25日目
まただ。あの、悪魔のような人間……。
いったい誰なんだ? 全くもって検討がつかない。
「テナー……。本当に、その人のこと……覚えてないの?」
「はい……。お役に立てずすみません」
テナーは心から申し訳なさそうに言い、深々と頭を下げた。
到底、嘘をついているようには思えない。僕はこの事実を受けとめ、話を続ける。
「大丈夫、だよ。もしかしたら、その人が……呪術で記憶を操っている、のかもしれないし……」
色んな考えが混ざって僕の頭は混乱しそうになったが、パニックにならないために僕は一呼吸ついた。
「あと……。個人的に、すごく……気になってたんだけど……」
「ここは、僕の家なの……?」
テナーはしばらくして、重々しく口を開いた。
「いいえ、違います。ここはアルくんの家ではありません。ですが……」
「『あなた』の家でもあるのです。アルくん」
テナーの言ったことがあまり理解できない。どういうことだ? さっぱり分からない。
何か、僕であって僕じゃない存在がいるのか……? 分からない、分からない。
心臓の鼓動が早くなり、頭が痛くなる。僕はどうにかなりそうだった。
「テナー……。ごめん、ちょっと休憩……」
その時だった。
何かがノイズとともに、フラッシュバックする。
『ねぇ、にいさん』
何かが頭に響くように問いかけてくる。いったい誰だ?
『やっぱり、僕のこと。思い出してくれないんだね、覚えてくれないんだね』
「うるさい……。黙れ……!」
その耳障りな声が、まとわりつくような声が。
嫌い。嫌いだ。嫌だ。嫌なんだ。
『にいさんはそんなに僕のことが嫌いなんだ。悲しいなぁ……』
「うるさい……! お前は僕の何なんだ! 教えろよ!」
僕は泣きそうな声で叫ぶ。すると、僕の背後からはっきりと声が聞こえた。
「教えるわけないじゃん。『人殺し』の兄にさ」
僕が人殺し……? 確かに、僕はアリアを殺した。でも……。
「お前は、誰だ……?」
「あはっ。面白いこと言うね、にいさん。じゃあ……一つだけ教えてあげる」
「にいさんのもう一人の『僕』……。それが僕さ」




