39日目
僕は黒い海で出会った謎の少年、ライムに体を乗っ取られている。
そして、僕の声は乗っ取った本人であるライムしか届いていないらしく、時おり僕の方に冷たい視線を送っていた。
僕はどうすれば、自分の体を取り戻すことができるんだろう。そう思った時だった。
「ねぇ、ライムにぃさま。何して遊ぶ? お人形遊び? ダンス? それとも……」
アリアがライムを押し倒そうとした瞬間、
「僕にそのような不純な言葉を使うな。せっかく乗っ取った、にいさんの体が汚れてしまうだろ」
ライムがアリアの頬を叩いた。音からでもかなり痛そうだった。しかも僕の体を使って。
「にぃ、さま……?」
涙をこぼすアリアに、ライムは僕の体で彼女を突き放した。
「二度とそのような真似はするな。そして……僕に触れるな」
「ライムにぃさま……」
ライムはアリアから離れ、血まみれで倒れているテナーに近づいた。
「テナーに、触るな!」
僕の気配を感じ取ったライムは、僕に向けて不適な笑みを浮かべてみせる。
「大丈夫だよ、にいさん。テナーは僕にとっても大事な存在だ。ぞんざいな扱いはしないよ」
「……ッ」
ライムはテナーのそばに行くと、何かぶつぶつと呪文なようなものを唱えていく。
すると、テナーの血だらけだった体がどんどん引いていき、呼吸も正常に戻った。もしかして、テナーに回復の呪術を施してくれてるのか……?
「アルくん……?」
「ううん、違うよテナー。もう一人の僕だ」
それを聞いたテナーは目を見開き、しばらくして涙を流してしまう。
「テナー、大丈夫?」
ライムは僕の体で上目遣いでテナーを心配するが、テナーには全く効いていなかった。
「まだ生きていたのですね。この死に損ないが」




