20日目
「……そのマスターって、呼び方。嫌だ……」
「あぁ、すみません。昔の癖でして」
僕が拒否するのにも関わらず、テナーは嫌な顔一つせずにリビングのドアを開けた。
話しているうちに、いつの間にか着いていたようだ。
リビングに入ると、瓶が割れてタバスコが割れていたり、たくさんの綿があふれでたクッションなどが散乱していた。
これらは全部、僕とテナーのせいだ。簡潔に言うと、僕がテナーに殺されかけた結果、こうなった。
テナーもこの件に関しては謝罪していて、今では和解している……と思う。
「……お部屋の掃除、しといておきますね」
「ダメだよ……。ちゃんと、寝といておかなきゃ……」
「大丈夫です。すぐに終わりますから」
そう言って、テナーはぞうきんやホウキを持ち、掃除に取りかかった。
僕はリュックから日記と筆箱を取り出して、執筆に取りかかる。
しばらくお互いのすべきことをしつつ、僕は口を開いた。
「ねぇ、テナーって……。何者、なの……?」
「アルくんの友人で親友……。では、もう通じませんよね」
「うん……。うすうす勘づいてた、けど……」
テナーはため息をついて、何か吹っ切れたように明るく話した。
「はい、アルくん。私はあなたの従者です」
「従、者……?」
「えぇ。確かに私はアルくんの親友ですが、それはアルくんから言い始めたんですよ?」
「僕が……?」
「はい。『従者なんて堅苦しいものは嫌だ。友達から始めたい』、とおっしゃって……」
「何で、結婚する前提みたいな言い方……?」
本当に僕がそう言ったのだろうか。テナーの妄想かと思ったが、今は彼を信じるしかない。
「いえいえ、本当ですよ。それはもうびっくりしましたけどね」
テナーの笑い声と、僕の苦笑いでリビングが満ちていく。
僕の日記は、ひとときの休息でたくさんの話題が見つかった。




