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レイシアちゃんとお出かけ②

 王都はこの国の中心とも呼べる場所だ。

 多くの貴族や平民が密集していて、それぞれの生活を送っている。


 今日のために聞いておいたんだけど、どうやら王都は一般街と呼ばれる平民が住む場所と貴族街と呼ばれる貴族が住む場所とで二分されているらしい。


 基本的には、用事がなければ平民は貴族街には入れないんだそうだ。

 逆は全然大丈夫みたい。レイシアちゃんがよく『異世界喫茶』に来ているみたいに。


 この前レイシアちゃんが住んでいる家に行った時はレイシアちゃんが事前に話してくれていたから入ることができた。

 といっても、どのタイミングで貴族街に入ったのか分からなかったけどね。


 そして、色々なものが売っている場所───市場や繁華街なんかは、ほとんどが一般街に集まっている。

 だから僕達は現在、一般街の方にやって来ていた。


「色々な場所に行ってみよう……というお話でしたが、どこに行きましょうか?」


 一般街の中にある繁華街。

 レンガで作られた建物が並び、色んなお店が開いている。

 行き交う人々は多く、その分『異世界喫茶』では聞こえないような喧騒が耳に響く。


 そんな場所を歩いていると、隣にいるレイシアちゃんが尋ねてきた。


「ふっふっふ……まぁ、任せてよ。実は行く場所はもう決まってるんだ」


 懐から一枚の大きな紙をレイシアちゃんに見られないように取り出す。

 この前エイフィアに教えてもらった場所をまとめたものだ。


「といっても、レイシアちゃんの行きたい場所があればそこにしようとは思ってるけどね」


 だって、今日はレイシアちゃんの息抜きのために来ているから。


「ふふっ、私は特に行きたいところはありません。タクトさんと一緒なら、私はどこでも構いませんよ」

「……ねぇ、レイシアちゃんってやっぱり結構モテるよね」


 優しい気遣いに、天使のようなスマイル。

 これでオチない男がいたら教えてほしい。僕はオチてしまいそうです。


「そんなことは───と言いたいところですが、実際に婚約話が止まないのがその証拠なのでしょう」

「…………」

「さ、さめざめと泣かないでください……」


 だって羨ましいんだもの。


「で、ですが……その、タクトさんもかなり異性に好かれる人だと思います、よ」

「そうだったらどれだけよかったか……」

「実際に、私が───」

「ん?」


 レイシアちゃんが言いかけた口を閉じる。

 いきなり言葉を止めてどうしたのだろうか?


「い、いえっ! なんでもありません! さぁ、案内してくださいタクトさん!」


 誤魔化すかのように、レイシアちゃんは僕の手を引っ張って先を歩く。

 ……まぁ、追求してほしくないんなら追求しないでおこう。

 せっかくの楽しい一時……レイシアちゃんが楽しんでくれるなら、それでいいんだ。


 けど───


「ごめん、行きたいお店は反対方向」

「……すみません」



 ♦♦♦



「というわけで、このお店なんかどうでしょう!?」


 レイシアちゃんの腕を引いてやって来たのは、繁華街の一角にあるアクセサリーなどが並ぶお店。

 エイフィアによると、ここは女性向けのアクセサリーが多く、安くて種類も豊富だからかなり女の子の間では人気なお店なんだとか。


 実際に、お店の中には多くの女性客が入っていた。

 ちょっと場違い感はあるけど、異世界に来てから初めて自分以外のお店にやって来たので、かなり興奮している。


「いいですね。私、アクセサリーなど興味があります」

「ならよかった……」


 レイシアちゃんの好みがよく分からなかったから、このお店のチョイスでよかったか不安だったけど……レイシアちゃんの反応を見て安心したよ。


「このお店は私のために連れて来てくれたのですか? 見るからに女性向けのような気がしますが……」

「違う……って言ったら嘘だけどね。でも、僕も来てみたかったんだ」


 この店に限らず他のお店も。

 異世界のお店は正直どれも僕にとったら新鮮なものだからね。


「早速中に入ろうよ。女の子いっぱいだけど、僕は気にせず真っ直ぐに突き進む!」

「ふふっ、分かりました」


 レイシアちゃんの手を引いて、僕は中に入る。

 エイフィアの言う通り、ファンシーな店内の中には色んなアクセサリーが棚やテーブルに並んでいた。


 ブレスレットにペンダント、チョーカーやイヤリングまで。

 色鮮やかで少し視界がキラキラして見える。女性客が多いのも頷ける品揃えだ。


「へぇ〜、いっぱい置いてあるんだ……」


 日本で見たことのあるやつもあるけど、そうじゃないものもあったりした。

 たとえば、乾燥してカッチカチになった植物がイヤリングになってあるやつとか。日本にあるかどうかも分からないものだよ。


「ちなみに、レイシアちゃんはこのお店って来たことある?」

「いいえ、私は来たことがありません……なので、どれも物珍しく思ってしまいます」

「そっか……なら、楽しんでもらえそうだね」


 レイシアちゃんの反応を見て、思わず口元が緩んでしまう。


(それにしても、これが異世界のお店か……)


 並ぶ品々に興味が注がれてしまう。

 ───これが好奇心。

 見たことのないものが視界に入ると、手に取ってマジマジと見てしまう。


(うぉっ! 凄いな、これ!)


 目の前にあったペンダントの石が虹色に輝いている。

 これって、なんの石なんだろう? っていうより、虹色に輝くペンダントって───どことなく厨二心をくすぐってくるよ。

 ……ちょっとほしいかも。


「ふふっ、タクトさんの瞳が輝いています」

「そ、そんなに輝いてた……?」

「はい、大きなお子さんみたいです」


 子供だと言われて、少し恥ずかしくなった。

 レイシアちゃんの顔には呆れた様子もなく、微笑ましいものを見ているかのような柔らかい笑みが浮かんでいたから、「子供!」と思われている感じがして余計に恥ずかしくなった。


「レ、レイシアちゃんは何か気になるものとかないの?」


 赤くなった顔を誤魔化すように、僕達は店内を見て回る。


「そうですね……物珍しいなとは思うのですが、どれが私に似合うのかよく分からないんです」

「へぇ……レイシアちゃんだったら、なんでも似合いそうな気がするけどね」


 こんな可愛い子に似合わないもなんてないと思うんだけどなぁ。

 レイシアちゃんだったら、TVCMに抜擢されてSNSに「綺麗!」みたいなツイートを色んな人からされそうな気がする。


「そうでしょうか?」

「そうに決まってるよ───ほら、これなんか似合いそうだよ」


 僕は不意に目に止まったチョーカーを手に取った。

 ベルトの部分は黒い皮。真ん中にはエメラルド色の石が嵌め込まれている。


 これを見つけた時、これはレイシアちゃんの銀髪とよく似合う色の組み合わせだと思った。


「これは……確かに、可愛らしいデザインですね」

「でしょ? ねぇ、せっかくだから着けてみない?」


 僕はレイシアちゃんチョーカーを手渡す。

 レイシアちゃんは少し不安そうにしていたけど、ゆっくりとチョーカーを首に着けた。

 それを見て───


「うーん……」

「に、似合わなかったですかね……」

「いや、似合う以外に気の利いたセリフを考えてた」

「え、えーっと……つまり?」

「めちゃくちゃ似合ってるよ、レイシアちゃん。すっごく綺麗だ」


 僕がそう言うと、レイシアちゃんの頬が朱に染った。

 恥ずかしそうに「な、ならよかったです……」と呟いているが、口元がかなり緩んでいたので、とりあえず嬉しかったんだろうというのは分かった。


「……私、気に入りました」

「そう? 他にも色んなのがあるけど───」

「私、タクトさんに選んでもらったこのチョーカーが気に入りました」

「そ、そっか……」

「気に入ったんです」


 顔を近づけて、念入りにアピールするレイシアちゃん。


 ……まさかそんなに気に入ってもらえるとは思わなかった。

 他にも似合いそうなものはあるんだけど、本人が気に入っているのであれば問題はないだろう。


「じゃあ、レイシアちゃん。そのチョーカー、一回貸してくれないかな?」

「あ、私がお会計まで持っていきますよ?」

「違う違う。レイシアちゃんにプレゼントしたいんだよ、そのチョーカー」

「いえ、それは───」

「いいからいいから」


 僕はレイシアちゃんの首に手を回してチョーカーを外す。

 その際、レイシアちゃんの顔がまた真っ赤になった。


「女の子とお出かけしてるんだもの。せっかくなら、男らしい一面を見させてほしいな」


 まぁ、平民育ちの僕よりもレイシアちゃんの方がお金を持っていそうだけど。

 男の見栄は、それとはまったく別物だからね。


「ふふっ、そういうことでしたら」


 レイシアちゃんも僕の気持ちを汲んで引き下がってくれた。

 こういう、男の気持ちを尊重してくれるところも、レイシアちゃんの魅力だよね。


「タクトさんからのプレゼントですか……」


 チョーカーを持ってお会計に行こうとすると、唐突にレイシアちゃんがポツリと呟いた。

 そして───


「ありがとうございます……一生、大事にしますね」


 僕に向かって、満面の笑みを見せてくれた。

 それはお淑やかな雰囲気を出しているいつものレイシアちゃんとは違い、年相応の女の子が見せるような……可愛らしいもの。


「ッ!?」


 僕は思わず、レイシアちゃんから顔を逸らしてしまう。


(反則だよ、その顔……)


 熱くなった顔は、お会計するまで治まらなかった。

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