デュラハン閣下は頭痛が痛い
俺はデュラハン、魔王軍七将の一人だ。
元は王国を守る騎士として人間時代を送り、死んでからはこうして魔王様に奉仕している。
魔王様の為に日々心血を注いできた俺だが……。
「はいちゅうもーく」
ここは会議室、俺は好き放題している部下達に呼びかけた。
「今日は、大事な話があって君達に集まってもらった」
そう、大切な用だ、ヘタをすればこれからの俺達の足並みが崩れるかもしれない。
それは……。
「今日朝起きたら俺の頭に落書きがあった。やった者は名乗り出ろ」
そう、落書きがあったのだ。
朝起きて何時ものように顔を洗おうとしたら顔に殴り書きで『馬鹿閣下』と落書きが書いてあった。
この野郎、俺が胴体と頭がバラバラだからって好き放題しやがって。
しかも油性で書かれていたし。
洗い落とすの超大変だったし。
「今なら怒んないでやるから。さっさと名乗り出るように」
シーンっ。
しかし誰も手を挙げたりはせず、ただ沈黙が続くばかり。
「ふんっくだらな。あたし、もう帰るわ」
機嫌が悪そうに椅子から腰をあげた彼女は吸血鬼のフィリップ。
低血圧なのに加えて今は反抗期真っ盛りなので何時も機嫌が悪いのだ。
昔は人懐っこくて可愛い少女だったのに。
「待て、フィリップ。これは会議なんだから我慢しなさい」
「ちぇっ、わーったよ」
渋々座りなおすフィリップ。
「……で、誰も名乗りをあげないと……。わかった。じゃあ何か知っている者はいないか? 何でもいいから教えてくれ」
すると一人の女が手をあげた。
「はい、じゃあズン、言ってみてくれ」
「ぁ……あぁ……ぁ……」
彼女はアンデットのズン。
血が通っていない青白い肌に片目と口以外の頭部を包帯でぐるぐる巻きにしているのが特徴だ。
ズンはアンデットな為基本喋れない。
声を出せても先程の様に『ぁ……あ……。』とか呻き声だけだ。
ほんと喋れたらいい娘なんだけどなぁ。
周りの気配りとか出来るし、魔王城の庭の手入れとかしてくれるし。
「う、うんわかったからもう座っていいよ。……他に居ないのか? 何か知っている者は」
「閣下っ! 恐れながら申し上げますっ!」
こいつはスライムのアッシュ。
最弱モンスターなのに無駄に頭が良く、無駄にイケメンボイスだ。
「昨夜、城の警備にあたっていた際に閣下の寝室のドアが少しだけ開いておりました」
無駄に凛々しい声でアッシュはそう伝えた。
「うむ、そうか。では犯人は夜行性の奴に絞られたな」
俺は会議に参加している部下達の顔をグルりと眺めた。
この中で夜行性といえば……。
「フィリップちゃん、怒らないで聞いてほしいんだけどやっぱり君が……」
「はぁっ!? 何であたしがお前なんかに落書きしなきゃいけない訳っ!? 意味わかんねーし」
「だよね、ごめんね。……はぁお年頃の女の子って難しい。ガーゴイル君。どう思う?」
「…………。」
ガーゴイル、石造の為基本喋らない。
はぁ……もっとまともな部下が欲しかった。
他の七将の部下はもっと忠実で凄い戦果をあげているのに、俺の同期のキングスケルトン君なんて不死身の骨骨軍団だなんて異名で勇者達に恐れられていると言うのに俺達の部隊はからっきしだ。
うちの子たちだってポテンシャルは凄いと思う、しかし如何せんポンコツなのだ。
「君達ねぇ……いい加減正直にいって欲しい訳だよ。もう俺怒ってないからね。本当はこんなことに時間を使いたくないの。さっさと終わらせたいの」
俺が優しくいってやっても誰も名乗り出ない。
ならば。
「わかった。じゃああれね。皆顔伏せて。これで名乗りやすいでしょ?」
よく教師などが困ったときにやる常套手段だ。
俺も人間時代の小学校の頃辺りでよくやらされた記憶がある。
「はい、皆顔伏せたね、それじゃあ俺の顔に落書きしたやつは」
バーンっ!
今から聞き出そうとしたときに勢い良く会議室のドアが開けられた。
何事かと思いドアの方を見てみると。
「おーすっおまえら元気にやってるかーっ?」
なんとも楽しそうに入ってきたこの金髪ロリっ娘は何を隠そう魔王様の一人娘である。
「お姫様っ! 今会議中ですのでお静かに出来ませんか?」
「ふーん、そうなんだ。なんで皆お顔を伏せてんの?」
「これは深い訳が御座いまして……」
「あっそ……ていうかデュラハン。あたしのサイン消したでしょ」
むっと顔を膨らませて不機嫌な姫様。
「さ、サイン?」
なんのことだかさっぱりわからない。
「だぁーかぁーらぁ、サインだよっ! 昨日折角顔に書いてあげたのにっ!」
「ほへっ?」
「サインっ! 私が書いてあげたサインっ!」
「あの……えっと……」
ジィーッ。
部下達の視線が俺に集まってくる。
「う、うぅ…………」
くぅ……頭痛が痛い。
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