第0話 すべてを消した日
*???視点*
昼間であると言うのに空の雲はどす黒く、雨風は吹き荒れ、地上ではそこらじゅうで燃えている火が辺りを照らしていた。周りには多くの死体が無造作に転がっている。
たった数十秒前まで話をしていた彼女も今では呼吸音が聞こえなくなり、自分の腕の中でゆっくりと冷たくなっていくのを手や腕で感じる。
自分の犯した過ちを理解させるかのように。
大切な人を殺した瞬間が鮮明に頭に浮かんでくる。気分が悪くなる。だが、忘れてはいけない。もう二度と同じことが起きないように。
土や血でボロボロになっている彼女を静かに、そして強く抱き締め、太ももに頭が来るようにゆっくりと手を離す。
そして、近くにある刀を手に取り、首元へと持っていく。
(また、間違えた。みんなを、仲間を信じ切ることができなかった。)
右手に少し力を加えると一筋の血が首を伝うのを感じた。もっと力を加えれば自分が死ぬということもわかった。
「どれだけ強くろうとも、絶対的な力があろうとも守れる範囲には限界がある。」
いつか、誰かが言っていた言葉。誰だったかは思い出すことができない。小さい頃によく相手をしてくれた人だということまでは思い出せるが、顔を、声を、名前を、思い出すことができない。
それどころか、数分前まで自分が何をしていたのかさえ思い出せない。
(確か、激情に駆られ、理性を捨て、誰かと戦っていたような気がする。相手に騙され、大切な何かを失ったという感覚だけが残っている。
だが、今となってはそんなことはどうでもいい。先程、彼女が死んでしまう前に交わした約束を果たすために。無駄なことは考えるな。恐怖心を捨てろ。自分を殺すことの恐怖心を。)
そして、目の前の光景を今一度目に焼き付ける。
(もし、もしも、もう一度だけやり直すことができたなら。今度こそみんなを、仲間を最後まで信じるんだ!大切な人たちを守り抜け!)
そう、強く、強く、心に誓い、右手にありったけの力を込め、青年は己が首を切り落とした。