しくも、面白おかしい旅が始まる。


 その全てを、1人の人生を一緒に見ていこう。


「タイトならできるよ」


 少年は一瞬立ち止まるが、振り返りはしない。

 少年は誰の指示でもなく、自分自身の足で歩き始めた。


 弱き心の少年はやっと走り出した。長い、長い助走をつけてようやく、全力で走り出した。強くなるために。誰かを守るために。


        【少年はまた、刀を握る】


 少年の人生が誰かの心に響きますように

はい。ついに始まりました。

ここまで長く前日譚のようなものを書いてきましたが、わざわざ見て頂きありがとうございます。


そしてまずは、長い間失踪してすみませんでした。この失踪の間に少しだけ、失踪前の中身を変えていたりします。すみません。


これからは週2、3のペースで更新していきたいと思いますが、早速厳しそうで焦っております。


また疾走するかもしれませんが、その時は

「そのうち戻って来るだろう」

位の気持ちで待っていてください。


失踪はしても、この物語だけは完結させる予定なので、死なない限りはよろしくお願いいたします。


その場のノリで書いている所もあるので、コメントなどで指摘して頂けたらと思います。質問などもしてください。物語の中で回答したり、参考にしたりします。

コメントが機能しているのかも確かめたいです。

何も無い方は最近やったゲームのタイトルを書いてください。


たまに、投稿した後に間違いに気づいて修正したりしています。ご了承ください。


長くなりましたし、遅くなりましたが、これからどうぞよろしくお願いいたします!

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