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今、生きているあなたへ  作者: ひびき
序章:幼少期 助走編
12/86

第11話 強さの理由

/634年6月4日/

        *エレナ視点*

エ「タイト!海を見に行こう!」


 いつものように修行を始めようとしているタイトに向かって叫んだ。

 突然の発言に「何言ってるんだこいつ」みたいな顔をするタイト。


エ(11歳)「未来が視えるの!魔王城のすぐ近くにどこまでも続く、青く澄み渡る綺麗な海が!」

タ「あぁ、そゆこと。なんか、どんどん能力がすごくなっていくね。

でも、海なら魔王城じゃなくても他のとこでも見れるでしょ?」

エ「わかってないなぁ〜?なんか他にも旅が楽しくなりそうな目標があった方がいいじゃん!」


 腕を組んで、顔と右手の人差し指を左右に振りながら答えた。


 最近、前までは寝ている時しか視れていなかった遠くの未来が起きている時でも見えるようになってきた。

  例えば、タイトは3年後も修行をしているとか、レイの10年後は髪を短く切っているとか。

 そして、私の行動1つで、()()()()()()ことも知った。

 未来は期待だらけで胸の高鳴りが止まない。そんな私とはまるで反対の態度でタイトは言う。


タ「そう。良かったね。まぁ、じゃあ、頑張ってね。僕、今のところ冒険者になるつもりないから、」

エ「なんで!?」


 とんでもなことを抜かしてきやがるので、咄嗟に大声が出てしまった。


エ「タイト、3年後も修行続けてるから、多分そのまま旅に出ることになると思うけど、、、」

タ「そうなの?でも、強くなっておくに越したことはないからね。一応続けてるだけなんじゃない?」


 一応、タイトは5年後に冒険者になる未来まで視えている。でも、今、この瞬間の言葉ひとつで未来が変わる可能性がある。


エ(一緒がいい。

一緒に旅に出る未来だけは変えたくない。なるべく旅が楽しいものだと思わせないと。)


エ「タイト、この前化け物と戦った時大活躍だったじゃん!それに、戦うの楽しくないの?」

タ「楽しくないよ、痛いし怖いし。

あと、僕多分才能ないと思う。ここ3年ぐらい2人に比べてあんまり成長していないから。」


エ(楽しくない、、か。)


 同じ気持ちだと思っていたばかりに少し寂しい


エ「そんな、、、男の子なんだし、身長なんてこれから伸びるでしょ」

タ「身長の話じゃないよ!強さの問題!」

 

 ちゃんとツッコミはしてくれるようだ


エ「十分強いじゃん!何が不満なの?」

タ「不満はないよ。ただ、僕には向いていないから。僕は今に満足している。特別なことが出来なくても、平和に過ごすだけでいい。」


 きっと、タイトは間違ってない。けど!たかが11歳がそれを言うのは間違っている!


エ「ダメ!そんなの!ねぇ、一緒に行こうよ!きっと、面白おかしくて楽しい旅になるから!だから!」

タ「僕はいなくても、2人は強いから大丈夫だよ。」


 タイトは笑って、でも、どこか無理をしているような、悔しそうな顔をして言った。両の手の拳は強く、強く握りしめられていた。


エ「違う!タイトは強くなくてもいいから!私がタイトの分まで強くなるから!一緒に居て欲しいの!」


 なんて言ったら説得できるのかわからない。わかっている。本当はタイトの方が正しいと。


 それでも、旅の中で隣にはタイトとレイの2人がいて欲しい。

 でも、次喋らせたら、私は何も言えなくなる。だから、喋り続ける。息が苦しくても。ツギハギで言葉になっていないかもしれないけど、必死に。


エ「だから!そんなこと、、、言わないで、!」


 言葉を連ねる度に熱くなる私と、それに連動するようにどこか悔しそうな表情をして顔が曇っていくタイト。


タ「どうして、そこまで、、」

エ(どうして、、、?どうしてだろう?)


 なんで一緒にいて欲しいのか、答えはわかっている。でも、それをどうやって言葉にすればいいのかわからない。


エ「それは!、、その、、わたしが!タイトと、、」

ダ「お?喧嘩かぁ?!やれやれぇい!若いもんはぶつかり合ってこそ友情が深まるってもんだ!」

ガハハ!

 と大口で笑いながら近づいてくる神父。

 正直助かった。あれ以上言葉が出てこなかったから。


タ「エレナが僕をなんでか知らないけど、どうしても冒険者にしたいらしい。」

ダ「ほう?タイト君はそれが嫌だという事だな。まぁ、確かに最近タイト君は伸びが悪い気がするなぁ」

タ「でしょ?」


 味方してくれると思っていたが、裏切られた気分になり、つい声を荒らげる。


エ「なんで!?タイトは!」

ダ「人が成長するには、自分を知り、できることできないことを明確にすることが必要なんだ。

大人になると自ずと増えてくる自己分析だよ。克服するかしないかは自由だけどね。

タイト君のその判断ができるということは良いことだと思うよ。とても大切な事だ。間違ってない」

タイト「でしょ?」

ダ「でもね、君はまだ子供なんだから。大きな夢を見て、周りにバカにされるくらい意地汚く一生懸命に努力することも大切な事だと私は思うよ。」

タ「だって、僕、魔法主体だし、魔法は遠距離が基本で、体が成長したってあんまり意味ないし。

それに、ある程度の威力出せたらもう伸ばすところがないじゃん、!

僕は、!これ以上強くは、、なれない」


 今、気づいた。タイトだってきっとすごく悩んでいたんだ。その結果の判断であって、私が簡単に口出していいことじゃない。

 さっきまでタイトに無理強いしていたことが恥ずかしくなる。それに気づけなかった自分が悔しくなる。


ダ「何を言ってるんだい!?魔法主体でも近距離で戦う方法を探せばいいじゃないか?ぶつけるだけじゃなく圧縮や拡張させればなんとだってできる!

魔法において化学もとい、知識は力だ!火と水で水蒸気爆発という反応が起こせる!

威力がそれ以上必要ないと言うなら、これからはそういう知識をつけるといい!

君たち子どもの可能性は無限大なんだ!そう簡単に諦めるんじゃない!君たちは、自由なんだから」


 呆気にとられていた。何を言っているのかところどころ分からないところはあったが、何を言いたいのかは理解出来た。


タ「うっ、ぐずっ」


 でも、タイトの心には響いたのだろう。タイトは泣いていた。涙を見せないように必死に涙を拭い、腕をずぶ濡れにしていた。


エ「タイト、ごめん。私タイトの気持ち考えずに酷いこと言ってた。本当にごめん」


 タイトを落ち着かせるために、いつものように後ろから抱きしめ、左手に手を添えながら頭を撫でる。

 最近は泣くことも少なくなって、これをする機会が減っているように思う。嬉しいような寂しいのような。


ダ「おやおや?涙がうつっちゃったのかな?レイちゃん大丈夫かい?」


 右の頬に少しの風の冷たさを感じる。どうやら目から涙が零れているみたいだ。


エ「私は大丈夫」

ダ「そうだと思っていたよ」

エ「少しは心配しろや!」

ダ「まぁまぁ、

ところで2人とも、これから勝負をしないかい?」

タ「勝負?」


 涙を拭き取ったタイトが聞く。でもまだ少しだけ目に涙が溜まっている。


ダ「あぁ、君たちの言う実践て言うやつだ。」

エ「さすがに急すぎん?」

ダ「近接の魔法の使い方というものをほんの1部だけ、教えてあげようかなと」

タ「いいの?」

ダ「当たり前だとも!さぁ、2人でかかっておいで!ジョーカーさんから貰ったという魔道具も使ってもいいよ!」

エ「お?2対1でやるつもり?しかも魔道具あり?!さすがにそれは私達を舐め過ぎだよ」


 本当は実践したかったので、喜んで木剣を手に取りながら答えた。


ダ「いいからかかっておいで。コテンパンにしてあげるから」


 そういうと神父も木剣を手に取り構え始めた。タイトも杖を左手に、木剣を右手に取り、構える。


 戦闘が始まる直前の緊張とわくわくが入り交じった独特の空気を感じる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー        *視点 戦闘時*

 まず、開戦の合図として、エレナが最初に走り出した。タイトも釣られてエレナの邪魔にならないような魔法で援護する。


 火、水、風魔法をいくつか放ち攻撃をするが、移動、回避、相殺、蒸発などで全てを防がれる。


タ(1発も当たんないのは予想外)


 タイトはひとしきり魔法を放ち、ダンフライの右側に回るように移動を始める。

 その間、エレナは10m程の距離を一気に詰めてダンフライを射程圏内に捉える。


ダ「近接魔法その1」


 そう言いながら左の掌を上に向けて魔法を発動させる。

 エレナは左足を大きく踏み出し、剣を横に振りかぶる。


エ(いける!)


 瞬間、戦闘中は常に1、2秒先の未来を視ているエレナの剣に戸惑いが現れる。


エ(未来の景色が何も視えない!?それに、神父に剣を当てられる未来がない!)

ダ「水魔法の量を変えずに出現範囲だけ広げる。

いわゆる拡散」


 エレナの行動は予定通りといった、特に気にするでもなく話を始める。

 タイトはダンフライの淡々とした言葉に魅入ってしまう。ダンフライの言葉に合わせて周りの音が徐々に消えていく。


ダ「霧」


 エレナとタイトが気づいた時には既に霧に飲まれていた。そんな中、

カンっ!

 という、乾いた音が一つだけ響き渡る。


エ(止められた!?見えてんのかこいつ!?)


 エレナは1度距離を取ろうと、後ろに下がる。が、背中に何かがぶつかり、行く手を阻まれる。


タ(霧は水だから電気魔法で神父まで届くはず!)


 タイトはそう思い、杖に魔力を込める。


ダ「おっと、電気魔法はエレナちゃんにも当たるからやめたほうがいいよ。」

 そう言われ、タイトは手に貯めていた電気魔法を解除する。続いて、霧を飛ばそうと風魔法をめいっぱい放つ。


 やがて霧が晴れていき、エレナとダンフライの姿が見えるようになっていく。

 そこで、タイトは自分の目を疑う光景を目にした。


ダ「エレナちゃんは未来を視ることに頼りすぎだよ。攻撃が当たる未来を視るんじゃなく、1番隙の大きい未来を作るようにしないと。」


 エレナの剣は足で押さえつけられ、首にはダンフライの木剣が突き立てられていた。


タ「エレナ!」

ダ「常に最悪を予想しないと。それに視界が見えない中で闇雲に攻撃するのはやめた方がいい。音を立てるということは自分の居場所を敵に知らせることなんだから。」

エ「うわああああぁ!!!」


 エレナが突然、大きな声で叫びながら手に持っていた木剣を離し、首に突き立てられた木剣を払い除けて、ダンフライに右手の拳で殴りかかった。

 それに呼応するようにタイトは氷魔法を先が尖るように生成し、爆発的な速さで放った。


ダ「近接魔法その2」

 そう言いながら、ダンフライは払い除けられた木剣をそのまま手放し、エレナの拳を外から内へと左手で力を加えて軽くいなす。

 そして右手をエレナの体の前に持っていき


ダ「風魔法の圧縮と一方向への解放、」


 エレナが急に凄まじい速さで後方へと吹き飛び、木に衝突する。背中からぶつかったことで軽度のの呼吸難になる


エ(いてぇ!さすがに少し動けん)


 さらに、続けて、

ダ「そしてその応用、風の刃」


 タイトの方を向き、右手で空気を薙ぎ払った。


タ(やばい気がする!)


 タイトは咄嗟に土魔法で壁を作り出した。目の高さまで壁が作られる直前で、ダンフライ目掛けて飛んでいたはずの氷魔法が


バキンっ!

 と音を立てて、弾け飛んで破壊された。そして次の瞬間、ギリギリで出来上がった土の壁に


ドンッ!

 という音と共にヒビが入る。タイトの後方では魔法の余波で木が倒れている。


タ(え?殺す気?)


 その状況を遠くから見ていたエレナ。ダンフライが動き出し、タイトに襲いかかる未来が視えた。


エ(あ、やばい!動け!体!)


 タイトは少しの間、目を離してしまった。その一瞬の隙はダンフライが距離を詰めるのに十分な時間だった。

 土の壁が壊れ、目の前の視界が見えるようになってからでは遅かった。


エ(タイト!)


ギンっ!

 タイトが気づいた時には、目の前にタイトに向けて木剣を振りかざしているダンフライと、それを魔道具で防御している泥だらけのエレナがいた。


ダ「お?あれからもう復帰してきたのかい?さすがだねぇ」

エ「ぐっ、、たりめぇ、だろうが!」


 タイトは遅れて、火魔法をダンフライの視界の外、左側から最高火力で放つ。と同時に、エレナに隠れながら思い切り木剣で突きを入れようとする。


ダ「その3!」


 ダンフライは左手を火魔法の方に突き出し魔法を発動させる。


ダ「水蒸気爆発!」


 ダンフライは左手から水魔法を放ち、タイトの火魔法にぶつける。次の瞬間、大きな爆音と爆風が起こる。

 2人は爆風に飛ばされないようにすることで精一杯だった。


エ(目が開けられない!早く次の動作に移らないと!)


 風が収まってきて、動き出そうとしたが


ダ「私の勝ち」


 ダンフライの右手の木剣はエレナの首に、左手の氷魔法で作られた氷の剣がタイトの首に添えられていた。


ダ「その4、魔法で剣を作って二刀流に。これは剣を手放した後に武器はないと相手に思わせて使うと結構有効だったりする。」

ダ「ちなみにさっきの水蒸気爆発は1人でも起こせるから簡単に作れる爆弾だったりする。」


 2人の首に添えていた剣をゆっくりと離しながら言う。


エ「負けたー!くそっ!あちぃー!回復魔法お願いー!」


 そう言いながら地面に倒れ込むエレナ。

 時刻は10時を差しており、運動をすればかなり暑く感じる気温であった。


タ「ごめんエレナ、僕がもっとちゃんとしてたら、、、」


 自分のせいだと思い、エレナに謝りながら回復魔法を掛けるタイト。


エ「いやいや、お互い様だろ、謝んなって」

タ「あ、、ありがとう」

エ「にしても強すぎんだろ!なんでそんなに強いんだよ」

ダ「まぁね、こればかりは年の功もあるからね」

エ「年の功?」

ダ「経験の差だよ。それと、私は強くならなくちゃいけなかった。」

 そう言い、遠い目をするダンフライ


ダ「タイト君、最後の突きいい感じだったよ。エレナちゃんに隠れながらでよく見えなかったからね。やっぱり魔法と剣を両立させた方がいいと思うんだけどなぁ?」

エ「ね?そう思うよね?!あれは入った!って思ったもん」

タ「そうかなぁ///考えておくよ」

少し照れながら答えるタイト。


エ&ダ(う〜ん、チョロい!)


ダ「エレナちゃんも吹き飛ばされた後もちゃんと敵を見てて偉い」

エ「エレナちゃんですから!」


 自信満々のドヤ顔で答えるエレナに


タ「なんだよそれ」

 と小さく笑いながら言うタイト。


ダ「あぁ、あとこれは言っておかないと、

もし、相手が降参を宣言しても、戦闘態勢を解いてはいけないよ」

タ「どうして?」

ダ「嘘の可能性がある。この世は規則に則った真剣勝負ばかりじゃない。降参と言いながら、相手の隙を伺って、攻撃をしてくる奴もいる。」

エ「なんてやつだ、最低だな」

ダ「そう!最低なヤツさ。だからね、相手の武器が飛んで行こうと、負けを認めて降参しようと、1度戦闘を仕掛けてきた相手には、戦意喪失、もしくは戦闘不能にするまで、戦闘態勢を維持しておくこと。いいね?」


エ&タ「「わかった!」」


ダ「タイト君、君たちはこれからだよ。これから実践経験を積むことでどんどん強くなれる。

だから、強くなることを、夢を追うことを諦めるなよ!」

タ「・・・うん!ありがとう!」


 タイトは少し考え、纏まったのか、迷いひとつ無いという笑顔で返事をした。


エ(良かった。本当に)


 自分の頬が緩んでいることにエレナは気づかない。


エ「それにしてもまだ6月なのに暑いなぁ」

ダ「そんな時にぴったりな魔法がありますぜ奥さん」

エ「なんですって?早く見せて頂戴」


 ごまを擦りながらエレナに喋りかけるダンフライに、ちょっと高い声で返事するエレナ。


タ(またなんか始まった)


ダ「さぁ、タイト君、氷魔法の準備を」

タ「氷魔法?てか僕?」

ダ「いいからいいから、魔法の練習みたいなもんだよ。」

タ「それなら、」

ダ「いい?魔力を込めるほど、そして魔力を1ヶ所に集中して集めるほど氷魔法は固く、温度が低くなるのは分かる?」

タ「まぁ、なんとなくは」

ダ「いいねぇ、じゃあ、逆に魔力を少しだけ込めて、周り全体に氷魔法を発生させる想像でやってみて」

タ「こうかな?」

エ「お?なんか少し涼しくなった?」

ダ「そうそう、飲み込み速いねぇ。これが拡散だよ。同じ魔力量で周り全体に発生させるんだ。冬はこれの火魔法版でできるよ。

これができるなら圧縮は教えなくても大丈夫そうだね。」

エ「でもこれ、ほんのちょっとの気がする程度しか変わらないよね?」

ダ「なんだ、贅沢だな?それなら、タイト君、その拡散の状態から固形にならないように氷魔法の魔力を集めてみて。」

タ「え、え、こ、こう?」


 タイトの手には小さな氷ができた。


ダ「あちゃちゃ、失敗。個体と気体のギリギリを攻めてみて。」


 再び、手に魔力を分散させつつも集めるタイト。


タ「うーん、多分これがギリかな?」

ダ「そう?それじゃ、それに風魔法を合わせてみて」

エ「あ、やばい、涼しすぎる。最高に気持ちいい。」


 タイトの魔法に手をかざし確認するダンフライ。


ダ「成功だ。すごいねぇ。」

タ「そうかなぁ?」


 顔がにやけて、喜びが隠しきれていないタイト


ダ「魔法は組み合わせることでまた、別の効果が出たりするから、そこを研究するのもいいかもしれない。また、他に聞きたいこととかあったらいつでも聞いていいからね。」

タ「わかった!」

ダ「エレナちゃんもいつでも来てもいいからね」

エ「おう!」

ダ「それじゃ、そろそろ行かないと神父の仕事間に合わないから行ってる!」


エ&タ(またサボってたんかい)


「あんがとよー!

ありがとう! 」

 お礼を言いつつ、そんなことを考える2人と足早に去っていくダンフライ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

         *エレナ視点*

 先程の戦闘で疲れたので休憩をしていると、少ししてレイが来て、さらにその少し後にティールが来た。


 みんなで修行を始め、途中で昼休憩を挟み、修行を再開する。やがて、段々と影が伸び、日が山の後ろへと隠れていく。


 もう帰ろうかと話していたところにジョーカーがやってきた。


エ「遅いー!」

ジ「ごめんごめん。今回はちょっと欲しいものがあって、時間かかっちゃった。」

タ「欲しいもの?」

ジ「それは秘密ー」

 人差し指を口に立てて言う。


エ(腹立つ顔をしおって。)


ジ「ほら、今日はもう遅いからまた明日修行しよ?

ね?」

エ「最近、遅刻する癖がついてるんじゃない?」

タ「前はもっと早かったよね?確か」

ジ「来月はちゃんと一日には絶対来るようにするので許してください。」

レ「ジョーカーさんがこう言ってるんだから許してあげようよ」

テ「まぁ、その欲しいものは俺たちがお願いs/レ「おい」


 いつぞやの時にも聞いた、レイのどこからそんな声が出るのかと疑問に思う程の凄みのある重い声がティールを襲う。

 やばいと思ったのか、慌てて口を手で塞ぐティール。


 私とタイトは何を言ってるのかわからず、お互いに顔を見合わせた。

 ジョーカーが小声でレイをなだめる。声は聞こえない。


 そんなこんなで、帰路に着く。レイはずっとティールが口を滑らせないか監視していた。怖いね!


 帰っている途中、少し気になったので、


エ「ジョーカーはさ、今でも修行してるの?」

 と聞いてみると、


ジ「してないねー。僕ぐらいになると、もう十分に強いからしなくてもいいんだよ」

 と返ってきた。

「腹立つなー」「ふっ、雑魚がなんかいってらー」「うん、死ね」「直球過ぎない?」「死ね」「ごめんなさい、ごめんなさい」「レイは落ち着いて」


 と、いつも通り馬鹿をしながら帰った。


エ「ただいまー!

タ ただいまー 」

ハ「あら、おかえりー」

エ「おかえり」


 家に着き、私たちの声に台所からいつものように返すお母さんと手伝いをするお父さん。


ハ「すぐにどっちかお風呂に入っちゃいなさいー」

エ「どっちから入る?」

タ「昨日はどっちからだったっけ?」


 少し考え、

エ「えーと、昨日は確か私が先だったから今日はタイトからでいいよ」

タ「りょーかーい」


 タイトは脱衣所へと向かう。私は喉が渇いたので水を飲みにお母さんに声をかける。


エ「お母さんー、コップ取ってー」

ハ「はーい、水でいい?」

エ「うん!なんでもいい!」

ハ「なんでもいいが1番困るんだから」

エ「ごめんごめん、水でお願いー」


コップ一杯の水を注いで貰い、受け取る。「離すよ?」「うん、大丈夫!」


 水を一気に飲み干したところで、お母さんから、


ハ「そういえば、もう手は洗ったの?」

 と言われた。言われてみれば洗ってない気がする。


エ「洗ってくる〜」


 洗面台は脱衣所にあるので、まず、扉を叩いて確認する。返事は無い。代わりに

ジャー

 という水の音が聞こえるので多分大丈夫だろうと中に入る。予想通り、脱衣所にはおらず、さっさと退散しようと手を洗う。


 水で流し、もう出ようかとしたところで、タイトの服が目に入る。いつもは洗濯かごに入れているが、今日は外に溢れている。


 代わりに入れてあげようと、拾い上げる。今日は汗もかいたし、泣いたりもしたので、水を含んで少し重い。


 と、そこで急に邪な感情が出てくる。

エ(ちょっとだけ、バレなければいいから。ほんのちょっとだけ)

 そう言い聞かせながら、タイトの服を顔に近づけたところで、


ハ「エレナー、もうコップは洗っちゃってもいいー?」

 と言いながら、ガラッ、と脱衣所の扉を開けて入ってきたお母さんと目が合う。

 永遠にも感じるほど、時間が止まったような感覚がした。


ハ「あらァ〜、ちょっと邪魔しちゃったわね〜。」

 扉を閉めながら言われる。私は咄嗟に閉められる扉をガッ!と掴んで大声で叫ぶ。


エ「ち、違うから!そういうんじゃないから!外に出てたから入れてあげようと思っただけだから!」

ハ「そんなに焦らなくても大丈夫よ〜。わかってるからぁ」


エ(これ絶対わかってないやつ!)


 扉1枚で攻防を続けていると、タイトが浴室の扉を開けて、異様な光景を目にする。


タ「・・・2人とも何してんの?」


 冷静にツッコまれた。でも、それ以前に


エ「ちょっと!なんでそんな格好で出てきてんの?!」


 タイトはありのままの姿で私たちの前で恥ずかしがることなく佇んでいる。

 逆にこっちが恥ずかしくなり、両手で顔を覆うが、指の間から覗き込む。


ハ「女の子が2人もいるんだから、タイトは少しは隠しなさい」


 タイトはよく分からないという顔をして、


タ「家族でしょ?ついこの前まで一緒に入ってたのに今更なにを」

 と言った。そう言われるとなんだか大丈夫に思えてきた。


エ「確かに。家族だしなんで恥ずかしがってんだろ?」

タ「でしょ?」


 その後は普通にお風呂に入り、上がる時に一瞬だけ堪能して、夜ご飯を食べて、今日のことを話して、色々済ませてから自分の部屋に戻った。


 いつも通り、紙飛行機を折っているとタイトが扉を叩いて、部屋に入ってきた。


タ「お姉ちゃん、歯磨きした?」

エ「もうしたよー」


 質問に答えたはずなのに、何も答えずそこに立って動かないタイト。


エ「え?何?なんか変?」


 何も反応がないと心配になる。


タ「あぁ、いや、それずっと続けてるんだと思って。」


 「それ」とは紙飛行機のことだろう。私は紙を折りながら答えた。

エ「そうだよー。・・・よし!できた!」

 丁度、紙飛行機が完成した。


エ「んじゃ、投げるよー?」

タ「どうぞ、見てるから」


 窓の外に向かって紙飛行機を投げる。が、変に力を入れすぎてしまい、すぐに墜落してしまった。


エ(うーん、失敗した)


 少しの間、無言の時間が流れた。


エ「うん!タイトのせいだね!」

タ「え?」

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