九月の夜のこと
夏を知るには遅すぎる
秋を知るには早すぎる
過ぎてしまえばノスタルジアに
呑まれていつかに溶けていく
構成された季節の中に
私という存在はどこにも無くて
ただただ眺めていたはずの記憶など
実はどこにも在りはしない
昨日降った雨は温かったが
今日の私は雨音を忘れている
濡れた靴が乾いたら
いつかと同じの、冷たい雨になる
昨年降った雪は確かに冷たかったが
指先が凍えていたかどうかも知らない
手袋が温かったような気もするが
これも一つのノスタルジアか
どうせ、今日のことも、
帰路についた時間
まだ濡れているアスファルト
未だ鳴き続けている蝉の声のか細さ
夜露を辞書で引いて、
そして言葉の意味を、
初めて肌で実感している
歩いているだけの今夜のことも
どうせ、明日には溶けている
知っていてもいなくても
今日も全てが普遍化していく
昨日の全てがそうなるように
ノスタルジアに溶ける前の
私は今しか生きていない
さようなら、今日の私よ
どうせ、明日になれば元通りだよ