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私が天の川になれたなら。  作者: ぱなま
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決意

「ちょっと!ユリちゃん!びしょ濡れやん!」


教室に入ってきたユリを見てサオリが駆け寄る。


「いやぁ・・・急に雨が降ってきよって・・・あはは。」


「ほら、髪乾かさんと風邪ひくよ?ハイ、このタオル使って。」


「ありがと。」


ユリはベランダにでてタオルで髪を拭き始めた。さっきまでの雨が嘘ように空は晴れ渡っていた。水たまりに反射する太陽の光が眩しい。その光が浮かない顔のユリを照らす。


「ユリちゃん、どないしたん?元気ないね。」


「うん、ごめんね、後で話すから。」


「ん。わかった、今は聞かんでおく。という事やで?後ろでこっそり、ドライヤー持ってる誰かさん?」


どこからか借りてきたであろうドライヤーを持ったケンジが窓の陰から覗いていた。


「う、うっさいわ!そんなんちゃうわボケ!たまたま通りかかったんや!ドライヤーが落ちてたから誰かの落としたもんかって思ーて通りかかったんや!覗きなんかするか!」


「はいはい、素直じゃないねぇ、ケンジも。ほら、せっかくその拾ったかなんかしたドライヤー、ユリちゃんに貸してあげたら?」


「たまたま拾ったんやぞ!たまたま!ほらよ、たまたま拾ったから礼はいらん!」


「ふふ、ケンジは、タイミングがええなぁ。ありがと。」


「お、おう。」


二人とのやり取りのお陰で、ユリの表情は少し柔らかくなっていた。ユリはドライヤーをコンセントに繋ぐと髪を乾かし始めた。ドライヤーの持ち手には「保健室」とマジックで書かれていた。



・・・・・・・・・・・・



放課後、まだ水たまりの残る屋上に、ユリはサオリを呼び出していた。


「改まってこんなとこで話をするとは、なかなか捨てておけませんなぁ?ユリちゃん。」


「せやろ?こんな可愛い娘、ほっておく方がどうかしとうとよ。」


そう言うとユリは一つ間を置いて喋り始めた。


「サオリちゃん、覚えとぉ?ウチと初めて会った時。」


「覚えてる覚える。ユリちゃん、こっちに引っ越してきて友達いなくて・・・。でも、喋りが独特だったからいじめらてたんやね。それをあたしが助けた。」


「ウチ、転々としすぎてその地方地方の喋り方が混ざりすぎとってな。未だに抜けないけど、まぁそれが、今となってはよかったことなのかもしれん。」


「せやったなぁ。」


「ありがとうな。サオリちゃん。ウチ、サオリちゃんがいなかったら、何にもできなかった。」


「はいはい、そんなことより、大事な話があるんやろ?」


「うん、ウチ、もう少ししたら学校しばらくこれなくなるんよ。」


「・・・病気かなんかしたん?」


ユリは首を横に振る。


「止めなきゃいけない人がおるんよ。ウチが。」


「ユリちゃんが?」


「きっと、ウチしかできない。ウチがやらなきゃいけない。でも、本当は怖い。すごく怖いんよ。どうなるかわからないし、怪我をするかもしれないし、もしかしたら、もしかしたら死ぬかも知れん。でも、行かなきゃいけん。」


サオリは静かに話を聞いている。


「でも、ウチはここに戻ってきたい。必ず戻ってきたい。ウチの居場所を作ってくれたサオリちゃんの居るところに戻ってきたい。だから、サオリちゃん、その日が来たらウチにいってらっしゃいって、気をつけてって言って欲しいんよ。必ず戻ってくるために。」


サオリは泣きそうなユリの頬に手を当てて静かに喋り出す。


「うん、わかった。それがあたしにできることなら喜んで引き受ける。ユリちゃん、あなたの居場所はあたしが守っておくから。安心しいや。」


その言葉の直後ユリはサオリに抱きついていた。


「それにユリちゃん、その約束の腕飾があるやない。それまで、その約束果たすまで、何があっても負けちゃいかん。しっかりしぃや。」


「うん、わかっとぉ。ふふ、ちょっと気持ちが軽くなった。聞いてくれてありがとぉ。」


「よし、じゃあ近くのコンビニ行ってお菓子かってあたしん家にけぇへん?ユリの激励会や!」


「サオリちゃんの奢りね!しかたないなぁ、何にしようかなぁ。あ、おばあちゃんに連絡入れてからでいい?」


「ええよ!それから、いつまで聞き耳立ててんのー?・・・ケンジー!あんたもきいや!」


屋上の入り口の陰に大きい背中がはみ出していた。その背中がサオリの声に反応してビクッとなる。


「あーっ!せっかく歌の練習でもしようかと思って今来たばっかりだったけど先客がおったみたいやなー!失敗したー!あー!とりあえず今からコンビニでもいこうかなー!」


「本当アンタは・・・心配なら心配っていえっつーの。ユリちゃん、いこ。ほら、木偶の坊もいくよ。」


サオリはユリの手を強く握り、ケンジはそれについていき、3人は屋上を後にした。夕方の畑に囲まれた道を3人で歩く。ユリとサオリが前を歩き、ケンジが空を見上げて方向が一緒だからと言わんばかりの顔でついていく。すると、サオリが少しケンジの方によって、コソコソっとケンジに話しかけた。


「ケンジ、あんた、ユリちゃんのこと好きなんやろ?」


「はぁ?な、何言ってんねん。アホ!んなわけあるかい!」


ケンジの顔が真っ赤になった。


「アホ!声デカイ!ええの?ユリちゃん、しばらく帰ってこんっていっとるよ?」


「アホなこと言うのも休み休み言いなや!俺は一友達としてやな・・・。」


「あんた、身長何センチあんのよ。」


「189センチ。」


「んじゃ、もっと堂々とせんかい!タマついてんねやろ!デカイのは図体だけか!?」


「お、おま!何てことを!」


「なぁ?二人して何喋っとお?」


ユリが振り向いて首をつっこんできた。


「何でもあらへん!図体ばっかでかくて、本当にちっさい男やなぁ思おて少しいじめとっただけや。」


ほら行けよアホと言うようにサオリが肘でケンジをつっつくがケンジは顔を真っ赤にしたまま無言で歩いていた。ユリは会話を聞いていなかったがその様子を見て楽しくなったと同時になぜか羨ましく思っていた。なぜ羨ましく思ったのか。この時のユリは解りそうで解らなかった。しかし、ユリは自分の中にあった不安が薄らいでいき、それが決意となり覚悟となるのが解ってきた。


「必ず、必ずここに戻ってくる。」


ユリの決意は進むことへの決意ではなく、帰ってくることへの決意だった。



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