12日目
「アリアが僕の、婚約、者なんて……。そんな、まさか……」
僕がうなだれていると、アリアは僕の目の前に白い紙を突き出す。
「そのまさかよ。にぃさま」
僕は目を凝らしてその紙を見てみる。なんと、その紙は婚約届けの紙だった。
婚約届けのインクはやけに赤く、鉄の臭いがした。
「本当、だ……。でも、年齢は……」
「えぇ、わたしは十二歳。にぃさまは十四歳。これじゃあ、結婚はできない」
「けれどね、にぃさま。血で書いた文字は絶対なのよ」
アリアは一呼吸置くと、よく分からない呪文を詠唱する。
「ぐっ……!?」
僕は赤いリボンで壁にくくりつけられ、拘束された。両手は使えない。足も縛られている。
「わたしは表向きには『人形師』……。けれど、本当は『呪術師』なのよ、にぃさま」
「じゅじゅつ……?」
僕が疑問を抱いていると、なんと大量のぬいぐるみたちが動き始めた。
ぬいぐるみたちは文字通り目を光らせ、僕に近づいてくる。
よくない危険な雰囲気が漂っていると、僕でも分かるくらいだ。
「さぁ、わたしのぬいぐるみたち。にぃさまの目を覚まさせるのよ!」
「くそっ……!」
僕がもがいているうちにも、ぬいぐるみはどんどん迫ってくる。
目が笑っていないぬいぐるみが。刃物を持ったぬいぐるみや、乱暴に縫い合わされたぬいぐるみまで。
僕は死を悟って、目をつぶる。そして、深い闇の中へ沈んでいった。
僕の日記には、『わたしはにぃさまのお嫁様になる』と赤い文字で書かれていた。




