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騒動が終わって

 とりあえず、剣呑とした空気をしてしまったことによって迷惑をかけたお客さんにはお詫びとしてお菓子を出して、今日頼んだお代もタダにさせてもらった。

 お客さんは「気にしないでください」って言われたけど、お店を経営している者としてはこれぐらいしないといけないって思ったんだよね。

 楽しみながらゆったりしてもらうのを大事にしているのに、それどころじゃなくなったんだから。


 っていうことを話すと「かっこいいです……」と言われた。嬉しかった、照れた、モテ期到来だ!

 なんて思ってしまったのは割愛。どうせ、僕がモテるなんていつもの勘違いに決まっているんだから。

 でも、さっきからその女の子達から視線を感じます。何故でしょう?


 まぁ、それは置いておいて───


「たはは……ごめんね、二人共」


 落ち着いた空気を取り戻した店内。私服にエプロンを着けたエイフィアが申し訳なさそうに謝る。

 どうやら、お詫びとして今日はお手伝いをさせてほしいとのことだ。


「私は気にしていませんよ。少し気分を削がれましたが、エイフィアさんが悪いというわけではなさそうですし」


 ブレンドをゆっくりと口に含むレイシアちゃん。

 さっきイケメンエルフに立ち向かった時といい、今の姿といい……かっこいいっす、レイシア先輩。貴族の貫禄を感じました!


「タクトくんもごめんね……あとでお客さんのお代、ちゃんと払うから」

「気にしない、気にしない。一組タダにしたところで、お店は傾いたりしないから!」


 あの程度で傾くんなら、閑古鳥が鳴いている時に潰れている。

 正直、カフェオレもお菓子もそこまで高くないし……っていうか、そもそも高いメニューなんてないし、そこまで懐が痛むことはない。


 それより───


「やはりイケメンは入店制限をかけるべきだね。イケメンは害しか与えないから」

「あの人だけな気もしますが……」


 そんなことはない。

 あんな風な男もいるし、性格がよかろうが「女の子にモテモテ」という謎ステータスがある以上、僕の心を害するから。


「あと、僕の方こそごめんね? 話に割り込むようなことして」

「ううん、それは全然。私も迷惑してたし、迷惑かけたのこっちだし……タクトくんが謝ることなんて何もないよ」

「でもさ、余計にことを大きくしちゃった感があるからさ」


 もし僕が言い返さなかったら、エイフィアがのらりくらりで躱して揉めることもなかったかもしれない。

 ちょっとイラってしてしまって反論してしまったのは、間違いなく反省点だろう。


「そんなことありません。かっこよかったですよ、タクトさん」

「嬉しいけど、それは何も関係ないと思うんだ」


 照れるよ、普通に。

 レイシアちゃんから言われると余計に。

 僕は普通に謝りたかっただけなのに。


「そもそも、ことの発端ってなんだったのですか? 大方の予想はつきますが……」

「あの人が私と結婚したいって」

「やはりですか……」


 なるほど、あのイケメンエルフはエイフィアと結婚したかったのか。

 だから近くにいる僕が邪魔だって思ったんだろう。


「はた迷惑な人だね……僕とエイフィアはそんな関係じゃないっていうのに」


 他人は他人だけど、家族みたいな関係っていうだけ。

 感覚的には、弟と姉のようなものなだけなのに。

 確かに距離は近いかもしれないけど、警戒するような間柄じゃない。


「そ、そうだね……」


 だけど、エイフィアの反応が鈍い。

 どうしたんだろう? 本当に何もないのは、エイフィアと一つ屋根の下で暮らした長い時間で分かりきっているのに。

 身近にいるにもかかわらず、何もなかった───それが関係性を証明しているもののはずだよね?


「…………」


 あと、レイシアちゃん反応もどこかおかしい。

 反応が鈍いエイフィアを見て少し考えこんでいる。

 本当に、二人共どうしたんだろうか?


 ───少しだけ、違和感の残る空気が漂う。

 それは少し重たいもので、息苦しい感じてしまった。


「はいっ! この話はおしまい! 結局、あのイケメンエルフと何があって何を言われたって、エイフィアが気にするようなことはないんだから!」

「タクトくん……」

「そうでしょ? エイフィアは結婚したくないし、僕が相応しくないって言われたとしても、僕はエイフィアと一緒にいたい。エイフィアがいたくないって言われたら考えるけど……違うんだったら、全部エイフィア望むものでいいんだから。エイフィア自身がさ、幸せになれる選択を選べばそれでいいじゃん」


 そうだ、あのイケメンエルフが何を言ったってエイフィアがどう思ってるかが重要なんだ。

 客観的な話なんてどうでもいい。エイフィアが幸せいられるような選択を選べば、それで全て話はおしまいなんだから。


「私が幸せになれる選択……」

「うんっ!」

「……考えてみる、ね」


 エイフィアは笑みを浮かべながら、そう口にした。

 だけどその笑みは弱々しいもので、まだ何か抱えているように見える。

 それが僕の不安を募らせるには充分だった。


(でも、流石に今は聞けないよね……)


 今の今だ。

 エイフィアも落ち着きたいだろうし、話すとしてもお店じゃなくて誰もいない家の方がいいかもしれない。

 僕は不安思いながらも「魔女さんに相談しよ」と、そう思った。


「…………」


 そして、レイシアちゃんは未だにエイフィアの姿を見て考え込んでいる。

 それがどことなく、僕の不安を増長させたのだった。

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