帰路
夕焼けに染まる校舎。放課後の、校庭、体育館。部活動の活気ある声が学校中に響いていた。
「カケルがコウスケにスクリーン、ユウシがボール出しで、ジョウは俺に張り付いてるやつにスクリーンかけてくれ。ボールがユウシにわたったら一気にダブルでスクリーンをかけて俺が右サイドのエンドラインに切れる、コウスケが左のハイポスト、ユウシはどちらかのフリーのやつに合わせてくれ。」
カナメの指示を確認したメンバーはコートに散った。少し経つとバスケットシューズのスキール音がピタッと止まる。ユウシが審判からボールを受け取ったと同時にコート上の数人の動きが一気に加速する。
「スクリーン!!」
相手チームの誰かの掛け声の直後、ディフェンスを振り切ってフリーになったのはカナメとコウスケの両方だった。それを見たユウシは迷わずカナメを選択してパスを出す。振り切られたディフェンダーとスイッチしたカバーが来るのをカナメは完全に読んでいた。小さくフェイクをいれ、そのカバーをかわし、3ポイントラインからシュートを放つ。きれいなループを描いたボールはノータッチでネットを揺らす。
「おっしゃあ!ナイシュー!」
ゴールが決まると同時に全員が声を上げる。カナメは全員と小さくタッチをしながらディフェンスに戻る。と、それとほぼ同時にゲームセットのブザーが鳴る。
「65対43でAチームの勝ち!」
「あっしたーっ!」
バスケ部のミニゲームが終わり、各々クールダウンを始める。カナメは体育館の外が見える扉の縁に腰かけストレッチをしていた。
「カナメ先輩!お疲れさまです!」
「んぁ、あぁ、ありがとう。」
マネージャーのアキホがボトルを持って駆け寄ってきた。
「カナメ先輩、さっきのスリーはキレイでしたよぉ・・・流石カナメ先輩です!私だったらスクリーンしてカナメ先輩にボールが行くのを予想して、ボール出しに付いているディフェンスの人にワザとボールを出させちゃってと指示を出して、その分カナメ先輩にダブルチームで付けるように準備させますね!そこから一気に先輩にプレッシャーをかけてターンオーバーって感じでいけるかなと思うんでけど・・・、なかなかBチームのひよっ子どもは先輩のすごさを理解してないと見ました!」
「あー。なるほど、それやられたら俺も簡単には打てないなぁ。だけどその時はユウシがコウスケに出してるはず。コウスケは必ずカケルがフリーにしてくれるからな。」
「むむむ、確かにコウスケ先輩までは手が回らないですね。シューターが二人いるというのもかなりの強みですね!うちのチームは!」
「そうそう、うちのチームの柱が女子に鉄拳制裁くらってしばらく休む予定ではいるけど、今年はいいところまで行けそうだ。」
「フミオ先輩ですね・・・!ふふふ・・・・フミオ先輩セクハラしちゃったんですよね!聞きましたよー!コートの中じゃあんなに頼りになるのに、外に出るとお粗末さんですねぇ。」
「うんうん・・・あいつはオンとオフの差がひど過ぎるからな。」
もう6時に差し掛かるころだが日は少し長くなってきたようだった。夕方に少し降った雨のせいで風は朝のように少しヒンヤリとしている。
「よし上がろう。そろそろ行かないと電車なくなるぞ。」
「了解しました!」
アキホはピシッと敬礼するとパタパタと片づけを始めた。カナメも一通り身の回りの片づけをし、部室に戻って着替えを済ませ、お先と仲間に声をかけ、校門へ向かった。そこにはツキミが待っていた。
「兄ちゃん!遅いぞ!5分遅刻だぞ!」
「すまんすまん、別に何をしてたわけじゃないんだけどな。」
「せんぱーい!!!」
割り込むように声をあげ、遠くからアキホが走ってきた。
「忘れ物してますよー!」
アキホの手には紐のような何かが握られているが薄暗くてよく見えない。
「あ、アキちゃん!」
「あー!ツキミちゃん!」
「あれ?アキちゃんその紐、兄ちゃんの?」
「そうそう!先輩いつも手首につけているから、まさか忘れていくとは・・・。はい!」
「ごめん、助かった、ありがとう。」
「お礼は今度アイスクリーム御馳走していただければ!ツキミちゃん!私も駅まで一緒に帰ってもいい?」
「いいよいいよ!一緒に帰ろう!ほら、兄ちゃんも行くよ!」
学校を出て線路沿いの田舎道を3人で歩く。だいぶ暗くなったが、山の向こうはまだぼんやりと赤く染まっていて綺麗だった。海のほうを見ると何隻か船の明かりが見える。
「先輩?聞いてます?もしもーし?」
「あ、あぁ、ごめんぼーっとしてた。なんだ?」
「だからー、先輩のその朱色の紐ですよー。なんでいつもつけてるんですか?」
「あぁ、これは約束のお守りみたいなもんだよ。6歳とかそのくらいの時に・・・・確か親父たちと関西のほうに行ってそこのなんとかって神社で出会った子に貰ったんだよな。なぁ、ツキミ?」
「・・・・そんな話知らない。」
ツキミはふくれっ面をしていた。
「あ、あれ?なんで怒ってるんだ・・・?」
「兄ちゃん、あの時、遊び疲れて寝ちゃったあたしを置いて帰ったじゃん!!それはよーく覚えてる!!」
「そうだっけ?全然・・・覚えてない・・・。」
「じゃあ先輩はそこで貰った約束のお守りをずっと大事につけてるんですか?なんだかそういうのって悪くないですね。ふふふ。」
「ああ、まぁそんな感じだよ。あの子と約束したからな。」
カナメはそう話しながら、横目でツキミを見るとその頬は破裂しそうなほど膨れ上がっていた。
「兄ちゃん、ツキミさんは怒っておられるぞ。」
「ぐ・・・。この展開はまさか晩飯抜き・・・?」
「兄ちゃんの態度次第であろう事は理解しているかね?」
「わかった・・・。駅前の駄菓子屋寄っていくか・・・。アキホも行くぞ。」
「アイスクリーム!先輩ありがとうございますぅ!」
踏切を超えて、田んぼの間を歩き駅の前の駄菓子屋が見える。すっかり日も落ちて街灯に照らされたベンチに座り3人は並んでアイスクリームを食べた後、帰路についた。