26日目
「は……?」
意味が分からない。僕は二重人格なのか? それとも、僕が……。
訳が分からなくなる。僕はいったい何者なんだ? 僕は誰で、お前は誰なんだ?
僕は背後の気配を感じ取って後ろを振り向くと、そこには誰もいなかった。
「どういう、こと……?」
謎の気配がなくなった瞬間、体の力がぷつりと切れて僕はそのまま倒れこんだ。
「がっ……!?」
「アルくん!?」
驚くほど動けない。何か別の力が働いて、金縛りみたいになっている。これも呪術の一種なのか?
「く、そっ……!」
「大丈夫ですよ、アルくん! 落ち着いて……!」
僕が抵抗するほどに、僕の口から血が吐き出す。
何なんだ、これは。僕が何をしたって言うんだ!
「これで治ってくれれば……」
すると、テナーが何やら呪文を唱えて金縛りを解いてくれた。
「が、はっ……。あ……」
「テナー……?」
僕は目を開けると、自分の体全体が汗でびっしょりだった。
「よかった……。アルくん、もうダメかと思ってましたぁぁ!」
そう言ってテナーは号泣し、僕に近づく。こいつ……瀕死になった僕を何だと思ってるんだ……。
テナーは僕を治療しつつ、タオルで汗や血を拭いてくれた。でも、僕には彼に聞きたいことがある。
「テナー……。話、あるんだけど……」
「はい。何でしょう?」
「テナーは、全部……知ってるんだよね? さっきのことも……」
「さて……。何のことだか」
「ふざけるな!」
しらばっくれるテナーに、僕は怒りを爆発させる。誰も、何も教えてくれない。そんなのはあんまりだ。
「何で、皆……隠すんだよ! 僕の身にもなれよ!」
「アルくん……」
「ふざけるな……。ふざけるなっ、ふざけるな! そうやって、皆が僕のこと、を仲間外れにするんだ!
「何で僕が、こんな目に合わないといけないんだよ! 常識って物が、あるだろ!」
「ですがアルくん……」
「うるさい、黙れ! 僕の気持ちも何も知らないくせに、知ったような口をするな!」
怒鳴り散らす僕に、テナーは驚きを隠せないでいる。
僕はこの時、気づいていなかった。自分がテナーを傷つけていることに。
「……申し訳ございません、アルくん。主の気持ちが分からない私は、従者失格です」
「どうか、お許しを……」
テナーの顔を見ると、うっすらと泣いていることに気がついた。
「テナー……ごめん、なさい。ごめんなさい……」
「いえ、私こそ謝るべきです……」
僕たちはその日、泣いて謝って疲れて眠った。
監視カメラで、あの女が笑いながら見物しているのを知らずに。




