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帰宅同好会!!  作者: 真壁 御次郎
第一章 帰宅同好会!!
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二  やりたいこと。やるべきこと。

第一章 帰宅同好会!!



二 やりたい事、やるべき事




「え、いや勘違いってなんですか」


 なんで後輩に敬語なのかは置いといて、俺は今、命の危機に直面している。

 目の前に夢の中の殺人犯がいるのだ。流石にまずいと身構える。



「私があの時、あの先輩に……その……告白? したんじゃないかとか!!」



「え、違うの」


 予想外の勘違いに、身構えていた体の力が抜けて、少しほっとする。



「違う違う! 全然違う! 私はあの人に、うちの部に入って欲しかったの!」



「は?」



 教室で話すのもあれだからと、人気のない階段に移動し話をしているのだが、たまにここを通る生徒にチラチラ見られてちょっと恥ずかしい。



「私は告白した訳じゃないの。あの人のこと好きとかじゃないの!」



「は、はぁ。でもなんで、あの人サッカー部のキャプテンだろ? 転部なんてしてもらえる分けねえだろ」



「何言ってんのよ。 そう言う偉大な人ほど、私の部にふさわしいの!」



 こいつやばい。アホだ。



「じゃあちなみに何部なんだよ。よっぽどの部じゃなきゃ入ってなんて頼まれても断るだろ」



「帰宅部」



「……ん?」



「あ、まだ正式に部は設立されてないから、帰宅同好会よ!」



 もうこいつに何を言ってもダメな気がする。アホすぎる。なんだこいつ。本物のアホだ。



 真面目な顔で帰宅部がどうとか言ってのけるあたり、嘘をついているわけではなさそうだ。



「正式な部を設立するには、もっと部員が必要なの! だから、優秀な人材を集めて、世界最強の帰宅部を作り上げるつもりよ!」



「おお、がんばってくれ。俺はもう教室に戻る」



「ちょっと待ちなさいよ!」



「なんでだよ! 自信満々に帰宅部語られても何一つ興味わかねえよ! それになんだよ帰宅同好会って!実在してんのかよ! あとお前、帰宅部ってどういう意味か知ってんのか?」



「知ってるに決まってるでしょ! みんなで仲良く帰宅しようとか、そんな感じのやつよ! よくわかんないけど」


 知ってんのか知らないのかよく分かんねえな。最後自分でもよくわかんないって言っちゃってるし——本気で帰宅部っていう部活があると思ってんのか。



 いまだに真面目な顔を崩さないこいつに、本来の意味を教えてやろうと、



「あのな、そりゃあ全国どっかの学校には、ちゃんと活動してる帰宅部っていう集まりがあるかもしれない。でもな、一般的に言う帰宅部ってのは、どの部活にも所属してなくて、ただ帰るだけの奴らのことを言うんだよ。例えば俺とかな。お前ももっとましな部を見つけて入れよ」



「そうだったの……私てっきり、帰宅部っていう部活があると思ってた」



 思ったよりすんなり受け入れるな。



 予想以上に受け入れの早い少女は、少ししょんぼりとした顔で俯き、寂しそうにそう応えた。

 それを見た俺は、少しきつい言い方になってしまったかなと反省し、ゴホンと一つ咳払いを入れてから、口を開く。


「まあ、その……別に勘違いってのは誰にでもあるよ、さっきの俺みたいにさ。だから、部の設立は諦めて、次に進めば」



「なんで?」



「な、なんでって……そりゃあ、帰宅部なんて設立しても誰も入部なんてしないだろうから同好会止まりになるだろうし、やる事だって曖昧すぎる。大会とかある訳でもないし、設立したって意味無いと思うし」



「そんな事ないと思うよ?」



 暗い顔から一変し、またしても真面目な顔してそう答える少女に俺は困惑し、目をそらす。



「だって、私はこの部を設立したい。それで、部員を沢山集めて、努力して帰宅して。やりたい事をやりたいだけやって、意味が無いなんてことあるわけないよ。やりたい事をやってかなきゃ! 人生もったいないよ! まあ、ふざけてる部だとかは言われちゃうかもしれないけど……でもきっと、こんな事が出来るのは今だけ。今だけなんだよ」



 最後の一言を言い切った後、ニコッと笑い首を横に揺らした彼女はとても可憐で、肩にかかった黒髪がさらさらと揺れた。彼女の笑顔を見たのは、きっとこれが初めてだろう。


 落ち着いたトーンで語った彼女の応えは、おかしなことを言っているとは分かっているものの、妙に説得力があった。



「言いたいことは……まあなんとなくはわかったよ。じゃあ、頑張れよ! あ、あと悪かったな。シャーペン。おでこに当たったんだろ? まあ、ほぼほぼ俺のせいじゃないけどな」


 帰宅部の良さは全くわからなかったが、彼女がどれだけ本気かは伝わってきた。

 本当に帰宅部があると思っていたことには驚きだが、真実を知ったとしても、部を作り上げたいという気持ちがまだ残っていたことは、俺にとってあいつを応援したくなる理由になった。


 今しかない、そんな言葉に心を打たれてしまうとは思っていなかった。



「応援してくれるのはその……ありがたいけど……なんで知ってんのそれ? しかも場所まで」



「だってそりゃあ、音も聞こえてたし、あ、あの時、おでこちょっと赤かったし……」



あのロッカー事件のときの事を思い出すと、今でもすこし恥ずかしい。



「あの時はほんっとにむかついたけど……まあいいわ。じゃあお詫びにうちの同好会に入ってよ」



「は?」



 思いがけない要求に目が点になる。

幾ら何でも辛くないか。帰宅同好会に入会は流石に辛いだろう。



「も、もちろん答えは今すぐにとかじゃないから! あ、あと名前! 名前なんていうの?」



 名前を聞くのをすっかり忘れていた俺は、俺より先に名前を聞いてきた少女へ、ハッとして名前を教える。



「俺の名前は林篠智也。お前は?」



 ずっと聞きたかったことを聞けて、胸をなでおろしながらも返事を待つ。

髪の中に手を入れて、少し照れながらも、



「私は……高山凪璃(たかやま なぎり)。」



 なぎり……変わった名前だな。あと、どっかで聞いたことあるような。



「あんた! 今絶対変な名前とか思ったでしょ!?」



「お、お……お、思ってねえよ!」



図星すぎて少し戸惑ったがまぁ大丈夫だろう。きっとバレてない。



「絶対嘘! ばか!」



 そう言って彼女は走り去って行った。



 ——凪璃……か。



 そういえば、優秀な人材を集めるんじゃなかったのかよ。俺、ちょっと頭いいだけでそれ以外くそだぞ。




 帰宅同好会に誘われた事に疑問を持ちつつ、入るわけがないと微笑しながら、俺は教室に戻った。






———————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————






 教室に戻ると丁度チャイムがなり、五時限目が始まった。凪璃と話してから俺は、ずっと一つの疑問を頭の中に浮かべていた。それは、



「俺にとって、やりたい事ってなんだろう」



「まあそれは、待っているだけじゃ見つからないだろうな!」



「そうだよなあ、やっぱり自分から……って自然に会話にするな!」



ナチュラルに俺の独り言に応えた城ヶ崎は、ドヤ顔でこちらを見ていた。



「いいツッコミするじゃん。んで、急にどしたの」



「うるせえよ。急なのはそっちだろ。なんで俺の独り言に参加してんだよ」



「お前、俺に話しかけてたんじゃないのかよ」



 平然の言ってのける城ヶ崎に俺は微笑し、



「ちげーよ」



「林條の笑ってるとこ、初めて見たかも」


 そう言って無邪気な笑顔を俺に向けた。こちらも同じ笑顔を見せそうになり思わず顔を伏せる。

 これが友達というやつなのだろうか、だが、二年生になり、まだ少ししか経っていない今、きっと城ヶ崎は俺のことをまだ良く知らない。


 離れていくのも時間の問題だろう。


 だが、友達というのも悪くない、そう思った。








「待ってるだけじゃ見つからない、か」






———————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————————

















 学校の帰り道、俺は歩きながら城ヶ崎の言葉を思い返していた。



「だったらどうしろってんだよ」



 待ってるだけじゃ見つからない。ならどうすればいいのだろうか。


 凪璃は、やりたい事を見つけて、それを本気でやろうとしていた。馬鹿みたいなことだけど、楽しそうで仕方なかった。


 俺は、憧れてしまったのかもしれない。サッカー部のキャプテンをわざわざうちの教室に呼び出して帰宅同好会に引き抜こうとするぐらいの本気度だ。馬鹿にしちゃいけない。



 ——ん?



「なんであいつうちの教室に呼び出したんだ?」



 凪璃は一年で、サッカー部のキャプテンは三年生のはずだ。わざわざ二年の教室に呼び出す意味がわからない。



「あーもうわけわかんねえ!!」











「ふーん。それで応えは出さずに持って帰ってきたわけだ」



 家に帰り、俺は姉に相談してみることにした。


 帰ってくると姉はおらず、俺は洗濯物をベランダから取り込み畳んだ。それから風呂掃除をして溜め込んでいた食器を洗い、リビングを掃除し終わったちょうどその頃、姉は帰宅した。


 働いているのが近所の餃子屋さんのため、一時間の休憩の際に夜ご飯を作りに帰ってきてくれる。

 その間、姉に質問を試みて、今夜ご飯を食べながら話をしているところだ。



「そうなんだよ。あ、あとさ、姉ちゃんはやりたい事どうやって見つけた?」



「そうだなあ……私はやりたい事は、やるべき事から始まったかな」



「やるべき事……?」



 言っている意味がよくわからず、眉を八の字にして聞き返す。



「そう、やるべき事。私にとってやりたい事はご飯を作ることとか、バイトに行くこと。でもそれは、私のやるべき事から始まりなの」



 俺は黙って頷き、続きを求める。



「とものために。とか、おこずかい稼ぎのために。とか、ほかの人や自分のために、やるべき事をやってきた。そしたら、楽しくなってきちゃったの。

とものためにご飯を作ったり、来てくれるお客さんのために餃子を運んだり作ったり。そういうのが楽しくて、感謝してもらえるのが嬉しくて。私は、それがやりたい事になったの……かな?」



「俺のために、が楽しくなったんだ」



「そうだよ。ともは、私の料理美味しそうに食べてくれるから。卵焼き以外」



「え?」


 

 最後の一言で声が急変した姉に恐怖を覚え狼狽える。



「とも、私の卵焼きを食べる時は、あんまり美味しそうに食べないよね?」




 口元は笑っている。笑っているのだが、目だけが、目だけが笑ってない。笑えていないぞ姉よ。怖い、怖いよ。



「い、いや? そんな事……ないよ」



「あら! ならいいんだけどね」



 目元にも笑いが見えほっとする。内心ちょろいと思いながらも、もう機嫌を損なわせないよう、絶対に口に出すなよと自分に言い聞かせる。



「さっきの話の続きだけど、一回その帰宅同好会、入ってみたら? 面白そうだし。あと、その子の名前何ていうの?」



「は、入らねーよ! な、名前なんてどうでもいいだろ! ごちそうさまでした!」



 何故か名前を教えるのは恥ずかしく、勢いに任せてリビングから逃げ出す。

ドカドカと階段を勢いよく登り、俺は自分の部屋に駆け込んだ。


 ベットの上に滑り込み、仰向けで横になる。



「誰かのために、か」



 難しいことを考えるのが面倒になり、俺はゲームという名の現実逃避の道へ進んだ。


 俺が最近はまっているのは鳥に乗って草原を駆け回る事の出来るRPGで、何作か出ているうちの最新作だ。

 ゲームの中の主人公は、三人の仲間と共に数々の難関を越えていく。愛車で移動している時の他愛のない会話が面白く、いつも飛ばさず拝見している。

 こんな友人がいたら楽しいのだろうか、そんなことを思いながら、重たくなっていく瞼に身を任せた。




 朝の日差しが窓から差し込み俺の瞼を照らす。

眩しさと暑さで俺は目を覚ました。



「寝ちまってたか……」



 時刻は5時半。いつもなら寝ている時間だが、寝落ちしてしまった時は別だ。

 姉もまだ寝ているだろうから、とりあえず昨日の晩ご飯の食器を洗おうと自分の部屋を出た。


 食器を洗い終え一息つくと、姉が目を擦りながら起きてきた。


「今日は早いね。ご飯作るから待ってて」



 うんと頷き返事をすると、俺はリビングのソファーへ腰掛けた。



「ご飯できたよ」



「早いなあおい!! ……ありがとう」



「別に早くないじゃない、もう五六分は経ってるよ?」



「嘘だろ……」



 何気なく座ったソファーの上で、俺はいつの間にかまた考え事をしていたようだ。

 自分でも気づかない無意識のうちに、帰宅同好会のことを考えてしまっている。


 入らない。そう決めていたはずだったのだが、




「凪璃……高山だっけか、あいつもしかして……」



 結局、玄関を出て学校に向かっている途中にも、俺はそんな事ばかり考えてしまっていた。


 それには原因があった。それは、帰宅同好会が楽しそうだったとか、誘われちゃったからとかそういうことじゃない。


 あいつはもしかしたら、俺に気があるのではないか。と言う謎に満ちた自惚れが原因なのだ。



「あいつがもし俺に気があるなら、今までのことは辻褄が合うんじゃないか?」



 帰宅同好会に誘われたのは、俺に気があったからで、先輩を俺の教室に呼んでわざわざ勧誘したのは、俺がいつもあの教室に残っている事を利用して、帰宅同好会の存在を知らしめるためだったのではないだろうか。


いや、待て、待つんだ林篠 智也よ。


 そう言う勘違いが絶望を生むのではないだろうか。男とはそういう生き物なのだ。ずっと自分に気があると思っていた女子でも、本気で確定だと思っていても、告白してみたら振られるなんて事ざらにある。男の本能。自意識過剰が生んだ悲劇。


 俺は、そんな男になりたくはない。


 変なことを考えるのはやめよう。


でも、



「意識しちゃうじゃねえかよ……」



 好きというわけじゃない。いくら女性との付き合いが少ない俺だとしても、ほんの少し話しただけで好きになってしまうほどちょろい男じゃない。

ちょっと気になっちゃってるだけだ。


 本当にちょっとだけ。



「あんな全速力低速系ハイテンション女好きになってたまるかよ」



 

 俺は姉に聞こえないようそう呟き、朝ごはんを貪った。







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