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レイシアちゃんとお出かけ①

 今日はいよいよ、レイシアちゃんと出かける休日。

 そわそわしながら待ちわびた今日だけど、なんだかんだ僕の気持ちとは裏腹に空は快晴。

 そわそわした気持ちが移って雨とかになるのも嫌なんだけど、こうも清々しいと何故か腹が立つ。


 ふざけんじゃねぇよお空さん。

 でも晴れてくれてありがとう、お空さん。


「……よしっ」


 僕は『異世界喫茶』の看板を裏向きにして『本日休業』という札を見せる。

 滅多に裏返したことがなかったからか、休業を知らせる面は色褪せることもなく綺麗だった。


 そして───


「お待たせしました、タクトさん」


 ───こちらも、凄く綺麗だった。


 トテトテと小走りで走ってくる少女。

 いつもはストレートなミスリルの髪は若干ウェーブがかかっており、服はふわふわとした優しい印象を見せる純白のワンピース。

 手には小さなバッグが握られ、ヒールの音が耳に響いてくる。


 いつもとは違う格好。

 小さなそよ風によって靡く髪を押さえながらやって来るレイシアちゃんの姿は、天国に旅立つ人間を迎えに来る天使を連想させた。


「ううん、そんなことないよ」

「あの……どうして顔を逸らすんですか?」


 レイシアちゃんが首を傾げる。

 あまりにも綺麗で、直視がキツかったから───なんて言えたらいいんだけど、そのセリフは情けない男がしそうなセリフっぽくて憚られた。


 だがしかし、このままでは今日のお出かけに支障が出る。

 僕は鋼のメンタルを駆使して、平静を装いながらレイシアちゃんに顔を向けた。


「そんなことないよ。ほら、顔を逸らさず話せるじゃないか」

「お顔が真っ赤ですけど……」


 どれだけ僕は可愛いレイシアちゃんにドキドキしているんだ……ッ!


「ま、まさか熱が───」


 レイシアちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくる。

 いけない、このままじゃ僕が風邪を引いたと思われてお出かけ自体がなくなってしまう。


 せっかくの気晴らしで外出許可をもらったんだから、それでおじゃんは嫌だ。

 ……クールな男でありたかったけど、ここは正直に話すしかないみたいだ。


「実は……今日のレイシアちゃんが可愛くて、顔を合わせられなかっただけなんだ」

「ふぇっ!?」

「今日の姿はとてもよく似合ってる。さっきからレイシアちゃんを見る度にドキドキしてしまいます!」

「〜〜〜ッ!?」

「正直、天使みたいなレイシアちゃんとお出かけするって考えると、頬が緩んで色んな男共にマウントをとって自慢してやりたいという衝動に駆られます!」

「あぅ……ッ!」


 思いのままを口にする。

 情けないセリフばかり並べてしまったけど……クールな僕を演じることはできなかったけども!

 これでレイシアちゃんの誤解は解けて風邪だとは思わないだろう。


「でも安心して。もう少ししたら慣れて顔を赤くすることなくいつも通りに───って、レイシアちゃん……どうして顔が真っ赤なの?」


 レイシアちゃんを見ると、何故か耳まで真っ赤にして口をパクパクさせて固まってしまっていた。


「ま、まさかレイシアちゃん、風邪でも───」

「引いてませんっ!!!」

「そ、そっか……」


 凄い勢いで否定するレイシアちゃん。

 だったらなんでここまで顔が真っ赤なんだろうか?


「(嬉しいんですけど、こうも正面から言われてしまえば照れてしまうのは当たり前だと思うんですっ! これも、全部───)」


 レイシアちゃんが何やら赤くなった頬を押さえてブツブツ呟き始めた。


「タクトさんが悪いんです!」


 そして怒られた。


「なんかごめんなさい」


 よく分からないけど、こうなった原因は僕にあるようだ。

 しかし、原因が分からない僕には全面謝罪して地面に頭を擦りつける程度しかできない。


 とりあえず、僕は土下座の準備しようと地面に膝をつける。


「何をしているんですか!?」

「いや、僕が悪いので土下座でしようかと」

「だ、大丈夫ですからっ! まったく怒っていませんから!」


 レイシアちゃんが僕の腕を掴んで立ち上がらせた。

 結局どっちなんだろう? という疑問が浮かんでいる中、レイシアちゃんはどこか疲れていそうな様子だった。


「はぁ……なんか疲れてしまいました」

「それにかんしては、ちょっと同意」

「……これも全部、タクトさんが悪いんです」


 やっぱり、土下座はやった方がいいんじゃないだろうか?


「ですが───」


 レイシアちゃんは小さく笑うと、僕の右手を唐突に握ってきた。


「これがタクトさんですもんね。私はもう慣れちゃいました」

「逆に、女性経験皆無な僕はいきなり手を握られることに慣れていないんだ。だから、とりあえず手を離してもらえると……」

「ダメです。怒ってはいませんが、正面から褒めちぎってくる鈍感さんに対する罰ですから」

「えー……」


 僕が困った顔を浮かべると、レイシアちゃんがイタズラめいた笑みを浮かべた。

 からかえたことが嬉しいのか、少し楽しそうにも見える。

 天使が小悪魔に……それでも、こういうレイシアちゃんも可愛いなと、ドキドキしてしまう。


(手を繋いでるから余計にドキドキするんだよなぁ……)


 ようやく落ち着きを取り戻していたはずの熱が一気に込み上げてくる。

 日本にいた時も、異世界に来てからも異性とこうして堂々と繋いだことがなかったから慣れていないし、ずっとレイシアちゃんを意識してしまう。


(でもまぁ、レイシアちゃんがいいなら……いっか)


 今日の目的はレイシアちゃん気晴らしだ。

 それが叶うのなら、手を繋ぐことぐらい問題はないだろう。


「そういえば、どちらで魔法をお見せすればいいでしょうか? 今から向かいますよね?」

「せっかくだから、色々とブラブラして回ろうよ。魔法は途中どこか広い場所を見つけてからってことで」

「い、いいんですかっ!?」

「うん、せっかく二人で出かけるんだしね」


 この日のために、エイフィアから女性が好みそうな王都のお店をピックアップしてもらった。

 仕入れの時しか外出をしたことがない僕は、王都のことを全然知らないからね。

 これぐらいしておかないと、しっかりエスコートすることすらできない。


「(ほ、本当にデートです……手も繋いでしまいましたし、お出かけもできる。私、凄くふわふわして、幸せです……!)」


 再び何やらブツブツと呟き始めたレイシアちゃん。

 二人でいるんだから、もう少し声のボリュームを上げてほしい。


「すー、はぁー……大丈夫です、お待たせしました」

「あ、うん……いいけど」


 そんな深呼吸して落ち着かせなきゃいけないほどの事態にいつ陥ったのか、僕は疑問である。

 でも───


「だったら、そろそろ行こうか! 時は金なりだからね!」

「ふふっ、そうですね」


 レイシアちゃんが楽しんでくれそうならそれでいい。


 僕達は『異世界喫茶』をあとにして、賑わいが聞こえてくる場所へと足を進めた。

 もちろん、さっき握った手はそのままだ。

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