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相応しいかどうか

 えーっと……どうして僕はいきなりこんなことを言われてるんだろうか?

 不思議で仕方ない。


「お前は、エイフィアの隣に相応しくない!」


 カフェオレも持ってきた開口一番、ありがとうではなくそんな言葉。

 なんかイケメンエルフは怒っている様子だし、エイフィアはなんか気落ちしている感じ。


 何を話していたのか? 話を聞いていなかった僕には意味不明です。

 僕、さっきまでレイシアちゃんと楽しくお話してたもんで……。

 っていうより───


「大丈夫エイフィア……? 何かあったの?」


 こんな男の話より、僕的には元気のないエイフィアが気になって仕方ない。

 初めから疲れてたっぽいのは知ってたけど、今回はあからさまに気落ちしているから。


 僕は心配でエイフィアに声をかける。

 すると、イケメンエルフは何故か先程よりも怒ってしまったのか、拳をわなわなと震えさせてしまった。


「お前……俺を無視したな?」

「するよ、普通。イケメン嫌いだし」


 それに、知らない人よりエイフィアの心配をするって当たり前じゃん。


「人間風情が……ッ!」


 待って、無視しただけで人間ってこんな扱い受けるの?

 エルフが僕達をどう思っているのか、気になるところだ。

 エイフィアは今までこんなこと言わなかったのに……いけない、タクト印象の中でエルフがだだ下がりだ。


「やはり、こんな男は相応しくないぞエイフィア!」

「…………」


 イケメンエルフの言葉に、エイフィアは俯いたまま何も返さない。

 返さないっていうより『返したくても口から出てこない』って様子だった。


 その証拠に、口は何度も開いて必死に言葉を探そうとしている。


(珍しい……)


 こんなに弱っているエイフィアは久しぶりだ。

 いつもは明るくて、元気で、僕を振り回してばかりの活発な女の子のはず。

 まるで今のエイフィアは《《初めて出会った時の彼女》》のようだ。


 だからか、少しだけ僕も……イラッとしてしまった。


「相応しいって言うけどさ、それって君に関係あるの?」

「あ!?」

「っていうより、相応しいって言葉……僕、嫌いなんだよね」


 イケメンエルフが声を荒上げてしまったせいで、店内が一気に静まり返ってしまった。

 女の子の二人組も、レイシアちゃんも、ただならぬ空気に静かにこちらの様子を見ている。


 だけど、僕は真っ直ぐにイケメンエルフを見据えた。


「結局、相応しいって客観的な話でしょ? 誰かが見て、誰かが感じて、総体的に比べて、他人が判断する。君が言っているってことはそういうことで、それは君の意見でしかない」

「他の奴でもそう言うに決まっている」

「そうかもしれないね。僕は自分で言うのもなんだけど、イケメンでもないし力も弱いし、世間知らずで情けない男だ。周りが言うのも理解できるよ」


 エイフィアは造形美が整いすぎている美少女だ。

 残念な一面もあるけど、それ以上にいい面がたくさんある。


 容姿よし、性格よし。

 それを知っている人であれば、僕を見て「相応しくない」って判断するのも仕方なし、当たり前だ。


「だったら───」

「けど、それはあくまで客観的な話で、僕達にはなんら関係ない」


 言いかけるイケメンエルフの言葉を遮って、僕は話を続ける。


「他人の評価で関係を改めないといけないの? なんの権利があって? どの立場で? 所詮は他人でしょ? 一番大事な僕達の意見なんて、何も勘定に入っていないじゃないか」


 確かに周りの評価は大事だ。

 商売をするにあたっても、周りの評価は一種の基準になり、物事を判断する上で重要な材料になる。


 でも、それは関係性を決める材料にはなり得ない。

 関係を求めるのはあくまで当人が求めたいからであって、他人が求めてなるものじゃないからだ。


「更に言えば、僕はエイフィアの意見だって聞かない。エイフィアが「僕は相応しくない」って言ったって「当たり前じゃないか」って答えるよ」

「なら……結局お前も認めているっていうことだろうが」

「認めるよ、そりゃ認めるしかない。どこを判断しても、僕にはこんないい女性と相応しい部分があるとは思えないからね。でもさ……多分、この話の発端って『相応しくないからどっか行け』みたいなニュアンスの話だよね?」


 チラリとエイフィアを見ると、彼女は小さく首を縦に振る。

 どうしてそんな話になったかは分からないけど、そういうことなんだというのは分かった。


「話を初めに戻すけど、僕は「相応しい」っていう言葉が嫌いだ。相応しい、相応しくないで判断してその人の隣にいちゃいけないっていうのはどう考えてもやっかみにしか聞こえないし、当人が言ったとしても所詮は言い訳にしか聞こえないから」


 鋭く睨みつけているイケメンエルフを、僕は逸らさず見つめ返す。

 この意見だけは、たとえ文句を言われたとしても曲げるつもりはないのだから。


「そもそも論点が間違ってるんだよ。一緒にいることに対して「相応しい」ってワードで判断するのは違う。どう考えても、当人が一緒にいたくないか、いたいかで判断するものでしょ?」

「だが、相応しくないお前に資格なんてない!」

「一緒にいるのに、資格なんてどうして必要なの? 顔が悪かろうが、お金を持っていようが全部関係ないんだよ……結局、それは当人が判断する材料でしかなくて、最終的には『意思』でしか答えは出ない───それがたとえ《《種族》》が違ったとしても、ね」

「ッ!?」


 僕がそう言うと、エイフィアの肩が一瞬跳ねた。

 それは何か思うところがあってくれたからなのかは分からないけど、とりあえず僕は弱っている彼女の頭をそっと優しく撫でた。


 元気になってくれたらいいなって、そんなことを思いながら。


「だから最後に言うけど───相応しいか相応しくないかで言えば、僕は相応しくない。でも、一緒にいたいかいたくないかで言えば……迷うことなく《《いたい》》だ。君がどう言葉を並べて意見を求めようが、僕はそれを変えることはないね」


 そして、僕はエイフィアの手を掴んで立ち上がらせると、そのまま店の奥へと歩き出した。


「タ、タクトくんっ!?」

「待てっ! エイフィアをどこに連れて行く!?」


 イケメンエルフの声が背中から聞こえてくる。


「話し合いをするのは構わないけど、ここはお店。静かにする場所なんだ……営業妨害はお店を経営する人として認めないよ。他のお客さんに迷惑だし」


 それに、エイフィアが弱っているっていうのに話し合い?

 馬鹿じゃないの───こんな顔をさせてまで続ける話なんて、どこにもあるはずなんてないんだから。


「に、人間風情が……ッ!」


 イケメンエルフが怒気を含んだ形相で僕に向かって近づいてくる。

 すると───


「そこまでですよ」


 小さな杖を持ったレイシアちゃんが、僕とイケメンエルフ間に立った。


「客として……一人の貴族として、領民の争い事は見過ごすわけにはいきません」

「ッ!? で、ですが……!」


 貴族だと聞いて、イケメンエルフは大人しくなったものの、まだ引き下がらない。


「二度は言いません。実力行使に移る前に、ここは引き下がってください」


 イケメンエルフの拳が震える。

 レイシアちゃんは貴族だ。これからここで生活していくのであれば傷つけて貴族の反感を買うわけにもいかない。

 それに、衛兵に捕まって幽閉されてしまう可能性もある。


 だからこそ、イケメンエルフはこれ以上動けない。

 そして───


「……俺は諦めないからな」


 キッ、と。

 僕を睨みつけてお店のドアを乱暴に開け放つと、そのまま『異世界喫茶』から立ち去ってしまった。

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