デスティニー
幼稚園で仲良しだったエッちゃんと、小学校初めての席順で隣になった。
ホラ、やっぱり、縁がある。
でも、幼いアタシは、そんなことも直ぐに忘れた。
マリコと仲良くなったのは、そんな頃だった。
家が近かったこともあって、毎日のように遊んだ。
美人で頭も良く、背が高かったアタシの更に後ろにいて、幼心に憧れた。
マリコになりたい。
両親も祖父母も教師の家庭に育ったマリコは、正義感も強くかっこいい女の子。
憧れが、いつしか、嫉妬に変わった。
そんな感情が、マリコにも伝わたんだろう。
次第に疎遠になり、中学生になった。
運動音痴のアタシは、文化部に入るつもりでいた。
しかし、友人に誘われ、興味のない剣道部に入部した。
そこにマリコは居た。
しばらく顔も合わせてなかったけど、懐かしくて微笑んだアタシに、マリコは目を逸らした。
そして、最終学年になると、マリコは主将に。
アタシは、ダラダラと補欠要員。
道場の真ん中で、マリコが言ってたことがあった。
やる気が無いなら、退部しろよ!!
ヤンチャな友人が出来て、それが楽だったアタシは、部活をサボり、吸えないタバコをふかすようになっていた。
全国大会に出場する強豪チームで、武道館に行った時には補欠組はレギュラー組のお世話。
試合、頑張って!と言ったアタシを、鬼の形相で睨んだマリコ。
しかし、その数分後に、頭を撃ち抜かれた様な衝撃を受ける。
五対五の総当たり戦で、二勝二敗。
全ては、大将のマリコに託された。
ギェーッ!!マリコの気合。
しかし、それから直ぐに、試合会場がザワザワし始めた。
咄嗟には分からなかったが、マリコの姿を見て、それは分かった。
真っ白な剣道着が、真っ赤に染まっていた。
月のものが来たのだ。
ギェーッ!!
会場を貫くようなマリコの気合い。
周りの喧騒をよそに、研ぎ澄まされていくマリコの精神。
怖かった。怖かったけど、目を背けずにはいられなかった。
ただ、マリコが晒し者になっている気がして、早く試合が終わればイイと願った。
その試合が勝ったか負けたかは、正直覚えていない。
アタシは部活をやめた。
マリコの事は忘れようと心がけた。
そして、高校受験。
県一番の高校に、何とか引っかかった。
そして、そこにマリコは居た。
呪縛の様に。
しかし、3年間、マリコと顔を合わす事は一度もなく、アタシはマリコを忘れた。
卒業し東京に出たアタシは、仕事を頑張り、田舎者とレッテルを張られない様、必死にだった。
仕事中に聴いていたラジオに出演機会があり、ラジオネームと言われ、咄嗟にマリコと名乗った。
まだ、忘れていないんだと自分を笑った。
マリコの綺麗な顔と真っ直ぐな精神を、アタシは憎んだ。
アタシはブスで、マリコの足元にも及ばない。
それから程なく出会った人と結婚し、転勤族の彼に付いて田舎の街に来た。
退屈で毎日つまらない日々の繰り返しだったが、それなりに幸せを感じてた。
ふと、マリコを思うこともあった。
どうしているのか?
そんなある日、母から電話があった。
山田君家、建て替えるんだって。
山田君?
ほらあ、幼稚園も小学校も一緒だったでしょ?山田エッちゃん。
エッちゃん家は開業医で、地元では頼りにされてる病院だった。
小さな街だから、そんな事が大騒ぎになる。
マリコちゃんのお母さんにばったり会ったのよ。
ほら、3人娘さん居るし、開業医でもなかなか大変なんだって。
でも、病院大きくするって凄いね。
エッ?
マリコちゃん、3人を立派に育て上げて、大変だったらし………
母の言葉は、もう聞こえなかった。
アタシは、惨敗だ。
マリコ。
やっぱりアナタになりたかった。