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好きな人

 タクト復活!!!


 翌日。風邪でダウンしていた僕は魔女さんの薬の効果か分からないけど、全快してしまいました。

 これでようやくお店に立つこともできる。

 治り始めた時は、正直お店に立ちたくて仕方がなかったんだ。


 一日コーヒーを作らないだけで右手が疼くとは思わなかったよ……静まれ、我が右手!(※ごめんなさい)


「というわけで、昨日はありがとうねレイシアちゃん」


 翌日お昼過ぎ。

 いつもの定位置に座るレイシアちゃんに向かって、僕は昨日のお礼をした。


「いえ、そんな。私は結局何もできませんでしたし」

「いやいや、お見舞いに来てくれるだけで十分だよ」


 可愛い子からお見舞いをされて喜ばない男子はいないだろう。

 傍にいるだけで心が癒されるんだ……もしかしなくても、僕が一日で回復したのも横に天使がいたからかもしれない。

 ありがとう、レイシアちゃん。君の優しさに、僕は助けられたよ。


「ぐすん……『タクトの全てが分かる、成長観察日記』が燃やされちゃった……」


 横でグラスを拭いているエイフィアがさめざめと泣く。

 泣かれるほどの物だったのだと、罪悪感が……込み上げてくることは一切なかった。


「燃やすよ、普通。なんで僕の身長体重、寝顔素顔、キッチンに立つ姿や趣味趣向全部が載ってあるのさ」

「シダさんが頑張って記録してたから……」

「この世界に肖像権ってものは存在しないのかな……?」


 もし肖像権があるんだったら、僕は速攻で訴える準備を整えるだろう。

 この本のおかげで、レイシアちゃんに僕の全てが知られてしまったんだから。


「それで、レイシアちゃん。せっかくだからお見舞いに来てくれたお礼させてよ」

「え? そんな、気にされなくても大丈夫ですよ?」

「いいから、いいから。僕的には結構嬉しかったんだし―――僕にできることなら、可能な範囲っていう前置きはさせてもらうけど叶えてみせるからさ」


 ちなみに、魔女さんやエイフィアにも迷惑をかけてしまったお礼は言ってある。

 魔女さんは肩もみ、エイフィアは『タクトの全てが分かる、成長観察日記』を燃やさないでという懇願。

 エイフィアのお願いだけは辛いけど……聞いてあげることはできなかった。辛苦の想いだったよ。


 その代わりと言ってはなんだけど……寝るまでの間、ずっと抱き枕にされた。

 かなり悶々としてしまったので、正直「お願いを聞いてあげるんじゃなかった」と後悔している。


「ほ、本当に聞いていただけるのですか……?」


 おずおずと、レイシアちゃんが上目遣いで尋ねる。

 そんな可愛い仕草で見られてしまえば、お礼をするつもりがなくてもお願いを聞いてあげたくなってしまう。


「うん」

「で、ではっ! あの、正直に一つ質問に答えてほしいんです」

「え? そんなのでいいの?」


 そんなの、お願いされなくても答えるのに。

 地元じゃ「素直なタクちゃん」って呼ばれるほど、嘘なんかついたことのない人間だったからね。

 念を押されなくても、聞かれたことに対しては正直に答えるよ。


「私にとっては、重要ですので……」


 そっか……その言葉を聞くと、身構えてしまいそうで恐ろしいよ。

 でも、それがお願いだっていうなら―――


「いいよ、どんとこいってものさ!」

「いいのですかっ!?」

「もちろん!」


 レイシアちゃんが花の咲くような笑みを浮かべた。

 その笑顔はお淑やかな彼女が見せる年相応の女の子らしいもの。

 あまりにも可愛くて、思わずドキッとしてしまった。


「レイシアちゃんも乙女だねぇ~」


 グラスを拭いているエイフィアがそんなことを言った。

 確かに、乙女みたいな表情ではあるけど、どうして今それを言ったのかは理解できない。


「では、《《タクトさんの好みの女性》》を教えていただけると……」

「へっ? どうしてそんなこと―――」

「とりゃっ!」

「腕関節がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 可愛らしい声と共に現れたのは、腕に走る激しい痛み。

 残念ながら腕は背中方面には向けないみたいで、悲しいことに腕関節が悲鳴を上げてしまった。


「待って、エイフィア!? 僕は何もしていないのは語らずともよかろうかじゃないかな!?」

「最後がおかしくなってるけど、普通は何も尋ねずに質問に答えてあげるものだよ? 安易に聞いちゃうと、乙女は困ってしまうからね!」

「……ふむ」


 困ってしまう。

 そう言われてしまえば、この腕関節の痛みにも受け入れなければならないだろう。

 正直「どうして?」っていう疑問はあるけども、軽率な言動がレイシアちゃんを困らせているのなら控えなければならない。


「分かった、もう僕は何も言わないよ」

「よろしいっ♪ では、タクトくん―――好みの女性を答えてちょうだいっ!」


 エイフィアがわくわくした様子で僕を促す。

 チラリとレイシアちゃんの方を見れば、こちらは期待の籠った眼差しで僕を見つめていた。

 どうしてそんなにも期待されているのかは分からないけど……言って困るもんじゃないし、ここは正直に答えてしまおう。


「えーっと……僕の好きな女性は———」

「「(ごくり)」」

「一緒にコーヒーを飲んでくれて、お淑やかで優しくて、僕のことを大切にしてくれる人……かな?」


 お淑やかな女性っていうのは、完全に僕のタイプだ。

 他の部分はあくまで願望になるだろうけど……好きな女性のタイプだけは、日本にいた頃から変わらない。


 理想が高いとは思うけどね? それでも、タイプなんだから仕方ない。

 ……もしかしなくても、今まで彼女がいなかったのはこのせいなんだろうか?


「(だってさ、レイシアちゃん! よかったね、全部当て嵌まってるよ!)」

「(そ、そうでしょうか……?)」

「(そうだよ! もうばっちり!)」


 エイフィアがレイシアちゃんとコソコソと話している。

 そんなに僕の好きな女性はおかしかっただろうか? 貶すんだったら、堂々と言ってくれればちゃんと泣くのに……。


(今思うけど、レイシアちゃんって僕の好みの女性にほぼ当て嵌まるんだよね)


 僕を大切にしてくれるかは分からないけど、好きなタイプとしてはどんぴしゃだろう。


 確かに、レイシアちゃんと付き合えたら幸せだろうなぁとは思っていたけど、まさか全て合致するとは思わなかった。

 ……まぁ、レイシアちゃんが僕みたいな男と付き合おうと思うわけでもないし、タイプだからって言ってどうこうもないけどさ。


(そういえば……)


 言っていなかった僕のタイプがあった。

 それを、ふと思い出す。


(明るくて元気にしてくれて、互いに寂しい時に寄り添い合える人……)


 それはエイフィアがピッタリだな、と。

 ヒソヒソと楽しそうに話す彼女を見てそう思った。

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