44日目
真っ暗な闇の中で、僕は意識がほとんど薄れていた。
まるで、お母さんのお腹の中にいるみたいで心地いい。もっと言うと、電車に揺られて眠っているような感覚だった。
「ここは……?」
僕は薄れる意識の中、まぶたをこすり周りを見渡した。けれど、辺りは真っ黒な世界へと塗りつぶされている。
「どうし、よう……。どう、すれば……」
僕の心にあせりが生じる。テナーも、アリアもいない。
「一人ぼっちは、嫌だ……。一人は、嫌だ……」
思わず僕の頬に涙がつたう。以前、テナーがいなくなったときと同じように、僕は一人で縮こまっている。
『うっ……ぐすっ……』
突然、どこからか小さい男の子がすすり泣く声が聞こえた。あわてて辺りを見渡すと、そこには淡い光に包まれた幼い僕がいた。
『ぐすっ……うぅ……』
「だ、大丈夫……?」
僕は思わず過去の僕に手を伸ばしてしまった。いや、手を伸ばさなきゃいけない気がしたんだ。
『だいじょぶ……。だから、心配しないで……』
ラフなパーカーとズボン。スニーカーをはいている過去の僕は、包帯だらけの腕で乱暴にまぶたをこすった。
「そ、そんなにしたら、目が……腫れちゃ、う……!」
『そんなの、誰も気にしない……。父さんも、母さんも、エレジーおばさんも』
『アリアも、テナーも、ライムも……!』
『今の僕も!』
頬を強く叩かれた。僕は一瞬、何が起きたのか分からなかった。
「ねぇ、今の僕……。今の僕は本当に、過去の自分を知りたいの……?」
叩かれたショックと突然の問いに戸惑ったが、僕は何とか答える。
「う、うん……。知りたい……」
『本当? 本当に知りたいの?』
過去の僕は好奇心いっぱいと言うより、よどんだ瞳で僕に聞いてきた。
僕はうなずくと、過去の僕は念を入れてもう一度問う。
『今の僕が僕じゃ無くなっても?』
「……うん。僕は、僕が何なのか知りたい」
僕の表情が真剣だったらしく、過去の僕は目を見開いたがすぐに目をそらして了承した
『……分かった』
『じゃあ、一時的に過去へタイムリープしてあげる。戻ってきても、今の僕は自我を保っていられるかな……?』
そう言って、過去の僕は現在の僕を過去に戻した。
僕は少しの間だけ、時間の狭間で空中浮遊を楽しんでいた。




