4日目
大きな着信音に少し怯えながら、僕はスマホを手に取った。
思わず手が震え、喉がつっかえる。
そして無意識に僕の指は、着信拒否のボタンをスライドしていた。
「……ッ」
体が震える。目を思いきりつぶって、僕はしゃがみこんだ。
体の震えと冷や汗が僕の思考を混乱させた。
頭のなかでは、まだあの着信音が鳴り響いている。
「嫌だ……。殺されたくない……。僕は何もしていない。のに、あいつらが……やって来るんだ」
「父さん……母さん……」
自分でも何を言っているのか全く分からなかった。
所詮はただの、僕のうわごとにすぎない。
『キミ、何を言っているのか全然わかんなーい。お姉さんにも、分かりやすいように言ってほしいなぁ?』
突如として、僕の部屋全体からスピーカーを通じて、不快な高い声が響いた。
『ワタシはキミのことよーく知ってる。けど、キミはワタシのことも皆のことも……』
『ぜーんぶ、忘れちゃったみたい!』
うるさい、黙れ。その金切り声が嫌いなんだ。
口で言おうとしても、何も声は出なかった。
僕は臆病で、からっぽの頭を持つ人間だ。
深呼吸をして立ち上がる。
足元がふらついて、僕は尻餅をついた。
『あははっ! まるで生まれたての羊のようね! こっけいで哀れだわ』
僕は金切り声の女がどこにいないか探してみる。
すると、天井のすみに監視カメラがあることに気づいた。
『キミがどんな反応をするか、これからが楽しみね! じゃあ、アディオース!』
金切り声の女は通信をぶつりと切り、やがて部屋は無音に包まれた。
「あの女……ウザい。けど、部屋から出て……鏡……。あと、僕が僕だと証明できるもの……探す」
僕は灰色と黒のリュックに、裁縫セットやカッターナイフ。
筆箱や包帯を押し込んで、日記に目を向ける。
「監視カメラに、あの金切り声の女……。僕の家じゃない……」
僕は日記に文字を書きなぐり、白いページを黒く染めた。