14日目
真っ暗な闇。僕の視界は、ただただ黒で塗りつぶされていた。
僕は今、黒い海の中で沈んでいる。なぜか息はできて、苦しくはなかった。
ここがどこなのかも分からない。けど、どこか安心感があった。
この黒い海は、僕にとっては心地いい。このまま眠ってしまおうか。
もう、僕が記憶喪失なんてどうでもいい。ツギハギ男のことも、アリアのことも、ストーカー女も。
そして、さっきの男の子のことも。
もう全てを投げ出して、現実から逃げてしまおう。
「あぁ……今なら。とっても、良い夢が見られる……気が、する……」
僕は眠りにつこうと目をつぶる。けれど、現実はそうもいかない。
何だか嫌な予感がして、僕は現実世界へと目が覚めた。
両手足を赤いリボンで拘束されて、僕の周りには魔法陣が描かれている。
「どういう、こと……?」
すると難しそうな本を読んでいたアリアが、僕のことに気がついた。
「あぁ、にぃさま。お目覚めになったのね」
そう言うと、アリアは僕の額に軽くキスをする。
「え……!?」
「いやぁねぇ、にぃさま。恋人なら当たり前よ」
「え、いや……そういう、ことじゃなくて」
僕がうろたえていると、アリアは血相を変えて驚きと怒りの声をあげた。
「ちょっと、そういうことってどういうこと!? まさかにぃさま……。私とは他の女がいるってわけ!?」
「ち、違う、よ……! 僕の恋人じゃないのに、どうして……。僕に何をしようって、言うんだよ!」
僕がこんなに大きな声を出すのは久しぶりだった。僕が怒りを表すのはほとんどない。
「……っ! 酷いわにぃさま……。本当に……」
すると、アリアはそっぽを向いて泣き出した。まだ十二の子供だ。少し言い過ぎたかもしれない。
「ご、ごめん……アリア……」
僕は謝罪をする。けど、しばらくたっても反応がない。
「アリア……?」
「うそ泣きに決まってるじゃない。にぃさま」
アリアは気味の悪い笑顔を浮かべて、僕の脳裏に焼き付かせた。
そしてアリアは何やら呪文を唱えて、僕の拘束をどんどんキツくする。
「さぁ、呪術師としての本業を見せてあげる!」
僕の日記は、呪術によって少しも届かなかった。




