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帰宅同好会!!  作者: 真壁 御次郎
第一章 帰宅同好会!!
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プロローグ

今日から、『帰宅同好会!!』を連載していきます!

『まろう』と申します。


よろしくお願い致しますm(__)m

第一章  帰宅同好会!!


プロローグ




——何でこんなことに……


 俺は今、ロッカーの中に閉じ込められている。

 ほうきと共に立っていて、踏んでしまっている雑巾の嫌な感触が、じわじわと俺に不快感を与えてくる。

 これは別に、俺がロッカーの中大好き人間だとか、ドM体質だとか、そういうことではない。


「ここで静かにしてて! 絶対よ! 出てきたら……その時考える!」


 この騒がしい女のせいで、こんなことになっているわけだ。


 とりあえず、このロッカー臭い。とても臭い。何年洗っていないんだといわんばかりの臭いを放つ雑巾が、この密閉空間にえげつない臭いを充満させる。


――死にそうなんだが……




――――――――――――――――――――――――




 


 授業が終わり、部活も終わった頃。その時間を、俺は至福の時としている。

 毎日この時間まで、誰もいない教室に居残り勉強し、そして帰る。それが俺の日課だ。

 勉強をしているうちに、窓から差し込む西日がだんだんと消えていき、グラウンドから聞こえる生徒の声も、部活が終わると同時に消えていく。

 

 俺以外誰もいないその状況が、その環境が、とても幻想的で大好きなのだ。


 まあ、今日はロッカーの中に閉じ込められ、至福の時を奪われているわけだが。



 ——そもそもあいつは誰だ?



 急に教室に入ってきたと思えば……



「なんでいるのよ! 誰よあんた! あーもう! とりあえず……このロッカーに入ってて!」



 ——意味が分からないじゃないか。勉強道具も鞄もそのままだぞ。



 それにあの女、俺と同じクラスじゃない。



 さすがにあんな女、覚えたくなくても顔ぐらいは覚えているはずだ。わざわざ他のクラスに来て、そんでそこにいる俺をロッカーに隠すって酷すぎるだろ。強引すぎるだろ。目的は何なんだよ。


 なんてことを考えているうちに、ガラガラと教室の扉を開ける音がした。



「ごめん。待った?」



聞こえてきたのは、さわやかな優しいイケボ。おそらくどっかのイケメンだろう。



「い、いや! 全然待ってないよ!?」



 結構待ってたような気がするが、それは置いておいて――緊張しすぎだろ。告白か?


 ロッカーの中で、うんざりしながらもしっかりとツッコミを入れつつ、もう少し見守ってやろうかなと、ほうきを杖にし体重を預け疲れてきた足を休める。



「そっか。ならよかった。それで、こんなところに呼び出してどうしたの?」



「えっと……お話したいことがあって」



 内心邪魔してやろうかとも思っていたが、俺にはそんな勇気も度胸もない。



「あの、私、ずっと先輩をぁあぐっ」



彼女の発言のあとに鳴り響いたゴロゴロという音は、今の教室の沈黙を強調させた。


――あぐ?



 ——何今の。あぐっとか言ってたけど。




 ロッカーの中に居ては、外の状況は音でしか判断できない。だが、なんとなく想像は出来た。



 きっとあれだ、俺が机の上に置いたままにしていたシャーペンが原因だろう。


ここからは俺の勝手な想像だが、何らかの影響で飛び上がった俺のシャーペンが彼女の顔に向かっていき命中。その後床に落ちたシャーペンによって聞こえてきた音が、俺の聞いたゴロゴロという音だった。


何らかの影響。それは、もしこの仮説が正しいのだとすれば、彼女が発言の際に振り下ろした腕がシャーペンに当たったと言ったところだろう。



 ——なんて、漫画みたいなことあるわけないよな……



2分後……



 それにしても沈黙が長くないか。あのあぐっから誰一人として話さないんだが。静かすぎるんだが。

 

 その沈黙を先に破ったのは、イケボ男子生徒だった。



「え、えっと、大丈夫? あと、ごめん。彼女待たせてるからもう行くな。告白だったなら、彼女がいるから……ごめん! それじゃ!」



 ガラガラと音を立て、入ってきた方とは反対側の扉を開けて颯爽と帰っていく男子生徒は、きっとあの沈黙からここを出るまで、ずっと顔を引きつらせていたのだろう。うん。絶対にそうだ。



 ——んで、どうするよこの雰囲気。



 何故喋らない。なぜ何も言葉を発しない。


 あの女、人をロッカーに閉じ込めておいて何やってるんだ。

 出ていいよ、とかないと出にくいんだが。今勝手に出ていって普通に支度して一言も会話せずに帰るとかなんかちょっと心にくるんですが。


 慰めとか必要なのこれ。俺が慰めてあげるべきなの?これ。


 なんてことを考えていると、ペタペタとスリッパで歩く音が教室に響きだした。


 そして、こちらに近づいてくる。



 ——あぁ、これ、理不尽な八つ当たりを受けるやつじゃないか。


 ——神様、助けてください。



 ロッカーの扉の取っ手に手をかける音がした。その時発生したミシミシという音は本来の開け方でなるような音ではなく、彼女が正常でないことを伝えてくる。



 ——怒ってる。絶対怒ってるよこれ。


 

 まるで、城門のように重たく感じた目の前の扉は、ゆっくりと音を立てて開いていく。

 教室は暗く、隙間から光が入ってくることはないが、かわりに殺気が入ってきている気がする。それもすごい量。


 なにやらブツブツと愚痴のようなものが聞こえてくる。なんであそこにシャーペンが、とか、普通に痛かったし、とか。


 バンッと音を立て、突然勢いよく開かれた扉に驚き目を瞑りながらも、目の前の鬼に目を向けるべく恐る恐る瞼を開く。



 だがそこに、鬼はいなかった。


 きれいな瞳に涙を浮かばせ、眉をひそめて上目遣いでこちらを見る彼女の表情に、思わず心を奪われる。


 肩にかかるくらいに整えられた黒髪はとても綺麗で、よく見るとこの子、かなり可愛い。

 微かに香る少女の匂いは微かながら、さっきまできつかった雑巾の臭いをかき消した。その香りで、彼女との距離がかなり近いことを初めて自覚し、ロッカーの中に響いてしまうほど大きな鼓動を打ち始めた俺の心臓は、今にも胸から飛び出しそうだ。


 額の一部が赤くなっていることを確認し、俺の仮説があっていたことを察する。俺は何も言う事が出来なかった。出来ることと言えば、彼女の顔を見つめることぐらいだ。



 すると、少女は上目遣いのまま、俺を閉じ込めた時とは打って変わった声量でこちらに向かってこう言った。



「ばか……」



 やっと、俺の青春ラブコメが始まった気がした。








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