表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/121

114 最終決戦……?(1)

いつもお読み下さってありがとうございます。

今日は一話が長くなってしまった為、百十四話と百十五話に分割して投稿しております。

よろしくお願いいたします。


※こちらは前編、百十四話になります。

 私はかなり長い時間落下した。何ならお昼寝出来るんじゃないかと思うくらいの長い時間だ。

 そして辿り着いたのは、真っ赤な絨毯の上……ではなく、赤いドレスに身を包む女性の上。いや、正確にはドロテア様の背中にピンポイントで着地したようである。


「嘘、さ、殺人?私がやったの!?」


 私はドロテア様の背中の上でバランスを取りながら、自分の下でドロテア様がピクリとも動かない様子に青ざめる。


「いてて、というか先ずはそこから退くべきだと思うけど」


 私の背後で的確な言葉を吐き出すのは間違いない、ユーゴ様だ。

 私は慌てて振り返り、そして驚きと歓喜の声をあげる。


「ユーゴ様が大きい!!」


 等身大に戻ったユーゴ様は床に半身を起こし、不機嫌そうな顔でこめかみに指先を当てている。

 私は一分の一スケールに戻ったユーゴ様に歓喜し迷わず飛びついた。そして抱きつき甲斐のある広い胸に顔を埋め、それからユーゴ様の香りをバキュームした。


「落ち着け、変態。というか、これは一体……」


 ユーゴ様が絶句したので私は床に倒れ込むユーゴ様の胸元から渋々顔を上げる。

 そして自分の視界に入ってきた光景に息をのんだ。


「一体何が起こったの?」


 床にうつ伏せになって転がるのは、白い顔をしたドロテア様。そこから血糊が続いていて、ベッドに半身を乗せうつ伏せになるのはやせ細ったフレデリック殿下。そしてベッドに横たわるのは……。

 ふむ、ここからでは見えない。


「ちょっとどいてくれるかな」

「あ、はい」


 ユーゴ様に離れろと指示され私は渋々ユーゴ様の上から自分の身を剥がした。それからユーゴ様は起き上がりベッドに近づく。そしてベッドに寝かされている様子の人物を覗き込み、顔を顰めると小声で呟いた。


「レナータ妃殿下だ。しかももう亡くなっている」


 その声に導かれるように私はおそるおそるユーゴ様の隣に並ぶ。そしてレナータ妃殿下の胸に短剣がしっかりと刺さっているのを確認した。


「この状況だと、ドロテアがレナータ妃殿下を刺し、それからフレデリック殿下がドロテアを刺した。そして剣を引き抜き、ベッドを支えにその剣で自らの腹を貫いた。そんな感じだな」

「一体何があったんでしょうか」

「これは推測だけど、ラフレイシアの瘴気にやられたのかも知れない」


 ユーゴ様の言葉に確かにそれはあり得ると私はうなずいた。そして私はこの状況から導き出される自分の推理を口にする。


「もしくは痴情のもつれの線も……」

「ふむ。その可能性もあるか。状況からすると、レナータ妃殿下は既に毒でも盛られて弱っていたのかも知れない。ほら、抵抗した跡があまりないから」


 ユーゴ様の言葉に私はおそるおそるレナータ妃殿下の遺体に視線を向ける。そこには確かにまるで眠っているように静かにベッドに横たわるレナータ妃殿下の姿があった。


「そういえば、ラフレイシアに飲み込まれた世界でフレデリック陛下はレナータ王妃殿下を心配しているような素振りでしたよね?」

「研究室でか。確かにそうだな。僕の知る限り夫婦仲は良かったと記憶している。しかし残念ながら死人に口なし。真相を解明するには時間がかかりそうだ」


 ユーゴ様は周囲を確認しながら表情を曇らせた。


「どうしてみんな、こんなに呆気ない最後なんだろう」


 私はレナータ妃殿下から視線を逸し、それから今まで悩んだ事を思い出し、何だか拍子抜けした気分で本心が口から漏れ出した。


 悪い事をした。その迷惑を被った人がいる。だったらちゃんとその罪を認め、そして謝罪すべきだ。そして自らの行いを反省し後悔した上で、その気持ちを抱え苦しみながら生きて行くべきだと私は強く思った。

 特にドロテア様は稀代の悪女。でも彼女なりの言い分があったかも知れないし、それを聞いて私はでもそれは違うとしっかりと反論し、間違った考えを正す機会を与えてもらいたかった。


 何となく悔しくて私は唇を噛む。


「確かに本人に文句の一つも言えない状況ってのは微妙だな。それに彼らはここで人生を終えた。この先に待ち構える混乱の責任も取らずにだ。僕らは明日からも生きて行かなきゃならないのに」

「今後か……なかなか大変そうですよね」


 私はユーゴ様の言葉を受け、今後起こり得る混乱を思いつく限り想像する。


 今回の件を受け、アルフレッド殿下が国王になるのは決定だろう。となると帝国と同盟国となる未来はそう遠くない。そして今まで鎖国状態に近い感じだったアルカディア大陸には様々な国の人間が押し寄せて来るに違いない。そして魔法と機械が共存し世界は更なる発展を遂げるだろう。それはちょっと楽しみだし、シャワー。あれは絶対に輸入すべきだと私は思った。


 今のところ帝国と同盟を組んだ未来を想像すると、わりと明るい未来が想像出来る。けれど、実際は他の大陸が身近になったら、価値観の違いなどで衝突し、きっとまた新たな問題が起きるのだろう。


「それに魔法の問題もあるし……私はやっぱこれからもラフレイシア担当として生きていくのかな」


 私とは縁切り出来ない問題がまさにそれだ。できれば今後、平和な世の中が訪れた場合、私はユーゴ様を四六時中、思う存分観察したい。けれど私が背負う運命を思うと、それは到底無理そうな話だ。その事に気付き私は暗い気持ちに包まれる。


「帝国領土に魔法を持ち込むのは、ラフレイシアを増殖すればいいなんて簡単な話ではないと思う。だから君一人にこの世界の魔力に関する全てを追わせるつもりは誰にもないさ。それに僕が魔石通信機を通し世界中と通信出来るように、魔石を介する事で魔法使いの代替えは出来なくもない。今後はそういった部分の研究が進むと思う」


 ユーゴ様の力強い言葉に私は少しだけ気が楽になった。

 魔力を世界中の財産として分け与えること。その使命は私だけの問題ではないという言葉が今はとても嬉しかったからである。


「そう言えば、アルカディアナ大陸で魔物が凶暴化してるっていうのは」


 私はフムニアで知らされた話をふと思い出し、ユーゴ様に尋ねる。


「巨大化したラフレイシアに同調したのかもな」

「じゃ、魔力が枯渇しそうだって噂は?」

「それも巨大なラフレイシアに魔力を奪われていたんじゃないか?」

「なるほど」


 蓋を開けてみれば何も難しい事はなかった。原因は目に見えてそこにあったのだ。


「私があちこち飛び回った意味ってあるんですかね?」


 何となく肩透かしを食らったような気分になった私は思わず愚痴をこぼす。


「あるよ。というか、君がこの大陸を救った。僕はそう思う」

「えー、私はユーゴ様と仲良く旅をした記憶しかないですけど」


 帝国で海沿いの公園をデートしたこと。それからフムニアで何もなかったけど一緒のベッドに横になれた事。それからラクダにも乗ったし、ハレムの庭でも仲良くきのこ狩りについて計画した。そう言えば、ユーゴ様の意識が混沌としてたとは言え、森の中でサバイバル生活も経験した。


「意外に楽しかったかも」


 悲しい別れは沢山あった。未だ悶々とした気持ちも抱かなくはない。でも私はユーゴ様と長い時間を一緒に過ごせ、案外幸せだったと振り返る。


 そしてふと、私はポケットに入れたままの存在を思い出す。

 私はポケットにガサゴソと手を突っ込み、ずっとユーゴ様に手渡したくて、でもなかなかその機会に恵まれなかった物を取り出した。


「あのう、今更なんですけど。ユーゴ様もしよかったら、その、これを」


 私は手のひらに乗せたブレスレットをユーゴ様に見せた。

 例の「戦地へ送る魔法使いの彼に贈りたいアイテムベストワン、約束のブレスレッド」という明らかに商会タイアップ企画で眉唾もののアレだ。とは言え、心を込めた事は間違いない。


 私が作成したのは、シルバーの刺繍糸で紫色に光る魔石を編み込んだシンプルなブレスレット。私の魔力を込め紫色に変色し輝くダイアスポアが大陸を越え今もなお、美しい輝きを放っている。


「これは何?」

「ハレムで暇を持て余した時に作成したブレスレットです。何でもユーゴ様によると「心が籠もっていれば何でもいいよ。でも気になる子の色を僕は身に付けたいかな」とのことだったので、心を込めて編みました」


 私は雑誌の見開きに掲載されていたユーゴ様の言葉を引用する。


「そんな事を口にした覚えなど皆目ないのだが……」


 私の言葉を受けたユーゴ様は眉間に深い皺を刻み込んだ。

 あぁ、あの皺に挟まれたいなどと私は思いながら、渋るユーゴ様の腕を私は容赦なく掴む。そしてドキリとした。何故ならユーゴ様は全体的に細い人なので、腕もか細いイメージがあったのに、私が今掴んだユーゴ様の手首は骨骨しくゴツゴツしていて、ちゃんと男の人の手首をしていたからである。


「ぶっちゃけ、束縛系アイテムです」


 私は恥ずかしさを隠すように冗談を口にする。


「呪いか……」

「嘘です」

「そうか。わりと本気で疑ってしまった。すまない」

「私の日頃の行いの成果ですね」

「喜ぶところなのか?」


 私はユーゴ様の腕にしっかりとブレスレットを固結びで止めた。


「この石はフムニアのハレムで掘り起こしたダイアスポアという石です。魔力保持に優れているようで、未だ私がフムニアで込めた魔力が輝きを放っています」

「待て、今何と?」

「フムニアでユーゴ様への愛をたっぷり込めた魔力」

「君が魔力を込め、かなりの期間経過している事になるのか。それにしては魔力の劣化を感じないのは一体……」

「私の愛のせいですかね?というか、所々下手だからあんまりジッとみないで下さい」


 ユーゴ様は私が腕に結んだブレスレットをじっくり眺めている。その姿を目の当たりにし、私は急に恥ずかしくなった。


「いや、この石はアルカディアナ大陸で採掘され、魔石とされる石よりも魔力が安定しているようだし、何より時間の経過と共に劣化しないことが素晴らしいと思って。もしかしてこれを利用すれば、効率よく魔道具を動かせるようになるかも知れない。それにこの石はサイズの割に魔力が……」


 ユーゴ様は早口で私にフムニアで拾った石の素晴らしさを口にした。

 私は自分が編んだブレスレット本体よりも、拾った石に目を輝かせるユーゴ様に少しだけムッとした気持ちを抱いた。乙女心が傷ついた瞬間だ。


「ダイアスポアの石言葉は任務遂行。今の私達の事ですね!!」


 やけっぱちな気分でユーゴ様の独り言を邪魔するように私は大きな声を出した。


「あ、ええと。ありがとう。嬉しいし、大事にする」


 ユーゴ様は取ってつけたように慌てて私へのお礼を口にした。


「それと、さっき君は僕と旅をして楽しかったって言ってたけど」


 ユーゴ様は私が手首に強制的に巻いたブレスレッドをいじりながら一旦言葉を切った。

 そして何かを思案するような顔になり、それからはにかんだ笑みを私に向けた。実に乙女殺しの尊い笑みである。因みに私は現在瞬殺されている。やだ好き、大好き。


「僕は君とこうして普通に肩を並べられるようになったのが、この旅で得た収穫かな」

「え?」

「最初は顔を見ただけで逃げられて、推しとか、尊いとか、そういうの気持ち悪いなって思わなくもなかった。でも今は君がちゃんと僕を見てくれて、隣にも並んでくれている。それが素直に嬉しい」


 ユーゴ様はそう言って再度照れ笑いを私に向けた。やばい、今この瞬間のユーゴ様を冷凍したい。私の中の大好きな気持ちが爆発寸前だ。


「ユーゴ様、私はユーゴ様が好き。推しだし、尊いけど、だけどユーゴ様を前よりもっと好きです」

「うん。僕も君が好きだし、色々あったけど今はこの出会いに感謝してる」


 ユーゴ様は隣に並ぶ私の前髪を幾分ささくれた、だけど男らしくて変らず美しいその指先で掻き分けた。私は頬に自然と熱が集まり、ユーゴ様の行為についつい期待が高まる。そしてこれは来るかも知れないと私は緊張しつつ目を閉じる。


 ついに、ついにこの時が来たのだ。

 さよならユニコーン。君の事は忘れない。


「あのさ、悪いけど今は無理」

「は?」


 私は閉じて三秒。呆気なく目を開ける。


「ユーゴ様、出し惜しみしすぎ。今のタイミングじゃなくて、どのタイミングでキスってするんですか?」


 私は抗議の意味を込め、頬を膨らませる。


「いいか?見てみろ。現状周囲に遺体が転がっているという悲惨な現場に僕たちは立っている。そもそもそういう気分になる方がおかしいだろう」

「そ、それは、そうですけど」

「不謹慎だ」

「ユーゴ様こそ、私の前髪にさりげなく触れて、いやらしい」

「は?いやらしくはない。邪魔そうだったからだ」

「いいえ、いやらしいです」


 私は薄目でユーゴ様を睨む。


「おい、そろそろ入っていいか?」


 続き部屋になったドアがコンコンと叩かれ、アルフレッド殿下の声が聞こえた。

 その音で私とユーゴ様は同時に肩をピクリとさせる。


「アル!!い、いつからそこに!?」


 私から適度な距離を保ちながらユーゴ様がドアに向かって焦った声をあげた。


「ユーゴ様好きってお前の妻がのろけた所から」

「嘘だろ……」


 ユーゴ様は顔に手を当て、それから天を仰いだ。私はそんなユーゴ様にやっぱり素敵だと熱い視線を送る事に集中したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ